チュートリアル 4
「――今までの話を聞いた限り、この世界に平和が訪れたように思えるんだけど……。まさか……再び大きな戦争が起こって滅亡しかけているなんて言わないよな?」
もしそうなら、戦争を止めることなんてことは俺には無理だぞ。
『現在、戦争はしていません。フトゥールム帝国は建国されてから現在までの
約6000年間、一応は平和を維持しています』
ふう……良かった。戦争はしていないのか。
一応という言葉は気になるが、約6000年間もその帝国は続いていて、平和を維持しているのはある意味すごいな。
「なら、俺は何をすれば良いんだ?」
『それは“魔物退治”です』
「……魔物退治?」
『そうです。現在、このムンドゥス・パンタシアでは魔物が増え続けており、その勢力範囲を少しずつ広げているのです』
魔物って……あれか? RPGとかのゲームによく出てくるような奴か?
というか、この異世界には魔物がいるの!? マジでっ!?
『今はまだ対処可能なレベルです。しかしこのまま魔物が増え続けると、いずれその数に対処しきれなくなり、そして――最終的には滅亡してしまうでしょう』
「……だから俺に魔物退治をしろと?」
『はい、そうです』
まあ、戦争をするよりはマシだけど……。
しかし、魔物退治か……。痛いのとかはイヤなんだけどな。
「この異世界の魔物っていうのは、どういう奴のことをそう呼ぶんだ?」
『迷宮核から生み出される生物のことを、魔物と呼びます』
……ん? ダンジョン・コアって聞こえたけど、俺の聞き間違いか?
「確認なんだけど……今、ダンジョン・コアって言った?」
『はい、言いましたよ。迷宮核です》
聞き間違いではなかったらしい。
しかし、先ほどまで壮大な話をしていたのに、何で急に“魔物”や“ダンジョン”というゲームっぽい単語が出てくるのだろうか……。
それにしても、迷宮核か……。
よくある設定では、地下迷宮の心臓部で、それによって地下迷宮が創られ、そして破壊などされると地下迷宮が消滅するといったモノだ。
その迷宮核もそういった類いのモノなのだろうか?
「で、その迷宮核っていうのはどういったモノなんだ? 魔物を生み出すだけってことは無いんだろ?」
『迷宮核は、周囲のモノを利用して拡大拡張をし続ける――つまり成長する地下迷宮を創り出すモノです。ただし、その成長には限度があります』
やっぱりそういう類いのモノなのか……。
しかし――。
「何でそんなモノがあるんだ?」
『私が創り出して、このムンドゥス・パンタシアにばら撒いたからです』
「………………」
いやいや……ちょおおぉぉーーーっと待てっ!!
「何でそんなことをしたんだっ!?」
『戦争を止めるためにそうしたのです』
「はあ!? 戦争を止めるため?」
……それをするために、異世界からそれが出来る存在を転移させたんじゃないのか?
