第9話:これなら過労死のほうがマシじゃね?
~バイト天使に聞いてみた~
「バイト天使よ。聞きたいことがある」
「なんでしょう?」
俺は自分で作った神殿にバイト天使を呼び出して聞いてみた。
続々入ってくる転生ポイントの一部で建てたのだ。
いつまでも真っ黒空間や借家にいるわけにも行かないからな。
つーか、神様はこういうことにポイントを使ってるのか。
そりゃ沢山稼ぎたくもなりますな。
なお残り十四億ポイントを超えました。
世界が九個あると貯まるスピードが違うそうで、驚異的だそうです。
今回の転生だけで一億二千ポイントを越えました。
神様は儲かります、一度やったらやめられませんな。
人間で億越えは俺が初だけどなー。
閑話休題。
「勇者召喚とはなんだ?」
「……異世界から人を呼ぶこと全般をさします」
「そうか。では呼ばれた人はどうなる?」
「恐らくただ働きで問題解決に当てられます」
その言葉に俺は激高する。
「なんですとおおおおおおおおお!?」
「きゃあ!」
「ふざけるなよ!! 勝手に呼んで勝手に働かせて挙句ただ働きだとぉう?!」
怒りは雷を呼び、嵐が吹く。演出効果である。
「許せん!! 詳しく調べるぞ!!」
俺は転送魔法の使用状況をリストアップした。
「むむむ、第六世界が一番多いな。使用履歴が無いのは第一、第四だけか」
「中央世界をのぞいてですか?」
「うむ、全部の転送元がここだからな」
そう、中央世界の住人が無理やり連れ去られているのだ。
ただ働きをさせられているようで、許せるはずも無い。
「たしかこれ一方通行でしたよね?」
「うむ、仕様上仕方なく、な」
バイト天使がログを見ながら聞いてくる。
「第六世界以外送り返された形跡があるんですが?」
「なにぃ!? そんなことをしたら死んでしまうぞ!!」
「はい、死にました」
「オゥ……マイガッ!」
善意にせよ悪意にせよ。これではあんまりではないか……
「あれ? これは何ですか?」
「ん、どうした?」
「第二世界の発言ログなんですが、貴方が寝ている間に貴方が発言してます」
なんだと?! 俺の寝言か!?
「全世界に接続して発言の記録を調べるぞ!!」
俺は自分の発言を調べた。
調べたが……
「何も無いぞ? バイト天使?」
「あれ? おかしいですね? こっちにはちゃんと残ってますよ?」
バイト天使が指したのは、モノリスの記録、世界個別の記録だった。
俺は全体の記録を調べたのだが……食い違ってる?
「ちょ、調査だ。ドラゴンを呼べ!!」
俺はドラゴンを呼んだ。
「ふむ、忘れられているのかとおもったぞ」
「忘れてないよ!! 早速調査だ!! 俺の発言ログを調べろ!!」
俺はドラゴンに命じて、俺の世界に対しての発言を抽出させた。
「な、なんじゃこりゃあああああ!?」
そこには俺の発言したと思しきものが出てくる。
内容は割愛するが、概ね高慢な神様系の発言である。
俺を信仰しなきゃ、ひどい目にあうぞ、と脅してる。
しかも、文明を停滞させるようなことをしてるし!!
無論そんなことしてない。
つーか、俺が教唆したのかよ。
何で俺が勇者を召喚させることを、皆に命令してんだよ!!
勇者召喚なんてしらないぞ、俺は!!
