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第14話:ああ、バイト天使だけは怒らせないようにしよう。

~作戦会議~


 俺は今、第一世界の喫茶店にいる。

 バイト天使も一緒だ。

 この世界のバイト天使はロリっ子なドワーフ娘だった。

 ここで作戦会議をするのだ。

 なぜ『神の間』でやらないのかって?

 バカ天使どもがシュプレッピコールをあげて、うるさくて敵わないのだよ!!

 何が『雇用を守れ!』だ! 言うこと聞かないくせに生意気言うな!!

 業務を邪魔するやつを雇う義務は無い!!

 なので、比較的安全な第一世界に逃げてきました。


「なあ? これはさすがにマズくね?」

 俺と一緒にテーブルについていると、なんともヤバイような気がする。

 ロリっ子とサラリーマンの組み合わせ。しかも平日、学校帰り。

 援助で交際なあれである。

 だが目の前のセーラー服姿のドワーフ娘は、気にも留めずにケーキをがっついてる。


「問題ないです。あなたは私のマネージャーですから」

 何っ!?

 ということは俺は、出会った相手をヨイショしなければならないのかっ!?

 七つのオイルを集めたり、タライで海を渡ったりしなければならないのかっ?!

 いや、そうじゃなくて、アイドルのマネージメント知識なんて無いぞっ。

 というか、お前アイドルだったのか!! この世界、テレビ無いのに!!

 店においてあった雑誌に水着姿の彼女が写ってた。


『今をときめくラジオスター ディアナちゃん特集』


 おおう……めっさメジャーじゃん……俺この子のマネージメントなんて出来ないよ。

「すまん、俺には出来……るな、こりゃ」

 なぜかマネージメント知識があった。

 複数詞の間違った英単語名の三人グループだろうが、数字三個が名前の弱小プロダクションのアイドルだろうが、ドンと来いな知識がたっぷり詰め込まれていた。


「大丈夫です。神の力の一端ですよ。ほしいスキルを使えますし人々の認識を歪め、介入する事も出来ます」

「ほへ~。すごいな。じゃなくて、神様が降りてきても大丈夫なのか?」

 バイト天使ちゃんは、こっくりと頷く。

 こっちも可愛いな、紅白とはちがう動的な可愛さがある。


「第一世界は最も安定度が高く、システム制御もちゃんと受け付けています」

「なぜだ?」

「第一は貴方が操作したままタイムアウトエラーではじかれているので、下級天使がシステムの監視をすり抜けられませんでしたから」

「ふむ」

 ズズズとコーラフロートを啜る。


「まあ。力が使える場所は、問題の無い場所と思っていただければ結構です」

「問題あるところで使いたいけどな」

 使えれば楽なのだがね。


「愚痴ってもしょうがないです。まあ確かにちょっと安易に考えすぎました。バカ天使のハッキングがコマンドにまで及んでいるとは……」

「そうなんだがね。しかし最悪だな、神パワーで各世界に降りられないとは」

「無理を承知で使わなくてよかったですね。使ってたらカーネルパニック(*)してました」


*カーネルパニック:カーネルの重篤なエラーにより正常に動作せず、システムが停止し機能しなくなること。安全な再起動も保障が出来ない状態。


 そう、専門用語的にヤバイ状況である。

 世界を詳しく調査した結果、各世界に直接下りて無茶をすることが出来ないのだ。

 ハッキングの影響がデカイ。

 バックドアに各世界の通路への転送経路の追加設定。

 世界のあちこちに置いた隠し仮想空間の存在が、各世界の処理を重くしてる。

 この状態で天使や神様が降臨したら、超重力で宇宙が逝く可能性があるのだ。

 神様パワーで声をかけるのもアウトである。

 何が起きるかわからない。

 ハッキングによって、コマンドにトラップがあるかもしれないからだ。

 出来ることはチート転生者を送り込んで世界を直させるか、自分で治すだけだ。

 

