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チュートリアル 3

「――転移に耐えられる魂を持っているってことは理解出来た。でも、それだけじゃ俺でないといけない理由にはならないよな?」



 俺のように転移に耐えられる魂を持った存在が“極稀に”いるのなら、他の世界にも存在しているのではないかと考えられる。

 それでも、この神様は俺を選んだ。きっと他にも理由があるのだろう。



『確かに、転移に耐えれる生命情報記憶体を持っていたというだけでは、貴方でないといけない理由にはなりません』



 やはり他にも理由があるのか……。



『現在、貴方以外で転移に耐えられる生命方法記憶体を持っているのは、数多く存在する次元世界で346確認されています』



 他の世界がいくつくらいあるのか判らないので、その数が多いのか少ないのか……。



『その中で、その存在の人格面や持っている知識、そしてこの次元世界の法則を理解し適応することが可能かどうかを考慮して、このムンドゥス・パンタシアを救ってもらう存在を選択したのです』

「この次元世界の法則を理解して適応する?」



 人格面や知識を考慮するのは解るが、この世界の法則を理解して適応するとは、一体どういった意味で言っているのだろうか。



『そうです。例えば――火に触れば熱くて火傷を負います』



 ……この神様は、いきなり何を当り前なことを言っているんだ?



『しかし――火に触ると凍結して凍傷を負うとしたらどうです?』

「はあ? そんなわけ無いだろ」

『そう。貴方にとって“火”というのは触れば火傷を負うという認識ですが、それは貴方の次元世界にそういう法則があったからです』



 ああ、なるほど。この神様が何が言いたいのか解ってきた。



「……つまり、俺のいた世界はそういう法則だったけど、逆に火に触ると凍結して凍傷を負うっていう法則がある世界も存在してるってことだな?」

『はい、そうです。次元世界が異なれば、その法則自体が全く異なっていることもあるのです』



 要するに、全く異なった法則がある世界から転移させてしまうと、この世界の法則を理解し適応することが出来ず、世界を救うどころか、まともにこの世界で生活することも出来ないかも知れないってことだな。



『特に、私が創造したこの次元世界の法則は、かなり特殊な部類に入るのです』



 かなり特殊って……一体どういった法則があるんだ?

 なんかこの世界の法則を知るのが怖いな……。



『もちろん他にも候補はいましたが、貴方以上にこの次元世界の法則を理解し適応することが出来る存在はいないでしょう』

「だから俺でないといけなかったと?」

『はい、そうです』



 はあ……本当に面倒くさいことになったな。



「――で? 俺はこの惑星の住人を滅亡から救うには、何をどうすれば良いんだ。そもそも、何が原因でそうなっているんだ?」

『そうですね。まずはこの惑星のことを少し話しましょうか』



 そして神様は、この惑星――ムンドゥス・パンタシアのことについて語り出す。



『このムンドゥス・パンタシアには現在12種類の知的生命体――種族が存在していますが、昔はもっと存在していたのです』

「もっと存在していたのか?」

『はい、そうです。絶滅してしまった原因はいくつかあるのですが、最大の原因は“戦争”です。昔は種族間で世界規模の戦争を何度も起こしたのです』



 ……まさか今も戦争が続いていて、それを止めてくれなんて言われないだろうな?

 いや、“昔は”と神様は言っていたから、今はその世界規模の戦争は起こっていないと考えられる。

 というか、そうであってほしい……。



『それによって多くの種族が絶滅し、残っていた種族もこのまま戦争が続けば、そう遠くない未来に全ての種族が滅亡すると考えたのです』



 戦争によって滅亡する……まあ、よくある話だよな。



『そこで私は他の次元世界から、ムンドゥス・パンタシアを救ってもらう存在を異次元世界間転移させることを決めたのです』

「え? それって……過去にも俺と同じように、この惑星を救うために転移させられた存在がいたってことか?」

『はい、その通りです』



 えっと、つまりソイツは俺の前任者ってことになるのか?

