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第2話 お偉いさんに土下座された

 連れていかれたのは応接室の様な場所だ。たぶん本物の応接室。衛兵は廊下で待機させられたらしく、中にはいない。

 代わりに、そこにはにこやかに笑う中年男がソファに座っていた。案外ダンディな奴だ。見たことのない顔だな……。


 長官がダンディな中年に一礼した。


「お待たせしました。こちらが───」


「ノア・アーカイヤだね。初めまして、わしはゴリアグレ・ブランシュ。ブランシュ学園の学園長をやっている」


 長官の言葉を遮って自己紹介してきた中年は、まさかの偉い人。ブランシュ学園とか、何十年も前から存在している超有名校だ。

 その学園の長になるにはブランシュ家に養子入りして英才教育を受けなければならないとの噂だ。何でそんな厳しいのか、俺にはさっぱりだが。


 ここは一応、俺も自己紹介をしておくとしよう。

 無料の笑顔を送りつける。温かみを感じられなくても勘弁してほしい。作れる笑顔が冷たいものになってしまうのは俺の責任じゃない。


「ご存じの通り、俺はノア・アーカイヤです。歳はたぶん25、趣味はなし。今日から死刑囚の罪人です」


 事実を淡々と述べていった。俺が死刑囚とかこいつ知ってんのかな~と思って言ってみたのだが、どうやら知っているようだ。うんうん頷いている。


「よしよし。ちゃんと死刑囚になっているね。実は死刑にしたのわしだから、そこのとこの理解よろしく」


「はいぃ?」


「じゃあ君には勇者候補の教官になってもらうから」


「あの、どういうこ───」


「今ちょうど明け方だから、急いで学園まで行こうか」


「だから、ちょっ、まっ」


「着替えも用意してあるから気にしなくて良いよ」


「違いますよッ! 少しは人の話を聞きなさい!」


 俺がどんな声を上げても無視しやがるので思わず叫んでしまった。しかも訳の分からんことをずらずらと並べ立てるし。


「貴方が俺を死刑にしたんですか、何なんですか、俺今まで貴方と関わりありませんでしたよね。逆恨み的な何かですか。

 しかもさっき勇者候補の教官になれとか言いましたよね、嫌に決まってるでしょう。何で自分を死刑にしやがった奴の言うこと聞かなきゃいけな───はぁ?」


 文句と一緒に説教も垂らそうと思ってぐだぐだし始めた矢先のことだった。俺はついつい固まることになる。



 学園長が、俺に向かって土下座をしたのだ。



「頼むッ! 君しかいないんだ! 最近は物騒なもので、魔物の動きが活発になっている! 魔王の復活の兆しだと言う者が多くて、勇者を育成することになったのだが……勇者候補の教官なんてやれる人物が、君しか思い浮かばなかったんだぁあああッ!!」


 俺土下座されてるぅううううっ! 生まれて初めて見たよ、土下座! 異国の文化でしょうが、それ!

 学園長って頭のてっぺん禿げてるんだね! てっぺん以外がふさふさだから騙されてたよ! かつらを着けることをオススメしたい!

 この人エリートのはずなのに、何で死刑囚に(こいつが死刑にさせたんだが)頭下げてんの!? 確かに頭ごなしに命令されるより気分いいけどぉおおおっ!


 と、そこで仲介に入ったのは長官。土下座する学園長を無視して、俺をじっと見つめてきた。



「教官になるのを断ったら今この瞬間に死刑だからな」


「俺に選択肢はないってことですねー、分かりますー」


「俺とて権力には逆らえぬものだ……」


「この中年どんだけ権力持ってるんですか! ただの学園長でしょうがッ!」


 監獄の長官、権力に屈する……!

 こいつに言うこと聞かせるほどの権力とか、大きすぎる。このじじい結構なお偉いさんなのに。

 でも上には上がいると言うしな……。


 俺の手首、手錠かけられてるから動かせないけど、動かせたなら長官の頭を引っ張たいてやったところだ。

 顔をしかめていると、長官は俺が状況をあまり理解していないと思ったのか、簡単に説明をしてくれた。


「ブランシュ学園長と俺でノア・アーカイヤは死刑に決定された。表向きはな。これでノア・アーカイヤはもうこの世にいない。ここにいるのは別人のノア・アーカイヤだ。

 別人のノア・アーカイヤよ、勇者候補を勇者に育てきれば本当に解放されるぞ。ということで教官やってこい」


「ろくな説明じゃなかったッ! 教官とか面倒な役回りを死刑囚っていう罪人にやらせますか、普通!? しかもそんな理由で死刑囚にしないでください! あんたら絶対に普通じゃないでしょう! 長官のことは分かっていましたけどね!」


 普通じゃない普通じゃないと貶しているはずなのに、長官は満足そうに頷くのだった。


「分かっているならそれでいい。ほら行ってこい。教官生活が終わればお役御免で自由な人生を送れるぞ~」


「自分の仕事をこなせよ権力に屈してんじゃねぇッ!」


 おっと、つい口調が……。でもやっぱツッコミは敬語じゃ駄目だよな。気分が乗らない。

 俺に怒鳴られたじじいは両手の人差し指の先をもじもじと合わせた。老いぼれがやっても気持ち悪いだけだぞ。


「だって……この額を見せられたから……」


 いつの間にかその手に摘ままれていた、1枚の紙。そこには俺でも驚くほどのゼロの数!


「権力に屈してしまったが、俺はそれ以上に、これに屈したのだ……」


「賄賂じゃねぇかよッ!! 権力どーのこーのの問題じゃねぇし! てめぇいつからそんな欲まみれになりやがった!?」


「いや他にも理由はあるんだが」


「じゃあそれは何ですか、まともな理由なんですか」


「その前にブランシュ学園長を助けないとな」


 金と権力に敗北したじじいは土下座したままだった中年の救済に向かった。忘れていたけど、土下座されてたんだったわ。

 中年学園長は(震えてる)膝を押さえながら俺を悲痛な表情で見た。

 膝が痛くなるほど土下座してるなよ、痛々しいな。


「頼む……! 他の教官にもノア・アーカイヤという人物が勇者候補を受け持つと話してしまったんだよ! この話を受けてくれ!」


 受けるも何も、OKしないと俺はこの場で殺されるらしいのだが。

 まぁ、相手が折角下手に出ているのだ、都合の良いようにさせてもらおう。


 俺はにんまりと笑って、学園長の目をしっかりと見つめた。その視線を逃さないように。


「いいでしょう」


 パッと学園長と長官じじいの表情が明るくなった。そこで俺は一言付け加えた。


「しかし条件がありますがね……。なに、ちょっとしたことですよ。くくくっ」


 2人の男の表情が悪くなっていくのを観察するのは、なかなかに面白かった。

 お読みいただきありがとうございますm(__)m


 この1話の登場人物

 ノア・アーカイヤ 主人公。死刑囚。敬語が癖。教官になることを決意した。


 ゴリアグレ・ブランシュ 名門、ブランシュ学園の学園長。ダンディな雰囲気の中年。てっぺんが禿げている。なかなかの権力者で、賄賂もできる財力を持つ。


 長官 じじい。

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