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彼女の過去4

両親の死の真相を聞いた日から少しぎこちなくなったけれど、高校の入学式を目前に控えた今は逆に少し距離が縮まったような気さえした。

けれど、私はいまだに伯母さん達をお母さん、お父さん、と呼べていない。

後もう少しの覚悟が足りないのだ。

後ほんの少しの、覚悟(ゆうき)が。


唐突に「キャアアアアアアッ!」という声を聞いて、思わず耳を押さえながらこれが小説で読んだ黄色い声か?とボヤいた時だった。

微かに見えたその姿を、私の目はバッチリ捉えてしまった。

――入学式が始まる前のことだ。

入り口の真ん中は空いているが、その両端を数えるのも面倒なくらいの女子が埋め尽くしていた。

不意に近くの人達の声が聞こえてきて、何かわかるかと耳を済ませる。

結果、あれらがファンクラブとか馬鹿げたものだということがわかった。

ファンクラブとか小説の中だけだろ、と思いつつ、なんだか私の周りは小説みたいな展開を起こす人が多いなと思った。

その瞬間、冒頭の黄色い声が響き、ファンクラブのアイドル、二年の男子生徒が入ってきたのだ。

要は私にとって先輩に当たる人なのだが、ファンクラブを作るほどの容姿に興味があり、体をずらしてその姿を拝もうとした。

そうして微かに見えた姿は――いつかの両親が騙した人物の息子が成長した姿としか思えなかった。

両親の死の真相を話し、泣き崩れた伯母さんが落ち着いた頃、これがその人の写真だと地味に気になっていたテーブルの上にあった一枚の写真を渡されたのだ。

それは母が計画を練っている時に偶然街で見かけて、こっそり写真を撮ったのを焼き増しして渡してきたのを返しそびれたものだと言う。

はっきり言って盗撮である。

写真を見れば、母達の標的となった人と妻らしき女性、息子らしき若い男子が楽しそうに笑いながら何処かへと行っている途中なのだとわかった。

不意に、全員顔が整っているのだが、これは遺伝なのだろうかとどうでもいいことを考えたが、頭を振って追い払う。

恐らくこの幸せそうな姿がこの人達にとっての日常なのだろう。

良いな、と思ったが、そこである考えに辿り着いた。

「……もしかして、母達がお金を騙し取ったせいで、この人達は路頭に迷ったりとか…」

恐る恐る聞いてみるが、歯切れ悪く答えた伯父さんの言葉に望んだ返事はなく、ホッとしたのは元に戻したという言葉にだけ。

所詮他人事だが、軽い罪悪感が私を襲う。

「近くはなったみたいだ。だが、友人となんとか一年かけて元に戻したらしい。その友人が偶然俺の知り合いだったから知れたんだが…いろいろ大変だったらしい。あいつは口が堅いんだが、疲れた様子で一瞬口を滑らして、借金、と言っていたから」

その時はただ、知ってたけど私の両親最低だなと思いつつ伯母さんの「少しでも償いがしたいの。見つけたら絶対に教えてね」という言葉に頷いただけだった。

罪悪感に襲われているのは伯母さんも同じなのだと考えて。

だから、伯母さんに見えないように僅かに顔を顰めた伯父さんと目が合って一瞬で逸らされても、わけがわからないだけだった。

「…ちょっと…?」

小声で届かないとわかっていても、抗議の意味を込めて呟かざるを得なかった。

先生をやっている伯父さんを見続けるが、気付いてるだろうに目を合わせようとしない。

二年ってことは去年もいたはずだから、伯父さんはあの人を既に見つけていたはずなのだ。

それなのに、どうして何も言わなかったんだと、ただひたすら目で抗議していた。

だから、入学式が終わって皆が下校を始めても、伯父さんを探して学校をうろちょろする意味だってちゃんとあるのだ。

早く帰りなさいという声にビビる必要はないのだ。

でも、ああいう注意はダメだとわかっているからこそ怯えてしまう。

そうしてビクビクしつつ伯父さんを探し、遂に見つけた時には「見つけた!」と叫んでしまった。

そうして用を終えて帰るべく、「どういうことなの?」と問い詰める。

伯父さんは一度はー、と息を吐いて、「よく観察しなさい。そうすればわかる」と言うだけだった。

納得がいかずどういうことかを聞いてももう取り合ってくれないので、仕方なく帰った。

そうして家に着いて伯母さんを見た時、思わず真顔になりながらその場を乗り越え自分の部屋に入ったが、どう接すればいいのかわからず頭を抱えていた。

そしてその夜、私は結論を出した。

伯父さんの言葉が気になるので、とりあえずは保留にして、あの先輩を観察することにしたのだ。


と、意気込んで数日経つが、全くわからない。

ただ眺めるだけでも噂は流れてくるが、そんなことが知りたいわけじゃないのだ。

いや、先輩の家はあの高級住宅街にあるという噂からちゃんと戻ったんだと安心はしたが、それ以外はどうでもいい。

だいたいが好きな食べ物とか好きな女の子のタイプとか先輩の友人事情とかの噂で、プライベートはないのか!と心の中でツッコミを入れたくらいしか関心はない。

何故伯父さんは償いをしたいと言っている伯母さんにその相手がすぐ近くにいると言わないのか。

その問題はこの日も解決することはなかった。

だが、それとは別に変な問題が増えたのは次の日からだった。

「昨日、目が合ったよね?」

素で「は?」と声を漏らしたが、仕方がないと思う。

登校していたら後ろから肩をポンと叩かれ、振り向いたらその台詞だ。

しかも入学式から毎日のように観察しているが余計な噂ばかり増えて何も進展しないと私が最近悩んでいる原因の本人様だ。

全くわけがわからないが、とりあえずやるべきことはよくわかる。

「あ、はい、そうですね…っと、それじゃあ」

下手な対応をすると先輩の前にいる時間が伸びるだけなので、一刻も早く先輩の前から消えたい私は心の中で失礼しますと言っておき、そそくさと校舎に入って教室へ向かった。

それじゃあ、と言った直後に呼び止めるような「あっ」という声が聞こえたが、聞こえなかったフリをしてそのまま去った。


わからない。

全くわからない。

多分先輩の言っていた昨日、目が合ったよねというのは認めたくないがわかる。

確かに昨日の下校中、ちょうど女子達(ファン)に囲まれた先輩を見かけて、いつもいつも歩きづらくないのかなーと思いつつ眺めていた。

そうしたら何故かバッチリと目が合ったので、勘違いだろうなと思いつつすぐに目を逸らした。

それからなんとなく早歩きでその場を去ったが、帰宅途中で自意識過剰だろ、私!と頭を抱えた。

例え本当に目が合っていたとして、どうせ先輩にはそこらの有象無象と同じように見えただろうし、とわけのわからない慰めをして、その日はそのことを忘れたのだ。

ふと次の日の朝、起きてから今日こそ伯父さんの言っていたことがわかるかな、いや無理そうと若干諦めながら思いはしたが、まさかその数十分後にこんなことが起きると誰が予想できるだろう。

教室で仲良くなった女子と軽く話をして、チャイムの音で席に戻った。

そうしてため息を吐き、その日はいつもとは一転、極力先輩に近づかないように過ごしたのだった。




――心の声に蓋をして。

高校に入りました。

現在(いま)の二人に至るまでの経緯を書いていきます。

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