第1話 死刑囚に昇格
1話が1番短いです……。これからだんだん、1話1話が長くなっちゃってます。
――じめじめとした空間。明かりなんて、1本の蝋燭からしか得られない。それすらもあと10分程度で消えてしまうだろう。
たまにふよふよと送られてくる蝋燭は、少しの明かりを灯して、すぐに消える。
この空間で俺はどれ程生きただろう。窓がないから時間の感覚が狂う。今が朝なのか、昼なのか、夜なのかも知ることができない。
「退屈だ……。無期懲役とか嫌だぁ……。暇すぎて死んじゃう。骨になるよぉ。――俺の未来がよく見えるね」
ここは牢屋だ。独り言は俺の口から吐き出されたもので、実に怠そうに聞こえる。
いや、実際怠いのだ。そりゃ4、5年間 (たぶんそれくらい)もこんな場所に閉じ込められているのだから、暇過ぎる。暇過ぎて怠い。
寝て起きたら体操くらいはするが、この狭い牢屋じゃそんな動けない。
「暇だ暇だ暇だ暇だー」
呟いても、それは壁に当たって響くだけ。応える声はない。
ここにいる人間なんて、俺以外は皆骨になっているから当然か。最後に生きてる人間を見たの、いつだっけ?
時々独り言を呟きながら、今日も俺は暇を持て余す。独り言が多いのは仕方がない。癖になってしまったのだから。
簡易なベッドに寝転がって、食事運ばれてこないかなーとぼんやり思った。
食事は、魔法で運ばれてくる。空中を移動させる魔法など初歩中の初歩で、魔力の消費も少ない。腐敗臭漂う牢屋に入りたくない看守共は、魔法で食事を運んでくるのだ。
蝋燭も、そういう風にして運ばれてくる。
そうして待つこと2時間……いや、正確な時間なんて分からないが。たぶん2時間くらい経った頃。
人の気配がして、俺はベッドに腰掛けた。いくらなんでも寝転がった状態じゃあ……なんか、嫌だから。
俺の牢の鉄格子の前まで来たのは、宙に浮くお椀ではなく、蝋燭でもなく、髭を生やした体格のいい老人だった。
カンテラを持つ護衛が両脇にいる。その明かりが俺の目を突き刺すので、目を細めた。
老人は、俺にとっては懐かしい人物だ。昔の知り合いなら誰に会っても『懐かしい』と言える立場だがな。
さて、折角だし笑顔で迎えてやろう。
「何の用ですか? あなたのような人が、このような陰気な場所まで」
皮肉を織り混ぜた俺の言葉にも表情を変えない老人。おいおい、まさかたったの(たぶん)4年間で性格変わったなんてことないよな?
ちなみに俺が敬語で話したのは、皮肉を強くするためじゃない。人と話すときは敬語になってしまうという、ただの癖だ。
「えー……」
悪口言おっかなと考えながら声を出したその時、ようやく老人が口を開いた。
「死刑だ」
…………は? フリーズするよ。いきなり何さ。
固まった俺の顔を変わらぬ無表情で見下ろしながら、老人は言葉を付け足した。
「昨日まで無期懲役だったけど今日限りで死刑囚に昇格だおめでとう」
「おめでとうとか言わないでくれませんか死刑囚に昇格とか嬉しくないんで。むしろ怒っちゃうまであるんで。
あれですか、苛めですか。俺のことを恨む誰かさんが権力使って俺を殺そうとしてるんですか。弱者を苛めるとか何なの、死ぬの?」
「死ぬのはお前だ」
「ふざけんな馬鹿アホ」
「死刑囚にアホ呼ばわりされたくないわい」
「アホー。アホアホ、アホホホホホホホ」
「アホって言う奴がアホなのだ!」
アハハ、キレた。ってか俺さっき『馬鹿』とも言ったよな。馬鹿呼ばわりはいいってか?
この老人はこの牢屋――監獄の管理人という立場だ。単語で表すなら、『長官』。
キレて顔を赤くさせる長官に俺はニヤリと笑いかけた。
「それで、死刑囚になったことを報告しに牢屋まで来たんですか? 違うでしょう? そんなことのために俺を見に来るはずない」
死刑申告程度のものなら、衛兵か何か使えばいい。てかそもそもこの監獄に来れば『死刑』は存在しない。全員が『無期懲役』だ。
ここはマレディオーネ監獄。国で1番警備の厳しい監獄だ。
過去に脱獄者はいない。脱獄しようとすれば即刻首が胴体とおさらばする。ちなみに独房しかない。
用件を話せやーと言外に伝えると、長官は顔の筋肉を操って直ぐ無表情になった。面白いな、一瞬で無表情になるのって。
「出ろ。客人だ」
傍にいる護衛が俺の牢の鍵を開けた。カチャリと良い音がした、けど――
「客人? 嫌な予感しかしないですね……」
死刑囚に何の用じゃーい。余生を送らせろやーい。腹減ったー。
内心俺は反抗期の子供のようにぐずった。だが長官という強者が、今日から死刑囚の弱者を冷たく一瞥し、
「早く出ろ」
なーんて言うので、俺は慣れ親しんだ牢屋から出るしかなくなってしまった。
全く、死刑申告された直後に『客人来たぞー』とか言われてもねぇ。もうちょっと事情を説明してくれよ。
お読みいただきありがとうございますm(__)m
この1話の登場人物
主人公 名前はまだ出ていない。死刑囚に昇格された。長きに渡る監獄生活により、独り言が癖になった。
長官 主人公はじじい呼ばわりしている。髭を生やした老人。体格はよく、ぶっちゃけ武人。