第8話:寝ていた間に大変なことになっている
~第一世界~
「……こうして我々人類は『魔法』の発明によって存続できたというわけです」
黒板につらつらと書かれている歴史を、教室の窓際にいる少年はそれほど注意を払わず見ていた。
教室には二十数人程度の生徒が授業を受けている。
少年は教室の窓から空を見る。
透き渡るような青空だ。
こんな日は昼寝がしたくなる。
「大昔、それも原始時代より以前はそれほど魔獣も凶暴ではなかったのでは、という説もありますがこちらの根拠は同年代よりやや古い骨塚以外推察でしかなく、最近は廃れている説です」
少年は思った。
そりゃそうだろう、何事にも先駆者はいるものだ。
彼らが魔法を駆使して倒した成果を、後からやってきた奴等が真似したんだろう。
ノートにちゃんと書き留める。
「次はファーストコンタクトについてです。これには諸説があって原始時代に、数度交流をしていたのではないかと言われています。それを示唆する品も発見されており、エルフ族の集落にドワーフ族や人族の品がある、あるいはその逆であったりと比較的友好な関係だったようです」
ノートを取りつつ少年は考える。
魔獣の力は強大だ。
それをわずかな武器と魔法だけで狩っていたのだから、争う暇なんてなかっただろう。
「これは居住の好みや狩猟の範囲が違ったため、争いにはならずに住み分けが出来ていたようです」
好き嫌いを押し付けないというのは重要な要素だと少年は思った。
たぶん、魔獣のいない世界だと皆我が物顔で、自分の好みを勝手に押し付けていたに違いない。
「次の時代ですが狩猟に変わり農耕が主な食料生産手段となりました。人族が最初に行ったということは歴史上、様々な史料から確認されています。次にエルフ族、ドワーフ族がほぼ同時期に食物栽培を行っています。エルフ族は木の実を栽培し、ドワーフ族は菌類を栽培しています。これらは彼らの主食ですね。居住環境によって栽培するものが違ったのも争わない原因かもしれません」
少年も食べたことがある。
エルフの料理は淡白で彼好みだったが、ドワーフの料理は苦手だった。彼は濃い味付けときのこが嫌いだったからだ。
またエルフの国に行って見たいなと思った。
コンクリートジャングルな人族の国よりも、樹上生活で全てが木で出来た、エルフ族の都市はとても面白かった。
ドワーフ族の地下都市は機械の音がうるさくて、辟易したのだ。
彼らの人柄はよかったが、彼らの住処はあまり好きではなかった。
「平和だなぁ」
彼は窓の外を見てつぶやく。
窓の外には相変わらずの青空が広がっている。
~第二世界~
地下であろうか。石造りの室内にカリカリと何かを削るような音が聞こえる。
黒いローブに同色のウィザードハット、手には彫刻刀をもち、床の複雑な魔方陣に屈み込んでなにやら仕事をしている。
深くかぶっと帽子からのぞく金色の長い髪、彫刻刀を操る細く白い手から女性と思われる。
幾時間そうしていたのだろうか、やがて作業は終わったようで彼女は立ち上がった。
年のころならば十五程度であろうか。
その手の作業をするには存外に若い彼女は、年に似合わず老婆のように腰を叩きコリをほぐした。
不意に扉が開く。
「どうだ? 作業のほうは順調か?」
初老を過ぎた男性、身なりから高い地位に居ることが想像できる。
呼びかけられた彼女は、手に持った彫刻刀の柄を彼に差し出し答えた。
「陛下、先ほど終わりました。後は魔力を流すだけです」
差し出されたままの彫刻刀は受け取らず、陛下と呼ばれた男は満足げに頷いた。
「そうか、やはり天才だな。こんなに早く準備を終えるとは」
「光栄にございます」
深く礼をする若き魔女。
「今すぐ始められるか? 出来るなら準備してくれ、大臣達を呼んでくる」
「はい、可能です」
そのやり取りで男は再度頷き部屋からでる。
残された魔女は魔方陣に触れ、いくつかの言葉を紡ぐ。
それに呼応するかのように陣は薄紫色に光り輝く。
バタン!!
