第31話 二者面談?
遅れてすみませんm(__)m ほぼ2週間振りの更新ですね。
最初ノア目線、途中からダリウス目線の三人称です!
エイダ教官から今朝の特攻の理由を聞き終わった途端、俺は呆れて溜め息を吐いていた。
どことなく怯えるエイダ教官の動きを無視して、正座を崩しながら言う。
「つまりエイダ教官や他の生徒達は、ダリウス君が俺に謝りたがっているのを見て、お節介にも着いてきたという訳ですか。朝の7時に」
「うっ……そうです……」
「はぁ……」
だったら月曜日でも良かったのに。逃げも隠れもしないんだから。
なるべく早くに謝りたいとは、まぁ、良いことなんだろうけどさぁ。謝りに行くのには結構勇気が要ることは、俺も分かっている。
彼は褒められるべきなのだろう。ただ、タイミング悪く入ってこられた俺は、素直に褒めようとは思えない。
今こうしている間にも、ダリウスは罪悪感を持ってしまっているのだろうか。
さっき見た時の顔色も、心なしか悪かった気がする。
そうだ……新人の、二者面談がまだだったよな?
「エイダ教官。二者面談をします。新人のを、まだやっていないので。エイダ教官同伴可能で」
俺の言葉を聞いたエイダ教官の顔がきょとんとして、次に神妙な顔でこくりと頷き、部屋を出ていった。
数分後、入ってきたのはダリウスだけで、エイダ教官はいなかった。
ダリウスは、薄暗い部屋の床に座った俺を見、せわしなさげに視線を動かし、また俺に戻った。
「……」
「………」
「…………カーテン、開けますね。この部屋暗いんで」
「あ、ありがとうございます……」
ダリウスが! 敬語を!
何だろう、ものすんごい違和感が……。昨日はタメ口だったじゃん、いいよそれで。怒んないよ先生。
シャーッとカーテンを開けると、柔らかい日の光が部屋に差し込んだ。まだ昼前かな?
「あの、教官……」
「はい?」
「すみませんでした!!」
窓から目を離して振り返れば、そこには深く腰を曲げたダリウスがいる。
ガタガタと震えているのは、自分の発言が行き過ぎた時の俺の反応を思い出しているからか。
「聞かれたくないこと、何度も聞こうとして……! 変なことまで言って、すみませんでした!」
声も震えている。余程怖かったんだろうな。今にも失禁しそうじゃないか。うーむ、闇魔法の加減を間違えただろうか。
俺はもう怒ってなんかいないのだから、さっさとちゃんとした『二者面談』をやりたい。
「ダリウス君。俺はもう怒っていません。だからリラックスしてください。ぶっちゃけ、謝られても迷惑です」
……これ、言い終わってから思いました。この言い方、むしろ怖がられるんじゃないか!? 不機嫌だと思われるよな!
何でこんな言い方しちゃったんだよ俺! ここは普通に、
『俺はもう怒っていません……頭、掴んですみませんでした。大丈夫でしたか?』
とか言えば良かったんじゃ!? なんか反省しているような雰囲気を漂わせれば満点だったろ!
俺ってばアホ!? アホだな!
ピキーンと固まり動かないダリウスと冷や汗ダラダラの俺だけのこの空間……居心地悪い。最高に悪い。
この状況はどうすればいいんだ……分からない。
相手は14歳、俺が死んだ歳より1つ若い。だがほぼ15歳と変わらない。思い出せ、あの頃はどう対応されれば気分が良くなったかを!
───そもそもこういう状況がなかったから分からん……。
「うぁあああああああノアぁああああああああああッッ!」
バタンッ! と騒がしい音を立ててドアを開け、俺にしがみついてくる奴は……。おい誰だ。いやこんなの1人しかいないけど。
脇腹に両腕を回して仮面を擦り付けてくる。
「当主が! 当主がもどっ、戻ってきて、うわぁあああああんっ!」
「暑苦しい! やめろ離れろ! お前に抱き着かれても嬉しくねぇええええっ!」
「君は怯える女性を優しく労ることも出来ないのか! なんならボクの豊満な胸を押し付けるサービスを───」
「だぁあああっ! 女だって自覚してるなら慎ましさを持て、慎ましさをッ!」
女らしさの欠片もないこいつを女扱いできるかってんだ!
いきなり飛び込んできて好きでもない男に抱き着くなんて……エルなら絶対にやらんな!
第一、俺は今ダリウスとのこの空気をどうやって壊そうか悩んでいるんだ。レイシェイラの相手をしている暇なんてない。
そう思ってダリウスをチラッと見ると、呆気に取られたように口をパカッと開けていた。あぁ、そうか、レイシェイラのあまりの馬鹿っぷりに俺への恐怖を忘れたのか。
………グッジョブだ!
