第18話:しゃれになってない。
「アバババ!!」
泡を吹いて爺さんは倒れている。
無理も無い。
自分の財産が今まさに消滅の危機にあるのだから。
「あ、残り後、一億を切りました」
無情にバイト天使が残高を告げる。
だが、被害者兼加害者は聞いていないようだった。
「自業自得とはいえ、もう少し賢いやつを使うべきだったな」
「そうですね、賢ければいたずらに被害が増えることもありませんから」
そう、妥協と打算は被害を減らす第一歩なのだ。
子供のように感情で動いてはならんのだ。
俺は第三世界の人生で知ったよ。
「大人になるって悲しいことだな」
「でも、ああなるよりはずっとましです」
バイト天使が視線で指し示す先には爺さんがいた。
あんたも言うねぇ。
「まあ、使い捨てでも最低限の教育はしないと、費用対効果が出ないということですな」
「ですね」
「さて、ゆっくりもしていられんな、どうする?」
「バ下級天使を抹殺するだけです。D-001は出撃準備中です。完了次第出撃します」
「許可する。人的被害は極力ださずに行動してくれ」
「善処します」
善処……か……
「現在、第一世界はどんな状況なんだ?」
「天使がコマンドを利用し人々を獣人に変化させて、一般人に襲い掛からせています」
「……いたずらではすまないな。チェーンソーの用意を」
「既に済んでいます」
「ご苦労」
俺はバイト天使から神殺しのチェーンソーを受け取り動作を確認する。
ドルルルルル!!
相対したときは恐怖しか感じなかったが、味方になるとこれほど心強いものはない。
「第一世界へ降りる準備ができました」
「わかった、すぐに行く」
「御武運を。後で合流しましょう」
「ああ、またな!!」
俺は第一世界に下りていった。
~阿鼻叫喚の地獄絵図~
普段は人の賑わう通りも今は閑散としているようだ。
本当に誰もいない。
「こないだ来たときとは全然違うな」
学校帰りの学生たちでにぎわっていた繁華街はもうどこにもない。
俺は通りを警戒しながら歩く。
「おい! そこで何してる!!」
後ろから声をかけられた。
振り向くとそこには武装した人たちがいた。
「ここは立ち入り禁止区域に指定されている。魔獣討伐組合員以外は立ち入り禁止だ!」
雰囲気がマタギっぽいオジサンたちは俺に警告をする。
猟友会みたいなものだったな。
昔は討伐に命がけだったのが、安全なお仕事として出来るんだもんな。感慨深い。
俺は神様パワーで、魔獣討伐組合の組合員になった。
「なんだ、同業者か。随分変わった武器だな」
「ああ、俺がもっとも恐れる武器だ」
「そうか、何か変わったことは?」
「いや、今来たばかりだ。そっちは?」
「子供が二人こっちに来てしまったらしい。見かけたら保護してくれ。今、思念を送る」
そう言うと目の前のオッサンは魔法で思念を送ってきた。
むむむ、人族とエルフ族の女の子ですな。
年のころなら十五、六でかなり可愛い。
あと少年と、バ下級天使の姿も思念で送られてきた。
「少年の方は知ってるよな? 獣人がその子を積極的に襲ってる。小さいほうはDOAだ」
「DOA?」
「そうだ。生死を問わん、ヤツの持つ武器に注意しろ。獣人になる」
うわぁ……デットオアアライブですか。
「何人かやられた。ちくしょう……ロイセンなんてこの仕事が終わったら結婚するって言ってたんだぜ」
お、おう。もうフラグ回収されてるよ……早すぎるだろ。
「獣人の強さにはバラツキが大きい。油断するなよ。元の犠牲者は考えるな」
「小さい羽付きのほうは魔法が効いていないらしい」
「防護壁が強力すぎる、親のようなものがいるかも知れんから気をつけろ」
「人の形してるが、恐らく擬態だろう。何があっても驚くなよ」
「二昔前の狩りだぜ、こりゃ。爺さんの話聞いといてよかったぜ」
周囲を警戒しながら、俺に情報をくれる。
同業者の情報共有は結構多い。
互いの生死に直結するからだ。
「わかった。ありがとう」
「ははは、いいってことよ。それよりこれを見てくれ、先月生まれたばかりなんだ」
「あ~。この仕事終わったら、エルフ共和国行ってバカンスしてぇ~」
「俺はドワーフ娘をナンパしにドワーフ連合国だな」
や、やめろ! フラグの共有までするんじゃない。
「そ、それじゃお気をつけて」
そう言って、俺たちは別れた。
しかし、バ下級天使……どんだけ危険物認定されてんですか?