勢い良く扉が開かれる。
「は、はじめるなよ! まだはじめるな!!」
髪の毛の後退した四十過ぎの男が部屋に入ってくる。
この国の大臣だ。
「大臣、まだはじまりませんよ。もう少し陣を暖めませんと」
「そ、そうか。わ、わかった。すまん」
余裕の無い男だった。だが有能ではあった。
「大臣、そんなに急がなくても大丈夫ですよ。だからハゲるんです」
若い、少女の声が後ろから聞こえる。
道化師姿の十歳くらいの少女が杖を持ってやってきた。
「う、うるさい! ハゲてないぞ、私は!!」
虚しい言い訳をしている大臣。
そして道化師の後ろにいる三十代の騎士がボソリという。
「……はげてるだろ。どう考えても」
その言葉は、道化師にしか聞こえなかったようで、咎めるものもいない。
「急ぎすぎだ、大臣。まだ余裕がある」
最後は先ほどの国王。
その場に居た全員が、一礼し道化師以外手に持ったもの、腰の武器を差し出した。
魔女は彫刻刀、大臣は腰に挿した短剣、騎士は剣をそれぞれ差し出した。
この国の敬礼であるらしい。となるとこの場で無礼なのは道化師のみとなる。
「よい、なおれ。さて準備はどうだ?」
「はい、ご命令があればすぐにでも可能です」
魔女は王に対して言う。
「では始めてくれ、勇者召喚を」
「はい」
王の号令に魔女は魔方陣に触れ魔力を込める。
薄紫の魔方陣が白く輝きそしてあたり一面が光り輝いた。
光が収まった後に魔方陣の中心に現れたのは、サラリーマン風のオッサンだった。
スダレハゲでメガネをかけた典型的中年親父だった。
「え? ここどこ?」
突然のことに慌てふためくオッサン。
それを見て道化師が一言。
「大臣の親戚ですか? これは親戚が呼ばれちゃうんですか?」
「わ、私はこんなにハゲてないぞ!!」
「……いや、同じくらいハゲてるだろ」
またも騎士のつぶやきは道化師以外に聞こえていない。
そんなやり取りを尻目に、王はオッサンに近づき話しかけた。
「『神から啓示を賜れた』勇者殿、この国を、世界を、幾度となく世界を救った歴代の勇者たちと同じく、魔族の手から救ってくだされ」
深々と道化師以外全員が礼をする。
無礼なのは道化師だけであるが、彼女は両手で杖を持ちオッサンに気づかれないように警戒をしている。
もし王に危害を加えようとすれば、彼女必殺の杖術がオッサンの命を刈り取る手はずである。
「えええええ?!」
石造りの部屋にオッサンの声が響き渡った。
~第四世界~
荒野を歩く人影が一つ。
テンガロンハットに皮のベスト、カウボーイ風の若者だった。
だが腰には銃はない。
魔力を弾丸にして飛ばす魔銃、それがこの世界におけるメジャーな武器であったが、彼はそれを好まなかった。
だからいつも丸腰だった。
若者が顔を上げると眼前には街があった。
久しぶりに飯が食える。
目を輝かせて走り出した。
鉄と石で作られた町並みは、何処とはなしに寂れた感じがする。
彼は酒場の看板を目にして、さらに目を輝かせる。
一目散に中に入る。
「いらっしゃい。残念だけど水は売れないよ」
いきなり酒場の親父はこういった。
若者はがっかりしている。
「どうしてだよ? ミルクもねぇのか?」
その言葉に店に居た客は誰も笑わない。
そりゃそうである。
のどが渇いているのだから水がほしいのはあたりまえ。
酒では少々きつすぎる。
「坊主、エールならあるぜ? こっちきて飲まねぇか?」
荒くれ者の一人が誘った。
若者はそれに不承不承頷いた。
「っち。水が飲めると思ったのにな……」
「まあ、愚痴るなや。ここの『水姫』がさらわれちまったんだとよ。おかげで辛気臭くなっちまった」
水姫とはこの世界で水の生成魔術を使える魔術師のことである。男でもこの呼び名である。
彼ら、彼女らはこの世界において最重要の存在である。
水の少ないこの乾いた世界において唯一といって良いほどの癒しの存在だからだ。
無論、魔術が使えるなら誰でも水を出すことは出来るが、水姫は桁が違う。