俺はレイシェイラの艶やかな赤銅色の髪を撫で、満面の笑みで言った。
「よくやったぞ! 何か1つ、言うことを聞いてやろうじゃないか!」
「え? え? なに? ボク何かした?」
「うむ。良いことをした」
仮面を着けていても表情が分かるほど、レイシェイラは戸惑っている。が、そんな戸惑いはすぐに失せる。
「なら、商談に行ってきてよ。ボクに原理を教えてくれた君なら出来るだろ!」
商談かー。それくらいで礼ができるならちょろいちょろい……ん? いや、待てよ。
それって現在進行形で行ってるものだから、俺はすぐそこへ行かなくちゃならないんじゃないか。
二者面談は? ダリウスとの二者面談……。
「じゃあよろしくな!」
「ちょ、おい待て! 俺はダリウス君との二者面談───」
「頼んだぞ、ノアっ!」
ずるずると引っ張られて、部屋の外に放り出された。どんだけ力あるんだ。これでも体重は……今、何㎏あるんだろう……。
俺の周りにいる女の人って力あるのばかりなんだよなぁ。エイダ教官然り、エル然り。
ところで、ダリウスとの二者面談は中止ですか?
────ダリウス目線の三人称────
ダリウスは口をぽかんと開けたまま、ノアを閉め出したレイシェイラを見つめていた。
(す、凄い勢いだ……。あっという間に教官がいなくなっちまったよ……)
仮面を着けたその女性は、ふぅっと満足気に息を吐き振り返った。仮面の奥の瞳と目が合い、ダリウスはビクッと震えた。
こんなに怯えてばかりなのは柄ではないが、昨日の恐怖が心の奥に根付いてしまったらしく、そうなってしまうのだった。
あの『怖い』ノアに遠慮なくモノを言うこの女性のことも、無意識に怖がってしまう。
「君、ダリウスって言うんだろう? 悪かったな、ノアと何か話してたんだろう?」
「え、あ、いえ、大丈夫です」
仮面のせいで表情は分からないが、優しい声音に警戒心が薄れる。女性だからというのもあるのかもしれない。
もしくは、叫びながらこの部屋に飛び込んできた印象が強すぎたのか。
レイシェイラはソファに腰掛け、ダリウスにも座るよう促した。
「ボクはレイシェイラ・ルティエンスという。商人の端くれだよ。一応ノアの古い友人かな?」
いきなり始まった自己紹介。ダリウスも自分を言った方がいいのか迷うが、レイシェイラは自分でどんどんと話を進めていった。
「ちなみにノアとはどういう関係なんだ? 変な意味で聞いているんじゃなく」
変な意味って、どういう意味と間違えれるんだろう……純粋なダリウスはそう思う。
レイシェイラは男と女の関係だけでなく同性でも有り得ると知っているから、最後の一言を付け足したのだが。そんなこと、14歳の無垢な少年は知らない。
「教官は、俺達勇者候補の教官をしてます。俺は、昨日から教わり始めたばかりですけど……」
怯えが無くなっても敬語のままである。ノアから受けたトラウマは大きい。
「ふぅん。あいつが教官か。いいんじゃないかな、子供を相手にしても滅多に怒らないし」
「ッ!? ……ぅぐ」
「えっ!? どうした、大丈夫か!? ボク何か変なこと言った!?」
おろおろし始めるレイシェイラに大丈夫だと首を振るが、内心は全く大丈夫でない。
滅多に怒らないと、そう言われた瞬間にダリウスは全身から血が引いていくかのような錯覚を覚えた。
滅多に怒らないと言われる人物を、自分は僅か1日で怒らせてしまった……。
(どうしよう……! 教官、まだ怒ってるよな……! お、俺………)
泣きたくなってきて、体は勝手にブルブルと震え始める。普段起こらない人ほど怒ったときは恐ろしいものなのだと父親から教わったのもあり、そろそろ本当に涙がほろりと落ちそうだ。
レイシェイラは未だにおろおろして腰を浮かせていたが、やがてダリウスの隣に座って背中を摩ってやるようになった。
「その、気になることを言っちゃったなら、謝るよ。でもどうしたんだ? できれば言ってほしいなー……なんて」
「……俺、教官のこと怒らせちゃったんです」
「? あいつを? どうやって?」
そんなに不思議がるほどにノアは普段怒らないのだろうか。だとしたら自分はなんて人を怒らせてしまったんだ。
ダリウスは昨日の自分の行動を、思い出せる限り全て話した。話していくにつれレイシェイラの雰囲気は呆れたものになっていくので、ダリウスは更に落ち込んだ。
話を聞き終わったレイシェイラは喉の奥で何やら音を立て出す。それはやがて高らかな笑い声となって部屋に響いた。
「ふ、ふふふ……ふぁーっはっはっは! あいつってば、加減を間違えたのか!」
「え? え?」
レイシェイラは自分の腹を抱えて笑いこけ、ひーひーと苦しそうに息をしながらダリウスの背中を叩いた。
そして心底可笑しくて仕方ない風な声で言う。
「安心していいと思うよ。たぶんそこまで怒ってないから、それ。ちょっと苛ついた程度じゃないかな? 怖かったのはあいつが、悪趣味にも闇魔法を使って君の心に負荷をかけたからだよ」
闇魔法で負荷をかける? それは一体?
