異世界での冒険の始まり 2
外に出ると――緑色で半透明のゲル状の物体が、ポヨーン、ポヨーンと身体を揺らしながら地面を這って移動している光景が俺の視界に映り込んだ。
「うわっ!? 何だコレ!?」
その動くゲル状の物体の真上には――。
スライム LV.1
と、表示されていた。
「スライム……って、あのスライムか?」
どうやらこのゲル状の物体は、ゲームとかで一部の例外を除きザコキャラ扱いされているあのスライムのようだ。
しかし外に出た直後に魔物とエンカウントするってどうなのよ神様? 弱そうだから良いけど、転移させるなら魔物が辺りにいなくてもっと安全な場所にしてくれよ……。
というか、よく今まで建物の中に入って来なかったな。
俺はいつでも攻撃に移れるように【エクスカリバー】を構え、そのスライムをよく見てみる。
スライム LV.1
分類:魔物
種別:ゲル状生命種
属性:無属性
詳細:最弱の魔物。
しかし身体がゲル状なので、剣などによる物理攻撃が効きにくい。
……最弱の魔物ってちょっと酷くないか?
エロゲとかでは女性相手に大活躍するじゃないか! 触手のような形状に変化して拘束したり、服や防具など着ているものを融かしたりしてあんなことやこんなことを……。
おっと、そんなことよりもちゃちゃっとコイツを倒してしまうか。
俺はスライムに斬りかかる。
すると――ズバッとまるで会心の一撃のように気持ちよく斬れた。
これは【エクスカリバー】の能力の1つである【クリティカル率100%】によって、俺の攻撃がクリティカルヒットしたのだと考えられる。
というか、スライム相手にこれは明らかに過剰攻撃だろう……。
そのスライムはというと、身体が真っ二つになった後、無数の光の粒子となって消えていった。
魔物というのは、倒すと光の粒子となって消えてしまうようだ。
「ん? 何だこれは?」
スライムがいた場所に、何やら白っぽい半透明の液体が入ったガラス瓶が転がっていた。
【スライムの分泌液】
分類:素材アイテム
種別:液体
ランク:F
詳細:この分泌液には古い角質を取り除きシミやくすみのない綺麗な肌にする効果
がある。
が、それを知る者はおらず中身は捨てられてガラス瓶だけ利用されている。
……詳細の行にツッコミ所はあるが、これはドロップアイテムのようだ。
確かに【スライムの分泌液】なんてものを肌に使おうと考える奴はいないだろう。それなら知る者がいないのも当然かもしれない。
というか、ガラスの瓶はいったい何処から……って考えるだけ無駄か。これは迷宮核に最初から備わっているシステムなんだろう。
俺はドロップした【スライムの分泌液】を拾い上げ、それを【魔法の袋】の中に入れる。まあ俺は肌のことに無頓着なので、使う機会は無いに等しいだろけどね。
それにしても、魔物を倒すとその魔物からアイテムをドロップするなんて、本当にゲームをしているような気分になるな。
そういえば、先ほどチラッと特別装備品の項目を見た時、ドロップアイテム関係だと思われる装備品が在ったような無かったような……。
俺はメニューウィンドウを開き特別装備品の項目を確認してみる。
【レアドロップの指輪】――8万BP
……確かにあったが、この装備品はどんな効果を持つのか容易に予想が出来る。
俺は能力名と同じように、その装備品名をタッチすることで詳細が見れるんじゃないかと思い、試しに装備品名をタッチしてみた。
【レアドロップの指輪】
分類:装備品
種別:アクセサリー
ランク:S
能力:【必ずレアドロップ】
詳細:この指輪をしていると、魔物が落とすアイテムが必ずレアドロップアイテム
になる。
二重の意味で“やっぱりな”である。
この【レアドロップの指輪】の能力が予想した通りだったし、装備品名をタッチすることでその詳細が見れるのも思った通りだった。
俺は即座にこの【レアドロップの指輪】を取得して、左手の親指にはめた。残りは45万7496BPだ。
どうやらこの指輪は大きさが自動的に調整されるようで、どの指にはめてもぴったりとはまったのだ。いったいどういった仕組みなんだろうか? 多分、気にしたら負けなんだろうと思う。
メニューを開いているので、ついでに魔物図鑑も見てみる。
魔物図鑑には【スライム】という項目が追加されており、それをタッチしてみると新しいウィンドウが開いた。
そのウィンドウの左半分はスライムの全体像が映し出されており、そして右半分には――。
【スライム】
魔物No:129
分類:魔物
種別:ゲル状生命種
属性:無属性
属性耐性:耐久 ―
無効 ―
吸収 ―
弱点 ―
状態異常耐性:毒・麻痺
ドロップアイテム:【スライムの分泌液】
レアドロップアイテム:【NO DATA】
討伐数:1
詳細:最弱の魔物。
しかし身体がゲル状なので、剣などによる物理攻撃が効きにくい。
特異能力【神の眼】では表示されていなかった情報が載っていた。
魔物Noが129ということは、最低でもあと128種類の魔物がいるってことか……。恐らくその数よりも魔物の種類はもっと多いだろう。
レアドロップアイテムは【NO DATA】となっているが、これを埋めるには、実際にそのアイテムをドロップさせないといけないのだろう。
まあ【レアドロップの指輪】がある以上、それを埋めるのは簡単だ。
しかしこうして魔物図鑑を埋めていって、コンプリートさせるのは面白そうだな。
ウィンドウを見ながらそんなことを考えていると――ポヨーン、ポヨーンという音が耳に入ってきた。
「……ん? おおっ!?」
いつの間にか周囲を約50体のスライムに包囲されていた。パッと見ただけだが、LVは1~6のようである。というか本当にこれだけの数、いったい何処から湧いてきたんだ?
