チュートリアル 7
「――えっと……LVが1~9の魔物を10匹倒すと1BPが貰えるんだったな」
俺は先ほど途中で止めてしまったBPの入手方法の話に戻す。
『はい、そうです。そして、LVが10~19までの魔物を1匹倒すと1BPが与えられます。そして――』
神様の説明が長かったので簡潔にまとめると、LV20台は1匹5BP、LV30台が1匹10BP、そして40台、50台と上がっていくにつれて、貰えるBPも10ずつ上がっていくそうだ。
『――BPについての説明はこんなところです』
ふむ。BPは魔物のLVが高ければ高いほど多く貰えることは理解した。
しかし――エクスカリバーを入手するためには、一体どれだけの魔物を倒せば良いんだろうな。
いや、ちょっと待てよ? ……おお、良いことを思いついた! これは後でコイツに言わせてもらおう。
『他に【各種メニュー操作】について質問したいことはありますか?』
「いや、後は自分で操作しながら理解していくことにする」
『そうですか』
まだ見ていないメニュー項目もあるが、まあ何とかなるだろう。
俺はウィンドウを次々と消していく。
これは説明を受ける必要はない。何故ならウィンドウの右上に“×”という閉じるボタンがあるからだ。
「じゃあ次は【転移ゲート作製】についてだ。名前からどういった能力なのか想像は付くけど、どうやって使うんだ?」
『【転移ゲート作製】は――』
説明を聞くと、【転移ゲート作製】は俺の予想した通り、空間を瞬時に移動することが出来るゲートを作製する能力だった。
ただし転移ゲートの移動先には、予め転移ポイントを設置しておく必要があるため、一度はその場所に訪れなければならない。
だが、一度転移ポイントを設置してしまえば、後は転移ゲートによって自由にそのポイントまで瞬時に移動することが出来るようになる。
また設置した転移ポイントは【各種メニュー操作】の項目の一つである【マップ】に表示され、さらにそのポイントをタッチするだけで転移ゲートが開くというのだ。
本当に便利な能力である。
『――さて、では後回しにしていた魔物退治について説明します』
おおっ!! そういえば、後ほど説明するとか言って、その前に服を着るように言われたんだったな。
『魔物退治といっても、ただ魔物を倒し続ければ良いというわけではありません』
まあ、そうだよな。そもそも魔物っていうのは、迷宮核から生み出されると神様は言っていた。
それはつまり、魔物を倒しまくっても迷宮核がある限り、魔物は生み出され続けるということだ。
そうなると、ただ魔物を倒し続けているだけじゃ意味はない。
「つまり魔物退治というのは、魔物を生み出す元凶である迷宮核を破壊することなんだな?」
『いいえ、違います』
「えっ!? 違うのか?」
『迷宮核を“破壊”するのではなく、“停止”するのです』
「停止する? どうやって迷宮核を停止させるんだ?」
『今は表示されていませんが、迷宮核に近づくと【各種メニュー操作】に、“迷宮核停止”という項目が表示されるようにしています』
なるほどね。そうやって迷宮核を停止させて回収するのか。
「でも、そんなことをするよりも破壊したほうが手っ取り早くないか?」
『確かにそうなのですが、迷宮核を破壊するには、この惑星を一撃で破壊する程の威力が必要なのです』
うん……そりゃ無理だな。
しかし迷宮核の停止か……。
はあ、面倒くさいな。まあ寿命は1000年以上あるから、それはゆっくりやることにしよう。
「ところで――迷宮核はいくつばら撒いたんだ?」
『13個です』
ふむ……微妙な数だな。少ないわけではないが、そんなに多いというわけでもない。
「それで……今までに停止した迷宮核の数は?」
迷宮核をばら撒くことで戦争を止めることには失敗したが、魔物が各種族の共通の敵であることには変わりはない。
それに世界を統一してこの世界を救った奴が、地下迷宮や魔物を放置したままにするとは思えない。
そのため、何度も地下迷宮の攻略を行ったと考えられる。
『0個です』
「………………」
いやいやいやいや、0個って……マジで言ってんの?
