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第5話:俺、生まれ変わったら自営業になるんだ。

 恐らく時間を空けているのは、俺に考えさせるためのブラフ(はったり)だろう。

 俺が自分の考えに右往左往して、疲弊するのを待っているに違いない。

 もしかするとこの空間自体が世界の時間の流れと、切り離されているかもしれない。


 さてどうしよう。

 十三億なんて、もう使いきれるもんじゃない。

 いっそのこと神にでもなるか? たぶんそれは相手の思う壺だろう。

 俺の世界に転生者を送り込まれ妨害工作をされるか、敵対組織が出来てすぐ消されるに違いない。

 あるいは俺を利用して、自分のポイントを稼ぐつもりかもしれない。

 それが一番マシで両方にとってよい結果だが、出る杭は打たれるのが基本だ。


 恐らく神々は人間が神になることを許容していない。

 でなければ彼女が己の分身を賭してまで俺を奪取する理由は無かったはずだ。

 彼女でなければ他の誰かがやっていただろう。

 あるいはそれら全てが失敗して、彼女がやることになったのか。


 しかし何故、四冊の冊子を俺の前に置いたのだろうか?

 詳しく読めば転生のルールの裏側を想像するのは容易だろう。

 神の絶対強者としての余裕だろうか?

 それとも暇をもてあました神々の遊びとでも言うのか。

 あるいはそれを想像することも罠なのか。 


 眠くならない頭で延々と考えること数日。

 営業日が来たようだ。

 バイト天使が舞い降りてくる。

 今日はピンクの水玉模様だ。

 唯一の癒しを堪能する。


「お待たせしました」

「う、うむ」

 とりあえず挨拶をする。

 それっきり会話が無い。

 黙ってると向こうから話しかけてきた。


「大事なお話があります」

「な、なんだ?」

「我が主様があなたにお会いしたいと、仰っておられます」

「…………わかった。会おう」

 抵抗しても無駄だだろう、相手は人外の化け物の飼い主だ。


 バイト天使は何かを呼び出したようだ。

 バサバサと羽の音が聞こえる。

 空を見上げるとそこには異形の生物が居た。


 大きさは象ほどもある、顔は馬、(たてがみ)をもち、翼は蝙蝠、体表にはうろこが生えている。

 キイキイと甲高い声で鳴くその奇怪な鳥は、彼女の言うことを理解しているようだった。


「この鳥はシャンタク鳥、主様のものにございます。それでは行きましょうか」

 彼女に引っ張り上げられ、シャンタク鳥の背に乗るとバサバサと羽を動かし上昇していく。


「ひえええええ」

「しっかりつかまっていてください。振り落とされますよ」

 情けないがバイト天使ちゃんにしっかりと抱きついて、振り落とされないよう必死になった。

 だが、その心配は無用だった。この怪鳥の滑空は静かだったからだ。

 あたりを見回す余裕が出来るたが、景色は相変わらずの草原だった。


 しばらくすると、草原にぽつんと建物が見えた。

 それはギリシャやローマの神殿を思わせるような作りだった。

 そこが目的地のようで、怪鳥は静かに降り立った。

 バイト天使ちゃんによって下に降ろされる。

 シャンタク鳥は入り口のそばでくつろぎ始めた。

 バイト天使にその横を通り建物に入るが、彼女は建物に入らなかった。

 俺一人で行けっての? 誰か助けて!!


 覚悟を決めて奥に行くと、中には浅黒い男が居た。

 服装は古代エジプトの神官服だ。

「私の隠れ家へようこそ。K-645963、もっと早くあいたかったのだが、こちらにも都合があってね。すまなかった」

 美声、思わずかしずきたくなるような雰囲気がある奇妙な男だった。

「草原には俺一人しか居ないと思ったよ。あんたは神様なのか? 随分と想像していたのと違うな」

「ふはは。どうせ白髪でひげを伸ばした老人でも想像したのだろう? そういう神もいるがアイツと手を組むのはやめておいたほうがいい」

「なぜだ?」

「負けそうになると逃げるからだ。くははは」

 侮蔑の笑い。

 ひときしり笑うとまじめな顔で言う。

「さて、今回は災難だったな。まあその分面白いことになりそうでうれしいよ」

「こっちは小市民なもので、内心ガクブルです」

「ふふふ。まあ、そう怖がるな。別にとって食いはしない。私は、だがな」

 メッチャ怖いです。アンタ以外ならとって食うってことじゃないですかー! やだー!


「コロンブスの卵は知ってるだろう? あの話で重要なのは何だ? 卵の鮮度か? それとも卵の形かな?」

「そりゃ、初めにやったことだろう。卵の一部をつぶしてテーブルに立てたんだ」

 いきなり何の話だ?

「そうだ。ではコロンブスの卵を常にやり続けるにはどうしたら良い?」

「………………話を知らないやつのところに行く?」

「近いな。その場に居る全員の頭を卵のように叩き割って、初めからやり直す、だ」

 ひいいいいいい。この人(?)イッちゃってるーーーーー!?


