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恋と約束の交響曲  作者: 心音
共通ルート01
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第13話『桜の木に願いを』

ピピッ、ピピッ――と、セットしておいたアラームが鳴り始める。

漫画を読む手を止めて俺はアラームを止めた。


「――よし、そろそろ行くか」


今日は日曜日。みんなでお花見をすると決めていた日だ。

現在の時刻は17時を少し過ぎたくらい。場所取りをしておかないといけない俺が家を出るのにちょうどいい時刻。

あらかじめ用意しておいたレジャーシートなどの入った荷物を持って俺は腰を上げた。

ガスの元栓、窓の鍵がきちんと閉まってることを確認してから家を出る。外はまだ明るかったが、少し経てばすぐに暗くなってしまうだろう。

家の近くにある自販機で無糖のコーヒーを買ってからお花見をする高台に向かって足を進め始めた。


「……」


高台に向かって歩いていると、風に乗った桜の花びらがひらひらと舞い降りてくる。

春にしか見ることのできないピンク色の雨を楽しみながらコーヒーを飲む。

高台に行けばもっと綺麗に見ることが出来るだろう。俺の足は引き寄せられるかのように速くなっていた。


「……やっぱり綺麗だな」


高台に着くと同時にそんな感想が漏れた。

俺の言葉が嬉しかったのか、風が一瞬だけ強く吹き、辺り一面花吹雪となった。

高台の中央付近にある一番大きな桜の木の下にレジャーシートを敷き、風で飛ばされないように四隅を用意しておいた杭で固定していく。


「こんなもんか」


これで俺の役目は終了。あとはみんなが来るのを待つだけだ。

時刻はまだ17時半を過ぎたばかり。約束の時間までまだ1時間半近くある。

しばらくの間スマホを弄っていたが、やることもなくなり俺は寝そべって桜の木を見上げた。

心地よい春風が眠りを誘ってくる。

一眠りしようと目を閉じたその時だった。


「……?」


顔の前に影が落ちた。

うっすらと目を開けるとそこには見慣れた人影が立っていた。

胸のあたりの蒼い花の飾りが特徴的な青と白のチェック柄のワンピースに白いサンダル。華奢な腕には高級そうな銀の腕時計を付けていて、その腕を辿って上を見ると蒼い二つの瞳が俺を覗き込んでいた。


「……早いですね、榊先輩」


「隼人くんならきっともういるんじゃないかなって思ってね」


俺のすぐ隣に腰を下ろす榊先輩。寝てるのも失礼だと思い起き上がる。

先輩の近くには弁当が入っているであろう大きなカバンが置かれていた。


「……桜、綺麗だね」


「そうですね。でも、夜になったらもっと綺麗ですよ」


「知ってる。私この高台の桜が大好きだから」


どこか懐かしいものを見るかのように桜の木を見上げている榊先輩。俺も便乗して再び見上げる。

さわさわと吹く風が甘い香りを運んでくる。その香りが先輩のものだと気づくのにそう時間は掛からなかった。

女の子というのはどうしてこうもいい香りがするのだろう。香水やスプレーなど使わなくても、自然の香りがとてもいい。


「――あれ、夜乃会長と浅川。もう来てたんだ」


聞き慣れた声に振り返ると、そこにはやはりというべきか、雪原の姿があった。

涼やかなデニムレギンスに無地の白Tシャツ。その上に淡い翠色のパーカーというシンプルな格好。けど髪はいつもと違って下ろしてはなく、後ろの方を青いシュシュで結ってポニーテールにしている。


「お前も早いな」


「……ハルカも、いるよ」


雪原の後ろから古宮がひょっこりと姿を見せる。

古宮も雪原と同じシンプルな服装だった。デニムのショーパンに大きな赤いハートが真ん中にドンとプリントされた白いTシャツ。そしてベージュの薄目のカーディガンを羽織っている。


