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第34話 クーデターの真実

 グロ表現があります。ご注意下さい。回想は途中で終了です。


 目の前で山となって重なっている死体の数々。それは昨日まで俺とふざけあったりしていた奴も含まれていた。

 先に行くため前に進もうにも、倒れた死体で進めないくらい、死体は多い。


「あ、はぁッ……クソッ………皆……ッ!」


 動いている者はいなかった。今日ここにいた者は、残らず殺された────


「いや、エルは……シエラは……ッ!」


 嫌だ、諦めたくない。少なくともあの2人は、人質として使えるじゃないか。殺さないでくれ……俺から、奪わないでくれ……!


 エルが気に入っている、家の一番奥の部屋のドアを開け、中に転がり込む。

 最初に目に入ってきたのは俺の派の貴族の死体で、次に見えたのは────


「あ、ああ、あああ……」


 ベビーベッドの上の、元が何だったのか分からないほどぐちゃぐちゃの肉塊。

 ベビーベッドの、上に……あるということは、つまり、そういうことなのだろう。ここにいるのは、あの子しか有り得ないということなのだろう……。

 頭の中が真っ白になりながら、俺の愛しい子供の、シエラだったモノに触れる。



 それはもう、ただの生肉でしかなかった。




 悲しくて悲しくて、怒りも感じて。それでも崩れ落ちそうな体に力を込めてベビーベッドの向こう側を見る。

 そこには、屈辱に顔を歪めたエルが転がっていた。その格好はあられもないことになっていて、胸に短剣が突き立てられている。何より……股が開かれた状態だった。

 何をされたかなんて言うまでもない。俺の妻を、奴等はッ!!


「アァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」


 死んだ! 死んだ! 死んでしまった! もういない! もう、ここにはいない!!


 苦しみの表情のエルを抱き起こし、俺は泣き叫びながらその頬を撫でた。

 もう誰もいない……! 今日ここに来なかった仲間は無事だろうが、ここに来た者は皆殺された!


 エルもシエラも、もう動いてくれない! 俺に笑いかけてはくれない! 俺を残して逝ってしまったんだッ!

 逝ってしまったんじゃないのか……。殺されたんだよな、奴等にィィィッ!!


 何で俺は正々堂々戦って勝とうとしていたんだ……! 無駄じゃないか。奴等は今までもこうやって勝利を掴もうとしてきた。何故俺はやらないんだ!? こうなる前に、やり返してやれば良かったのにッ!

 皆を、エルとシエラを殺した奴等は、殺されて当然だ!!


「殺してやる……ッ!」


 仇を取ってやる! 王権なんてどうでもいい! 敵を全て殺せば、生き残りの俺の派閥の貴族が弟を支えてくれるだろう。

 そうだ、全員殺すんだ。そうすればもう、俺も自由だ。

 エルとシエラの仇を……取ってやる!!


「殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺すッ!!」


 冷たくなったエルを抱き締めながら、俺は泣き喚いた。ただただ奴等への復讐を誓いながら。




 ガチャガチャと金属の当たって鳴る音が聞こえて、のろのろと顔を上げる。そこには、闇魔法で動けなくしたはずの兵士達がいた。


「……光魔法でも使ったのか? 俺の魔法を解けたとは……。まぁいいや。手始めに皆殺しにしよう」


 水の派生魔法の氷を出現させ、俺に近い兵士数人を串刺しにした。

 それだけで彼らには動揺が走った。あぁ、こんな奴等に皆が殺されるなんて。許せないなぁ。許さない……ユルサナイ。


「皆死ね。俺が殺してあげるよ。ここにいる人殺しは俺が殺す。宰相一派の貴族も皆殺す。そうじゃないと気が済まない……気が済まねぇんだよ糞がぁあああああああああッ!」


 哀しみの後は怒りが身体を支配する。こいつらを殺せと、敵を殺せと脳が命令する。

 俺は返り血を浴びながら、殺戮を始めた────。





 そこから先はうろ覚えだ。とにかく人を殺し続けた。家にいた兵士は皆殺し。敵の貴族を殺すために王都を駆ける時も、誰かを殺していた気がする。

 仮面は、いつの間にか取れていた。エルを抱き締めたときに外れたのかもしれない。

 たくさんの人を殺した。敵の貴族も、行く手を阻む者も。もしかしたら一般人だって殺したかもしれない。



 気付いた時には、よく行っていた食堂の中で。

 朦朧とした意識の中、監獄のじじいに身体を押さえつけられていた。

 あぁ、駄目だ。殺せない。全員を殺すことを、今はできない。だって国外にいる奴だっているから。すぐには殺せない。

 今殺し続けてしまえば、いずれ捕まるか処分されるかの未来しかないだろう。それは駄目だ。殺しきれない。


 全員を殺戮するため、俺が自由に動ける未来を得るため、じじいに訴えた。


「俺、俺をッ……どこか、にッ、閉じ込めろ……ッ! 俺は、俺はァアアッ!」


 意図なんて伝わらなくてもいい。復讐のための未来が欲しいからとは頼まない。


 自由に動ける未来を……! 何年かかってもいい、俺は奴等を全て殺す。何十年かかるのだとしても、絶対に……!