それこそ一人でこの街の水を全てまかなうことが出来る存在なのだ。
奪われれば緩慢な死がその町に待っている。
「どこに?」
「西の岩山に砦があるんだ。そこに山賊が巣くっててな……」
「西の岩山だな!! すぐ行く!! まってろよ! すぐに助けてやるからな!!」
荒くれ者が言い終わる前に飛び出ようとする若者。
「お、おい! 丸腰じゃ無理だろせめて魔銃を……」
荒くれ者が止めようとするが途中で気づく。
「まさか、あんた……」
「おう! 俺は『疾風使い』だ」
疾風使いもまたこの世界における魔術師だ。
その術は恐ろしいまでの加速力と反射神経にある。
魔銃の弾丸すらもよけるほどの彼らは『疾風使い』として恐れられている。
若者が勇んで酒場を出て行く。
入れ違いに奇妙な男が入ってくる。
それは中央都市のお偉方が良く着る燕尾服を、もっとスマートに普段着のようにした服で、装飾は少なく何処と無しに事務的な雰囲気をかもし出す服だった。
「いらっしゃい。残念だが水は売ってないよ」
酒場の親父のセリフにすました表情で言う。
「かまいません。とりあえずキンキンに冷えたビールをください」
「うちには温いエールしかないよ」
姿が奇妙なら頼むものも奇妙なやつだった。
奇妙な男はがっかりしながら、エールを頼んだ。
席に着くとため息一つ。
「仕事帰りの一杯をやってみたかったのに……」
奇妙な男に誰も話しかけることはなく、ただ時間だけが過ぎ去った。
男はその店の宿をとり部屋にはいる。
荒くれ者も同じようだった。
やがて夜になり夕食を客が食らっていると、勢い良く店のドアが開かれる。
「おう! 水姫を助けてやったぜ!! これで水が飲める!!」
その言葉に店中から喝采が上がる。
若者にお姫様だっこされているのは、髪は長く、はかなげな印象を持つ十二、三くらいの女の子だった。
「こんな可愛い子が水姫ってのは納得だぜ!!」
若者の言葉に不満げな水姫はこういった。
「僕は男です。可愛いは余計です」
若者は凍りついた。
そんなことをお構い無しに奇妙な男は酒場の親父に注文をする。
「鳥串と枝豆ください」
「そんなもの、うちにはないよ。なんだよ枝豆って?」
奇妙な男はがっくりして干し肉を頼んだ。
~第六世界~
中世ヨーロッパ風の装飾に彩られた会議室に、幾人かの貴族と思しき男たちが円卓を囲み雑談をしている。
「どうですかな? ダンピエール卿」
「準備は上々ですな。マンチーニ卿」
二人の顔には笑顔が浮かんでいる。
それもそのはず、戦争のコストが大幅に引き下げられたのだから。
「召喚魔法というのは便利なものですな。ダンピエール卿」
「ええそうですな。これで王国は安泰です。ノアイユ卿」
その和やかなやり取りを不安そうに見つめる若い貴族が一人。
「あの……大丈夫でしょうか? 『彼ら』は何者なのです?」
「『彼ら』、力強き世界の勇者です。召喚に簡単に応じてくれます。隷属の魔法も同時にかけますから反乱の心配もありませんよ。トゥールーズ卿」
「そ、そんな方々を大量に召喚して大丈夫なのですか? ノアイユ卿」
「心配性ですな。魔力の枯渇は心配ありませんよ。ちゃんと対策していますから。そうでしょう? ダンピエール卿?」
ダンピエール卿は自信満々に頷く。
「そうですぞ。うちの魔術師が術式のコストを大幅に下げることに成功しましたからな。あとで皆さんにもお教えしましょう」
その一言に、全員が驚く。
「よいのですか? ダンピエール卿?」
「国王には許可を取ってあります。王も推進なされましたしな」
さらにざわめきが大きくなる。
「『神託』というのもあながち嘘では無いようですな。もっと寄進しませんと」
「その通りですな」
「ほっほっほっ、本当によい時代ですな。懐を痛まずに戦争が出来るというのは」
皆がそれに同意していたが、一人若き貴族トゥールズ卿だけは納得をしていなかった。
そうじゃない、人を無理やり連れてきて戦わせるのが、正しいのかどうかを聞いたんだ。
勇者といいつつこれじゃ、戦奴よりひどいじゃないか!