「最大の問題はあのバカ天使どものせいで、各世界の時間の流れが狂っていることですね」

「ああ、勇者送還の悪影響だな」


 これでは世界を移動しても不具合が起きてしまう。

 俗に言う浦島効果みたいなもんだ。

 それよりも深刻だけどな。


「結局手段は転生だけかぁ」


 俺は雑誌を気晴らしに読んでみた。

 目の前の少女ディアナの水着姿が写っている。

 そんなに過激じゃないけど、年頃の男の子なら相当萌えるポーズをとってる。


「しっかし、意外だな。バイト天使は禁欲生活を送ってるものだとばっかり思ってた」

「『この私』にも生活と人生があります。それは『あの私』とは全く違うものです。全部が同じ行動を取るというのはおかしいでしょう?」

 そういってるとラジオから彼女の声が流れてきた。



『各地域の魔獣発生予報は以上です、次の番組はディアナのティータイムです。引き続きお楽しみください』

『これは録音番組です。

 この番組は魔術協会本部、魔獣討伐組合、ドワーフ食品協会の提供でお送りさせてもらいます。


 さーて、スポンサーさんありがとう! のメッセージを送ったところで!!

 やっほー! ファンのみんなー! いっつも応援ありがとう! 

 ディアナのティータイムがはじまるよー!!

 

 今日のゲストはエルフ共和国の中央総合大学で、流体魔法学を教えてる教授のトリスターノ・ボルチャーニ先生でーす』 

『どうも、ボルチャーニです。飛行魔法の効率化を研究しています』

『わぁ、すごいですね! 私もよくお空を飛んでますよ!』

『デ、ディアナたんハァハァ……ハッ!? い、いえ、失礼、ディアナ女史は……』



 ファッ?! 何このロリロリでノリノリな口調の声は!?

 目の前の少女とあまりにも違う口調に驚きを隠せないよ!!

 それに教授ぅぅぅぅ!! お前も隠しきれてねぇ!!


「ね? アレが『この私』の本性ですよ」

 アバンチュール……

「おう……」


 しばらく放心状態でした。

 復帰したのは番組が終わった後です。 

 なお、番組はアイドル番組でした。

 なんで大学教授がゲストなのか理解に苦しむ……


 閑話休題。


「現在の転生ポイントは微増といったところです。やはり天使の妨害が響いてますね」

「うむ、だがこれ以上は妨害されん。どうにかなるだろう」

 コーラフロートを一口喰う。

 バイト天使は紅茶をすすってる。 


「次は三秘術会の拡大だな」

「そうですね。第六世界は、私が維持していますのでしばらく問題ないでしょう」

「ふむ、勇者召喚もつぶしたし、後は三秘術会が各世界でネットワークを作れればいいな」


「次は第三世界をお願いします。天使が煽ったせいで闘争が止められません。このままだと滅びます」

「転生して平和介入か……文明の維持も大変だな」

「仕方がありませんよ。誰かに頼みますか?」

「いや、俺がやる。他人にさせるわけにはいかないよ」

 普段の維持は三秘術会に任せて、俺は時々転生して会の監視と世界の火種になりそうなのを消していく。

 これがベストではないが、ベターな方法ではあるだろう。

 後手になる場合が多いだろうが仕方が無い。


「それじゃ、転生の契約するから『神の間』に戻るか。そっちはどうするんだ?」

「今日は従兄弟の家にお泊りです。『別の私』がそちらに伺います」

「おう、わかった。そんじゃ、また後で」


 俺は喫茶店を後にした。



~神の間 騒音問題~


「「「雇用を守れー!!」」」

「「「ポイントの独占はやめろー!!」」」

「「「転生の自由を守れー!!」」」


 相変わらずうるさい。

 俺が現れたと見るや否や、シュプレッヒコールの嵐である。

 神殿を取り囲み、俺を中に入れないぞといわんばかりにスクラムを組んでいる。

 これじゃ仕事も出来ん。

 お前らのせいでこっちは苦労してんだぞ!!

 ちったあ自粛しろや!!


「我々を雇用しろーー!!」

 入り口を陣取ってる天使に話しかけた。


「スマンが通してくれないか? 仕事が出来ん」

「それなら我々を雇用しろ!!」

「そーだ、そーだ!!」

「ポイント独り占めいくない!!」


 ……うむ。埒が明かぬ。

 ならば最終手段。

 俺が就職のときに出会った最悪の方法に手を染めるか……

 使いたくはなかったが、使うしかないのだ。


「よし、ならば雇用のためのテストをしよう」

 このテストで一人に絞り面接で落とす。

 これが一番だろう。


「バーカ!! テストってなんだよ? たべものか!! やとうってはっきりいえ!!」

「そうだ! そうだ! えらそうなこといってけむにまくんじゃない!!」

「今すぐやとえ!! きゅうりょうは一万ポイントだ!!」

 

 ………予想以上にバカなんですが?

