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第7話 第一印象

 クラスを担当する者として大切なのは何か。それは───










 第一印象である。









「コルァアアッ! 何やっとんのじゃァアアッ!」


 第一印象を強くするため、叫んでみました! 教室のドアを勢いよく開けながらねっ! 後ろでエイダ教官がぽかんとしてたけど、そんな間抜けな顔でも可愛いよ!



 教室内を見た俺の視界に入ったのは、5人の若い男女。12歳から18歳と言ったところだろうか。ちょうど、この学園の入学受け入れのできる年齢だ。

 5人のうち3人が男で、2人が女。その外見を覚えておきたいものだが、現状が覚えるだけの時間をなくさせていた。



 3人の男のうちの1人が俺を睨んで舌打ちし、その男の正面で尻餅をついている女の子がビクッと震えた。

 他の3人の男女は、舌打ちした男に敵意を向けていたり、顔をしかめていたり、自分には関係無いとばかりに手に持った本から視線を外さなかったりしている。


 舌打ちした奴は右手を尻餅している女の子に突き出していた。助け起こそうとしているのではない。

 むしろこいつが、女の子に尻餅をつかせた原因だな。

 魔法で攻撃でもしたのだろう。



 大きな声を張り上げながら入ってきた俺を良く思わないのだろう。舌打ち男は右手は女の子に向けたままで、空いてる左手を俺に向ける。


「うっせぇんだよ。ジジイは黙ってろ」


「ジジイって、俺まだ24歳なのに……」


 そんなに老けて見えるだろうか、俺。3年間も牢屋にいたから、みずみずしさが失われたとかかな。



 向けられた左手を中心に、風が渦巻いた。一見すれば手に風を纏っているだけだが、やり方によっては威力が半端なく上がる。

 この場合は例えば、風を纏いながらその手で人を殴ると、大変なことになる。

 攻撃をそのまま受けたら、風で体が切り刻まれる。ミンチになるのも一瞬だ。


 攻撃魔法の対象とされているのは間違いなく、俺。どんな攻撃をかましてくるのか分からないが、何もしなければ俺はミンチ肉になってしまう。


「ミンチにはなりたくないな、っと!」


 攻撃魔法を受けたくない。防御をするのも、魔法なんぞしばらくなのでどう暴発するか分からないし、脚下。

 なら単純に、相手に魔法を使わせなければいいのだ。


 俺は鈍った体を動かし、相手に肉薄した。俺に向けていた左手を使わせないようにすべく、懐に飛び込んだのだ。

 何度も言うが、俺の体は3年間の牢屋生活によって鈍っている。だからもしかしたら避けられるかな、と思っていた。それならそれで別の手を考えていたのだが。


 だが、相手は俺に反応できなかった。俺に気付いた瞬間には、鳩尾を殴られて咳き込んでいた。


「ふぅ……。勇者候補って、こんなに弱かったのか」


 俺に殴られて身を屈めている舌打ち男……こいつ、よく見ると俺の知ってる奴に似ているな。息子か?

 そのうち分かるだろうから、こいつの素性は後でいい。


「エイダ教官、そいつを椅子にでも縛り付けておいてください」


「えっ!?」


「ふざけ……んなッ!」


 エイダ教官は嫌そうな顔で俺を見て、舌打ち男もこれまた嫌そうに俺を見た。だけど、ねぇ……。

 俺は未だに息苦しそうな舌打ち男を見下ろした。笑顔のままで。


「椅子に縛られたくありませんか? 拒否したら亀甲縛りで天井から逆さ釣りにしますよ?」


「ゴホッ……教官が、ンなことしていいのかよッ」


 脅したはずが、挑発の効果が出てしまった。

 この子、そういうタイプなんだなー。面倒だなー。俺は平和に教官生活をしたい。切実に。


「クビになったって痛くも痒くもないので心配無用です。それに、ただの正当防衛ですよ? さっきの、明らかに俺に攻撃しようとしてたじゃないですか」


 目で合図すると、渋々といった様子でエイダ教官が舌打ち男を近くの椅子に縛り付けた。

 手際がいいな。手慣れてる感じがするんですけど……何でだ。


 ついでに猿轡を噛ませたらしく、罵声とかが聞こえてこない。ナイスだ、エイダ教官。



 うるさいのを気にしなくてよくなったので、俺はようやく尻餅をついている女の子に近寄った。


「大丈夫でしたか?」


「ひゃぅっ!」


 手を差し出したら怯えられた。何故に!?

 俺を潤んだ瞳で見上げるこの少女、見た目は12歳くらいだ。ピンクゴールドの髪の毛がショートボブになってくるんと内側に巻かれており、琥珀色の瞳は宝石でも埋まっているかのよう。体も華奢だ。

 一言で表すならば、『可愛い』だ。


 エイダ教官はどちらかというと『美人』だが、この子は『可愛い子』だ。庇護欲をそそられる。

 外見だけでなく中身も可愛ければいいな。本性ビッチだったら笑えない。でも流石に12歳でビッチはないかなぁ。


「ふむ……」


 外見はいいとして、このまま怯えられていては会話もできない。

 どうするべきかと考えていると、伸ばしたままだった手に小さい手が乗せられた。

 驚いて見てみると、少女が触れているのだと分かった。


「すみません……。もう、大丈夫です……」


 大丈夫そうに見えないけどね。こりゃ事情を聞くのは後にした方がよさそうだな。

 だから俺は、安心させるように笑った。


「良かった。

 落ち着いてからでいいので、話を聞かせてもらえますか? あの舌打ち男と何があったか」


「は、はいっ!」


 手を引っ張り上げて、少女を立たせる。それから教室全体を見渡して、俺はパンパンと手を叩いた。

 妙に静かな空気は好きじゃない。


「他の3人共、席に座ってください。まずは自己紹介をしたいので」


 俺の教官生活の始まりさー。

 お読みいただきありがとうございますm(__)m


 この1話の登場人物

 ノア・アーカイヤ 主人公。黒髪黒目。

 取得属性魔法:闇、水、雷


 エイダ・ギレンラ 美女。水色の髪と群青色の瞳。

 取得属性魔法:治癒、火


 舌打ち男 名前はまだない。ノア曰く、どこかで見た顔。


 尻餅をついてた少女 名前はまだない。


 その他 勇者候補達。

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