 復讐をするんだ。例え最後の1人を殺すときに自分も死ぬとしても、俺は殺す。

 最後の1人を殺すまで、俺は死なない。死ねない。復讐を終えるまで。


 じじいが頷いたのを確認して、俺は意識を手放した。








 ────────────








「あの日出た被害は、全部俺のせいだったんだろうな。一般市民も殺したというわけだ。あの時は殺すことばかり考えていたから……」


 本当はクーデターではなかった。俺はひたすら敵を殺していただけだった。

 クーデターだと思われているのは、じじいを筆頭に、俺の派閥の貴族が情報操作をしてくれたからだと思う。


 俺は2人にかけていた魔法を解いた。目を開いた2人はどちらも青い顔をしていたが、レイシェイラは酷い。

 体は震えており、虚ろな目はどこも見ていなくて、息遣いが荒い。完全に、俺の記憶に飲み込まれている。


「レイシェイラ、あれは記憶だからな……っと!」


 背中をさすってやろうかと思い近寄ると、両手で胸ぐらを掴まれた。そのまま、胸に顔を埋められる。

 戸惑ってしまってクリフを見るが、そいつもそいつで記憶に飲まれているらしく、頼りにならない。


「レイシェイラ……えー、そのだなぁ……」


「……は、………りでっ……!」


「へ?」


「君はっ、ずっと1人で……こんな感情を、ひっくっ!」


 レイシェイラは仮面を取って、俺をぎゅうぎゅうと抱き締めた。俺の胸元はレイシェイラの涙で濡れていく。

 泣いているのか。やはり俺の記憶は刺激が強すぎたか。わざわざ見せることはなかったな……。


「見せなければよかったとか、思うなよ……ひっく!」


 こいつは心が読めるのか?


「全部……伝わってきたよ……。本当に、全部さ……。怒りも、悲しみも、憎しみ、辛い、怖いとか、何もかも!」


「………」


「自分だけになって、皆も、シエラちゃんも……エレノアも! 死んで……しまってさぁ……! うっ、うぁあああああああんっ! アディニスぅうううううううっ! ボクも手伝うから頼ってくれよぉおおおおおおおおっ!?」


「分かったから……泣くなよ……。服が濡れるだろ……」


「びぇええええええええええええっ!!」


 今日はおかしい。レイシェイラがよくデレる。俺じゃなくてクリフにデレればいいのに。

 まぁ……死んだと思っていた奴に会えたんだし、デレても仕方無いのか。しかもあの日の記憶を見せられたと来た。

 でも……さ。そんなに泣かれると、俺まで悲しくなるじゃないか。あ、目に海水が。


「アディニスぅううううぉあああああああああ!!」


 あぁ、どうしてくれるんだよ。お前がやたらと泣くから、涙が移っちゃったよ。


「っぐ……エル、シエラぁ……!」



 この年にもなって泣くなんて恥ずかしい。だが、一応俺より歳上のレイシェイラも泣いているんだから、良いかなと思えた。

















 お読みいただきありがとうございますm(__)m


 この1話の登場人物

 ノア・アーカイヤ 主人公。黒髪黒目。王兄。王子だが、死んだと一般的に思われている。アディニスとして、一般市民にはクーデターを起こした本人として革命者と呼ばれているが、実際はクーデターではなくただの復讐だった。嫁と娘と仲間を殺されたことによる復讐は、監獄から出たときに再始動された。


 レイシェイラ・ルティエンス 引き籠り。一応だが、商人。開発に向いている。対人恐怖症。ノアの友人。ノアの記憶を見て、一緒に復讐をすると誓うようになる。それでも対人恐怖症……。


 クリフ レイシェイラの付き人。基本的に、レイシェイラに従う。勿論レイシェイラが間違った行動を取れば諌めるが、今のところそういうシーンはない。もうちょっと影を濃くさせたいというのは、作者の願望です……。

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