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第2話:いってらっしゃいませ。

 さて、アレからどれくらい経ったのか。

 アレとは無論、勤務時間の異様に短いバイト天使の訪問からである。

 実を言うとさっぱり解らないのだ。

 なにせ『日が沈まない』のだから時間の経過がわからない。

 眠くもならない、腹も減らない。だから、バイオリズムも期待出来ない。

 腕時計もいっしょにご臨終してる。テメェは古時計か!

 そして、天使コール(勝手に命名)をしてもこんな調子である。


『伝言は承りました。次回営業日をお待ちください。緊急の場合は二を念じてください』


 これしか出てこないのだ。

 天使のバイトがあるくらいなのだから人手不足(天使不足?)なのは解るが、ちょっとほっとかれすぎじゃね?

 手元にあるのは分厚い四冊の本だけだ。新聞と週刊誌は持っていかれた。

 よって暇つぶしにはこれを読む以外には昼寝しかないが、眠くならないので昼寝は却下だ。

 転生マニュアルとやらを読むことにする。

 以下内容を大雑把に伝える。


『転生マニュアル 其之壱 ~転生と死後の査定~』

 こいつは転生ポイントについて教えてくれた。

 転生ポイントってのは生前、現世で取った行動によってもらえるものらしい。

 たとえば人を助ける仕事に就いたとか、仕事がうまくいって会社が拡大したとか。

 こういう世界に影響を与えれば与えるほどポイントが増えるらしい。

 そんでカルマってのは影響の方向性らしい、秩序に従えばプラスカルマが、逆らえばマイナスカルマがそれぞれ増えるそうだ。

 転生特典に影響するらしい。

 ここで肝なのが世界の秩序に逆らえば問答無用でマイナスカルマになるのだ。

 たとえば圧政を敷く政府に協力すればプラス、それを開放しようとクーデターを起こせばマイナスになる。

 そんなヤツの細かい条件と算出式が延々と書かれていました。

 眠くならなくて良かった。

 こんなん読んでたら寝てしまうわ!!


『転生マニュアル 其之弐 ~転生の際の諸注意~』

 こっちは転生とは何かって事が小難しく書いてある。

 転生ってのは世界のエネルギー循環みたいなものらしい。

 魂が循環することで世界の活性がうんぬんかんぬんと、よくわからんことが書いてあります。

 で、転生先はランダムだそうです。

 生き物によって魂の量ってのが決まっていて、人間が基準になるそうです。

 むしろ魂単位が一人間という単位だったりする。

 魂が大きいと、魔族とか天使とかのデカイ器に納まれるのですな。

 ポイントを使って無理やり入ることも出来るみたいですが、入ったからって魂が大きくなることは無いようです。

 魂が大きくなる条件は、よくわかりません。書いてませんから。

 逆に人間の魂が虫に転生すると結構な数に分割転生するそうです。

 あ、分割転生というのは、転生する肉体の器に応じて魂を分割して入れるというものだそうです。

 これで数は多いけど器の小さい虫なんかの転生にも対応できるそうです。

 分割転生してもちゃんと元に戻るのでご安心を。

 魂にはナンバリングがしてあってたとえば虫一匹目に0000-1、二匹目には0000-2って感じで補数で分割されていることを示すそうです。

 そこらへんの魂と転生の法則が書いてるのがこの本。

 小難しいです。

 ちなみにアルバイトで天使をやってるようなのは半人前の魂だそうです。

 仕事して実績稼いで魂を大きくして人間(転生できる最低単位)になるか、下級天使になるのがアルバイト天使の目標だそうです。


『転生マニュアル 其之参 ~特典一覧~』

 読んで字のごとく。

 様々な特典が書いてあります。

 記憶を持ち越せたり、転生先を選べたり、超スゲー魔法使いになれたり、イケメンに生まれて女にニコポ、ナデポ出来たり、幸運に恵まれたり、貴族の家に生まれたりとか、天使がサポートしたりとか俗に言うチート特典ですな。

 変わったのだとランダム転生後の世界を知ることも出来ます。

 つーかこれでもポイント取るのかよ!

 特典には買い取りと掛け捨ての二種類があって買い取りだと以後の転生でずっと持ったままに出来るそうです。

 記憶の持越しを買い取ればずっと記憶を保持出来るのか……いいのか悪いのかわからんが。

 掛け捨ては次回の転生時のみ有効で、その人生が終われば特典が無くなるという便利なのか不便なのかわからんものだ。

 メリットはポイントが買い取りに比べて格段に安いことか。

 掛け捨て魔法チートとかだと全適正で二百~三百ポンイント、部分適正は五割引くらいか。

 良いとこの生まれとか三十ポント程度、王子様で百五十ポイントだから、一万て数字が馬鹿でかいことだけはわかる。

 あと、自分のカルマでも取得出来るのと出来ない、安くなったり高くなったりするので、その計算式も延々と書いてあります。

 だ、誰かパソコン持ってきて!! 複雑すぎるよ!!