生死を問わずって……擬態って……
敵と見做されるの早いな。
やっぱ魔獣と戦い続けてるだけのことはあるな。
判断が早い。
俺は警戒しながら街中を進んだ。
~見つけたら殴るだけの簡単なお仕事です~
「GYOOOOOOO!!」
POP獣人一
ドルルルルル!!!
ザシュ!!
「ふう、五匹目」
俺は通信魔法で組合本部に報告した。
後で回収班が回収するそうです。
魔獣はいっぱいいるんですが、標的の姿は一向にありませんな。
神パワーで探知が出来ん。
隠れるのうますぎだろ。
何処に隠れたんだ?
ドゴァ!!
近くで爆発音がした。
たぶん同業者なんだろうけど、派手だな。
建物とか被害があったらどうすんだよ?
しかもなんかキャイキャイ話してるし……OLかっ!
女の声? もしや……
俺は爆音のしたほうに向かった。
「何考えてんのよあんたは!! 死ぬきなの!?」
「そうよ!! 人を獣に変える魔獣なんて組合の人に任せときなさいよ!!」
「人の話聞いてたか? 獣人は俺に向かってくんだよ!!」
「だから何? ちゃんと組合の人と一緒にいれば問題ないでしょ!!」
確保すべき目標が三人、口げんかしてました。
通報しました。
すぐに迎えがくるそうです。
「とにかく、俺から離れろ!! そうしないとヤバイ!!」
「アンタ一人のほうがもっとヤバイじゃない!! 獣人一匹倒せないんだから!!」
「お前もさっきまで話してた人が獣に変わったら、攻撃なんて出来ないよ!!」
「あたしは出来たわよ。魔力が完全に入れ替わってたし、ああなったらもう助かりそうに無いし」
「「何っ?! マジで!?」」
あ、ハモッた。
「どちらさまですか?」
気づかれたので自己紹介。
「魔獣討伐組合のものです。本部に連絡しましたので待機してください」
「あ、はい。ありがとうございます」
うむ、礼儀正しい子達だな。
「く、組合の人も俺から離れて!! 危険すぎます!!」
「また何言ってるのよ!! 獣人なんて束でかかってきても問題ないわよ!!」
「貴方一人のほうがよっぽど危険よ」
シュワン!
周囲の魔力が歪み、誰かが転送してきた。
「おい! 子供たちは何処だ!!」
「おっ! アンタはさっきの! お手柄だな!!」
「子供たちを確保!!」
さっきのオッサンたちが転送魔法でやってきたのだ。
「よし!! 帰るぞ!! もう安心だ」
オッサンの一言に少年が大きな声で叫んだ。
「ダメだ!! 皆、逃げろおおおおおおおおお!!」
『あ~ルール違反~。一人で逃げないとだめなんだぞ~』
何処からともなく声が聞こえる。
トス! トス! トス!
トス! トス! トス!
軽い何かが当たる音がした。
「あ?」
「はへ?」
間抜けにも矢はオッサンに刺さっていた。
気配も無い。
完全な不意打ちだった。
「ッツ!!」
エルフの女の子が、魔法で作った弓矢を構えて矢が飛来した方向に、矢の雨を降り注いだ。
ドドドドドド!!
ズカ! ズカ! ズカ !ズカ! ズカ!
「ざんね~ん。はずれ~。これはおかえし~」
下級天使のふざけた声と共に、風きり音が聞こえた来た。
「危ない!!」
ヒュッ! バギャン!!