「それはどういうことなんだ? アンタは異世界から転移させることで戦争を止めようと考えたんだろ? そしてそれは成功した」
『はい、その通りです。しかしその異次元世界間転移を行う以前に、私は別の方法で戦争を止めようとしたのです』
「……その別の方法というのが、迷宮核をばら撒いたってやつか?」
『はい、そうです』
この神様が迷宮核をばら撒いて、戦争を止めようとしたのは解った。
しかし――。
「それで、どう戦争を止めようとしたんだ?」
『迷宮核によって創られた地下迷宮――そしてそこから発生する魔物を、各種族の共通の敵にしようと考えたのです」
ああ、なるほど。それで迷宮核をばら撒いたのか……。
「つまり、アンタは魔物を各種族の共通の敵にすることで、種族間に協調関係を生み出し、それによって戦争を止めようとしたってことだな?」
『はい、その通りです。しかし、結局は失敗してしまいましたが』
まあ……失敗して当然かもしれないな。
確かに共通の敵の出現によって、今まで争っていた者同士が協調するという可能性はある。
しかし、表向きは協調しても裏ではいろいろと画策したりするなんてことがあるかもしれないし、協調などせずにそれらをうまく利用して他種族を滅ぼそうと考える種族が出てくるかもしれない。
例え全種族が協力して地下迷宮を攻略したとしても、その後にまた戦争を再開するなんてことも考えられる。
だから話術で世界を統一し、戦争を止めてしまった異世界からの転移者が凄いと思えるのだ。
「迷宮核をばら撒いて戦争を止めようとしたのは解ったが、でもそれってこの惑星に干渉したってことにならないか?」
神様――次元世界創造思念体は、自分が創造した創造物に干渉が出来ないはずだ。
『いえ、干渉は一切行っていません』
「は? いや……戦争を止めようと考えたから迷宮核をばら撒いたんだよな? これってどうみても干渉してるだろ……」
『戦争を止めようと考えるくらいでは干渉とは言いませんし、そもそも干渉というのは、強引にそこに立ち入って口出しをしたり、強制的に自己の意思に従わせるといった“命令的”な関与や介入をさします』
「……だから?」
『私は迷宮核をばら撒いただけで、“命令的”な関与や介入は一切行っていないので、これは干渉にはあたりません』
「………………」
な、何という強引な解釈による正当化だろうか……。逆に感心してしまったよ。
でもそれは――。
「というか、ちょっと待てや」
『何ですか?』
「今までの話をまとめると、アンタがその迷宮核をばら撒いたから、現在、魔物が増え続けているってことだよな?」
『そうですね』
いや、そうですねってアンタ……。
「……要するに、アンタの所為でこの異世界の人々は滅亡するかも知れないと?」
『残念ながら、そうなりますね』
何が残念がらだよ!
つまり俺は、この神様が行ったことの尻拭いをするために、この世界に転移させられたっていうのか? そんなの冗談じゃないぞ!
「ふざけるなっ!! 俺は元の世界に帰らせてもらう!」
俺は神様に対して激怒した。
だってそうだろう? そんな理由で転移させられたら誰だって怒ると思う。
『それは出来ません』
「何で!?」
この世界に転移させたのなら、元の世界に転移させることも出来るはずだ。
『現在、貴方の生命情報記憶体は異次元世界間転移によってその耐久力を大きく消耗しております。次に異次元世界間転移を行うとそれに耐えることが出来ずに分解されてしまうでしょう』
「……つまり、それは――」
『はい、それは貴方の“死”を意味します。我々、次元世界創造思念体であっても、さすがに生命情報記憶体そのものを再構築することは出来ませんので』
何てことなんだ……つまり、俺はもう元の世界に帰れないってことなのか……。
そこでふと、あることを思い出した。
「そういえば……」
キャラメイクをした後、何度かこの設定で良いかみたいなことを確認されたが、その中に“もう戻って来れませんが本当によろしいですか?”というものがあった。
俺は何度も確認されてうっとうしかったので、まともにそれを見ずにYESと乱暴にクリックしてしまったのだが、それはこういう意味だったのか……。
「ああ、クソッ! あの時、NOを選んでいれば……。いや、あのPCゲームを見つけた時、プレイしなければこんなことにはならなかったのに!!」
過ぎてしまったことに対して“もしこうしていれば”なんてのは、全く意味が無くてくだらない後悔だと解っているが、それでもそう思わざるを得ない。
「そもそも何で俺は、自分の部屋の大掃除なんかしたんだ?」
普段は面倒だからやらないのに、あの時は特にこれといった理由も無く、ただ何となく部屋の大掃除したのだ。
『それは私が貴方に思考誘導を行ったからです』
……今、コイツは何と言った?
つまりあれか? 俺が何となく大掃除をしたのも、あのPCゲームを見つけ疑問に思いながらも面白そうだからとプレイしたのも、この神様に思考誘導されていたからなのか?
「…………全部アンタの仕業かああぁぁーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
俺は理解した。神様というのは身勝手な奴らなのだと。
前話の後書きで明日投稿予定としながら、遅くなって申し訳ありません。
サブタイトルがチュートリアルのくせして、全然チュートリアルではありませんが、次話のチュートリアル 5から本格的なチュートリアルに入ります。