「これはまた教科書通りな発言ですね」
「そうなのか? バイト天使よ」
「そうですね。天使の教科書に載るくらいは有名ですね。ダメ上司としての発言集ですが」
「……発言した覚えは無いぞ?」
「今、ログを攫ってるんですが、『天使』が関与したと思しき複数の宗教がありますね」
「へ? バイト天使なんかやったの?」
「そんなことしませんよ。勉強と修練とバイトで忙しいのに、宗教戦争ごっこなんて出来ません」
ちょっとムッとしてるバイト天使。
むくれてる姿がちょっとかわいい。
「すまん、すまん。それでどんなことをしてるんだ」
「技術発展の妨害工作もいくつか行っています。そのせいで別系統の技術が発達している世界もあるようです」
「えええ~、独自技術みたいのあいつらのせいかよ……」
俺が頑張ったわけじゃないのか……ショックだ……
「他には勇者召喚を教唆してますね。あとは争いになるように、意見の対立を煽ってます」
「ひどいな、それは」
何事も平和が一番だというのに……
「それで疑問なんだが、勇者召喚のメリットは? どういうものなんだ?」
「何か問題が起きたら、自分の知人(神)から人材を融通できるように契約しておくというやつで、すぐに派遣できるのが強みです。転生のように時間をかける必要がありません」
「なるほど、平凡なやつにチート渡してポイント稼がせるんだな」
「はい、そうです。こっちに居てもポイントにならないので、問題解決やポイント増加……この場合、世界の混乱を行うために召喚するわけです」
「派遣社員か……」
転生ポイントが稼げても、現世はただ働きなのがちょいと悲しいな。
「それで、そんなの俺は知らん。どうしたら良い?」
「誰がやったのかこちらで調べます。しばらくお待ちください」
「たのむ」
彼女が飛んで調べに行ってくれた。
カエルさんパンツですか。動物プリント率高いな。
~かみは ばらばらに なった~
まあ、そんなこんなで、世界の力の流れ調整をしつつまっていると、神殿の入り口から声が聞こえてくる。
「ここが『神の間』か。ようやくたどり着いた」
十人くらいの人々が、通常は入れないはずの俺空間、通称『神の間』に出現した。
あれ? 皆さんなんでそんなに殺気立ってるんですか?
「あの、どちらさまでしょうか?」
失礼の無いように対応したつもりなんだが、さらに殺気立ったようだ。
「お前が元凶の神か?」
その手に持ってるものは……チェーンソー?
「アイエエエエエ?! チェーンソー?! チェーンソーナンデ?!」
「どうやらこの武器は『天使』の言うとおり神に効くようだな」
「ああ、あのうろたえ様、本物だぜ」
奴等が近づいてくる。
「て、天使ってなんだよ!! うちの天使は出かけてるぞ!!」
俺の悲痛な叫びはやつらにとってご馳走なのか、ニヤリと笑っている。
「そうでしょう、非情で傲慢なあなたに愛想を尽かしたんです」
騎士風優男が言う。
「だから俺たちがここに来ることが出来たわけだ。天使には感謝だな」
ガチムチ系戦士っぽいのがニヤついてさらに近づいてくる。その手にチェーンソーを持って。
「は、話し合いをしないのか?」
「その手にはのらねぇぜ!! よくも邪教徒つかってだましうちしてくれたな!!」
カウボーイ風の若者がさえぎる。
邪教徒ってなに!? 俺、知らないよ!!
「ああそうだな。お前にプレゼントをやるよ。よくも好き放題やってくれたな」
ドゥゥゥゥルルルルル!!
チェーンソーの音があたりに響く。
「や、やめてえええ!! そのプレゼントはらめぇぇぇぇぇ!!」
懇願むなしく、俺はバラバラになった。
死因、出血多量によるショックと頚椎損傷。
これなら過労死のほうがマシじゃね?
~目が覚めて~
「なぁ? あれはどういうことだ?」
俺的嫌な死に方ベストスリーに入る死に方だった。
まだ三回しか死んでないけど。
というか、唐突過ぎるだろ!!
なんで殺されなきゃならんのだよ!!
「まず、こちらの調査の報告をいたします」
バイト天使ちゃんが黒板を背に説明してくれる。
「まずはこの糞天使どもをご覧ください」
彼女が示したのは顔面がボコボコになっている、翼の生えた数名の天使だった。
皆、高手小手で縛られ、正座させられている。
「この方たちはどうしてこうなってるの?」
「この糞天使共が煽った結果があれです」
へ? どゆこと?
