第6話:神様がもしもブラック企業の元社畜だったら。その壱
~神は最初、大地を御創りになった~
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神は一日目00:00:01にログインした。
さて、世界はどうなってるかな?
念じてみるが世界には一切の変化が無かった。
うむむむ? どういうことだ?
ちょいと調べてみて原因がわかった。
それもそのはず。
作った世界には、力の流れしかなかったのだ。
大地とか太陽とかそういうものが一切無い。
ついでに言うと力の流れの法則も一種類しかない。
中央世界から小世界へ。
それしかない。
さらに追い討ちをかければ、中央世界には力の発生源が無い。
これでは動きようが無い。
むう、これ以上の操作は難しいな。
世界を作ることに夢中になって中身を忘れてた。
大まかな属性だけしかないのは、クリームの無いシュークリームだな。
やはり素人が多層構造の世界に手を出すべきではなかったか?
しかし、ここまで作ったのは壊したくない。
ではどうするか?
しばらく悩んで、答えを見つける。
中央の世界にまず力の発生源を設置。
各世界に流れる力の通り道、八ヶ所のうち七ヶ所を閉じる。
要するに一個だけ操作するわけだ。
慣れてきたら他の通り道を開ければ良い。
まずその小さな世界一つを動かそう。
俺はそう決めて実行に移す。
以外に簡単に実行できた。
まずは中央世界に全ての力の源である太陽だけを作る。
この太陽から力が流れ出すのだ。
そして小世界に大地を作った。
小世界用の太陽を作ってからおまけに月を作る。
夜に何も無いのはさびしいからね。
月は一個だけにしました。
二個あると管理が大変だからね
よしよし、順調に力が流れているな。
太陽から流れた強力な力は昼は直接大地に流れ、夜は月を通して大気に流れている。
なるほど直射日光だと強すぎて大気を貫いてしまったか。
これは月の数で世界の力の満ち方が変わるかも知れん。
しかもよく見ると、太陽の力が大地と月を通して微妙に変化しているな。
こいつはすごい。
それぞれの力が万華鏡のように揺らめいて世界に満ち溢れている。
神に転生した俺にしか知覚できない美しい光景だった。
だがこのままでは少々不便だ。
そろそろ力に名前をつけるか。
う~む、どんなのにしようか……
よし、決めた!!
太陽そのままの力にプリマ・マテリア、月の力にマナ、大地の力をプラーナとしよう!
え? 全部適当じゃないかって?
しょうがないだろ! ブラック企業で休みなんざ一切もらって無いんだから、神秘学なんてわかんないよ!!
でもこれで大分準備が出来たな。
あとは少し待っていれば生命が誕生するだろう。
というわけで少し休む。一切寝ずに作業したから疲れた。
# RUN HEAVEN AND EARTH
神はエラー無しと見て、よしとした。
神は二日目01:34:21にログアウトした。
~次に神は海を創られた~
神は二日目05:20:37にログインした。
ぐぐぐ、いつもの調子で仕事を始めてしまった。
生命は全く出来ていない。
何が悪かったのか。
しかし、三時間半しか寝てないな。
ブラック企業に勤めてたときは四時間眠れれば最高だったな。
駅から徒歩三分のアパートは、ほとんど仮眠に帰っていたようなもんだ。
起きるてシャワー浴びて、歯磨きして、背広に着替えて自転車で通勤。片道三十分。
途中のコンビニでおにぎりを買って食って出社。
そのまま仕事で夜中まで、休憩は飯を食うときだけ、二回合計一時間。
帰ったらそのまま寝るの繰り返し。
週一で朝に二十四時間営業のクリーニング屋に、背広とワイシャツ七着預けて帰りに回収が加わるくらいか。
冷蔵庫はあったけど、一年間電源入れてなかったな。
中身が何も入ってないから、冷やす必要がなかったんだ。
捨てる時間も無いから置きっ放しだったな。
初任給で初めて買ったのは何だっけ?
ああ、あれだコンビニの歯ブラシだ。
お試し期間だから半額だって言われて、生活もままならなかったっけ。
でもこれが普通だと思ってたし、仕事が忙しくて考える暇も無かったな。
そういえば銀行から封筒で通帳の明細が届いたっけ。
え? 借金の督促かって?
違う違う。
俺の帰る時間に銀行が開いてないから、記帳が出来るATMを使えなくて取引記録だけが貯まったから、記帳圧縮のために明細が届けられたんだ。
何事もズボラはいかんな。
休日って正月の一日だけもらえたっけ? いや、緊急呼び出しでそのまま深夜まで仕事してたっけ。
「キミィ、こんな忙しいときに休むとは良い度胸してたね」
上司からの嫌味がきつかった。
それから俺は休日を考えることをやめた。
職場の同僚達とは仕事の話しかしなかったな。
顔も覚えてないや。すぐに入れ替わるから覚えても意味がないし。
「疲れた? 弱音を吐くな。辞めたい? ならすぐやめろ、クビだ。私物をかたせ」
すぐにクビにしてたから、俺もいつ首になるか怖かった。
給料は使ってないのに貯まらなかったなぁ。
どうしてだろう?
