補足1 第一世界 1
~第一世界 青空の下で~
青空の下、昼休みの校舎の屋上で、のんびりと寝転がりながらパンを齧る少年。
傍らには、親にねだって買ってもらった小型ラジオが、慎ましやかに音を鳴らしている。
普段物欲のあまり無い彼が、ねだるものだから驚いて買い与えてしまったのだ。
「なによ、こんなところに居たの?」
その少年に声をかけたのは、同年代のエルフの少女だった。
一ヶ月前に親の仕事の都合で転校してきた少女である。
彼は彼女と話したことは無い。
なぜなら彼女はその美貌と快活さで、クラスの人気者になったからだ。
常にどこでも引っ張りだこの彼女に対して、地味で目立たない彼は話す機会すらなかった。
「うん、お気に入りの場所でね。昼休みはここで昼寝をしてるのさ」
「ふうん。でも今日は出来ないわよ。残念ね」
起き上がって少年は聞く。
「どうして?」
「あなた日直よ。私はあなたを呼びに来たの。忘れたの? 私とペアじゃない」
「そうだっけか?」
確か違ったはずだ。彼女ではないことを覚えている。
この学校では日直は男女ペアで行う。
彼女が転校してきたことで、順番がずれて少年とペアになったのだろう。
日直は全部相方の幼馴染に任せていたが、これからは面倒だと思った。
相方にはサボる対価に、喫茶店でケーキをおごっていた。
だが、彼女には賄賂が通じそうも無い。
「もう、しっかりしなさいよ! ほら、さっさとくる!」
急き立てられるようにして、屋上から連れ出される。
「わかったよ。そんなに引っ張らないで」
あわててラジオを引っ掴む。忘れたら大変だ。
少年は考える。
次の授業がなんだっけ?
ああ、魔法学だ。
それの準備を思うと面倒くさい。
何だって神様は、魔力の系統を三つも作ったのだろうか?
単体ならさほどでもないが、他の系統が混じると複雑な反応を見せるのだ。
神様も絶対に三系統混合なんて使われ方をするとは、思っていなかったはずだ。
少年はいつも、そううそぶいているが、同意された試しは無い。
少年は覚えることが多すぎるこの授業が苦手だった。
ため息をつく。
「ああ、空が青いなぁ」
見上げた空は透き通るほど青かった。