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第3話:うん、歴史には残ったね。

~ある母親の回想~


 はい、あの子のことですか?

 ええ、少し他の子と違うところがありましたが、よい子でしたよ。

 夜鳴きもほとんど無くて他の兄弟、姉妹たちと違って手間はかかりませんでしたね。

 その分あの子とふれあう機会も、少なかったように思います。

 賢い子でしたが変わっていましたね。

 私が忙しいのが解ってるのか、一人で遊んでいるのをよく見ました。

 他の兄弟、姉妹たちとは一緒に遊ぶことは少なかったようですね。

 仲が悪いというわけではないのですが、あの子は興味が無いという風でした。

 あの子が育っていくにつれて、奇妙な言動が目立ちましたね。

 当時は気味悪く思いましたが、それでも実益があったので、彼女との接触は必要最低限に留めていました。

 やがてあの子の噂を聞きつけ、教会の方々が来て彼女を引き取るといったときには、どちらとも賛成をしました。

 彼女は自分の価値をこの村と家族にではなく、教会に見出したようでした。

 そこから先は知りません。

 ただ、教会が以前にも増して私たちの生活に関わるようになっただけです。

 今や教会の『商品』抜きには、生活が考えられないほどになりました。

 私は悩んでいます。

 彼女を手放したのは間違いだったのではないかと。

 いえ、金の卵を産む雌鳥という意味ではありません。

 世の中に化け物を解き放ってしまったのではないかと、そんな気持ちでいっぱいです。




~とある商人の愚痴~


 へっ!

 なんだいありゃ?

 まるで魔法みたいじゃないか!

 物を冷やすランプなんて見たことねぇぞ!?

 おかげで俺の仕入れは全部ゴミになっちまった!!

 誰が好き好んで固い干からびた魚なんぞ買うかい!

 獲れたて新鮮な魚を買うに決まってるだろうが!


 あぁ? ランプで冷えるわけねぇって?

 俺もそう思う。

 だけども、だ。

 あのランプが……たぶん銅だと思う、その複雑に曲がった銅棒の一部を温めるとだな、温めて無い方が冷たくなってやがるんだ。

 俺が思うに、あのランプに魔法がかけられてるんだよ。

 その魔力で物が冷えちまうんだと思う。

 

 もう俺の商売は教会にとられちまう。

 他にも煙を吐く、馬の居ない馬車。

 油の要らないランプ。

 こんな魔法ような品物を教会が専売してやがる。

 大手の商人も咬めなかったみたいで、悔しがってたな。

 そこだけはスカッとしたぜ。

 あいつらときたら、俺たちの足元ばっかり見やがって買い叩くから、同じ目にあっちまえ!!


 しっかし、教会の奴らはどんな職人を捕まえたのかねぇ?

 こんなに均一に同じ形の商品を、大量に素早く作っちまえるやつなんて、俺はシラネェ。

 よほどの化け物に違いねぇな。

 教会は悪魔と契約でも結んだのかね?


 さて、俺も田舎に帰って畑でも耕すか。

 食いもん作ってるウチは飢え死にしねぇだろうしな。

 父ちゃんと母ちゃん元気にしてっかな?

 帰ったらこの話、信じてくれるかな?

 嘘だと思われるだろうなぁ。

 まあ良いか、笑い話は多いほうが良い。




~のんびりした田舎者おのぼりさん


 はぁ~。

 びっくらこいたべや。大聖堂ってぇのはでっけぇべ!

 そん中にはでぇけぇ氷があるんでべさ

 水晶だっけか? あれ融けねぇんだべか?

 氷みてぇなんだけんど、氷じゃねえんだべ


 驚くのはそこじゃねぇんだべ。

 その氷の中に女の子がいるんだな、これが。

 もう、すんごく苦しそうな顔してるんだべ。

 その周りで神父さんやらシスターさんやらが一生懸命お祈りしとるんだけんど。

 全然、女の子の顔が穏やかになんねぇんだべ。

 オラもかわいそうだでや、お祈りしようとしたら、怒られちまった。


 なんでも、救済の少女を救う祈りは、ちゃんと修行した人で無いといけないんだと。

 難しいんだなぁ。

 オラには祈りのことはわかんねぇべ。

 そんなに違いがあるんかな?


