悪役令嬢の献身。
ごきげんよう、私はこの度悪役令嬢をすることとなった公爵家の長女です。
何故、私が悪役令嬢をすることとなったのかというお話をしたいと思います。
まず、わが公爵家は家督であるお父様のせいで評判は最悪でした。
彼は金銭が大好きな人で、それを毟り取る為に沢山の人を表沙汰にならない形で泣かせたそうです。
そんなお父様に溺愛されて、すくすく育った私にも誹りの鉾が向くこととなったのです。
更に悪いことに、私はなんというか見た目が目立ったのです。
おかげで、社交デビューをして3年もたつ頃には凄い噂が流れてました。
やれ、豊満な体で男を誘惑する、愛人の数は両手では足りないそんな噂が渦巻くようになりました。
そんな私の婚約が決まったのは、幼いころでした。
お父様はなんとこの国の第1王子との結婚をごり押しで決めてしまったのです。
幼いながらに屋敷の外の人達が自分達をどういう目で見ているのか分かっていた私は必死になって抵抗しましたが、聞く耳を持ちませんでした。
そうして殿下と私は出会ったのです。
彼と初めて出会ったときのことは忘れません。
サラサラの金髪に空のような青い瞳、人形のように整った顔の彼はまるで天使のようでした。
その殿下は私のことを見た瞬間、眉をひそめて侮蔑の表情で見ました。
大方、私が父に婚約を無理に頼んだとでも思ったのでしょう。
私はその表情に射抜かれたのです。
子供同士の遊び相手もいたものの、相手はいつも冷たい表情の裏に軽蔑の面持ちを隠していました。
それは父がそれだけのことをやっているのだと、仕方ないこととして黙って受け入れました。
しかし、それを取り繕うことなくぶつけてきたのは殿下が初めてだったのです。
なんて真摯な方なんだろうと私は彼に好感を持ちました。
そうして、婚約者として殿下とお付き合いを始めました。
初めの頃こそ、諍いが絶えなかったものの本音で接しているうちに私へ対する誤解は解けたようです。
私も彼は天使のような方ではなく、やや人間不信だったり、人を切り捨てることが出来る冷たい側面があることが分かりました。
それでも王子と言う重責を背負う身では仕方ないこととして、そんな彼の面倒な面ごと慕いました。
しかし、年を経るごとに気が付いてしまったのです。
私への殿下のまなざしが女性に対するものではなく、妹を見るまなざしだということに。
そうして、彼が目線で追うのはいつも儚げで芯の強そうな女性でした。
そこで、私は殿下に直接うかがってきたのです。
「殿下、本当にお好きな方が出来たら婚約破棄するのでおしゃって下さいね。」
「な、なんてことを言うんだい。君は私の…。」
「私、殿下の好みとは反対でしょう?貴方の事は兄の様に想っているので幸せになって欲しいんです。」
「す、すまない…。私も君のことを妹のように想っているよ。」
光栄ですわと笑った影で、私は失恋をかみしめていたのです。
ですが、好きな男性を幸福にできないのは女性にとって屈辱的です。
敵の多い殿下の味方になろうと、私は決心したのです。
そんなある日のこと、彼がとうとう付き合っている女性がいると相談をしてきたのです。
そのお相手は、子爵家の娘でした。
人柄がいいと評判の可愛らしい子でしたが、王妃となるには身分が低いのです。
諦めるしかないのかと悩む殿下をしり目に、私も悩みました。
そうしていい考えが浮かんだのです。
私が彼女をいじめることで、殿下に婚約破棄させるのです。
幸い私は悪い噂は売るほどありますし、皆彼女に同情するでしょう。
上手く噂を操り、彼女を颯爽と助ける殿下と薄倖の令嬢のハッピーエンドまで持っていけばいいのです。
幸い国王陛下は優秀な方でいらっしゃいますが、ロマンチストな面がおありでした。
それに加えて、暇を持て余した貴族たちはこう言ったお話が大好きなのです。
渋る殿下を人間嫌いな貴方が、気を許す女性なんて彼女を逃がすと一生でてきませんと断言し、
実行に移すことに決めました。
作戦を決行する前に、彼がお付き合いしている子爵家令嬢とも3人でお会いしたのですが
優しくて芯のとても強い方で、これなら殿下を任すことが出来ると心底安心したのです。
彼女は最初は怯えていたものの、やがて懐いてくれました。
妹がいたならこんな感じだろうかと思ったものです。
登場人物が全員グルの茶番劇はとてもスムーズに行きました。
そうして、今日殿下と彼女の結婚式が行われます。
式に参加できなかったのが、残念でなりません。
私は、家の名誉を汚したとして修道院送りが決定されました。
本当はお人よしの殿下と優しい子爵家のご令嬢はこんなことになるなんてと顔を青ざめましたが、
これは私の狙い道理でした。
殿下以外の男性と結婚をするということは耐えられなかったからです。
そういうわけで、私が彼を男性として愛していたというのは一生の秘密です。