よく分からない、否まったく分からない。苛ついた程度やら怒ってないやら、ダリウスには理解不能である。
目に見えて混乱するダリウスを不憫に思ったか、レイシェイラは1つ1つを説明していった。
「まず、あいつは怒ると相手をぶん殴る。そのまま相手が『生きててごめんなさい生まれてきてごめんなさいもうやだ殺して』と言ってしまうほどに苦しめるんだよ。君は闇魔法を使われたくらいだからな。怒っちゃいない。
闇魔法で負荷をかけるって言うのは、そのままだよ。闇魔法はあいつの得意な属性でさぁ。やたらと使ってくるんだ。呪いとかそういう類いの属性のはずなのに、色々改良して使ってるんだ。
簡単に言うと、闇魔法で相手に恐怖心を植え付けることが可能って訳だ。君はそのせいで過度に怖がってる……んだと思う」
「……」
「つまり、ボクの予想ではノアは昨日のことは全く、全っ然気にしてないだろうってこと」
そうなのか。そういうものなのか。
納得しようにも、ダリウスはまだノアと知り合って2日目なのでそれができない。だが、昔からの友人だという、ノアが敬語でなくなるこの女性の言うことを信じるなら───。
重くて仕方なかった気分が、軽くなったような気がした。
「そっか……ありがとな、姉ちゃん!」
元気になったが故に敬語でなくなった。するとレイシェイラは動揺したように片手で仮面を押さえ、部屋の隅に後ずさってしまった。
「そうか、それが君の本性か! なら出ていけ!」
「えぇええ!?」
「煩い! 弱ってるときはいいけど、元気だと子供は何をするか分からないんだよ、恐ろしいことに!」
ガクガク震えながら、レイシェイラは右手の指先に火を灯し、見せつけるようにその指を突き出した。警戒する猫みたいだ、と思ったのはダリウスだけだろうか。
「出ていかなければボクの炎をお見舞いするぞ! これでも威力は強いんだぞ、アディニス直々に鍛えられたんだからなっ!」
「アディニス……って、革命者様!?」
「煩い出てけ!!」
この女性が王子と知り合いだということと、知り合いなら先程の自分の話───王子の妃が云々のことだ───を聞いて気分を悪くしたのでは、と不安になった。
しかしレイシェイラは話を聞いて爆笑していた上に、今も気にする素振りは見せずシャーと威嚇するだけだ。気にする必要はないのかなとダリウスは思った。
「出ていくから落ち着けよ!」
「その口調! やっぱり子供は子供だ! ほら行ってしまえ! ボクに用は無いだろッ!」
指先の火を高くさせながら、最早余裕ない様子で甲高く叫ぶので、ダリウスは遂に部屋から出た。部屋を出た瞬間にドアから勢いよく施錠の音がした。
個性的な人だ……。でもいい人だったなと、ダリウスは同じ勇者候補の皆のもとへ歩き出した。
お読みいただきありがとうございますm(__)m
この1話の登場人物
ノア・アーカイヤ 主人公。黒髪黒目。王兄。
取得属性魔法:闇、水、雷
レイシェイラ・ルティエンス 顔の半分に火傷を負っている。子供が苦手。対人恐怖症、引きこもり。ノアと古くからの友人。騒ぐ。とにかく騒ぐ。そんな動かしやすいレイシェイラが作者は好きです!
取得属性魔法:火、?
ダリウス・エゼルレッド 勇者候補の1人。14歳。暗い金髪に黒い瞳。元気になると敬語は消える。
エイダ・ギレンラ 寒色系の外見。美女。商人の娘。正義感が強い。言葉遣いは丁寧。
取得属性魔法:治癒、火




