補足 第一世界 6 『てんし』って何?
二話同時投稿です。
「ふああああ」
少年は森林浴に来ていた。
今日は休日である。
従姉妹はアイドルの仕事が忙しく帰ってくるのは夕方である。
最近彼女は彼の家に泊まりっぱなしだ。
事あるごとに甘えてくるので、少々辟易している。
よって今日は一人で昼寝を満喫しべく郊外の森に来ていた。
軽く飛行魔法で飛んできて、昼寝場所の到着後、持ってきたシートを敷いて寝そべった。
だが中々寝付けるものではない。
アヤトリと射撃が得意な小学生とは違うのだ。
太陽から降り注ぐプリマ・マテリアを全身に受け、プラーナに変換しながら少年は考える。
なんでディートがあんなにベタベタするようになったんだ?
明らかに三女神ファンクラブを壊滅させてからである。
壊滅した後のファンクラブはアンダーグラウンドに潜ったのだが、それは彼の知るところではない。
自分に迷惑をかけた侘びのつもりなのかもしれないが、少々迷惑である。
『一緒に寝よう』などといってきて却下を出したかったが、泣いて腕をつかまれたので許可した。
幾ら魔法で治せるといっても、骨が砕けるのは勘弁したい。
しかし、高校生にもなって『一緒にお風呂に入ろう』はさすがにない。
一緒に育ってきているので妹分みたいな感じはあるが、そこはわきまえないとダメである。
そんなことをツラツラと考えていると、ガサリと物音が聞こえた。
「んあ?」
魔獣でもいるのか?
彼はプラーナを活性化させて警戒する。
魔獣討伐組合によって魔獣は狩られているが、際限なく沸くのでいつの間にか人間の領域にいることはいつものことだ。
アルバイトにも結構討伐がある。
彼も高校生になってから何回か経験があった。
無論、正規の猟師がついてその補佐ではあるが。
そのときのことを思い出しながら警戒する。
ガサガサ!
音が近い。
ええと、こういうときは、マナ変換で物理反射魔術とプラーナの身体強化だっけか?
魔術の効率を高めた人類は、ついに魔力を変換し魔法を最適化する技術を編み出したのだ。
これにより変換ロスを差し引いても余りある威力の魔法が、使えるようになったのだ。
だが彼は混合魔術が苦手だった。
彼は太陽のプリマ・マテリアをプラーナに変換しつつ、プラーナをマナに変換は出来ない。
よってプリマ・マテリアを変換し大地のプラーナ吸収し高めながら、物理反射と身体強化をかけることにする。
これによって効率の悪さをカバーするのだ。
ガサガサガサ!!
「た、たすけてぇ!!」
目の前に小さな男の子? が現れた。
頭に光る輪を浮かべて、背には羽が生えている。コスプレか?
男の子は彼の後ろに回ると、助命を乞うた。
「たすけて! 化け物が追ってくる!!」
言うが否や現れたのは巨大なイノシシ、マッドボアーだ。
体高は優に三メートルを超えるその化け物は、興奮した様子でこちらをにらみつけている。
「なんだマッドボアーか」
少年はこともなげに言うと、素手で構えて迎撃体勢をとった。
ブホーー!! ドガ!! ドスン!!
マッドボアーが突撃してくるが、それにあわせてカウンター気味にパンチを一撃打つだけで終わってしまった。
別に彼がすごいわけではない。
彼はこれでも下の下である。
強力な魔獣と戦い続けつづけた第一世界の人類は、この程度ではもう敵ではなくなったのだ。
原始時代で苦労したロックワームやロックベアーでさえ、ミミズとネズミなどと同じ扱いである。
食人植物など雑草である。取り込まれても魔力の全身放射で一撃である。
むしろ普通のミントのほうが厄介である。
際限なく生えてくるものを、手で引っこ抜かなければならないのだから。
「わあ! すごい! つよい!!」
コスプレの男の子はそんなことは知らず、彼を賞賛した。
そんなことにかまわず、少年は子供を怒った。
「コラ! こんなところに一人で来ちゃだめだろ!!」
「ふえええ……だって、こわかったんだもん」
意味不明である。
「どういうこと?」
少年は厄介事ではないかと思い始め、警察に通信魔術を使って連絡を取りつつ、彼から事情を聞くことにした。
「ぼくはかきゅうてんしで、この世界に調和をもたらしにきたの」
下級天使はそういった。
彼は別に嘘をついているわけではない。
下級天使にとって遊ぶ=調和をもたらすなのだ。
少なくとも神から人間に仕事を聞かれたときは、そう答えるように訓練されている。
だが少年はその事実を知らない。
天使という存在が何のなのかも知らない。
「ふ、ふ~ん。そうなんだ……『てんし』ってなんだい?」
警察との魔術的なつながりを確立した彼は事情を説明し、救援を求めた。
『ヒューゲルベルフェバルドさん、魔力探査を行ってください。術式は解りますか?』
『はい、わかります』
ヒューゲルベルフェバルドは少年の名前である。
完全に名前負けしている彼は、自身の魔力を用いて魔力探査を行使し自称『かきゅうてんし』を調べた。
……なんだこれは?
ま、魔力が全く違う!!
プリマ・マテリアでもマナでもプラーナでもない異質な魔力。
この世界には存在しないのではないかと思う魔力が『てんし』から出ている。
それは通信相手である警察にも伝わる。
『どうしたらいいですか?』
『お、落ち着いてくだしゃい!! おちついひぇ!!』
少年は警官の方が落ち着いて欲しいと思った。
『ま、ます、我々がほ、ほもします!! も、もひから出てください!!』
『はい、解りました』
ちゃんと単語しゃべれよ、と少年は思った。ほもと保護ではえらい違いである。
言われたとおりに飛行魔法で行こうとすると『てんし』が首を振った。
「だめだよ!! 『あいつ』に見つかっちゃう!! 歩いていこうよ!!」
「あいつ?」
「白くておっきい蜘蛛なんだ!! 手が四本あって光る剣と光線が武器なんだ!! 皆そいつにころされたんだ!!」
「!?」
少年は恐怖した。
ビックスパイダーの変種か?!
蜘蛛系最上位魔獣じゃないか!!
マッドボアーが蚊ならビックスパイダーの変種はスズメバチである。
スズメバチならば死亡の危険がある。実際怖い。
『ひゅ、ヒューゲルゲルヒェバルトさん! お、おちついてぇええええ!!』
『まず、お前が落ち着け。名前間違えんな。ヒューゲルベルフェバルドだ』
完全に思念に出した。
今度は別の思念が割り込んできた。
『転送魔法を使用します! 魔力の乱れにご注意ください!!』
言うが否や武装警官が二十人空中に現れた。
「対象確保!!」
「対象確保確認!!」
武装警官が少年を取り囲み保護する。
そして周囲に展開する。
「周囲を警戒しろ!!」
「周囲警戒!!」
キビキビをした声で現場を制圧していく警官たち。
二人の警官がこちらに来て言った。
「もう大丈夫だ。ここから離れるぞ!!」
「は、はい」
少年は呆気にとられつつも頷き、転送魔法でその場を離れた。
「回収確認!!」
「撤収せよ!!」
「撤収!!」
次々と転送して帰還していく警官達。
その場には何もいなかった。
空は青く、太陽は高く上っている。