神の力を使って情報を探る。
念じるとすぐに出てきた。
地球の情報だ。
その情報を見て愕然とする。
給料の一部を株式に変換されて支給されていたのだ。
より正確に言うと、ある程度貯まったら一部を残して株式に自動的に投資するようになっていた。
そういう契約だった。
投資はほぼ失敗していた。
いや、俺たちが損をするように出来ていた。
得をするのは契約の相手、つまり会社だ。
涙が出てきた。
何を必死になってたのかな? 俺は。
文字通り死ぬほど働いても誰も評価してくれなかった。
ただ使い捨てられただけだった。
そして、そんなことよりもっと愕然としたのは、力に名前をつけるときにこの能力を使わなかったことだ。
これ使っていれば、もっと相応しい名があったのではと、思うのだった。
俺は泣いた。
この涙で海が作られた。
この海によって生命が生まれ、進化していった。
俺の涙は無駄じゃなかった。
そのうれしさでまた泣いた。
なんか神話っぽいな。
# RUN HEAVEN AND EARTH
神はエラー無しと見て、よしとした。
神は二日目07:11:58にログアウトした。
~神は植物と魚を御創りになり、魚からドラゴンを御創りになった~
神は二日目11:00:07にログインした。
仮眠をとって心身共に落ち着いた。
念じて全部の世界を確認する。
#cd /the cosmos
#ls -a
drwxr-xr-- smallworld1
dr-------- smallworld2
dr-------- smallworld3
dr-------- smallworld4
dr-------- smallworld5
dr-------- smallworld6
dr-------- smallworld7
dr-------- smallworld8
drwxr--r-- bigworld
特に変化は無い。
小世界に焦点を合わせて念じて調べる。
#cd /smallworld1
#ls -a
lrwxrwxrwx prima-materia.exe
lrwxrwxrwx mana.exe
lrwxrwxrwx prana.exe
lrwxrwxrwx Fish.exe
lrwxrwxrwx plant.exe
drwxr-xr-x sea
drwxr-xr-x land
うむ、順調だな。
だが動物は陸上に上がっていないな。
やはり人類を作らねばならぬか。
だがそれは少々荷が重い。まずは簡単なもので練習をすべきだろう。
よし、魚で色々試そうか。
俺は一匹の魚をつまんで、世界から引き離し進化させる。
魚人が出来ても困るので、海蛇あたりにしたい。
人差し指で魚の頭を突く。
グリッとひねる。
ちょっと調節のつもりだったが、どうやら力を入れすぎたらしい。
「シャギャアアアア!!」
「ん? まちがったかな」
泣き声を出しながらかなり巨大になってしまった。
しかもジタバタと大暴れしている。
「あ、空飛んだ」
蛇に似たそれは、蛇よりもずっと巨大で体をくねらせながら空を飛んでいる。
何か東洋のドラゴンっぽいのが出来た。
「シャギャアアア!!」
お、でかいけどそんなに凶暴じゃなさそうだ。
悠々と俺の周りを泳いでいる。
かっこいいな。
これに知識とかいれて喋れるようにしてみたいな。
そんなことを思いながらドラゴンを見ていると、そのドラゴンが俺のほうを向く。
む?
「お前が主か?」
キエェェェェェシャベッタァァァァァ!!
「お、おう。そうだ。俺がお前を作った」
「そうか。では主よ命令を」
もう知能があるのか、ドラゴンすげぇな。
どの程度なのか試してみるか。
「お前は何が出来る?」
「世界の監視と記録、そして異常の感知が出来る」
むむむ! これは優秀。
早速仕事をしてもらいましょう。
「よし、ではあの世界を見張れ、何かあったら知らせろ。記録はこの石に刻め」
「承知した」
俺は記録用の石を創り、小世界の各地に計十六個置いた。
ドラゴンは小世界に入っていった。
#service dragon.exe start
よしよし、これで記録取りが楽になるな。
いちいち全世界に接続しなくても済む。
# RUN HEAVEN AND EARTH
神はエラー無しと見て、よしとした。
神は三日目00:14:03にログアウトした。
~神は自分に似た人を御創りになった~
神は三日目04:22:17にログインした。
ログを見て満足する。
世界に生物があふれてきた。
まだ知的生命体は居ないが、プリマ・マテリアやマナ、プラーナに当てられて神話生物が生まれている。
ほら、ユニコーンとかリバイアサンとかグリフォンとかのあれだよ!
ヒャッハー! ファンタジーっぽくなってきた!!
よし、各地のログを見てみるか。
十六箇所の石、三メートル四方の立方体なんでモノリスと名づけるか。
そのモノリスを詳しく見ると、知的生命体が生まれそうなログがある。
進化を少し促せば、人類になるのではなかろうか?
やってみよう。
進化しそうな生物にプラーナを当ててみる。
うむ、人っぽくなったな。
他の力でもやってみる。
マナだとちょっとひょろっとした耳の長い、エルフっぽいのが生まれた。
プリマ・マテリアだとずんぐりした、ドワーフっぽいのが生まれた。
おお! 完全にファンタジー!!
