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第4話:どうしてこうなった?

「おめでとうございます。十三億四千六百一万七千九十六転生ポイント獲得しました。プラスカルマ九千四十三ポイント、マイナスカルマ八千五百五ポイントです。文句なし堂々一位です。新記録更新です」

「どうしてこうなった? ほとんど何も覚えてないんだが?」

 笑顔でポイントを告げるバイト天使に、俺は体育座りで聞き返した。


「というか俺は何もしていないような気がするんだが? せいぜい覚えているのは、固めプレイで永遠に等しい時間、苦痛にのた打ち回ってたような記憶しかないぞ?」

「まあ、イケニエにされた様なものですね。ですが、世界はあなたを中心に回りました。そのためポイントが発生します。モニュメント的な何かにされるという前例は、無いわけではありませんが、宇宙の終焉まで居たというのは、中々ポイント高いですね。確実に歴史に残りましたよ?」

 その言葉に俺は爆発した。


「ふざけんな!! 俺はもっとズバーンとかドギャーンな感じで活躍したかったんだ!!」

「知りませんよ、そんなの。私も努力しましたが、挽回できず散々でした」

「挽回ってなにを?」

「行き過ぎた科学による世界滅亡を止めようとクーデターを起こしましたが、今一歩努力実らず、マイナスカルマ五百二ポイントというところです」

「過激すぎるよ! もっと温和な手は無かったの?!」

 五百ポイント、世界を敵に回して引っ掻き回すレベルじゃねぇえか!!


 ため息ついたバイト天使は首を振った。

「無いからそうしたんですよ。あったらとっくの昔に使ってました」

「えええ……どんだけひどかったの? 状況がよくわからないんだけど……」


 するとバイト天使はどこからともなく黒板を出現させて、教師よろしく説明を始めた。

「まず、貴方は田舎の農民の五男三女の末娘に生まれました。記憶を持ち越しておりましたので、農業における様々な改革を、助言という形で実行したようです」

 ちょ!? おまっ?! 俺、女に転生してたの?!

 でも俺は驚きを隠して話を聞く。

 動揺は悟られてはならんのだ。

「じゅ、順調な滑り出しだな」

「ですが、家族との仲はあまりよくなかったようです。利発というより気味悪く思われ、敬遠されていました」

 ……ダメじゃん。orz


「そのため、神童という噂を聞きつけた教会に保護され、そこで活動することになりました」

「おっ! それは理解のある良い教会じゃないか」

「ですが、それは貴方の知識のみを利用するためでしかなかったようです」

「おいこら! ドウユウコトダヨ?!」

「もっとありていに言えば、実験台のモルモットがほしかったといいますか」

「ヒデェ! 宗教ヒデェ!!」


 ……再びダメじゃん。orz


「実験の内容といたしましては、精神感応水晶石を利用した情報集積装置の開発ですね」

「…………なにそれ?」

「まあ、クリスタルに閉じ込めた人間の知識を、自由に引っ張り出す装置と思ってくだされば結構かと」

「じゃあ、初回から大成功じゃね? 俺、チートで全知識とか入れてたじゃん」

「はい、そのため教会は、その知識を使い一気に急成長しました」

 やったね知識チート大成功……なわけあるか!!


「急成長のせいで教義が歪み、環境の悪化が促進しました。そのため私が警告をいくつか発したのですが……」

「もみ消されたわけだ。それでクーデターにつながるわけね」

「そうです、もうちょっと仲間が居れば勝てました」

 冷静だなこの子。

「最後は自爆してポイント稼ぎました。結構良い稼ぎになりましたね」

 訂正、冷酷だなこの子。


「まあ、それで世界は滅んだわけだ。滅亡を回避できなくて。でもそれだけだと十三億とかふざけた数字にならんだろ?」

 計算上だとせいぜい五万くらいじゃないか?

 どんな要因があったんだ?

「ここからが大スペクタクルですよ?」

「滅亡したのに?」

「ええ、宇宙から来たべつの知的生命体に拾われました」

「ファッ?!」

 一気にSFになったんですけど?! ジャンルはファンタジーでしょ?!


「宇宙の全知識を収めた情報クリスタルを中心に、宇宙大戦争が勃発するんです」

「スケールデケェ!!」

「手にしたものは全てを得る、秘石『愛娘』をめぐる陰謀と冒険の連続! 最後に手にするのは何者か!?」

「なにそのB級映画!? なんでそんなに熱く語ちゃうの?!」

 つーか後ろで壮大なオーケストラが鳴り響いてんですけど?!

 ここ、草原だよね?! どっから鳴り響いてんの?!