 いや、前任者って言葉を使うのは何か違うような気がするな。



『私は転移させることが可能な存在の中から、戦争の天才だった“彼”を選択して、このムンドゥス・パンタシアに転移させたのです』

「ん? ちょっと待て!? 戦争を止めるためなんじゃないのか?」



 戦争の天才を転移なんかさせたら、余計に戦火が広がると思うのだが……。



『戦争を止めるためで間違いありません。私は彼にこのムンドゥス・パンタシアを、武力によって統一するように頼んだのです』



 ……戦争の天才を転移させたのはそのためか。

 しかし――。



「でも、その過程で多くの犠牲が出るはずだ。それこそ種族の絶滅を早めることになるかもしれない」

『時には非情な決断をすることも必要なのです』

「……それは、“小の虫を殺して大の虫を助ける”ってことか?」

『貴方が住んでいた地球の諺ですね。はい、その諺の通りです』



 “小の虫を殺して大の虫を助ける”とは、全体を生かすために一部を切り捨てるという意味である。

 つまりこの神様は、未来により多くの種族を残すために、一部の種族が絶滅することは仕方がないと考えたわけだ。



「……それが必要な時もあることは理解出来るけど、嫌いだなそういう考え方」

『――フフッ』



 笑った!? 今、この神様笑わなかったか?

 今まで淡々と話していたから、感情なんて無いものだと思っていたが……。



『どうやら私の選択は間違ってはいなかったようですね。貴方は彼によく似ています』

「……それはどういう意味だ?」

『私の考えを聞いて、彼も貴方と同じようなことを言ったのです。“そんな考え方は気に食わない”と』



 ……俺はソイツに似ていると言われたことに対して、どう反応すれば良いのだろうか?

 というか、戦争の天才なら物事を合理的に考えると思うけど……。



「ソイツは戦争の天才だったんだろ?」

『確かに彼は戦争の天才でしたが、本人は戦争を嫌悪していたのです』

「何だそりゃ。よく解らない奴だな」

『そうですね。私も貴方と同じ意見です』



 神様ですらよく解らない奴だったのか……。



『しかし、彼は私の想像を遥かに超えることを遣って退けてくれたのです』

「どんなことを遣って退けたんだ?」

『彼はその天才的な戦術や戦略、そして私が与えた“力”を使い武力行使をしたのですが、それは最初のころだけだったのです』



 最初は武力行使はしたのか……。

 というか、神様が与えた“力”って何? もしかして俺にも与えられてるの?



『そして自分の力を周囲に認めさせると、彼は武力行使を止めて、その巧みな話術によって侵略を開始したのです』

「……巧みな話術による侵略?」

『そうです。彼は各種族をその話術で説得していき、自分の傘下に治めていったのです。本人は“平和的侵略戦争”と言っていたようですが』

「そんなことが本当に可能なのか?」

『彼には可能だったのです』



 そんなことが本当に可能なら、俺がいた地球に存在する各国の代表たちに見習わせたいものだ……。



『そして――彼は私の想像よりも短い期間でムンドゥス・パンタシアの統一を成し、統一国家“フトゥールム帝国”を建国したのです』

「話術で世界を統一してしまったのか……」

『はい、そうです。私は彼に武力によって統一するように頼んだ時、一部の種族が絶滅することも止む無しと考えていましたが、彼は一切種族を絶滅させることはなかったのです』



 何だか解らないが、スゲー奴だったってことは解った。

 しかし……俺は神様からそんな奴に似てるって言われたのか……。



『その後――フトゥールム帝国の始皇帝となった彼は、約1200年間その帝国を統治し、その生を終えたのです』

「1200年って……かなり長い期間、その国を統治したんだな……。というか、長生き過ぎないか?」

『彼はこのムンドゥス・パンタシアに転移する際、天翼族を選択したからです』



 そういえば、天翼族の寿命は1200~1400歳だっけ?

 でも、それじゃあ――。



「……疑問に思ったんだけど、魂――生命情報記憶体っていうのは異世界のものなのに、寿命はその種族のになるのか?」

『生命の寿命というのは、肉体に依存するものです。生命情報記憶体には、“どれだけ生きているのか”という情報はありますが、“どれだけ生きるか”という情報はありません』

「肉体に依存する……ってことは、記憶や人格なんかはどうなんだ? それらも脳――つまり肉体に依存してるんじゃないか?」



 しかし、それではおかしいことになる。

 俺にはちゃんと、黒山一夜(くろやまいちや)としての記憶も人格もあるからだ。



『確かに記憶や人格は脳と呼称される器官にあり、肉体に依存しています。しかしそれらは、生命情報記憶体に“情報”として記憶されています』



 なるほど。肉体は虚数空間で分解されてしまったけど、魂に記憶や人格の情報があるため、その情報を元にそれらを再構築したってことか。

 それはそうと、夢魔族の寿命って確か1000~1200歳だったよな? ということは1000年以上、俺はこの世界で生きることになるのか……。

 うわー……何して過ごそうかな? 夢魔族っていったらやっぱりアレかな?

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