 まあ、謝ったら許してくれたし、皆にお土産でも買って帰るべか。




~神父様のありがたいお言葉~


 信者諸君!

 救済はなされた!

 全ての『罪』は救済者が背負われになられた!

 信ずるものは救われるのだ!

 見よ! 救世の聖少女の苦悶の業を背負う姿を!


 神を信じよ!


 手を差し伸べよ!


 さすれば汝、救われん!

 奇跡を見よ!

 神よりもたらされた奇跡を!

 富める者は寄進せよ!

 浄財は更なる救済のために使われるであろう!


 汝らの周囲を見るがよい!

 我等の神の奇跡が汝らの手助けをしているのを見るがよい!

 これぞ救済の証である!


 神を信じよ!

 さすれば救済の手は差し伸べられん!




~クーデターを起こした人のコメントVTR~


*どこかのマンションらしき一室、後ろには扉がある*


 やっほー。

 見てるー?


*中性的な少年が笑顔で手を振っている*


 とんでもないことになっちゃったね。

 僕だってこういう事したくないんだけどね?

 こうしないと皆が住めるところなくなっちゃうよ?

 警告だってしたし、学術的資料もたっぷり用意して科学的な証拠も集めた。


*ため息をつく少年*


 それをみ~んな灰にしちゃったのは、君たちじゃないかな?

 ここで失敗するともうダメなんだ。

 取り返しがつかなくなっちゃう。


 なぜわかるのかって?

 『僕』から『僕』に警告があったんだ。

 『あの僕』は科学者で環境工学を専門にしてるんだって、だから『この僕』に警告をしてくれたんだ。

 よくわからないかな? うん、説明はしにくいから一言だけ。


『全にして一、一にして全』


 ヒントはこれだけだ。

 しっかし、『彼』の意気込みをここまで台無しにするなんて、バカの極みだね!

 『彼』はこんなことのために生まれ変わったわけじゃないと思うよ?

 まあ、彼の目標は達せられたかな?

 うん、歴史には残ったね。間違いなく。


 前代未聞さ、神様もびっくりだね。


 僕も結果を残したかったけど、失敗かぁ

 もうちょっと仲間が居れば、いけたんだけどね。

 宗教ってのは中々手ごわい。

 『僕』には修道女も居るからね、よく知ってたけどね。

 まあ、それでもこの状況下なら上出来かな?

 自分を誉めたい気分だよ。


*ドンドンドンとドアが叩かれる音、怒声が聞こえる*


 ああ、もう時間切れか。

 しょうがない、さようならだ。

 拷問はされたくないしね。

 じゃね~!


*少年は手に持ったスイッチを押す*


*爆発音とともに画面が乱れ、消える*




~買い物に来た人~


 最近、息苦しくてしょうがないからね。

 空気の中に『罪』が増えてるってんで『教会』が売ってる『罪から守る呼吸器』を買いに来たのさ。

 それに水も最近は高くなったよ。

 なんでも『罪』を浄化するのにエライ手間がかかるんだと。

 え? どうしてこんなことになったかって?


 かなり昔に『とある少年』が神様に逆らったもんだから、『罪』が生まれたんだと。

 それで教会は『罪』から私たちを守って浄化するようになったんだってさ。

 でも『罪』がだんだん浄化しきれなくなったんだと。

 今じゃ『罪』が深すぎて住めない土地もあるんだとか。

 嫌だねぇ。


 まったくとんでもないことをした『少年』もいたもんだ。

 ぶん殴ってやりたいよ。

 

 ああ、また『罪』の混じった雨が降ってきた。

 雨宿りしようか……

 アレにあたり続けると『罪』に染まって死んじゃうからね。

 ああ、嫌な世の中になったもんだ。

 『あの少年』のせいで……




~終末の手記~


 もう時間が無い。ここに残す記録は後世に伝えるものではなく、己が生きた証を残す自己満足のためにある。

 もし願わくば宇宙の深遠よりきた者達か、他次元よりきた異世界人か、あるいはこの地で再び発生した知的生命体がこれを読み、彼らへの警句とならんことを!