「まあ、この場合叩き割られるのは、卵でも頭でもなく貴重な世界だがな」

 ……まさか。俺は自身が関わらないうちで、最悪のパターンを思いついた。

「君もやっただろう? あれは不幸な事故だった」

 訂正、俺も関わってた。

 嘘だろ……確かに儲けられるけどよ。幾らなんでも乱暴すぎるだろ。

「そうだ、新しい世界に転生者を送り込んで、世界を引っ掻き回す。それこそ相当なものだろう。君ほどではないが、稼げることは保障するね」

「そうやって粗方、世界を開発してから、全部壊して初めからやり直すのか?」

 俺の答えに満足そうに答える浅黒い男。

「そういうことだ。天才が定期的に現れ、技術はつつがなく革新する。歯車で計算する技術者も、頑固で家族思いで仲間思いの職人も、他人の利益なら全てを壊す商人も、新技術に戦慄し暗殺者を仕向ける為政者も、新しい概念に恐怖する市民も居ない。はっきりいって異常だ」

「…………」

「奴らは新たな神が現れるのを嫌う。既得権益というやつだ」

「転生のスポンサーが増えれば、その分自分が得られるポイントが減るからか? まるで資本主義だ。既存の技術を未開世界に押し売りするのか」

「そう、そしてそれらは陳腐化している。私なら計算機関には電気回路より階差機関ディファレンスエンジンを推すよ。その程度の発想すらない」

 そりゃ枯れてる技術の方が良いだろう。

 なんかトリックスターみたいなヤツだな。


「俺にどうしてほしい?」

「君は自分で答えを言っただろう?」

 にやにやと意地悪く笑う神。

「十三億四千六百一万七千九十六の転生ポイントを使って幾多の世界を渡り歩き、その世界独自の『何か』を探し出し、それを用いて活路を開け。まあ新たに世界を作るならそれもまた好し。あがいて見せろ人間」

「ノーヒントでゲームを攻略しろって?」

 あっさりとヤツは頷いた。

 マジか。


「奇跡の一端は君が見せた。その世界独自の技術にホンの少しの知恵。それだけで人の成し得ぬ『偉業』を成したのだ」

「俺は何にもしてないぞ!! 買いかぶりすぎだろ常考」

「あの子とて最初はただの小娘だ。修練の果てに人の身を捨てた」

 俺にもそうなれと?

「……ブラック企業よりヒデェ」

 思わず出たつぶやきに自称神はケタケタと笑った。

「はははは。問題はあるまい。死んでも生まれ変われるのだからな。それに……」

 俺に顔を近づけて耳元でささやくように言った。

「クビには絶対にさせんぞ? クビにならなければ死なんのだろう? 安心しろ最低限は助けてやる」

 ……もうやだ。

 俺の人生、ハードモードだな。

 唯一の救いはコンテニュー無限と、強くてニューゲームくらいか。

 アレ? イージーモードじゃね?


「さて、後はあの子に任せる。何をするかはお前たちで決めろ」

「丸投げデスカ……」

「くははは。私はしばらくこの神殿から離れる。あとは君の自由にしたまえ」

 俺は笑い声を聞きながら消え去る神を見送った。


 こんだけのことなら別に俺じゃなくても、それこそチートを何人かに渡して探させりゃ済むことだろうに。

 何を探せというのか……

 うーむ。何でも出来るというのは結構大変だな。


 よしここは思い切って、一億ポイント使って創造主になろう!


 まあ、これで他の転生者が送り込まれたり、天使が来たりしたらよく観察して対策を練りましょう。

 こっちは初心者だ。百選練磨の神々を相手にするならドカンと一発デカイのをやって見せましょう!


 おれ自身が消されることはたぶん無い気がする。

 浅黒い顔の神様が最低限守ってくれるからどうにかなるだろ。


 オリジナル世界の運営者だな。

 いうなれば自営業だ。

 俺、生まれ変わったら自営業になるんだ。


「転生先は、お決まりになられましたか?」

 いつの間にかバイト天使がそばに居た。

「おう! 決まったぞ! 俺は異世界の創造主になる!」

「そうですか。それでは契約書に母印をお願いします」

「うむ! よきに計らえ!」

 ささっと契約して転生する。

 すると何かこう、俺の体にエネルギィが満ちていくのを感じる。


「ふおおおおおお! みなぎってきたああああああ!」

「それはよかったですね。我が主様もお喜びになるでしょう」

 バイト天使ちゃんの相槌に俺はふと気になることがあった。


「なあ、あの神様の名前ってなんなの?」

「我が主様は名前を沢山お持ちですので、答えられません」

 ちょっと残念。

 そんな残念な思いを胸に意識は薄れ、俺は転生をはたしたのだった。



*真っ暗闇だ!!*


 目が覚めた俺は真っ暗な世界に俺は居る。

 ああ、そうか俺が創造主だもんな。

 俺が創造しないと何も無いもんな。


 どうするか……

 ためしに世界っぽいものを思い浮かべた。

 するとモヤモヤと何かが出来始める。

 たぶんこれが世界じゃね?


 よし! うまくいきそうだ!

 俺は一つのアイディアを思いついた。

 いろんな世界を作ってつなげれば最強じゃね?

 それぞれに法則が異なる世界で互いに行き来できたら面白くね?


 そんな世界の形を思い浮かべていくとモヤモヤがいくつも出てきた。

 それを引っ掴んでくっつけてみる。

 すると一部がくっつく。

 おー! おもしれぇ!!

 俺はガシガシとプラモデルでも作るかのごとく世界を作っていった。

 

 どのくらい時間が経ったのか解らないが、相当な時間が経過したと思う。

 それぐらい夢中になっていたのだ。

 その分出来は保障できると思う。

 俺の自信作だ。


 中心に大きな世界をすえて回りに八つの世界を配置しました。

 中心世界から放射されるエナジー(仮)によって周りの世界が活性化していくのです!

 いや、俺の技術不足でエナジー(仮)をここの世界だけで回せなかっただけだけどね。

 これはこれで良いと思うだろ?


 よーし、世界創造は終わった。

 今度は世界運営だ!

 なので今日は休む。

 疲れた……しばらくは見守ってやばくなりそうなら手助けをしよう。

 そうしよう。

 俺は出来立ての世界の隣に座って、眺めることにした。

次回は週末を予定しております。

感想をお待ちしております。


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