「銀河連合司令本部の本部長の役で頑張りました。『愛娘』を奪取して世界征服を目論んだまではよかったんですが、初めに『愛娘』を発見した探査隊の隊長さんに殺されました」

「なに映画のラスボスやってんだよ?!」

 ツッコミが足りない。誰か助けて!!


「そして、所有者は移り変わり、そのたびに栄枯盛衰が繰り広げられ、最終的には全てが滅びました」

「……へぇ…………」

 一へぇ。


 ここまでで黒板には何も書かれていない。出した意味があるのか?

 しかも説明終わったら仕舞っちゃったし。


「そのため十三億という莫大な転生ポイントになりました」

「よくわかった。俺は運が悪かった」

「まず、転生した世界に、超能力があったのがまずかったですね。それ用の道具も結構用意されてましたし」

「もういいよ。滅んだのなら興味ないし。尺の半分も使って説明しなくてもいいよ」

「メタりますね」

「メタらせてんのはテメェだろ!!」


 はぁ、疲れた。

「とりあえず、俺にポイント委譲してくれた人たちにポイント返してくれる?」

「立ち直り早いですね。了解しました。三千ポイント委譲します」

 どこからともなく書類が出てくる。

 俺は慣れた手つきで捺印する。

「残り十三億四千六百一万四千九十六 転生ポイントですが、いかがなさいます?」

 ……一万でもチート能力手に入るのに十三億ってもう何でもありだろ。 

 世界を一つ滅ぼしました、ではご先祖様には顔向けできん。

 ここからどうやって挽回しよう?

 でもその前に聞きたいことがある。


「なあ? 二位の人ってどうなったの?」

「ええと前回二位だったか方は、掛け捨てで記憶を持越しされまして、魔法の世界に転生しましたね。様々な特典をご使用になられて、大体五千ポイントほど稼がれました」

「ほほう。中々ですなぁ」

「満足したご様子で再度掛け捨てで記憶を持ち越したまま、転生先を家系までご指定されて、転生なされました」

「ふうん、どこに?」

「ご自身の子孫ですね」

 うらやましい。きっと美人の奥さんだったんだろうな。

 俺も頑張るか。


「特典を見ても良いかな?」

「どうぞ」

 『転生マニュアル 其之参 ~特典一覧~』がバイト天使から手渡された。

 流し読みをするが特にほしい能力が無い。


 う~ん食指が動かんな。どれもこれも悪用されると、ひどい目にあいそうだ。

 天使サポートはこいつの特性上、役に立たないし、こいつ自体がやたらと危険だしなぁ

 クーデター勃発とか、世界征服とかどう考えても、ポイントのために手段を選びそうに無いな。

 ここで制服姿の彼女をみる。

 相変わらず紅白的な制服だ。

 かわいくはあるんだが……どこか人形めいてるんだよなぁ。

 完璧すぎる美人とか、不気味の谷現象かもしれん。


 確か分体がないんだよな? この子自体、もしかしてどっかの世界の女の子ってことになるのか?

 こいつの転生特典を参考にするってのも悪くないかも知れん。

 良いとこのお嬢様に転生してるのかもしれん。

 それであんなに営業時間が短いのかも知れんな。

 そう思うと彼女の自由になる時間があんまり無いかもしれない。

 聞いてみるか。

「なぁ? お前はどっかの世界の子供なのか? 普段は何やってるんだ?」

「はい、私は……」

 彼女から聞かされたのは驚愕の事実だった。


「はいいいい?! お前、そこはエリート校じゃねぇか!!」

 ミッション系の私立学園、俺でも知ってる超エリート校でした。

 十三歳って、年の割には小さくね? この子。

「はい、日々の信仰が我が主様に認められ、様々な仕事を仰せつかっております」

 どうやら基本スペック自体が俺と全然違うらしい。

 勉強とか色々忙しいんだろうな。

 他の姿を見たこと無いけど彼女は彼女で苦労してそうだ。

 不思議と嫉妬は起きない、昔なら「このエリートめが! 就職浪人になってしまえ!!」とよく嫉妬したものだが……

 やはり十三億の余裕はパネェな。


「むむむ」

「あ、そろそろ時間ですので、失礼させていただきます。次回営業日にお伺いさせていただきます」

「おう、お前も勉強頑張って俺みたいになるなよ?」

 なぜかその言葉にばつが悪そうにしてるバイト天使。


「就職先、決まってます……家業を継ぎますので……」


 ……うん、財閥とかの娘さんなのね。

「転生ポイント奮発してるね。キミは倹約してるのかと思ったけど、結構豪遊してるんだね」

「いえ、ランダム転生です」

「なん……だと……」

 ありえん、なんでこいつそんなに恵まれてるんだ?


「そ、それでは失礼します」

 俺が呆然としている隙を狙って、空に上っていくバイト天使。

 今日はウサギさんパンツでした。

 それで全てを許した。


 さて、どうするか?