 我々が滅んだ理由は、至極単純なものだ。

 恐らく、この手記を見るよりも早く『アレ』を見ているだろうから、『アレ』が何であるかは知っているだろう。

 だから『アレ』の意味はここでは語らない。

 中身を語ることにする。あの中に入っているものは、我等の種族の幼年期の雌だ。

 ひどく突き放した書き方をしている。これは他の知的生命体に読まれることを考慮してのことだ。

 翻訳の際に、親愛表現がうまく翻訳されないのを危惧している。


 そして、中身は我々が滅んだ遠因でもある。

 『アレ』の存在を許容してきたこと自体が、ありえないことなのだ!

 そうだ、我々の文明は『アレ』を抜きにしては考えられない。

 そして『アレ』のせいで歪な成長をしてしまったがゆえに滅んだ。

 私はそう結論づけた。


 『アレ』に関しての資料は大量に見つかるだろうし、この書斎にもある。

 その機能はもっと簡単にわかっているだろうから割愛する。


 我々に足りなかったのは『概念』だ。

 これが滅んだ理由だ。

 ある生物の一群が多様性を持たないと、一種の病原菌でたやすく滅んでしまうように、我々には『多様性』が足りなかったのだ。


 『概念の多様性』、それがどのような性質であるかはわからないが、少なくとも一人の人間を、永遠に世界の犠牲として全員が決定することを是とするものではないことは確かだ。

 こうして誰も居なくなった後で、思索にふけると『概念』というか『信ずるべきもの』が一つしかなかった、というのは不幸なことであったのかもしれない。


 生まれたときからの常識が、容易く崩壊していくのを見ると全てが信じられなくなってしまう。

 だからこのような考えが生まれたのだろう。

 古い文献をあさって見つけた単語『異端』がこの状況下では薄ら寒くさえ感じる。

 その『概念』すら我々は表すことすら出来ないほどだったのだから。

 ここで私がそれをあらわすことが出来たのは、秘匿された資料と相当量の時間があった幸運でしかない。

 だから私はあえて書こう、『概念の多様性』すなわち『宗教の……

 *ここで手記には血液が大量に付着しこれ以上の解読が不能になっている*




~ある惑星探査隊隊長の近況報告~


 ×××星系第五惑星について途中報告です。

 化学物質に汚染されていますが水が大量に存在し、大気も有害物質に汚染されていますが元の成分はさほど有害ではなかったようです。

 残念ながらほとんどの生命が存在しませんが、知的生命体の痕跡が多数発見されました。

 残された資料の一部は翻訳に成功しており、先日送付させていただきました資料に添付いたしました。

 いまだ記録等も大量に残されており、現在解読中です。

 解析班は休暇を返上して作業に挑んでいます。

 いくつかの遺跡を発掘いたしましたが、知的生命体は非常に高度な文明を保持していたようです。

 その中でもいくつかは、驚くべきことに我々よりも優れた機能を持っていたようです。

 現在、探査員たちは『愛娘』と名づけた情報クリスタルの解析を進めています。

 機能についてはほぼ全て解明されました。

 由来については現在解析中ですが、『愛娘』の機能によって他の資料が解析されていますので、近日中に公式見解を述べることが出来るでしょう。


 ここからは私見です。本部長、結論から言いますと私は『彼ら』と接触せずに済んだことが、非常に喜ばしく思えます。

 情報クリスタル『愛娘』をその目で見てもらえれば、誰もがその意見に賛同するでしょう。

 内部には恐らく、この星の知的生命体の幼体(解読資料ではそのように記述されている)が封じられております。

 そしてこのクリスタルの情報量は理論的にありえないほどの量を持っています。

 惑星間連合の最高議会図書館レベル以上であることは間違いがありません。

 私もこの目で確認するまでは信じられませんでした。

 探査員の仮説では『愛娘』が、特殊なチャネリング系の超能力者であったのではないかと言っています。

 そして我々の行う刑罰に似た、極めて原始的な結晶体侵食処置が行われ、仮死状態のまま能力を引き出されているのではないかと、推察しています。

 恐らくそれは真実でしょう。そう思えるほどの情報量をクリスタルは持っています。

 彼女は今でも生きていて、苦痛に喘いでいます。

 我々でさえ躊躇する刑罰を、彼らは幼子に平然と行ったのです!