それも千単位で召喚するんだろう? むちゃくちゃだ!
だが、彼はそれを表情には出さず同意した。
魔術開発の成功に酔いしれる彼らには、何を言っても通じないだろうから。
きっとそのうち大変なことになる。彼はそう思った。
~中央世界~
電気エネルギーの利点は様々なエネルギーに変換が可能であることだ。
たとえば水車によって回転エネルギーを電気エネルギーに変え、次に電熱線に電気エネルギーを通せば用意に熱エネルギーに変換できる。
さらには化学的な反応でも得られ、エネルギーのロスは大きいが可逆の反応が行える。
その利便性こそが電気エネルギーの最大の利点といえるだろう。
エネルギーのトランスポーター、化石燃料の無いこの世界で、万能とも呼べるエネルギーの二つのうちの一つ。
それが電気だ。
電気というものが発明されてからというもの、人々の生活は飛ぶ鳥を落とす勢いで発達している。
その街はコンクリートジャングルだった。
四半世紀前に生み出された電気エネルギーの恩恵を、最大限に受けたその街はイルミネーションに彩られ、煌々と燈る外灯は昼間と変わらずあたりを照らしている。
この国の首都であり最大の都市だ。
その一角、繁華街から少し離れたビジネス街。
昼間は給与奴隷ひしめく通りも、企業が眠る夜の間は閑散としている。
無論、中には眠らぬ企業がそのビルの窓にいくつか明かりをともしてもいるが、それは例外中の例外であった。
そして、その街の片隅にはやや狭い公園があった。
区画整理事業に強欲な個々人と様々な組織の思惑とが混ざり合い、そのあおりを受けて空隙となった場所に、美辞麗句を並べ立て仕方なしに作られた場所。
その公園のベンチに給与奴隷風の男が一人座っている。
背広を着こなし、ネクタイをきっちりとしめ、常に仕事をしているような神経質な顔つき。
その視線の先には、自身のひざの上に乗せた、ラップトップコンピューターがある。
画面は黒地に緑色の文字が浮かび、絶え間なく流れている。
表情は芳しくない。
ため息をつくと男はひざの上のそれを革のかばんの中に仕舞った。
男は目を瞑り、何かを考えているようだ。
「おいオッサン。そこでなにしてんの?」
不意に声をかけられる。
そこに居たのはニット帽をかぶり耳にピアスをしたエルフの青年だった。
正確な数はわからないが、五、六人だろう。
「別に、仕事が終わって休んでるだけだ」
「はん、おもしろくねー」
若いエルフたちは興味をなくしたようで、そのまま立ち去っていった。
恐らく歩く方向にある繁華街を目指しているのだろう。
給与奴隷風の男も立ち上がりいずこかへ歩いていく。
ただし、彼らとは反対方向だ。
目指しているのはもう一つの繁華街、旧繁華街と呼ばれる場所だろう。
旧の名のつくとおりあまり栄えてはいない。
新しい繁華街と比べて薄暗く、いかがわしい店も多い。
男はその旧繁華街に入り口にある古びた食堂に入っていった。
「いらっしゃい」
六十過ぎだろうか人族の男が店員を勤めている店は、小奇麗になっていて店の狭さを、居心地のよさでカバーしている。
時間が時間だけに給与奴隷とその店員だけしかいない。
男が注文をすると店員は短い返事で作り始める。
聞こえる音はラジオの音と店員が調理をする音だけだ。
『しかし、数千年来の『神隠し』にはまだ解決の糸口がありませんね。つい先日もサラリーマンの方が『神隠し』にあいましたし』