 知識チートで盛大にやらかした後だと、全部が霞んで見えてしまうなぁ。

 転生特典を読むとほとんどの項目が買い取れるんだよなぁ。

 一番高いのは異世界の最高神、もしくは創造主か……百億ポイントはさすがに買えん。

 掛け捨てで一億ポイント……十三回神様になってもおつりが来るのか。

 一応収支上はプラスにはなるよなぁ。

 複数の知的生命体育てて、終焉まで居ると十億は超えるだろうし。

 しかしこれ、神様にも転生できるのか、魂のあるものは全部同じルールで作られているというのも面白いな。

 俺は転生約款の神様のルールを好奇心から読み始めた。


 うむ? これ、神様だと誰かをチート転生させることも出来るんだ。

 しかもそれで発生した転生ポイントは、自分がある程度もらえるのか。

 なるほど、そうやって転生ポイントを稼がせて自分もおこぼれに預かるわけだ。

 俺がちょっと世間を騒がせて、日本の法律をちょっと変えただけで五十なら、魔法チートなら掛け捨てでも十分に元が取れるわけだ。

 否応無く世界が注目する。


 ふむふむ、転生の仕組みがわかってきたぞ。

 神様は自分のポイントで現代人にチートを与えたり、出生先を選んだりして転生契約を結ぶ。

 現代人が異世界で現代知識チートをすれば、ポイントが加算される、そんで死んだら発生した転生ポイントの一部を契約に従ってもらうというわけか。

 現代人は自分のポイントは一切使わず、他人のポイントでチートを満喫できるわけだから不満は無いはずだ。

 なにせ来世で好き放題したいなら現世で相当大暴れしなきゃならん。

 カルマの問題もあるから特典は自由には選べないしな。 

 これは俺の家系がおかしかっただけだな、こつこつとポイントを貯めるなんて誰もやらんだろう。

 普通は来世しか考えないだろうし、買い取りがバカ高いからな。


 こうなると初めに読んだ、サポート天使がサボったら罰があるってのは、主の転生ポイントに損害を与えないようにするためってことなのか。

 よく読むと普通の契約でも、いくらか神様に持ってかれてるようだな。

 神様ってのは転生させる能力でポイントを稼ぐのか。


 富める者はさらに富み、貧乏人は貧乏のまま。

 さしづめ転生資本主義というやつか。


 となると俺のサポート相手が恐ろしく能力の高いやつで、それ以外の天使が営業に来ないのは、バイト天使の上司に目をつけられているってことか?

 うがった見方をすれば、サポートがろくに出来ない天使なのは、『俺にサポート特典を購入されて確実に転生ポイントを稼がれると困る』ということなのかもしれん。


 俺が知識チートをしたところで精々二千ポイント程度だったはずだ。

 知識チート分程度しかポイントを取ることが出来ないはずだった。


 人の一生なんてそんなものだ。

 仮に長命種であっても、寿命一万年を超えるものはめったに居ないだろうし、そういった種族が転生ポイントを稼ぐというのは結構なハンデがあるはずだ。

 生きた分よりリターンが少ないことは予想できる。

 コストパフォーマンスの問題だ。

 しかも数が少ないし、魂の器がデカイからポイントを多く使う羽目になる。

 魂を大きくする方法が書かれていなかったのも納得だ。

 簡単にポイントを稼がれてしまうからだ。


 俺は空を見上げた。

 青い、深い青さだ。

 やっちゃった。やっちゃったよ。

 やべえよ、お偉いさんに目をつけられた。

 悪目立ちしすぎた。

 間の悪いことに、記憶持ち越しを買い取っちゃってる。

 これ、映画だったら「お前はやりすぎたのだ」とか言われて刺客を送り込まれてるところじゃね?


 もしかして、あの子がクーデターとか、クリスタル奪取とかしたのって、これ以上ポイントを稼がせるのを妨害しようとしたのか?

 もしやバイト天使は『転生ポイントを稼がせるのを妨害する』のが本来の役目なのでは?


 いかん、考えれば考えるだけ深みにはまっていく。

 俺は人の一生で得られる転生ポイントをはるかに凌駕してしまった。


 そして俺は気づく。

 これは転生ポイントなんて謳ってはいるが、実際は神のためのルールで、人間をこき使うためのルールなんだ。

 人間が儲けることを想定なんてしていない。

 目の前ににんじんをぶら下げて、馬を走らせるのとどこも変わらない。

 暖かく心地よい草原なのに、背筋が薄ら寒くなった。


 世界の真実に恐ろしく近いであろう想像をしてしまった。

 そして、俺はもう後戻りが出来ないところまできてしまった。


「どうしてこうなった」

 呆然と立ち尽くした。


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