チュートリアル 8
『――貴方の要求通りにしました。これで良いですか?』
「……あ、ああ」
あれだけ吹っかけたというのに、こんなにあっさりと受け入れるなんて予想外だ。
神様って実はバカなんじゃないのか? もっと吹っかけていたとしても、普通に受け入れそうだ。
それよりも、所持金が54億8668万9054オルって何? お金があり過ぎて逆に怖いんですけど……。
まあこれ以上このことについて考えるのは止めよう。疲れるから。
『さて、大体の説明は終わりましたが、何か質問したいことはありますか?』
「そうだな……」
丁度、莫大な金額を貰ったことだし、お金について聞いてみるか。
「お金は見た感じだと金貨や銀貨、銅貨といった硬貨だけど、この世界のお金は硬貨だけなのか?」
『はい、そうです』
「それぞれ1枚で何オルなんだ?」
『鉄貨が1枚で1オル、銅貨が1枚で50オル、銀貨が1枚で1000オル、金貨が1枚で1万オル、白金貨が1枚で100万オルとなっています」
おっと、金貨、銀貨、銅貨の3種類だけだと思っていたら、鉄貨や白金貨というのもあるのか……。
多分、その3種類の硬貨が多すぎて、見た目だけでは判らなかったんだろう。
俺は【魔法の袋】に手を入れる。確かに頭に浮かんでくるイメージ映像では、大きさや形状が異なる硬貨が5種類あった。
それらの硬貨を【魔法の袋】から取り出し、よく確認してみる。
どちらが表面でどちらが裏面なのか俺には判らないが、動物がデザインされている面と、王冠やクロスした2本の剣、逆三角形を伸ばした形状の盾を元にした紋章がデザインされている面がある。
この紋章のデザインは、5種類の硬貨の全てに同じデザインがされていた。国章か何かだろうか?
硬貨の外縁部には、この世界のものと思われる文字が刻まれている。
各硬貨の大きさと動物のデザインは――。
鉄貨は直径2cm、デザインは正面から見た牛の頭部。
銅貨は直径3cm、デザインは翼を大きく広げた大鷲。
銀貨は直径2.5cm、デザインは棹立ちしている一角獣。
金貨は直径2.5cm、デザインは口を大きく開けて咆哮している獅子の横顔。
白金貨だけは楕円形になっており、長径7cm、短径5cm、デザインは向かい合った2頭の竜となっている。
しかし――今更だが、これらのお金の出どころはいったい何処からなんだろうか。まさか贋金……ということはないか。神様が用意したものだし、【神の眼】で見ても本物のようだし……。
また、装備品などの出どころもすごく気になるのだが、訊いたらダメな雰囲気だ。……世の中、知らない方が良いこともあるよね。
うん。お金のことはもう良いから、他の質問をしよう。
「次の質問だ。地下迷宮は、限度はあるけど周囲のモノを利用して拡大拡張され続けるって話だったな?」
『はい、そうです』
「それはどれくらいの広さになるんだ?」
『地下迷宮の各階層の最大面積は20k㎡ほどになり、1つの階層が最大面積まで広がると、その下に新しい階層を創るというのを繰り返すのです』
「………………」
『そして――迷宮核には、最大500階層まで創るように設定しています』
「………………」
……迷宮核を5個停止すれば良いと聞いた時は、すぐに終わらせることが出来そうだと考えていたけど、これは1個停止させるだけでもかなりの時間がかかりそうだな。
階層が1つ増えるごとに迷宮核も下の階層へと移動するんだろうし……。
先ほど慰謝料として貰ったものを返すから、今からでも断っても良いかな?
「あ、あのさ……今、地下迷宮の階層はどれくらいになってんの?」
『500階層まで成長した地下迷宮は7カ所あり、その他は379階層から412階層ですね』
「ん? 何で地下迷宮の成長速度に違いがあるんだ?」
というか、既に500階層まで成長した地下迷宮は7カ所もあるのか……。
『地下迷宮内で魔物を倒し続けると、地下迷宮の成長速度は遅くなるのです』
「それはどうしてだ?」
『迷宮核は、地下迷宮を成長させて魔物を生み出しますが、それには多くのエネルギーを使用します』
まあそれは迷宮核のことを聞いたときに予想出来ていた。
地下迷宮を成長させるにも魔物を生み出すにも、そういったものが使われているだろうとは考えていたのだ。
『エネルギー自体は迷宮核が半永久的に生成しますが、使えば使うほど当然そのエネルギーは減っていきます』
あ、神様が言いたいことが解ってきたぞ。
「つまり、地下迷宮内で魔物を倒し続けると、魔物を生み出すことを優先してそちらに多くのエネルギーを使用するから、地下迷宮を成長させるために使うエネルギーが少なくなって、成長速度が遅くなるってことだな?」
『はい、そういうことです』
なるほどね。
要するに500階層まで成長した7カ所の地下迷宮は、今まで人がまったく入っておらず、残りの6カ所の地下迷宮は人が頻繁に入って、魔物を倒しているということか。
ふむ。狙い目はその6カ所の地下迷宮だな。
「ああそれと、魔物が勢力範囲を広げているっていうのは、地下迷宮から魔物が地上に進出していると考えて良いのか?」
『はい、その通りです』
恐らく魔物が地上に進出しているのは、500階層まで成長した地下迷宮だろう。
そう考えると、そちらの迷宮核を停止したほうが良いのか?
まあそこは臨機応変にいこう。
『地下迷宮についての質問はもう良いですか?』
「ああ、良いぞ」
『その他に質問はありませんか?』
「うーん……」
俺は暫くの間、質問の内容を考えるが思い浮かばなかった。
そもそもここは異世界であり、前の世界の常識なんて通用しないだろう。魔法もあるしな。
この世界のことで何が分からないのか分からないという状態なので、それでは質問のしようがないのだ。
まあこればかりは、ゆっくりとこの世界に慣れていくしかないのだろう。
「いや、無いな」
『そうですか。それでは私はほんの少しの間、“低活動状態”へと移ります』
「低活動状態?」
『貴方をこの次元世界に転移させる時に膨大なエネルギーを使用したので、それを回復させるために、必要な機能以外は全て停止させた状態にするのです』
「ほんの少しの間って、どれくらいなんだ?」
『5000年ほどですね。そのためこれ以降は、このように話したりすることは出来なくなります』
なげーよっ!! 何がほんの少しの間だっ!
そりゃあな、俺と話したりすることは出来なくなるだろうよ。アンタが通常の状態になる頃には既に死んでるからな!
……いや待て、よく考えると、この次元世界が創造された時から存在していんだから、5000年という期間はコイツにとってはほんの少しの間なのだろう。
しかし本当にコイツと話していると疲れるな。
『それでは――GOOD LUCK』
どうやら神様は低活動状態とやらに移ったようだ。
それにしても最後の言葉がものすごくムカつくな。一発くらいアイツを思い切り殴り飛ばしてやりたい。……無理だろうけど。
「はあ……まあ良いか。もう会話をすることなんてないんだし……」
それよりも、まずは人がいるところへ行って、この世界のことについての情報を収集しなきゃな。
こうして――半強制的に連れてこられ、世界を救えなんて言われた俺の異世界での生活が始まったのだった。
これから先どうなるのかは神のみぞ知……いや、神様はアイツだから、神すらも知らない。
思った以上に早く投稿することが出来ました。
次話以降から本格的に異世界を冒険することになります。
それとこの小説のタイトルを『異世界に転移した俺は奴隷ハーレムを始めることにした』から『異世界で美女ハーレムを作ろう~ついでに世界も救います~』へと改題しました。