第20話:相手が話す気があるかは別だ。
~再び作戦会議~
蕃神とオカマ神と俺の三柱は第一世界にいる。
バイト天使は、勤務時間が終わったのでご帰宅しました。
ご苦労様です。
前に作戦会議をした喫茶店で再び会議をするためだ。
神殿は取り壊しましたからね。
まあ、オカマ神が内部を見たいと言っていたから、ついでというのもあるけどね。
「へぇ~、相当しっかりしてるわね。三系統も用意して不測の事態も十分に対応してるわね」
「恐縮です」
「実物を見るのは初めてだが、なかなか面白い」
二柱に誉められてちょっと恥ずかしい俺。
「オカマ神様みたいに世界の修復技術を高めたいです」
「うふふ、うれしい事いってくれるじゃないの」
三柱ともコーラフロートをパクつきながらだべってる。
「さて、天界デビューの話だが、実はこんなものが届いている」
「封書ですね」
「中身は君を神の集会所に招待するものだ。私を通じて君に来ている」
「あらぁ、何処でもれてるのかしらね?」
「探知能力の高い神が、偶然君を見つけたらしい」
「じゃあ、創造神がこちらに来たのもそれ経由ですか?」
「だろうな。ヤツラはおしゃべりだからすぐもれるだろう」
なるほど、知り合いにポロっと話したら、先手を打ってきたわけか。
「今度は正式にご招待だから、いくしかあるまい」
「行きたくはないですけどねぇ」
俺はしぶしぶ天界行きを決定した。
~天界いいとこ一度はおいで~
天界に来た。
「はへ~、すげぇな」
俺は天界に来て第一声を上げた。
そこは大通りで、道の両脇には様々な露天が並んでいた。
「おい、そこのあんた。神様かい? どうだこの魂、プラスカルマ百だ。世界に転生させれば安定すること間違いなしだ」
「こっちはマイナスカルマを豊富に取り揃えてるよ! これなんて元英雄の魂だぜ」
こんな感じで魂が売り買いされている。
蕃神が解説してくれる。
「自分の世界にあう魂をいれて、世界を作り変えるわけだ。調節操作しない分緩やかに変化する。お前のように自分が転生して調整するというのは中々ないな」
「ちなみにここの人たちは?」
「別世界の下級神だ。自分の担当範囲で出た魂を売って小遣い稼ぎをしているのさ」
副業ですか。魂を売る。なんとも背徳的な言葉ですな。
「サイドビジネスね。アナタみたいに誰もが世界を持っているってわけじゃないのよ。一人の神が創った世界に、複数の神が世界を管理するの」
なるほど、天使の管理職バージョンですなぁ。
つまり、エライ神の下に下っ端神、その下っ端神の下に天使という部下がつくわけですな。
いうなれば社長、部長、平社員みたいな。
まるで会社だな。
「利益を得るための集団と考えれば会社となんら変わらんな。創る気力のないものが群がっているのさ」
「創造神のお爺ちゃんのところは、それなりにやってたと思ったけど、どうしてあんなことをしたのかしらね?」
「貧すれば鈍する。つまりはそういうことだろう」
俺たちは喧騒の中でそんな話をしながら、神の集会所に向かった。
~一度来ただけで十分だけどな!!~
集会所の前である。
「……帰ろう」
「そうだな」
「そうね」
おおっ!! 三柱の意見が一致した!!
「天使殺しが!! 貴様に会う神など居ないわ!!」
「おう!! 帰れ!! 帰れ!! 貴様らのようなヤツらが、神聖な神の集会所に足を踏み入れることは許さん!!」
「偽物の招待状などを用意して、この不届き者めが!!」
そういってるのは番兵をしてる上級天使たちです。
俺らを中に入れたくないようですな。
まず初めに『この天使殺しがっ!』から始まって、相当憎いご様子。
呼んどいてその非礼はなかろう。
クイックターン!! そしてグットバイ!!
「露天で魂でも見て帰りますか」
「あらぁ、それなら私の世界を見ていかない?」
「いいですね。勉強させてください」
オカマ神の世界が気になる。
「いや、早々に帰ろう。この招待状が偽物であるならば、我々を世界から引き離す策略かもしれん」
おおっ!!? それはまずい!! すぐに帰ろう!!
「ではすぐに帰りましょう!! 大変残念ですが、見学は別の機会にお願いします!!」
「もう、せっかちさんね。あわててはだめよ?」
オカマ神と蕃神と急いで帰ろうとすると、集会所の中から神があらわれた。
だがそんなことより仕事だ!! 俺の世界が待っている!!
「まって!! ちょっと待って!! 呼んだの僕だから!! 招待状本物だから!!」
若い男っぽいのがいる。仕事の邪魔だ。
「知らん!! 仕事が待っている!! 偽物など捨てた、証拠も無い!! 急ぎましょう!!」
うおおおおおお!! 無事でいてくれ!! 俺がわるかったあああああ!!
