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彼女の過去2

主人公、サラッと毒を吐く。

それから数年経ったが、その間に母が楽をするために私に家事も教えたため、中学生に上がる頃には家事と勉強の両立が普通になっていた。

朝起きる時間も、ニュースで天気予報を見るためにテレビをつける時間も、家事をするタイミングも、全て含めて生活のリズムが完成していた。

「ほら、早くしろ」

けれど、最近になって不思議なことが起き出した。

仕事人間の父と最近は家で寝てたまに出掛けてと毎日休日のように過ごしている母が朝早くから出掛けていくのだ。

「ええ」と頷いて父の元へと走る母が父に続いて家を出る。

勿論、二人は私に「行ってきます」なんて言わないし、私も二人に「行ってらっしゃい」なんて言わない。

私はあの二人は他人だと割り切ることにした。

家事をするのは自分のため、料理を複数人分作るのはなんとなく、三者面談などに行ったら仮面を被るが、それ以外では何の接点もない。

この歳になってお年玉はもう貰えないし、今更親戚の家に遊びに行く意味もない。

そういえばそのお年玉だが、中身は多分お金なんだろうなといつからか気付いていた。

「…まあいいか」

そう呟いて血の繋がった他人(おや)をほとんど気にすることなく過ごしていた。

ただ、中学二年生になって数ヶ月して、両親が二人して騒ぎ出すことが多くなった。

喧嘩で、というわけじゃない。

どちらかというとワイワイと楽しそうで、不思議に思いつつ首を傾げるが、まあいいかと特に気にすることなく出掛ける二人を無視していた。

だが、流石にある日突然家に電話が来て、両親が殺されたと言われた時は無視できなかった。

別にあの二人が死んだところで、損する人も得する人もいないだろうと思ったが、とりあえず葬式には参加した。

遺体との対面は拒否した。

別にあの二人の亡骸と向き合ったところで、話すことなんて何もない。

ただ何故だろう。

葬式で二人の遺体に花を投げる時、無性に花を引き千切って遺体の上から振りかけてやりたいと思った。

お前らは成仏なんてするな。

天国になんて行くな。

地獄でいつまでも閻魔様に裁かれ続ければいい。

絶対に弔ってなんかやらない。

心の中で思いの限り呪詛(のろいのことば)を吐いて、花を投げた。

それから未練もなく振り返り、元の場所に戻って座った。

参列する人は多い割に、誰も泣いていないのを見て、鼻で笑いたくなった。

この中で本気でお前らを弔ってやるような人なんていないんだよ、と人の向こうにまだ在る二人を睨んでいた。

まあそんなことをしていたからだろう。

冷たい目をして実の両親を見、特に表情を崩すことなく花を投げ入れ、元の場所に座り、今度は実の両親が眠っている場所を睨みつける。

不気味な子供だったのかもしれない。

両親の遺産や保険金があるとしても、私を気味悪がって一歩引いた距離を保つ親戚達を笑いたくなった。

そんな時、突然足音荒く見たことのある顔立ちの女性が入り込んできた。

「この子は私達が引き取ります!保険金とか関係なく、私達が養います!保険金目当ての人は今すぐ消えてください!」

声荒く捲し立てたその勢いに、少し大きく肩が揺れた。

だがその驚きが覚める頃には女性の剣幕にビビったのか数人が去った。

残り数人も私が普通の子供のような反応をしていれば言い返して保険金を手に入れようとしたかもしれない。

きっと不気味さが勝ったのだろう、親戚の人達は保険金の存在に未練を感じつつ去っていった。

まあ十年以上“育てて”もらって、“一緒に過ごして”きたのだから、普通は泣くのだろう。

暇潰しに本を読むのが趣味だったから、昔よりは一般的な普通がわかってきたが、どうしても普通は、と考える度に口元が緩みかける。

一度大声で笑ってみたくなる。

やりたいだけで、実際にやってもその笑いは続かないが。

「っ、覚えてるかしら?昔一緒に遊んだわよね」

不意に声をかけられて、立ち去る親戚の人達から視線を移す。

視界に映った女性は泣いていた。

いや、涙を堪えようとしているのか、涙目のまま目が乾くことも涙が溢れることもない表情をしていた。

私は一瞬、あの二人を真剣に悼む人なんていたんだと思ったが、すぐに頭から消し去る。

この人はなんて言っただろう?

親戚の人達の一人で、昔お年玉を貰った人達の中の一人。

それだけなら皆同じで、この人が誰だとはわからないが、一緒に遊んだと言われると朧げながら思い出せた。

確か母の姉、伯母さんだ。

既婚者で、子供ができない体だから子供はいないって言っていた。

もし今誰かに「誰が言っていたのか」と聞かれたら「母が言っていた。若干馬鹿にするように」としか言えないが、とりあえずあの母よりは良い人物である。

昔一ヶ月に一度家に行った時、トランプやおはじきといった遊びを一緒にやろうと言われてやった。

大人しくしていなさいと言われたから大人しく言われた通り遊んでいたのだが、伯母さんの夫に教えられてやるトランプもおはじきも楽しかった。

だからこの二人の家に行く日が毎月楽しみだったのだけど、お正月を境に素直に楽しめなくなった。

「はい、覚えています。懐かしいですね」

笑いながら他人行儀にそう言うと、苦笑いした伯母さんが私の頭を撫でた。

「これからは貴女は私の娘よ」

思いがけない言葉に軽く目を見開く。

「今日はそのつもりで来たんだもの。何がなんでも貴女を引き取る気でいたわ。案外あっさり通ってよかった。今、夫は家で歓迎会の用意をしているの。嫌いな食べ物はあるかしら?」

予想外の言葉のオンパレードで、一瞬両親を馬鹿にした仕返しで両親に化かされているのかと思ってしまった。

「いえ、ないです」

美味しくなくてもお腹が空いていたから、我慢して食べてるうちに食べれるようになった、と心の中で呟きつつ、慌てて首を振った。

「そう、よかった。それじゃあ一緒に帰りましょう」

手のひらを差し出され、何も持っていないから渡すものはないのにと首を傾げ、あ、と思い出す。

これは多分、手を繋ぐというやつなのだろう。

よく街で見かけていたし、小説でも読んだが、やったことはないからすぐには思いつかなかった。

恐る恐る右手を差し出して、ん?なんか違うと首を傾げるが、右手は伯母さんの右手を掴んでいる。

これ、握手だ、と少し感動しつつ慌てて違う、と手を離そうとしたが、伯母さんにギュッと握られて固まった。

「うん、これからよろしくね」

にっこりと微笑んだ伯母さんに照れたように笑い返し、すぐに俯いたから気が付かなかった。

伯母さんが悲しげな顔で私を見ていたことに。




――はてさて、そんな風にして新しい生活は始まった。

裏話ですが、両親共に保険金かかってます。

お互いに保険金目的だったのですが、二人一緒に逝っちゃ世話ないですね。

ちなみに父親の方は母親に多少の情は抱いていたようですが、母親の方は父親にこれっぽっちの情も抱いていません。

まあどっちにしろ同情はできませんね。

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