『ええそうです。これは魔力流出現象と何らかの関係があるのではないか、といわれていますが確固たる証拠が見つかっていません』
『電気には皆さんが期待されてると思いますが、そのへんはどうなんでしょう?』
『そうですね。電気にはいまだ未知の可能性が残されています。最近は真空管というものも発明されまして、電気回路における飛躍的進歩が期待されていますし、魔学に対しても様々な点で解明の補助になるでしょう。その点で行けば『神隠し』の解明の糸……』
……ブチッ
店員がラジオを忌々しげに消した。
「すいませんね。ちょいと消させてもらいます」
「ええ、かまいませんよ」
給与奴隷も気にしていないという風で流す。
そして、店には調理する音だけが取り残された。
「昔ですがね。私にゃ家族が居たんですわ」
調理をしながら店員はポツリポツリと話し出す。
まるでラジオを消した変わりだといわんばかりに。
「妻は幼馴染でした。負けん気の強い女で、よく喧嘩してましたよ
結婚は私のほうから申し込んだんです。あんときはびっくりしました。
何せ、アイツは大泣きしちまうんですからね」
ははは、とそれが唯一のアイツの泣き顔ですと言った。
「息子も娘も生まれて、二人ともアイツに似て喧嘩っ早くてね。
そりゃもうやんちゃ、おてんばでしたよ」
そしてしばらく無言。
給与奴隷は黙って聞いていた。
店員が口を開く。
「幸せでした。三人とも『消えて』しまうまでは……」
料理が出来たのだろう、調理の手を止めて料理を皿に盛り付けている。
盛り付けた料理を男の前にさしだす。
男は食べながら聞いた。
「ある日、店から帰るとね。誰もいないんです。そりゃあ焦りましたよ。俺が何かしたのかってね。
実家にも帰ってない、誰も見ていない、方々探し回ってもいやしない。
そんで、しばらくしたら役人と学者が来て、あーでもないこーでもない屁理屈こねくりまわして言ったのが『神隠し』だからあきらめろ。
ふざけんじゃない!って怒りましたよ。あきらめ切れなかったですよ。
勤めてた店もやめて、調べて、探して柄にもなく勉強もしたもんです。
でも、無理でしたよ詐欺にも遭いました。誰も信じられなくなって荒れましたね。
酒に逃げても変わらなかった。
だから電気が万能なんていう輩は嫌いなんです。こいつだって客寄せでしかないですしね」
そういってラジオを指した。
男は終始無言で出された料理に手をつけている。
「もし……もしも、誰かの仕業だったらどうします?」
給与奴隷が口を開いた。
「それが人為的なものだったらどうします?」
そんなことを言われるとは思っていなかったのか、店員は少し悩んでいる。
前述の『神隠し』は神と名がついてはいるがれっきとした自然現象だ。
何かの意思で行われるには複雑すぎ、脈絡がなさ過ぎたのである。
だから店員は言った。
「ははは、そうならソイツをぶん殴ってやりますね。俺の妻と子供たちを返せってね」
それを給与奴隷は無言で受け取った。
代金をカウンターに置くと「ごちそうさま」と一言添えて去っていった。
「ありがとやした」
男は店から出ると、旧繁華街を歩き出した。
人通りの少ない旧繁華街の通りを男は歩く。
「まずいな。対策をしないと。俺が寝ていた間に大変なことになっている。まともな世界はここと第一と第四だけだ。他は皆、転送を悪用してるじゃないか。なんだ勇者召喚って? バイト天使に聞いてみよう」
男はそうつぶやくと薄暗い旧繁華街に消えていった。