「……前にこの世界を救った奴は、地下迷宮攻略に乗り出したことはなかったのか?」
『何度もあるようですが、当時の私は魔物がこれほどまで増えるとは考えてもいなかったので、彼には迷宮核を停止させる力を与えていなかったのです』
ああ、それで0個なのか。
しかし、迷宮核を創った張本人が、その先のことを考えてもいなかったというのは、どうなんだろうか……。
この神様……けっこう抜けているようだ。
「それなら俺は、迷宮核を13個全て停止させれば良いんだな?」
『いいえ、迷宮核を13個全て停止させるのは止めてください』
「はあ? 全て停止させるのは止めろって……それはどういうことなんだ?」
『フトゥールム帝国が約6000年の間、一応の平和を維持してこれたのは魔物がいたからなのです』
えっと……つまりそれは――。
「……要はなにか? 魔物が内乱などの抑止力になっているのか?」
『はい、そうです』
このまま魔物が増え続けるとこの異世界の住人が滅亡してしまうので、その元凶である迷宮核を停止する必要がある。
しかし全て停止させると、内乱などの抑止力となっている魔物が消えてしまい、再び6000年前みたいなことになるかもしれない。
だから、全て停止させずにある程度迷宮核を残す必要があるってことなのか……。
まあ13個全て停止させなくて良いのは、俺にとってもありがたい。全て停止するとなると、やはり面倒くさいからな。
『それに――今の文明にとって魔物は必要不可欠な存在なのです』
「魔物が必要不可欠な存在というのはどういうことだ?」
『それは今ここで説明するよりも、実際に見てもらったほうが良いでしょう』
そう言われるとすごく気になるんですけど……。
まあ実際に見たほうが良いというのなら、そうすることにしよう。
「……で、いくつくらい停止させれば良いんだ?」
『計算上5個の迷宮核を停止させることで、ムンドゥス・パンタシアに住む人々と魔物のバランスが丁度良くなるはずです』
5個か……。それくらいならすぐに終わらせることが出来そうだ。
「5個停止させれ良いんだな? それは了解した。だけど――その前に言わせてもらいたいことがあるんだけど良いか?」
『はい、何でしょうか』
「思考誘導によって半強制的にこの世界に転移させられたことで、精神的苦痛を大いに受けた。だから慰謝料を寄越せや!」
俺は神様にそう言い放った。
先ほど思いついたのはこれである。
俺には慰謝料を請求するだけの権利はあるはずだ。
『慰謝料ですか?』
「ああ、そうだ。慰謝料として、現在、俺が持っている所持金とBPの100倍のお金とBP、そして――【エクスカリバー】を貰おうか!」
吹っかけ過ぎだと思うだろうが、これはアンカリング効果を利用した交渉の手法なのだ。
アンカリング効果とは、最初に提示された数値や情報が強く印象に残り、それが基準となって、その後の判断に影響を及ぼす心理傾向のことである。
例えば100万円のブランド品がある。この場合100万円という値段が基準となるのだが、それが20万円引きされて80万円になったら皆はどうするだろうか。
売り手側は20万円引きしてもしっかりと利益は出るようにしているのだが、買い手側からすればお買い得だと考え、つい購入してしまう人は多いだろう。
俺は【エクスカリバー】が欲しかったのだが、それを単品で請求するのではなく、お金とBPを一緒にして吹っかけた。
当然、神様は難色を示すだろうと思う。
そこでお金とBPを最初に提示した数値よりもかなり減らしたり、あるいはそれ自体を無くすことでアンカリング効果を誘発し、【エクスカリバー】を入手しようと考えたのだ。
そういう魂胆だったのだが――。
『分かりました』
神様の奴は難色を示すどころか、あっさりとそれを受け入れやがった。
……え? マジで良いのっ!?
『それでは【魔法の袋】の口を大きく広げてください』
「……ああ、分かった」
俺は神様に言われた通り、【魔法の袋】の口を大きく広げた。
すると――何もない空間から金貨や銀貨、銅貨といった硬貨がジャラジャラとまるで滝のように落下し、【魔法の袋】の中に入っていく。
「………………」
その光景を暫くの間、呆然とした様子で眺めていた。俺は今、すごく間抜けな顔をしているんじゃないだろうか?
『所持金の100倍――54億3236万5400オルです。BPも100倍の100万BPを追加しました』
俺は【各種メニュー操作】を再び使用してウィンドウを開き、それを確認してみる。
所持金は54億8668万9054オルとなっており、BPも101万BPとなっていた。
「………………」
俺は無言のままウィンドウを閉じた。
『最後に【エクスカリバー】ですね』
そう神様が言うと、俺の目の前の空間に光と共に美しい剣が出現した。
俺は宙に浮いているその剣を手に取ってよく見てみる。
【エクスカリバー】
分類:装備品
種別:片手半剣
ランク:EX
攻撃力:1500
耐久値:∞
能力:【ダメージ5倍】【防御力無視】【クリティカル率100%】
【全パラメーター値3倍】【生命力自動回復】【魔力自動回復】
詳細:美しい繊細な装飾が施されている黄金の聖剣。
この聖剣を持つものは勝利と栄光が約束される。
こ、これが【エクスカリバー】……。
何だかよくわからないけど、性能がマジぱねぇっす。