「あなたが、人類に直接コンタクトしたのは正式には二回、どちらも第一世界のみです」
「ああ、そうだよ。あんまり干渉するものよくないと思ったからね。過労で倒れてたし干渉も出来なかったけど」
俺の言葉に天使たちがビクッと震えた。
「そうです、そしてあなたが過労で倒れていることを良いことに干渉していたんです。バックドアと仮想空間まで作成していたのを確認しました」
「マジで?!」
「はい、マジです。世の中の不具合、人間の自業自得を全部、『神』がやったことにして人間を煽ったんです」
「なんですと?!」
確かに俺の失敗でもあるけど、修正だって頑張ってたよ。
俺のせいじゃないのまで俺のせいにしたら、そりゃ皆怒って殺しにくるだろうな。
人の噂に無頓着だったのが痛手だったな。
「じゃあ、俺を殺した人たちが来たのは、そのバックドアからか?」
「はい、ログを確認すると仮想空間で合流後、こちらにきて殺害したようです。帰りのバックドアにトラップを仕掛けて、ご丁寧に口封じされていますね」
「計画犯だな。どうやって解ったんだ?」
「世界全体のログと各世界のドラゴンのログが一致せず、改ざんの痕跡が見られましたので、発信元を辿ったら彼らにたどり着きました」
「どっちが改ざんされてたの?」
「主に世界全体のログですね。後はデーモン(*)化したlogos.exeのログに発言の証拠がありました」
*デーモン:バックグラウンドで動くサービスの総称
「先ほども確認した通り人間の争いを煽り、それを貴方のせいにして、犯行を行わせたようです」
「うわぁ」
おい、巧妙すぎるだろ常識的に考えて。
同情の余地なしだな。
「彼らの想定外だったのが、デーモン化しバックグラウンドで動作するドラゴンと言葉のイデアlogos.exeでした。これらが独自にログを作成していることに当初気がついていなかったようです」
「どうやってバックドアを作成したの? 俺以外に世界はいじれないはずだけど……」
「宇宙カーネルのバッファオーバーラン(*)を利用されました。現在はパッチがあたっています」
*バッファオーバーラン:ハッキングの手口の一つ、コマンドに予期せぬデータ長のデータを入力し不正にコマンド権限を奪う方法
「そうか。それでどうすんだ?」
「我が主様に報告です。天使が噂を聞きつけて、ちょっかいをかけてくるとは、想定外でした」
「べつにー。悪いことしてないしー。報告はやめてほしいなーって感じー」
「そーだ、そーだ。やっちゃいけないなんて言われてないぞ!!」
「ふとうなこうそくをうったえるぞ!! しゃざいとばいじょうだー!」
「俺たちは、ぎじゅつはってんの手助けをしたんだぞ! 感謝されてもおかしくないんだぞ!!」
さすがに自分勝手過ぎね?
妨害工作は手助けとは言わなくね?
「おう、ハッキングかましといて随分な言い草だな」
さすがの俺も切れるぞ?
俺を切れさせたら大したもんっすよ?
「へーん、お前はもう神じゃないもんねー。なんもこわくないぞ!!」
「そーだ、そーだ! こわくないもーん」
下級天使って皆、こんなんなのか?
文字通り『下級』過ぎるだろ!!