 

『転生マニュアル 其之肆 ~転生約款~』

 もう皆様大体解りますよね。

 転生時の神様と人間のルールが書いてあります。

 神様側専用の部分もちゃんと書いてありますが、関係ないので読みませんでした。面倒だもん。

 バイト天使(仮)が言ってたポイント委譲の法則もここに書いてあります。

 どうも俺にポイントをくれた奇特な方が居るらしい。

 会ってお礼を言わないといけませんな。誰かは存じませんが、バイト天使に聞いてみましょう。

 契約自体は割と神様有利で、天使は明らかに使いっぱしりですな。権限ありませんもん。

 ただ橋渡ししてるだけですな、これは。まあ人間の半分の魂量(大きさ)じゃしょうがないか。

 ククク、パシリのさらに臨時雇用など恐れるに足りんわ!!

 前回は動揺の末油断し、論破されたが今度あったらただでは済まさん!!

 正規社員の強さを見せ付けてくれる!!


 以上、本の内容と感想でした。


「ふはははは! 紅白バイト天使よ! 来るなら来い!! 返り討ちにしてくれるわ!!」

「……ええと、営業日なので来ましたが、どういうことでしょう?」

「なぬっ!?」

 紅白バイト天使ちゃんが背後から出現した?!


「ああ、そうでした。先日は伝言をありがとうございます。至らぬ点があることを謝罪いたします」

 ペコリと頭を下げるバイト天使ちゃん。

 ぐぐぐ、背後を取られた上、先手を取られた。

 この天使、なかなかヤルな……


「転生について、お決まりになりましたでしょうか?」

「いや、まだだ。それより天使サポートについて聞きたい。これはお前がサポートするのか?」

「はい、私がサポートをいたします。少々不得手ではありますが……」

「サポートがダメダメなの?」

「はい」

 困ったような顔をするバイト天使ちゃん。


 これはもしや半人前特有のドジッコ属性なのか!

 それならば用心しないとひどい目に会うな。


「『あまねく世界に私が居ます』のでサポート用分体が用意出来ず、サポートに時間がかかってしまいます」

「……どゆこと?」

 なんかヤバイ雰囲気がしてくる。


「マニュアル其之弐をお読みになられましたでしょうか? 私の魂の大きさは修練によって人間の魂一個分以上の大きさを持っています。そのため少々小回りが利かず、余剰の魂が無いため分体を作成できず、その世界にある体を使わねばならないのです」

「バイト天使なのに魂が大きい?」

 おかしいな上級天使でも三~五人間魂分くらいとか書いてあったような……

 バイトって言ったら人間より小さいはずなんだが……

 何か欠陥でもあるのかね? ちょいと聞いてみよう。

「君は上司になんて呼ばれてるの?」

 呼び方は体を現すのだ。

 少なくとも俺の居た会社ではそうだった。


「我が主様は私のことを『偉大なる』の呼び名が相応しいと仰っておられましたが、いまだ人の身であるわたくしめには、過ぎたる呼び名でございます」

「ちなみに『偉大なる』の呼び名が合う人って、どんな人?」

「一柱は『偉大なる大神官クトゥルフ』、このお方は常命なる者が到達する最高点を超えた神術を扱い、不滅の魂を持ち神と同列になられた方。一種族は『イースより来る偉大なる種族』、時間の秘密を解き明かし、精神交換の術を用いて時間と世界を渡り歩く種族です」

 お前はソレ等と同類か。

 どう考えてもお前も人外です、ありがとうございました。


 ただのバイトかと思ったら、お偉いさんの娘さんだったとか、そんな恐ろしい話なんですが?!

 一個分以上ってか、全部の世界って実質無限大じゃねぇか!!

 前半の説明がすっ飛ぶほどの化け物だろ!!

 チートや! チートがおるで!


「ちゃんと他の天使と同じように業務を行いますのでご安心ください」

「安心するのはそこじゃない。つーか何でアルバイトなんぞやってるの?」

「人手不足の折、我が主様からアルバイトを持ちかけられまして、死者を導いております。これもまた修練です」

「まだ修行すんの?! 魂無限大じゃ飽き足らずに?!」

「はい」

 真摯な目をしてるけど、キミ、正直言ってゲームでいうところのカンストしてるから!!

 これ以上何を望んでるのさ!?


「盲目にして白痴の神が目覚め、全ての世界が消えうせ、全ての私が死すときに、我が魂に相応しき器を手に入れることが目標です」

 SANチェック!! SANチェック!! 1D10/1D100です!!

