チュートリアル 6
「――それで、【神の眼】が俺に付与した特異能力の“1つ”ってことは、他にも付与した能力があるんだよな?」
『はい、あります。【神の眼】以外に【各種メニュー操作】と【転移ゲート作製】の2つの特異能力を貴方に付与しています』
……【各種メニュー操作】と【転移ゲート作製】か。
おそらく【転移ゲート作製】というのは、空間を瞬時に移動することが出来るゲートを作製するような能力なのだろう。【神の眼】と同じく便利そうな能力だ。
しかし……問題は【各種メニュー操作】という能力である。
これって、もしかしなくても……。
「その【各種メニュー操作】っていうのはどういうものなんだ?」
一応【各種メニュー操作】について聞いてみるが、俺の考えが正しいのなら、この能力はゲームなんかでよくあるメインメニュー的なものだろう。
『そうですね――それは実際に操作してみたほうが良いでしょう。まずは“メニュー展開”と唱えてみてください』
「……メニュー展開」
言われた通りにそう唱えてみると――目の前の空間に青い半透明の板が出現した。
その板には――。
【ステータス】
【アイテム】
【BP】
【マップ】
【魔物図鑑】
という5つの項目が表示がされていた。
やはり、俺の考えは正しかった……。これは完全にメインメニューだ。
また、その青い半透明の板の右下には、5432万3654オルという、よく解らない数字が表示されている。
『メニューウィンドウが出現しましたら、何か項目を指でタッチしてみてください』
この青い半透明の板は、メニューウィンドウって言うのか……。
「その前にちょっと良いか?」
『はい、何でしょう』
「この右下に表示されている数字は何だ?」
『それは貴方の所持金です』
俺の所持金? ああ、そういえば、先ほど【魔法の袋】の中身のイメージ映像を見た時、大量の金貨や銀貨、銅貨といった硬貨があった。
つまりこの表示はその合計額であり、“オル”というのは通貨単位なのだろう。
それにしても――。
「5432万3654って半端な数字だよな。というか、何で所持金がこの額なんだ?」
『前の次元世界における貴方の全財産を算出して、それをこのムンドゥス・パンタシアの通貨にレート換算した結果、この金額になったのです』
この神様は、そんなことまでしていたのか……。
でもまあ、これはありがたいと素直に感謝する。絶対口には出さないけどな。
何も解らない異世界で、しかも所持金が0からのスタートだったら、俺はすぐに死ぬ自信がある。そんなのは自慢にもならないけど……。
「因みにこの所持金って、この世界では多いのか? それとも少ないのか?」
『そうですね――人間族が一生で稼ぐ平均金額が約2000万オルですので、この所持金は多いと言えます』
ふむ。つまり俺の今の所持金は、人間族が一生で稼ぐ平均金額の約2.7倍あるってことか。
けっこうあるな……。まあしかし、お金が多いのは良いことだ。
「右下の数値のことは解った。じゃあ、この【BP】っていう項目は?」
『それはBPです』
「ボーナスポイント?」
『はい、そうです。BPを使用することで、特別装備品や特別アイテム、特別能力などを獲得できます』
「………………」
うん……もうね、ゲームだよねコレ!?
そう心の中でツッコミをしながら【BP】の項目を指でタッチすると、メニューウィンドウの上に新たなウィンドウが出現した。
そのウィンドウには――。
【特別装備品】
【特別アイテム】
【特別能力】
【パラメーターUP】
という4つの項目があり、右下には1万BPと表示されている。この1万BPが俺が持っているBPということなのだろう。
俺はその中から、【特別装備品】をタッチしてみると、さらに別のウインドウが出現した。
「へえー。けっこうな数があるな」
ウィンドウの右横にはスクロールバーがあり、それをスクロールさせながら俺はそう呟く。
しかし……最初の方の【特別装備品】はそれほどBPが高くなかったが、最後の方になると、とんでもなく高くなっていった。
【エクスカリバー】――――100万BP
これが【特別装備品】の中でBPが一番高いものである。
今のBPでは全然足りない……。
その他の項目である【特別アイテム】と【特別能力】もけっこうな数があったが、やはり下へとスクロールしていくと最後の方でBPが高くなった。
まあ、さすがに【エクスカリバー】ほど高くはなかったけどね。
「このBPはどうやったら貰えるんだ?」
『今回は、魔物を倒すことでBPが与えられます』
「ん? 今回はってことは、前回は違ったのか?」
『はい。前回は獲得した領土の広さによってBPが増えるようにしていたのです』
なるほどね。前回は世界統一をすることだったからその領土が広がればBPも増えるようにして、今回は魔物退治だから魔物を倒せばBPが増えるようにしたってことか。
「なら、どれだけ魔物を倒したらBPが貰えるんだ?」
『LVが1~9までの魔物は10匹倒すごとに1BPが与えられます。LVが10~19までの――』
「ちょっ、ちょっと待った! 魔物にLVってあるのか?」
『はい、あります』
……魔物にあるってことは俺にもあるのだろうか?