スライムがあの1体だけとは限らなかったのに、倒したことで安心してしまい、呑気にメニューを操作していた結果これだ。ここは魔物の勢力範囲のようなので、もっと気を引き締めてことにかからないといけないだろう。
そうしないと、いくらチート能力を持っていたとしても命取りになるかもしれない。
だが俺は運が良い。そのことをすぐに気付けたんだから。後になって――それこそ死に際になって気付いたんじゃ遅いからな。
「気付かせてくれたお礼だ。苦しませずに倒してやるよっ!」
俺は地を駆けて一番近くにいたスライムに斬りかかる。軽く駆けたつもりだったが、予想以上にスピードが出た。これは身体能力が強化されているのためだと考えられる。
そしてスライムを斜めに斬り裂き、その勢いを維持したまま、斬り裂いたスライムの後方の2体を横に剣を薙いで同時に両断する。
まず3体のスライムを瞬殺した。
だが、スライム共も何もしないでただ倒されているだけではない。
目の前にいるスライムが、身体をムチ状に変化させて、それを俺に打ちつけてきた。そのムチの速度は意外と速い。
だが――。
「よっとっ」
俺はそのムチを軽々と躱した。
特別能力【未来予測線】によって、そのムチが通る軌道の予測線は既に見えており、後はタイミングを合わせるだけだったのだ。
ただ初めて使用した能力だったので、そのタイミングが掴み難かったのが……。
「そらっ! お返しだ!」
ムチを打ちつけてきたスライムを叩き斬る。
その時だった――。
「ッ!?」
バチンという音と共に俺の背中に衝撃と軽い痛みが走った。
振り向くと、スライムのムチがすぐそこまで迫ってきていたので、咄嗟に剣でガードする。
どうやらそのムチで背中を打たれたようだ。
「この野郎っ!」
俺の背中を打ったと思われるスライムを斬り裂く。
この【未来予測線】の能力は、視界に映していない事象に対しては効果がないようだ。
いや、それだけじゃない。対象を視界に映しつつ、見続けなければその軌道を予測することが出来ないのか!?
俺はスライム共から視線を外さないようにするが、今度はムチが通る軌道の予測線が複数見えた。
「ッ!?」
後ろへ飛び退いてそれを回避すると、たった今まで俺がいた場所に複数のムチが襲い掛かる。
俺はそのままスライム達から距離を取った。
「あ、危なかった……」
スライムなんて簡単に倒せると考えていたが、思わぬ苦戦を強いられている。
何が最弱の魔物だ!! 俺がこういった戦闘には不慣れってこともあるだろうけど、塵も積もれば山となるではないが、ザコも多いと脅威になる……だな。
ムチで打たれた時に受けたダメージは、【エクスカリバー】の能力の1つである【生命力自動回復】のおかげですでにないようだ。
この【生命力自動回復】があれば死ぬことはないかもしれないが、ダメージを受けるのは嫌だ。俺はどちらかというと“M”ではなく“S”なので、痛めつけるほうが好きなのである。
しかし【未来予測線】の能力は、相手が単体ならその能力を十二分に発揮出来るが、相手が複数だと自身の技量が高くないとその能力が逆に仇となるようだ。
なるほど。どんなチート能力も、状況によっては使い物にならない能力に成り下がるってことだな。
ダメージを受けるのを気にしなければ、あのスライム達を殲滅することは容易だろうけど、それは嫌だ。
この場から逃げるという選択もあるけど、それはもっと嫌だ。
「さて、それならどうする?」
先ほどみたいに、勢いにまかせてスライム共の中に斬り込むというのは論外だろう。多数のスライムに囲まれてあのムチ攻撃で袋叩きになるのがオチだ。
それならまずは1対多数ではなく、なるべく1対1の状況を作り出すことが必要だろう。
そのために一度、戦場の全体を見渡して地形やスライム達の位置を把握する。
俺はあまり気にしていなかったが、ここは廃村で、障害物になるようなものがたくさんあるようだ。
地形や障害物を上手く利用すれば……。
自然と口端がニヤリと吊り上がるのを感じる。
「さあスライム共、覚悟は良いか?」
まず最初の標的は、一番右端にいる1体のスライムだな。
俺はそのスライムに向かって駆け出した。
そして――地形や障害物などを上手く利用して、なるべく1対1の状況に持ち込んだ結果、15分ほど掛けて約50体のスライムを殲滅したのである。
次話の投稿は、仕事の関係で1週間後くらいになりそうです。