 チェック失敗!! アババババ!!

 アイデアロール!! 大成功!!

 目指してる次元が違うよ、この子!!

 神になるとかそんなチャチな次元じゃないよ!!

 人間なんて木の木っ端みたいなもんじゃないか、こいつにとっては!!

 こいつは神とかそんな小さな目標じゃない!

 世界だ!! それも全宇宙、全次元の全てになろうとしているんだ!!

 アイエエエエエ!?


「大丈夫です。お気になさらず転生ライフを満喫してください」

「気にするよ!! なんで俺ごときにそんなお偉いのが着いてんだよ!! もっと相応しい魂とか居るだろ!!」

「いいえ、現時点での転生ポイント最上位はあなたです。二位を二千ポイント引き離しての堂々一位です」

「誰だよ!! 三千ポイントも俺に渡したやつは!!」

「あなたのご先祖様達です。転生先を選ばなかった代わりに、いくつかのポイントを最後の子孫に委譲するということでしたので、貴方にお渡ししました」

 一瞬その意味が解らなかった。


「え? まさか俺の代で途絶えたってこと?」

「はい、親類も居りませんので途絶えました」

 親戚居ない、独身、童貞、早死、これだけ悪条件が重なればそうなりますわな。

 なんか……すごい悪いことした気がする。


「あと、何で七千ポイントも貯まってたの?」

「これもご先祖の引継ぎですね、何かあったときのために代々転生先を選べた方がコツコツと貯めていたようです。あるいはその家系に転生する人にポイント委譲したり、掛け捨てのポイントで転生先を選んだりしていたようですね。一部はご使用になられたようですが」

「すごいなご先祖様」

 俺は素直に感動した。

 それに引き換え俺はどうだろうか?

 祖先の弛まぬ努力を無に帰して、ただ安月給でこき使われて死んで捨てられただけだ。


「ところで俺の前世は?」

「貴方の祖父ですね。転生先を選んでいます。お父上はポイントを五ポイント委譲しておりますね」

「俺が生まれる前には死んでた、お祖父ちゃんが俺なのか」

 五ポイントは少なくない。

 これだけあれば掛け捨てで、イケメンにだってなれるし、ちょっと裕福な生まれにも出来る。


 俺の五十ポイントが大きすぎるのだ。新聞を見ると結構世間を騒がせたみたいだし、法律もいくつか変わってるかもしれない。

 父さんは自分の幸せを捨てたのだ。俺のために……

 そして、祖父ちゃん……

 記憶がないから実感がわかないが、どれだけの意気込みだったかは想像できる……

 家系存続のために、富豪に生まれ変わるチャンスを棒に振ったのだ。

 ちくしょう……ごめんよ……俺……守れなかったよ…………


「あの、少し退席致しますか?」

「いや……いいよ」

 泣いている俺を気遣ってくれるたのか、退席を申し出るバイト天使様に、そんなことしなくて良いと俺はいった。


「ではどうなさいます? ポイントはご使用なさいますか?」

「ああ、まずは記憶の持ち越しを買い取りだ」

 この無念を消すわけにはいかない。

「はい、買い取り契約書です。母印をお願いします」

 差し出された契約書に母印を押す。

 俺の魂のナンバーはK-645963だった。

 『過労死ご苦労さん』なんて皮肉だ。


「次はどうなさいます?」

「絶対に人間に転生してくれ。世界はどこでもかまわない」

「はい、了解しました。他にございますか?」

 少し考えた。


「知識だ、全ての知識がほしい。あと生涯健康な体だ」

「そうなりますと残りのポイントでは二つとも掛け捨てになりますが」

「ああ、それでいい」

 まずは俺がどこまでやれるかを試したい。

 ご先祖様の無念はもう晴らせないなら、俺という結果を残してくれたご先祖様に顔向けが出来るくらいの偉業を成し遂げられる人物になりたい。


「では転生契約書を作成いたしました。恐れ入りますがもう一度母印をお願いします」

「ああ、わかった」

 差し出された契約書に母印を押す。


「これで転生契約は完了しました。よい来世を」

 バイト天使様が微笑みながら見送ってくれた。

 俺の意識が薄れていく。

 ああ、今度生まれ変わったら絶対に世界を驚かせて、歴史に名を残してやる。

 もちろん良い意味で、だ。

 奴隷のようにこき使われて、誰にも見取られず過労死なんて人生は絶対にごめんだ!!

 やってやる!!

 絶対にやってやるぞ!!

 そして今までのご先祖様に恩を返す!!

 

 まばゆい光の中に俺は沈み込んでいった。

 グッバイ現世、ウェルカム来世!!

次回投稿は8月4日22時予定です。

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