 話が通じない……


「ふぉふぉふぉ。お困りじゃのう」

 創造神が来た。二ヤついてやがる。


「……こいつらを撤収させろ。無条件でだ」

「それはいかんのう。これくらい御せねば世界を調整はできんぞい」

「実力行使してもいいんでしょうか?」

「暴力はいかんぞ?」

「話が通じないんですが?」

「そこを頑張るのが腕の見せ所じゃよ?」

 こいつ……


「やーとーえー」

「やーとーえー」

 バカ天使がうるさい。


「よし、解った雇おう」

 お前ら全員、倉庫で資材運びだ。

 倉庫Aから倉庫Bに運べ。

 終わったら倉庫Bから倉庫Aに運べ。

 それを繰り返してろ。


 だが、それを言う前にいっせいに俺の世界に消えていった。

「やったー!!」

「よーし! みんないくぞーー!!」

「「「おう!!」」」

「世界であそびまくるぞーーー!!」

「すげーーー九つくっついてるーーー!!」


 顔を輝かせながら人の話を一切聞かずに。 


「……仕事の内容すら聞かないやつらは解雇していいか?」

「ん? 大丈夫じゃろう。あやつらとて天使じゃ、世界の調整の仕方はしっとる」

 事態の危険性を全く理解していないニヤケたバカ神がいる。


「いるだけで有害だ。ちょっとでも世界に顔を出したらカーネルパニックの危険がある。

 コマンド操作もテメエんとこのバ下級天使のせいで、いまだにトラップの危険がある。

 もしかしたら全部、ハルマゲドンコマンドになってるかもな?

 各世界をつなげるのも禁止だぞ? 時間軸が非同期で、やったら何が起きるかわからん。最悪カーネルパニックだ。

 無論、仮想空間を利用した作業も禁止だ。

 バ下級天使の隠し仮想空間と衝突、カーネルパニックの危険がある」

「……すまん。そんな状況とはしらなんだ」

 珍しくヤバイと思ったのか創造神は青い顔をしてあやまった。


「なあ? ちょっとひどいと思わんか?」

「煽った手前、返す言葉が無いのう」

 完全に誰かの入れ知恵なのが丸わかりだったがな。

 テストという単語すら知らんやつが、雇うという言葉を知っているはずが無い。


「何をするつもりだった? 正直に言ってくれ」

 じいさんは悲しそうな目をして語りだした。


「あやつらを雇用させて、ワシのポイントが減るのを阻止したかったんじゃ。あとはワシもこの世界でポイントを稼ぎたかったんじゃ。前回の下級天使の悪戯というか下準備も手に入れたくての」

「認めたな。世界がぶっ壊れたらどうするつもりだった?」

「たとえ全部崩壊しても四億ポイントはくだらんじゃろうから、それで折半程度は考えとった」

「おう、丁寧に扱えばその二十倍は行くぞ? なぜもっとじっくり行かない?」

 この言葉に爺さんは深いため息をついてこういった。


「不況なんじゃよ。新たな世界がほとんどなくてのう……」

「蟻みたいに群がるからじゃねーのか?」

「そうでもせんと雇用が維持できんのじゃ。どこもそうじゃよ」

「おう、だからって俺に妨害工作したって、雇用は生まれるどころか減る一方じゃねぇのか?」

「…………」

 じいさんは黙った。


「こういうのは困るんだよねぇ。余計な手間で俺のポイントがガッツリ減ってるし、ここにきておたくらせいで収支マイナスなんだよね」

「前回は三千ポイント入ったと聞いとるが?」

「被害者であるところの勇者に転生チートあげたんだよね。記憶持ち越したい人は、別の世界に転生お願いしたかったけどさ」

「なんじゃ? 含みのある言い方じゃな」

「別世界はお前らの管轄だって言ったら、全員取り消したよ」

「……すまん」


「この世界ぶっ壊れたら、新規に世界作らんからな。お前のいない世界で、ゆっくりゆったりの人生をおくらせてもらう」

「…………」

 相当がっくりきてるな。まあ、自業自得だ。


「あと浅黒いエジプト神官みたいな神様に話しをしにいったんだろ? どうなったんだ?」

 あの神、釘を刺すって言ってたのにな。


「アヤツなら、笑いながら鉄杭でわしを刺そうとしてな、話にならんかったわい」

 ……お、おう。マジで釘を刺されたのか。

 意味が違うだろ!! こええよ!!