俺はとっさにチェーンソーで飛来した矢をはじいた。
その衝撃であっけなくチェーンソーは粉々になった。
そ、そんな……敵のときは強かったのに、なんでこんなに脆いんだ……
「す、すみません」
エルフの子が謝る。
「問題ない。それより警戒しろ!!」
「は、はいっ!!」
「GUAAAAAAA!!」
「GYAOOOOOOO!!」
「GYUAAAAAAAA!!」
さっきのオッサンたちが獣人になっていく。
『ぺなるてぃ~! 最大ぱわー!!』
また聞こえた。
そうして獣人に変化。転生ポイントが大量に注がれるのが見えた。
姿がブレる。
ヒュゴ! ズガン!! ドゴッ!!
「へ、ヘレン!!」
人族の女の子が吹き飛ばされた。
壁に打ちつけられ、動かない。
全身がズタズタになっている。
「GYAOOOOOOOO!!!」
こちらに獣人たちがやってくる。
ドドドドドド!!
ズカ! ズカ! ズカ !ズカ! ズカ!
魔法矢の雨が降り注ぐ!!
エルフの子だ!!
「GYAOOOOOOOOO!!」
「GYAOOOOOOO!!」
「GYUAAAAAAAA!!」
だが一切効いていない。
「なっ!?」
「に、にげろエフィイイイイ!!」
少年は叫ぶが、エフィと呼ばれた子は動けない。
その刹那、獣人が動く。
させるか!!
神パワー全開!!
俺は獣人が動くより速く、奴等の前に立ちふさがり殴り飛ばした。
ゴシャ!!
「ッツ!? ……?」
「大丈夫か?」
俺は彼女に声をかけた。
彼女は何が起きたかわからない様子だったが、倒れている獣人たちをみて事態を理解したようだ。
「エフィ! 大丈夫か!!」
「うん、大丈夫。怪我はしてないよ」
エフィの無事を確認すると、少年は人族の女の子のほうに駆け寄った。
「ヘレン!! しっかりしろ!!」
治癒魔法をかけているようだ。
効果は出ているようで、気がつき少年とエフィに抱きついている。
俺は周囲を警戒する。
気配は無いが、叫んだ!!
「おい!! こんなことをしてただで済むと思っているのか!! 姿を現せ!!」
俺の叫びはあたりに響いただけだった。
スルーかよ。そう思ったとき。
『ばーか! お前なんてこうだ!!』
下級天使の声が聞こえ、コマンド操作が行われた。
#天罰
This command affects fatal to the system.
Confirmation(y/n)
y
account delete to God_K-645963 ?
y
Really?
yyyy
ok delete to God_K-645963
.....error
『あれぇ? さっきも同じのが出てダメだったんだよなぁ。このポンコツ世界!!』
おいぃぃぃぃ!?
なんかヤバイコマンドに変化してる?!
天罰はそんなコマンドじゃねぇええええ!!
バ下級よ。しゃれになって無いコマンドだぞ!!
「おい!! もうやめろ!! とっとと出て来い!! 世界がぶっこわれる!!」
俺の言葉に実に楽しそうな声が聞こえてくる。
『だーめ! ゲームが終わってないよ!! ほらほら! 鬼さんが来たから、『アッー!』される前ににげてねー!』
獣人たちがこちらにやってきているようだ。
『あと逃げるのが主体なんだから倒すのは禁止ー!! ちょっとHP上げとくねー。倒すの苦労するよ~』
#HP上昇 -獣人ALL
This command affects fatal to the system.
Confirmation(y/n)
y
獣人は全て不死になりました。再生は転生ポイントを使用します。
なっ?!
不死だと!! 何でそこだけ日本語なんだよ!!
というか、対処のしようが無いじゃないか!!
攻撃しても再生してくるなんて無敵じゃないか!!
爺さんのポイントが続く限り、永遠に鬼ごっこを続けなければならん!!
……アレ?
もう爺さんのポイント無いんじゃね?