今日は記念日だ! 人類発生の記念日だ!!
俺はこの結果に満足した。
ちょっと疲れた、今日は休むことにしよう。
# RUN HEAVEN AND EARTH
神はエラー無しと見て、よしとした。
神は四日目08:26:10にログアウトした。
~神は人類に言葉を発せられた~
神は四日目12:35:17にログインした。
体の癖はなかなか抜けないらしい。三時間程度で起きてしまった。
死んだ後は眠くならないので気がつかなかったが、転生してからは普通に睡眠欲がある。
だから、寝るのだが今のように三時間程度で起きてしまうのだ。
会社勤めのとき毎日三時間程度しか寝ていないので体がそうなってしまって、長時間眠れなくなるっているようだ。
まあ、本当に体調が悪くなれば休養のしても良い。皆が働いているときに休む、自由とはそういうものだ。
さて寝る前の続きをみるか。
むう、原始時代だな。
まだ、火も無いからそれ以前か。
道具も作れていないな。
狩りの手段は……投石かよ!?
しかも結構戦果があがってる!?
なるほど、ほとんどの動物は遠距離攻撃を持たないものな。
一方的なら防御が紙でも問題ないか。
お、打製石器じゃね?
生のまま肉食ってんなー。腹壊さないのかね?
言葉もまだ無いのか。唸ってるだけだな。
しっかし皆、随分警戒しまくってんな。
まあ、防御皆無だとそんなもんか。
あ、グリフォンが飛んできた。
あ、人間に見つかった。
な!? と、投石で倒した!?
弱わっ!? グリフォン弱い!?
えええ、幻想が崩れたー。
あああ、グリフォンが食われるー。
え、エルフも見てみるか。
お、やっぱ森の中に暮らしてますな。
原始人エルフは中々に絵になるね。
こっちも武器は投石ですが……
ふむふむ、森の中に潜んで獲物を待ちますか。
ぺ、ペガサスキター。
に、逃げてぇ! ペガサス逃げてぇ!
ああ、投石の餌食に……。
やっぱり食べちゃうのね。生で。
ど、ドワーフは?
洞窟ですか、イメージどおりです。
なるほど、こちらも武器は投石ですか。
投石祭りですな。
むむむ、やはり獲物は生で食べますか。
……原始過ぎね? 皆。
何で皆投石なんだよ!!
槍とか斧とか作れるじゃねぇえか!!
ちったぁ工夫しろよ!!
打製石器でナイフっぽいの作ってんだからさ!
いや、投石で倒せるなら必要ないか。
なんだろう、ファンタジーなのにファンタジーじゃなくなる。
原始時代ファンタジーは新しいな。
これで、これは見ごたえあるが、神話生物が投石で倒されるのは見たくないな。
言葉が無いようだから、様子を見ながら準備していく。
言語体系の創造って難しいな。
む、皆移動し始めたな。どうしたんだ?
言語を創ってる最中に人族が大移動を始めたのだ。
エルフも、ドワーフもか?
どうしてだろうか、考えると人族の前にワイバーンが出てきた。
ああ、投石が効かない生物が出てきたのね。
どの種族もそれぞれに天敵が出てきた。
人族はワイバーン、エルフ族はヴェノムスパイダー、ドワーフはロックワームか。
ワイバーンは強いな。石が鱗に弾かれるのか。
あ、子供が食われた。仲間に親が押さえつけられてるな。助けに行っても犠牲になるだけか。つらいな。
これはきつい。目の前で食われても何も出来ない。
言葉が無いが親の情、仲間の情は皆持ってるな。
住処を片付けてるな、旅の準備か。
長旅だな。脱落者も居る。
脱落者が出るたびに皆、泣いてる。
あ。三種族が出会った。
出会いは石探しですか。
採石場で驚いてますな。
一端皆それぞれの集落に戻って報告ですか。
緊迫したご様子です。
でも言葉が無いのでヤバイのが居た、位しか伝わってません。
全員武装(投石)準備して進撃ですか。
うむ、全種族、全員が一堂に会しましたな。
殺気立ってます。
よし! 言うなら今でしょ!!
「皆の者、静まるのだ。戦ってはならない」
お、天からの声に皆動揺してますな。
「神の子らよ。争ってはならぬ」
全員が注目してる。
「汝らに言葉を授けよう。慈愛に満ち、助け合うがよい」
#service logos.exe start
言葉を授けると皆、驚きの言葉を上げた。
「汝らに、火を授けよう。身を守るがよい」
#create fire.exe
木切れが燃え上がり、皆驚いて火から離れたが、その暖かさに喜び、天に向かって祈り、感謝の気持ちが伝わってくる。
「産めよ、増やせよ、地に満ちよ」
俺はそれだけ言うと彼らとのコンタクトを一時切った。
彼らは新たな武器、火と言葉と共に戦っていくだろう。
# RUN HEAVEN AND EARTH
神はエラー無しと見て、よしとした。
神は五日目1:55:07にログアウトした。
後半へ続く。