正規よりバイトのほうが使えるとは……世も末だ……
しかし、疑問が残る。その疑問を俺は口にした。
「なあ? なんでこいつらこんなことしたんだ? 一ポイントの得にもならんだろ?」
俺は天使を雇用していない。自動更新の完全ランダム型だ。
納得しなければ、こっちの転生に来ないようにしてもある。
だから給料なんて発生しないのだ。
完全なただ働き、要するに悪戯でしかない。
「それは……」
天使が言うより先に、別のところから声が響いた。
「ふぉっふぉっふぉっ、スマンがそれぐらいにしてもらえるかのう」
言ったのは白いローブ姿で節くれだった杖を持つ、白髪、長い白ひげのジーサンだった。
これぞ神、みたいな感じだ。
「これは創造神様、おひさしゅうございます」
バイト天使がお辞儀をしたので俺もお辞儀する。
「始めまして、この世界の元創造神です」
「うむ、堅苦しい挨拶は抜きじゃ。本題に入りたいがよいかの?」
「どうぞ」
俺もそう思う。
「この子らは、わしの管轄じゃて、こやつらが悪戯したのは悪かった。わしが代わりに謝る。この通りじゃ」
頭を深々と下げる神様。
「いえ、お気になさらず。こちらにも落ち度はありましたし、今回はこれで終わりにしましょう」
あのボケ天使どもを、引き取らせてさっさとお引取り願う。
「うむ、そのことなんじゃが。侘びといってはなんじゃが、ひとつ手伝わせてくれんかの?」
「お手伝いですか?」
神様は頷く。
「うむ、これから調整のためだけに神になっても、労力だけかかってポイントが無駄になるだけじゃろう? わしが管理してやるぞい」
営業スマイルでこちらを伺う神様。
「オヌシは世界のオーナーになるだけでポイントが貯まるぞい。オヌシゆっくり休んでポイントを貯めて、次々回あたりに神になって新しくやり直せばばよかろう。そんときも手助けしてやるぞい」
なるほど、こいつが元凶か。
こいつが下級天使を諭して、俺を殺害させたんだ。
自分が利益に食い込めないからって、ここまでするか……
「バイト天使、契約、前回のに天使サポートつけて用意して」
「はい、了解しました。すぐに準備します」
「なっ!? 今まで稼いだ分、無駄になるのじゃぞ? 」
慌てふためく創造神。
「問題ありません。十分にペイできますから」
プラマイゼロって事で、問題なし。
「いや、それではわしが納得できんじゃろ? 迷惑をかけたんじゃ。手伝いくらいはさせてくれんか?」
さて、どうする?
こいつをほっとくと、色々妨害してきそうだ。
さりとて、手を組むと良いように使い捨てられるだろうな。
最悪、乗っ取りもしてくるだろう。
なにせ、下級天使を尋問するタイミングで出てきたのだ。
限りなく怪しい。
どうにかお引取り願えないものか……
「いえ、お引取りを」
バイト天使が言った。
「この方たちを引き取るだけで十分です。今度、こちらに手を出させないようにしてください。彼らの遊び場ではありませんので」
「しかしだな……」
食い下がる神。
「これ以上は、『我が主様』に裁可を願います。わたくしは今回の件、我が主様にご報告させていただきますので、そちらに話を通すのがスジでございましょう?」
バイト天使の言葉に少し考えた神は頷いた。
「うむ、わかった。うさせてもらうかの」
おとなしく下級天使どもを引き取って、神は何も言わずに消えていった。
「すまん、たすかった」
「いえ、まさか、ああいった手を使ってくるとは思いませんでした。我が主様にご報告させていただきます」
「たぶん、証拠も無いだろうからこれ以上の深追いはやめよう」
バイト天使もアイツが主犯だってことは察していたようだ。
「そうですね。では転生の準備をいたします。こちらに……」
契約書を手にしたバイト天使の顔が曇る。
「どうした?」
「すり替えられました。偽物の契約書です。恐らく下級天使の仕業でしょう」
今までの契約書とは印も紙質も全然違った。
まあ、成功するとは思ってないだろうから、嫌がらせだな。
内容もハエ五十億匹に転生とか、ふざけてんのか?
「そこまでやるか……天使サポート買取な」
天使は契約書を取り出すと仔細に確認する。
「はい、今度は間違いありません。契約書は本物です。神への掛け捨て転生とサポートの買取契約です」
「よし、よろしく頼む」
すぐに捺印して契約完了っと。
「では正式に、微力ながらお手伝いさせていただきます」
ペコリと可愛らしくお辞儀するバイト天使。
「はぁ~、どうするかね。俺の悪名が広まっちゃってるし挽回するのは難しいなぁ」
「その点ですが、アイディアがあります」
にっこり微笑むバイト天使。
こいつは頼もしいな。
下手な正社員より優秀だぞ、この子。
「うむ、教えてくれ」
俺はバイト天使のアイディアに耳を傾けた。