少なくとも一億以下だよな?
「あの? あの魔獣の子供と何を話していたんですか?」
少年が俺のやり取りに不審を持って聞いてきた。
適当にごまかすか。
「ああ、挑発したらどうなるかと思ってな」
「いや、挑発したらまずいじゃないですか。暴れだしたらとめられるんですか?」
「姿を現せばぶん殴れるからな。殴れば終わりだ」
「……」
正論に黙る少年。
ヘレンと呼ばれた少女が叫んだ。
「獣人たちがやってくるわよ!! どうするの!?」
「殴る。力を込めて殴る。あらん限りの力で殴る」
「殴って倒してもきりが無いわよ!!」
「そんなことは無い。物事にはいつか終わりが来る。その時まで殴り続けるのみだ」
「……」
俺の華麗な作戦に言葉も無いか。
「やっほー! ヒュー兄ちゃん!! 助けに来たよ!!」
よし!! 援軍も来た!! これで勝つる!!
「獣人たちが来るぞ!! 迎撃しろ!!」
「らじゃ~! いっくよ~!!」
俺達は迫り来る獣人たちを迎撃した。
~言ったろ、物事にはいつか終わりがくるのだ、と。だから終わっただけだ~
一時間後、獣人たちの死体の山が出来上がった。
そう、じいさんの転生ポイントはついにスッカラカンになったのだ。
もう矢を放っても死体が出来るだけで、獣人にはならない。
それを覚ったのか、天使は矢を放たなくなったようだ。
この世界の住人、元が人の生物でも容赦無しに殴るな。
まあ、魔獣には脳を乗っ取って襲い掛かるのもいるからね。
そういうのに躊躇したらやられちゃうことを考えると、そういう教育を受けてるんだろうな。
「な、なんだったんだ? すげー疲れた」
迎撃スコア最下位の少年が、へたり込みながら聞いてくる。
「言ったろ、物事にはいつか終わりがくるのだ、と。だから終わっただけだ」
迎撃スコアブービー賞の俺が締めくくる。
「し、渋いように見えて、全く質問に答えてないわ。この人」
スコア第三位のヘレンが水を注す。
「いや、でもこの人サポートがすごい上手かったよ。さすがプロだわ」
第二位のエフィが擁護に回ってくれた。
「ん~。いいじゃない。あとは人語を喋る、羽の生えた魔獣の子供を狩れば完了でしょ?」
第一位のドワーフ娘があっさりとした口調で言う。
お前さん、魔獣討伐組合の組合員だったのかよ。
相変わらずスペックたけぇなバイト天使は。
「まあ、そうだな。君たちは本部に保護してもらいなさい。後は私達がやろう」
「じゃ~ね~。ヒューお兄ちゃん。また後でね~」
「おう、ディートも気をつけろよ」
さて、救護も来たようだし、彼らを引き渡して追撃させてもらいますか。
~遊びは終わりだ~
「ねぇ? あの白蜘蛛はいないよね?」
「ああ、いないさ」
森の中でヤツを見つけた。
主人の転生ポイントを使いきり、何も出来なくなったらしい。
遊びつかれて満足したような顔をして、下級天使がこちらに聞いてきた。
自分がしでかしたことの重大さを理解していないようだ。
俺は言う。
「疲れたろう? 休むといい」
「うん! お仕事終わってすっごい疲れた!!」
どうやら彼の中では仕事=遊びだったようだ。
「私が連れてきますか?」
言外に彼女が『処分』するかと聞いているが、俺は首を振った。
「いや、俺が連れて行くよ。こっちにおいで」
俺は下級天使を手招きした。
「は~い!」
素直についてくる下級天使。
「それじゃあ。おやすみ」
俺はあらん限り力を込めて、拳を振り下ろした。
ぶん! ぐちゃ!!
物言わぬ肉塊となる下級天使。
それを見て俺はこう、つぶやいた。
「失われし魂に、黙祷」
「……」
傍らにいたドワーフの少女も黙祷をする。
あと十三匹。
早く『処分』しないとな。