「まって! おい! 話を聞いて!!」
「仕事と貴様ならば、俺は仕事を取る!! さらばだ!!」
「なんじゃそりゃ!?」
なんか誰かが叫んでいるが、仕事の前には個人の付き合いなど瑣末なことなのだ。
そう、俺のブラック企業に勤めていたとき、休日に友人の結婚式があったのだが、休日出勤を命ぜられたときのことを思い出した。
『キミィ、キミの友人とこの会社の利益とどっちが大事かね? キミにとってはね?』
威圧をかけてくる上司に俺は、友人と会社を天秤にかけ、会社を取ったのだ。
もう、俺は迷わない!! 蕃神の下で社畜のように働くのだ!!
「まって! お願いだ!! まってくれ!! おい、ボケ天使!! なんで追い返した!? 何を言ったらああなった!?」
誰かが叫んでるが、俺の耳には届かない。待ってろ世界、無事でいてくれ!!
俺は二柱の手を引いて自分のお家に猛ダッシュで帰った。
「あら、大胆」
「うむう、まだ前世の業を引きずっているな。鳥かごの鳥は籠を出ず、か」
~よかったなんともない~
「よかった! なんともない」
そう、そこには出かける前と変わらない世界があった。
世界は無事だったのだ。
いや、そんなに無事でもないけどな。
「あらぁ? 誰か叫んでたけど。帰ってよかったの?」
「責任があるのは認めるが不可抗力だ。三回も転生して今だ古い記憶が根底にあるなど信じられん」
二柱が何を話しているのか、よくわからないな。
「まあいいわ。じゃ修復の続きね。とは言っても今は私の仮想空間にシステムコピーが完了するまで何も出来ないけれどね」
「そうなのですか?」
「そうよ、まずはエミュレートで色々試して安全な修復方法を見つけるのよ。それから実機ね」
「なるほど」
うちの仮想空間が使えれば、簡単な修復なら出来るようになりそうだ。
「あと、アナタに教えておくけど、私がするのはシステムの復旧よ。世界内部の安定性までは確保できないわ」
「問題ございません。コマンドが使用可能になれば御の字です」
頼りになる神様だ。
その後も一通り修復のレクチャーなどをしてもらいつつ、システムがコピーされるのを待っていました。
「いい? システムっていうのは神の力を円滑に世界に伝えるためのインターフェイスなの、これはカーネルとは切り離されているから、自分にあったものを使いなさい」
「どのようなものがあるのでしょうか? 今からでも変えることは出来ますか?」
「簡単よぉ。やさしくおしえてあげるわぁ」
むう、オカマ神の親切丁寧なレクチャーのおかげで、また一歩世界管理の腕が上達したな。
「さて、そろそろエミュレートの準備が出来たわね。はじめるわ」
そういってテキパキと作業していく。
その流れるような作業に見とれてしまう。
仕事が出来るヤツは単純にすごい。ただそれだけだ。
そうして一通り作業を終えるとオカマ神は俺に向かって笑顔で言った。
「修復方法の目処がついたわ。ついでに、中に潜伏している下級天使の大まかな位置がわかったから捕まえれば、大体の問題は解決ね」
おお、彼女(?)の後ろに後光が差しているぞ!!
「ああ、ありがたや、ありがたや」
拝んでしまう。
「あらぁ、拝まれてもこまるわぁ」
そういいながら満更でもないご様子。
「次は実機テストね。宇宙カーネルのパッチを当てて。よし、いいわぁ」
なんかブツブツつぶやきながら仕事してる。
なんか怖いな。
そんなことを思いながらちょっと離れて見学していました。
実機テスト、再テストを経てようやく修復作業に入ったが、こちらはあっという間に終わってしまった。
危険なコマンドやトラップを全部知ってるわけだからね。
特にエラーもなく終わりました。
「これで完了ね。修復できたわ」
「おおっ!! ありがとうございます!!」
「お礼はいいわよ。代金もあの人からちゃんと貰ってるしね」
なんと!!