俺は先ほどから開いたままにしているメニューウィンドウの【ステータス】を指でタッチした。
すると【BP】の時と同じく新たにウィンドウが出現する。
そのウィンドウには――。
【アインナハト・シュヴァルツベルク】
という名前が表示されていた。この名前は俺がキャラメイクの時に設定したものだ。
さらにその名前を指でタッチすると、同じく別のウィンドウが出現して――。
アインナハト・シュヴァルツベルク LV.1
種族:夢魔族
年齢:18歳
性別:男性(童貞)
ジョブ:剣士 LV.0
身分:自由民
パラメーター:生命力 440/440
魔力 390/390
攻撃力 56
防御力 62(43+19)
膂力 51
耐久力 46
対魔力 50
素早さ 55
スタミナ 44
運 38
能力:種族別能力
【精力変換】
固有能力
【精力絶倫】
特異能力
【神の眼】【各種メニュー操作】【転移ゲート作製】
技能:―
装備:【竜革のショートブーツ】
俺のステータスがウィンドウに表示された。LV.1ではあるが、俺にもLVが存在しているようだ。
しかし――何だこの如何にも“どうぞツッコミを入れてください”と言わんばかりのふざけたステータス表示は……。
というか、俺は断じて童貞ではない! 確かに経験こそ数回しかないが、俺は断じて童貞ではない! これはとても大切なことだ。
「性別:男性(童貞)っていう表示は何なんだ? 俺はちゃんとそういった経験あるし……」
『それは前の身体でのことであり、今の身体では一度も経験していないからです』
「…………」
確かにそうなんだけど、何か納得いかない。
まあ良い。……いや、良くはないが、今はそれについては一旦置いておこう。
「……この種族別能力【精力変換】と固有能力【精力絶倫】って何だ?」
『その能力名にタッチすると詳細が表示されるので、それで確認してみてください』
俺は言われた通りその能力名にタッチしてみる。
すると、ウィンドウの下部にその能力の詳細が表示された。
【精力変換】
異性との性交時に相手が絶頂を迎えると同時に体外に放出される身体エネルギー(精力)を吸収し、自身の力に変換する。
【精力絶倫】
何度ヤッても衰えることのない精力絶倫な人が持つ固有能力。
……そういえば夢魔族って、異性と交わるほど力が増すんだっけ?
そうか、【精力変換】っていうのは、その能力を指しているのか……。
しかし――。
「この【精力絶倫】は固有能力になっているけど、これって俺が本来持っている能力という認識で良いのか?」
『はい、その認識で間違いありません。フフッ、貴方の相手をする人物は大変そうですね』
「…………」
コイツ笑いやがったっ!
でも……確かにそういった行為で満足したことがないかも……。
あれ? 俺ってもしかして色情――いや、俺が精力絶倫なだけで決してそういったものではない。……多分。
うん……このことはあまり考えないようにしよう。
「そ、それはそうと、ジョブにもLVが存在するんだな」
俺は話を変えることにした。
『はい、ジョブLVはそのジョブの技量を表しています』
「技量か……でも、剣士のLVが0なのは何でだ?」
『貴方はジョブを設定する時に剣士を選択たので、一応ジョブは剣士となっていますが、まだ正式な剣士ではないからです』
「正式な剣士ではない?」
『そうです。剣を所持しているだけでは剣士とは言いません。剣士とは剣を使うから剣士なのです』
つまり、俺はまだ剣を使ったことがないから、剣士のLVが0ってことなのか。
なるほど。そう言われてみれば確かにその通りだ。
そういえば、確か【魔法の袋】の中に剣があったよな?
俺は【魔法の袋】の中から剣を取り出した。
【鋼鉄のバスタードソード】
分類:装備品
種別:片手半剣
ランク:D
攻撃力:45
耐久値:870/870
AE数:3
詳細:鋼鉄製の両手持ち、片手持ち両用の剣。
剣の鍔や柄、そしてその鞘にも繊細な装飾が施されている。
うん。俺好みの剣だ。それにこの装飾もカッコイイ。
見た目からけっこう重そうなのだが、持ってみると少し重いと感じる程度であった。
多分、これはステータスの膂力の数値が関係しているのだと思う。
俺はその剣を構えて、そして素振りをしてみた。
暫く素振りを続けていると――。
ピキュリュリーン
……何だろう。
ニュー○イプが何かを感じ取った時のSEが聞こえたような気がしたんだけど、気のせいだろうか?
ステータスを見てみると、何と剣士のLVが1に上がっているではないか。
『おめでとうございます。これで貴方も剣士です』
……LVは1だけどな。
しかし、こんなことしただけで剣士となって良いのだろうか? そこはすごく疑問に思う。