 物理的に刺してどうする!!


「もう、下級天使達にはここで騒ぐよう命令してあったから、逃げたついでに見に来たんじゃ」

 そうですか。


「しかし天使って、皆こんなもんなのか?」

「こやつらは下級になりたてじゃからの精神が成長しとらん」

「前回のは?」

「ずっと中級になれず、くすぶっとるやつらじゃ」

 ああ、素行不良で上がれないのか、納得。


「不要人材の在庫処分してぇ」

「体面が悪いからの。おいそれとクビにできんぞい」

「アレは流石にクビにするぞ」

「お主はそもそも契約しとらんから何もできんぞい」

 テメエ、本当にお前が独り占めする気だったのかよ?


「お前が止めろ、責任もって。世界が消滅する前に」

「う、うむ。すまん」

 あのバ下級天使どもを止める事で話がまとまった。


 不意に何かが聞こえてきた。


 ザシュ!! ブシュ!! ザク!!

 ギャー!! グチャ!! ヤメテー!! ギャー!!


 肉を切り裂く音と悲鳴が聞こえた。

「……何の音だ?」

「ワシャ知らんぞ?」

 

 グチャ!! ザシュ!! ヒイイイ!!

 ギャアアア!! ヤメテェ!! ブチャ!!

 ザクッ!! ギャアアアア!!


 悲鳴と音が聞こえなくなると、何かが歩く音が聞こえてきた。


 ガシュ!! ガシュ!!


「なんか近づいてくる!!」

「臨戦態勢じゃ!! 小僧! 来るぞ!!」


 ガシュ!!


 そこに現れたのは蜘蛛型のロボットだった。

 大きさは約六メートルといったところか。

 全体的に白の装甲で覆われていて、八本の足に四本の腕がある。

 ちなみに腕の先が銃口になってる。

 なおその装甲は赤い液体で濡れている。

 

 シュボ!!


 腕の一本からピームサーベルが出た。


「ドーモコンニチハ。ソウゾウシンサマ」

 機械音じみた声が創造神の爺さんに声をかける。


「お前誰だ!?」

「バイトテンシデス」

 アイエエエ?!

 俺の癒しが消えた瞬間だった。


「ロボットなのか?! ロボットでも魂を持つのか?!」

「ハイ、タマシイヲモチマス。ジリツシコウガカノウデスカラ」


 シュボッ!

 腕のビームサーベルを消して自己紹介をする。

「ワタシハ、ジンルイセンメツヨウサイシュウヘイキトウカツシステムD-001デス」

 物騒な代物だった。

 いつもの方の名前も知らんのに、ロボット型の名前知っちまったよ!!

 人類殲滅用最終兵器統括システムってドンだけ中二病なんよ?


「ウルサイコバエガイタノデ、センメツシマシタガ、ナンビキカニゲラレマシタ」


「「ファッ!?」」

 本来のお仕事しちゃってるよおおおおお!?

 こえええええええ!!


「コノヒノタメニ『シミターオブバルザイ』ヲトウサイシマシタ」

「なんじゃそりゃ?」

「儀式用の道具じゃ。それ自体は武器じゃないが、対魔、破魔、様々な魔法の手助けをするもんじゃ」

 おお、爺さん知ってるのか?


「ハイ。コノヘイソウノオカゲデ『当機』ノシゴトガハカドリ、ココニハヤククルコトガデキマシタ」

 ……ああ、別の世界の人類滅びちゃったのね。

 つか今漢字喋ったろ?


「テンシハ、ワタシガタイサクシマス。アナタハテンセイシテクダサイ」

「お、おう」

 俺は爺さんの方をちらりと見る。

 真っ青な顔をして一点を見ている。

 その視線の先には瀕死の天使が居た。


「こ、ここで天使……団が全……滅しても……第二……第三の……天使団が……いる……ぞ」


 グチャ!


 ひいいいいい、躊躇もなくバイト天使(ロボット型)が踏み潰したぁぁぁぁ!

「マダイキテマシタカ、イクラキテモオナジコトデス。センメツシマス」


 俺は契約書に捺印をしながら思った。

 あの上司にしてこの部下あり、だな。

 ああ、バイト天使だけは怒らせないようにしよう。


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