「蕃神様!! ありがとうございます!!」
俺は思いっきり頭を下げて礼を言った。
「かまわん。創造神に釘を刺せなかった私の落ち度だ。今度はパイルバンカーにするよ」
うわぁ……パイルバンカーを刺すのか……次の人が居ないことを祈る。
「それじゃあ私達は帰るわね。頑張るのよ。応援してるわ」
そういって二人とも帰っていく。
俺はそれを最後まで見送ったあと、自分の世界の調整に専念した。
~終わった~
「ふう、終わった」
どうにか世界は正常に稼動した。
いささか時間軸にズレが生じているが、互いの行き来は問題なく出来そうだ。
真っ暗な空間で俺は一人、世界を見て悦に浸る。
九つのそれは俺の努力の結晶であるのだ。
最初は何事も上手く進まない、だが困難と苦労を乗り越えたときの達成感は格別だな。
最初の妨害さえなければなぁ。
嘆いてもしょうがないが、泣き寝入りというのも痛かった。
せめていくらか弁償してもらえれば……
そう思っていると、遠くから声が聞こえた。
「すいませーん。こちらはK-64593さんの世界でしょうか?」
見ると天使が数名居た。男二人に女一人、その中の女性の声のようだ。
「はいそうですよ」
「ああよかった。神殿も何も無いから、どうしようか困ってたんです」
女天使が明るい声で言った。
「ふん! 神殿も作らぬとは下級も下級の神だな」
後ろの男天使Aがなんかつぶやいてる。
「それでどちら様ですか?」
「我等は至高神様に仕える上級天使だ」
後ろに居た男天使Aが前に出て偉そうに言ってる。
「何のようですか? うちは忙しいので手短にお願いします」
「至高神様がお呼びだ! すぐに来い」
うわぁ、いきたくねぇ。
「ちょ!? そんな言い方失礼ですよ!!」
女天使の方が諌めているが、聞いているようには見えない。
もう一人の男天使Bはじっと動かずに俺を見ている。
「すぐにはいけません。こちらも予定がありますので、行くことは出来ません。折り返しご連絡を差し上げますので、今日のところはお引取り願います」
あくまで丁寧に、柔らかな口調でいう。
社会のマナーです。
だが、その返答に男天使Aは怒ったようだ。
「貴様!! 至高神様直々にお会いなさるのだぞ!! 全てを差し置いても来るべきだろう!!」
うわぁ。ますますいきたくねぇ。
「大変申し訳ありませんが、用件もわからない上に、こちらには心当たりもありませんので、返答いたしかねます。後でご連絡を差し上げますので、お引取りを」
言外にいきたくないと言ったつもり。
「貴様!! 神殿も無い分際で高飛車になるとは、不届きな!!」
えええ~。あくまで対等のつもりだったんだけど。
お前は使いっぱしりだろう?
何で偉そうなんだよ!!
やっぱ天使ってこんなのばっかなのか?
女天使はまともそうだけど、朱に交われば赤くなるしな~。
「今日のところはお引取りを」
「ううう、どうしてもダメですか? 先日のお詫びもかねて、お会いしたいと仰っておられるのですが」
先日? ますますわからないな。
何かあったっけ?
「心当たりがございません。後日ご連絡を差し上げますので、今日のところはお引取りを」
もう、このセリフしか言えねぇ。
「貴様は同じことしか言えんのか!!」
男天使Aがツッコミを入れているが、言わせてんのはお前だろうが!!
「とにかく、今すぐは無理です」
「ううう、すぐにお呼びするように仰せつかっているのですが……」
女天使が、泣きそうな顔でこちらを見る。
お前の都合は知らん、俺に押し付けるな。
「……」
「……」
「……」
「……」
全員が黙った。
時間がもったいねぇ。
「これから世界の調整をいたしますので、失礼させていただきます」
一礼して去ろうとするが、男天使Aが引き止める。
「待て!! 貴様!! 無礼者めが!! 至高神様をなんと心得るか!!」
え? 傍若無人の神様じゃね?
もうやだ、絶対行きたくない。
「そう申されましても困ります。お引取りを」
「貴様!!」
完全に怒ってる男天使A、それをおろおろと見ているだけの女天使。
そして、俺をじっと見てる男天使B。
「ふう、もういいよ。帰ろう」
男天使Bが口を開いた。
「だが!!」
「もういいんだ。帰ろう」
男天使Aを抑えていった。
男天使Bのほうが偉いのかね?
とりあえず今日は帰るということで落ち着いたようだ。
「ふん! この無礼は報告させてもらうからな!!」
「あうあうあう、ごめんなさい。失礼しました」
「失礼しました」
三人の天使がそれぞれ捨て台詞と挨拶をして帰っていった。
ポツンと誰もいなくなった空間で、俺は独り言を言った。
「さて、返事を書きますかね」
返事は出来るだけ早く書くのがいいでしょう。
むろん、絶対に会わない旨を柔らかく表現してお返事を書きます。
もう絶対会いたくねぇ。
行った瞬間後ろから刺されそうだし。
ペンと紙を用意して返事を書きます。
カキカキカキ……
というわけ、返事を書きました。
これをバイト天使にもたせればオッケーです。
「カモーン! バイト天使!!」
バイト天使を呼び出します。
ガッション!!
「ドウシマシタカ?」
ロボット型が来ました。
「お手紙を至高神に渡してきて」
「リョウカイデス」
ガショ! ガショ! ガショ!
手紙をバイト天使に渡して、この案件は終了です。
さあ、仕事しよ。仕事。
神殿は神様のステータスなんですかね?
まあ、建てても鬱陶しいのが出てくるだけですから、建てませんがね。