「まだ集合まで1時間以上あるぞ。早すぎだろ」


「……浅川くんには、言われたくない」


「俺は場所取りが仕事だからいいんだよ」


「私達以外誰もいないから必要なかったよね」


「それを言うな。悲しくなるだろ」


「……ドンマイ。浅川くん」


古宮にぽんぽんと肩を叩かれて何とも言えない気分になる。


「この流れだと他も早く来たりしてね」


買ってきたお菓子の山からグミの袋を取り出してご機嫌そうに封を切る雪原。レモンのような柑橘系の香りが広がった。


「あー! つもりちゃんダメだよ!ご飯前にお菓子食べたら食べれなくなっちゃうよ!」


「大丈夫ですってこれくらい。もぐもぐ。夜乃会長のご飯は美味しいですし、ちゃんとたくさん食べれますから」


「う、嬉しいこと言ってくれるね。私ちょっと泣きそう」


照れ顔を隠そうと必死な榊先輩を見つつ、雪原の表情を伺うと、不意に口元が吊り上がった。


「ちょろいちょろい」


「……」


聞こえてるぞ雪原。

榊先輩は浮かれていて聞こえていなかったようだが、聞こえていたら別の意味で泣いていたに違いない。


「雪原、俺にもくれ」


「はい」


放物線を描いて飛んできたグミをキャッチしてそのまま口に放り込む。レモンの甘酸っぱい味をもぐもぐと楽しむ。


「ん?」


ふと視界の端に人影が映る。


「……反町くんも、来たね」


古宮も気づいたらしく、こちらへ歩いてくる反町に手を振っていた。

チノパンにTシャツ。そしてパーカー。反町はいつも通りの格好だった。


「やっぱり早くに来ていたな」


お茶やらジュースやらが入ったペットボトルの袋をレジャーシートにどかっと置いて反町はコキコキと肩を鳴らす。


「いやー……流石に2Lのペットボトル五本は肩に来るわ。めっちゃ痛え。あ、一応お茶一本に天然水一本であとはジュースな」


「炭酸はある?」


「当たり前。お前が好きなスプラット買ってきてる」


「さすが反町。分かってるね」


「……つもりちゃん、柑橘系の、食べ物とか、飲み物…好き、だよね。体育の後の、制汗剤もシトラスだし」


指を折って古宮は数える。


「かなり好き。私とって柑橘系のモノは生命の源」


「柑橘系すげぇ」


あははっと、笑いの渦が起きる。

陽はだいぶ傾いてきていて、沈んでいく太陽に吸い込まれていくように俺たちの笑い声は響いて消えていく。


「――こんばんは。皆さんもうお揃いでしたか」


夕陽をバックに十堂が立っていた。

時間は18時を過ぎたあたり。結局全員待ち合わせの一時間前に集まってしまった。


「……やっほ。恋歌ちゃん」


「そんなところ立ってないで早くこっちにおいでー!」


榊先輩は手をメガホンのようにして叫ぶ。


「そんな大きな声出さなくても聞こえますよ。というか時間を考えてください。近所迷惑です」


「ご、ごめんー」


さっきとは打って変わって控えめな声で謝り、しょぼんと肩を落とす。


「うう……。後輩に怒られるなんて先輩としての威厳が」


「元からないから大丈夫っすよ」


「優誠くん!?それどういう意味かな!!?」


「夜乃会長に威厳も尊厳もない」


「つもりちゃん!?」


「おいお前らやめろよ」


俺はため息を吐く。


「隼人くん……。隼人くんだけは味方してくれるって信じてたよ……!」


「先輩には威厳も尊厳も地位もないんだよ」


「地位はあるよ!!私生徒会長だもん!!」


「今、地位はって言いましたね?地位『は』って言いましたね?つまり地位しか無いってことですよね?」


「うわーーーーーん!!隼人くんのバカーーーーー!!」


「どうでもいいので早くお花見始めましょうよ」


十堂も俺の同じようにため息を吐いた。


「どうでもよくないよ!!私にもプライドってものが――」


「……みんな、飲み物、どれにする……?」


「スプラット」


「オレンジジュースで」


「俺はつもりちゃんと同じ」


「お茶」


「無視しないでよ!? 私のプライドと飲み物どっちが大切なの!?」


鬼気迫る表情で榊先輩は顔をぐいっと俺に寄せる。

俺は少しのあいだ考え込み、口を開く。


「先輩って将来、結婚した人に対して、私と仕事どっちが大事なの!? って言いそうな感じがしますよね」


「言わないよ!!あと私はオレンジジュース!!」


「……はい」


あらかじめ予想していたのだろうか。紙コップに注がれたオレンジジュースを古宮は榊先輩に手渡した。

バカ騒ぎをしているうちに辺りはすっかり夜の帳が降りていた。

俺は用意してきたバッテリーと電球を五つほど桜の木に付けていく。


「スイッチオン」


カチッと電源を入れるといい感じに桜の木がライトアップされた。


「……綺麗」


誰もが照らしあげられた桜を見て感嘆のため息を吐いた。

年に一度。春にしか見ることのできないひと時の美しい光景。昼とはまた違った素晴らしさを実感できる夜桜。月明かりに照らされて舞う桜の花びらもまた、美しかった。


「よし。んじゃそろそろ乾杯するか。みんなコップを持ってくれ」


「了解です」


それぞれ飲み物の入ったコップを手に持つ。

全員の視線が俺に向いたところでコホンと咳払いを一つ。


「えー……今日は新しいメンバーを加えての初めてのイベントだ」


十堂のほうを見て俺は話を始める。


「まだ俺たちのことで分からないことが多いだろうし、不安もきっとあるはずだ。でも――」


真っ直ぐに十堂の瞳を見つめ、俺は笑顔を作った。


「俺たちはもう仲間だ。一緒に弁当食ったり、一緒に遊んだり、楽しいことを一緒にやろうぜ。もちろん遠慮なんてしなくてもいい。我慢だってしなくていい。嫌なことがあったらぶちまけろ。俺たちはお前の話をしっかり聞いてやる」


「先輩……」


十堂は恥ずかしくなったのか、俺の視線から逃げるように顔を逸らした。


「さてさて、長い話はここまでだ。今日は楽しもうぜ。乾杯!」


「「「乾杯っ!!」」」


空に輝く月と咲き乱れる桜に見守られながら俺たちは笑い合う。

このメンバーと過ごす時間は他の何にも変えることのできないかけがえのないものだ。

これからの道を共に歩んでいきたい。どんな壁にぶち当たっても俺たちなら乗り越えていけるような気がした。


「……」


だから柄にもなく、桜の木に願うのだった。






この楽しい日々がいつまでも続きますように――と。






to be continued

みなさん、こんにちは。心音です。

さて、これにて共通ルート01は終了となり、次回から個別ルートに入ります。尚、個別ルートの1話目についてですが、第01話に戻すことはなく、この話の続きということで第14話からとなります。ご理解をお願いいたします。

それでは次のお話でお会いしましょう。尚、次回の話は個別ルートのプロローグのようなストーリーなので比較的短めのお話になると思われます。

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