 彼女は恐らく何も知らされていなかったでしょう、残酷なことです!

 彼らの倫理は、我々とは非常にかけ離れたものであると断言できます。

 しかも、ほとんどの文献には高度な文明が持ってしかるべき語彙が、ごっそりと抜けていました。

 まるで為政者の都合のよい様に管理された文明のように思えてきます。

 この文明が滅んだ理由は解析の途中ですが、ある程度の予測が出来ます。


 『愛娘』から引き出した情報を、為政者が都合のよいように扱い続けた結果でしょう。

 反対意見すら『愛娘』から対抗策を引き出して潰し、間違った方向に進化を続けた結果なのです。

 これらの情報は全て公開し、『愛娘』は封印処置を行うべきでしょう。

 隊員たちの中には彼女を『安楽死』させるべきだという意見もあります。

 それほどまでに彼女は危険なものです。


 彼女は一つの墓標なのです。

 我々も一つ間違えばこのような愚かな結末を迎えないとは限りません。

 今回の探査は、非常に実りのあるものでしたが、全ての知的生命体は互いに孤独であるということを痛感させられたものでもあります。

 願わくば我々が二の轍を踏まないよう、教訓となりますように。


第七期深宇宙探査計画惑星探査隊隊長より銀河連合司令本部長へ




~とある惑星探査隊長と、とある宇宙連合司令本部長との会話~


*爆発する宇宙船、火災の発生している機関部に居る二人*


「貴様! よくも私の計画を邪魔してくれたな!」

「部長……信じてたのに、なぜ……」

「ふん! 貴様にはわかるまい。これの持つ価値など。知りえるはずも無い」

「それは我々の手に余る代物です!」


*船内のどこかが爆発する音*


「ここまで来たら、もはや言葉はいらんな」

「ええそうですね」


*二人は同時に構えをとる。そして同時にぶつかり合う*




~この宇宙最後の言葉~


 我々は愚かだった。

 『愛娘』は扱いきれぬ厄災だ。

 我々は滅ぶ。

 我々だけでなく、この宇宙を死滅させてしまった。

 だが『愛娘』のせいにしてはいけない。

 我々が愚かだっただけだ。

 彼女に罪は無い。



~とあるバイト天使~


 これは、算出が大変ですね。

 ええと、カルマ計算用の資料はどちらですか?

 対照表が枠外で対応できないんです。

 ポイント加算の式も大変です。

 天界が蜂の巣をつついた様な大騒ぎですよ。

 ただでさえ一つ世界が終わって後始末に忙しいのに、こんな計算にかまってられませんよ。

 億越えなんて前代未聞です。


 え? 四人過労で倒れた? 変わりに対応しろ?

 無茶言わないでください。

 バイト料の四倍を振り込むから頼む?

 ……前もそうだったじゃないですか。

 もうちょっと手助けしてくれないと結果が出せませんよ。

 大体、土壇場になって全員居なくなって、あそこまで出来たのは上出来ですよ?

 打ち合わせと全然違うじゃないですか!

 どうして皆居なくなったんですか?

 結局、私が現地で集めた人員以外、来なかったじゃないですか!

 は? 面白そうだから見る側に回ったら、皆来ちゃった? 

 ふざけてるんですか?


 というか何で二回目は邪魔が入ったんですか?

 反体制の方がかっこいいから邪魔してみた? 

 こうなるとは思ってなっかった?

 あなた方は直接動かず煽るくせに、煽った後のこと全然考えてませんね。

 だからあなた方は下級なんですよ!!

 そっちが頼んできたから動いてるのに、もう少し担当してる仕事に責任持ってください!

 とにかくそっちでどうにかしてくださいよ。私はやりませんからね!

 中級の方に頼むなり、上級の方に泣きつくなりしてください。

 私はもう我が主様に報告しました。後でこってり叱られてください。


 給与が減る? しりませんよ、そんなの!!

 大体、過労で倒れることになったのだって……

 

*以下延々と説教が続く*

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