表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/11

9.人質にとられた姉

 校舎3階の廊下にはもうもうと煙が立ち込め始めた。

 吹奏楽部室の扉を何とか開けようと、3人の男性教員たちが奮闘していたが、ホウキやバットでいくら殴ってもびくともしない。

 ガラスすら、割る事ができなかった。

「これ以上、ここに留まるのは我々が危険だ!」

「しかし、中には生徒達が!」

「もう直ぐハシゴ車が来るはずだ! そうすれば窓から助ける事ができる。とにかくこのままでは我々が危ない。下へ降りよう!」

 教員たちは、ハンカチで口元を押さえ、むせながら階下へ降りていった。

 既に、吹奏楽部室内はかなり火の勢いが増し、ドアの近くで五十嵐コウジ、霧山シュウト、巴ジュリの3人は、抱き合うように座り込んで気を失っていた。

 そこへ突然、姿を現した者がいた。

 さきほど、校庭で忽然とその姿を消した、2年生の羽佐間キイロである。

「五十嵐君!」

 羽佐間キイロは、五十嵐コウジの肩をゆすった。

 コウジはうっすらと目を開けた。

「羽佐間……先輩? どうして……」

「気をしっかりもって。今ここから出してあげる!」

「……」

 コウジは再び気を失った。

 羽佐間キイロは、五十嵐コウジ、霧山シュウト、巴ジュリの3人を抱きかかえると、強く、強く、念じた。

(ここから出たい!)

 4人の姿は消えた。


 校舎裏に、キイロ、コウジ、シュウト、ジュリら4人の姿が現れた。

 3階の吹奏楽部室から、校舎裏の地上に瞬間移動してきたのである。

 コウジ、シュウト、ジュリはぐったり気を失ったままだ。

(これって……、まさか、超能力? 本で読んだことあるけど、テレポーテーション? でも、どうして私が……)

 羽佐間キイロは戸惑うばかりだった。

 コウジもシュウトもジュリも、気を失ったままだ。

 この場を早く立ち去った方がいい。

 夕べお風呂で、弟のダイゴに、物の形を変える力を使うことにストップをかけたばかりだ。

 自分もまた、この力を人前で使わない方がいい。

 幸い、コウジもシュウトもジュリも、命に別状は無さそうだ。

 キイロは、誰かに何かを聞かれるような事が起きる前に、足早にその場を離れた。


「コウちゃん、大丈夫?」

 光明寺ミドリが、病室に飛び込んできた。

 五十嵐コウジ、霧山シュウト、巴ジュリの3人は病院に搬送された。

 知らせを受けた光明寺ミドリが、見舞いに駆け付けてくれたのだ。

「ああ、ミドリ。見舞いに来てくれたのか。ありがとう。大した事無いよ」

「心配したんだから」

 ベッドの傍らの椅子に腰掛け、ミドリはコウジの手を握った。

「3階で閉じ込められていたんだって? どうやって出られたの?」

「それが……、自分でもよく覚えていないんだ」

「覚えてない?」

「煙の中で気を失って……、気が付いたら、校舎の裏に3人とも倒れていたそうで――。ただ……」

「ただ?」

「羽佐間先輩が助けに来てくれたような気がするんだが……、あれは気のせいだったのかな?」

「もう! こんな時までキイロさんのこと考えてるの!?」

 ミドリがコウジの手の甲をつねった。

「いててて、何するんだよ! こっちは病人なんだぞ」

「そんなに大きな声が出せるなら大丈夫でしょ。心配して損しちゃった」

 コウジはミドリにつねられた手の甲をさすりながら思い返していた。

(あれは夢だったのか……? いや、でも、確かに羽佐間先輩は、あの火事の部室に現れた)

「気をしっかりもって。今ここから出してあげる!」

 五十嵐コウジの脳裏には、羽佐間キイロの言葉がしっかりと刻み込まれていた。

「……ちゃん! コウちゃんってば!」

 考え込んでいた五十嵐コウジは、光明寺ミドリの言葉で我に返った。

「あ、え、何?」

「もーー、聞いてなかったの? 今日って泊まり?」

「うん……、念のため一泊するように言われた」

「1人で? こわいでしょ? 私も泊まって一緒に寝てあげようか」

「いいよ、いいよ。だいたい、タダシはどうすんだよ。それに夜はアオ姉が来てくれることになっているから大丈夫だよ。今、俺の着替えを取りに家に戻ってるんだ」

「じゃあ、4人で泊まる?」

「お泊り会じゃないんだから、いいって」


 夜。

 病室に一人の五十嵐コウジは、寂しく、また、退屈だった。

 何より心細かった。

 やっぱり、ミドリ・タダシ姉弟に来てもらった方が良かったかな……?

 それにしても、姉のアオイは遅かった。

 そろそろ夜の9時。

 消灯の時刻だというのに、アオイは現れない。


 そんな事をコウジが考えていると――。

 ガチャーン!!

 突然、窓ガラスが割れて、何かが病室に投げ込まれてきた。

「な、なんだ!?」

 コウジは、ベッドから降りてスリッパを履くと、ガラス片を踏まないようにして、投げ込まれた物を拾い上げた。

 それは、石を3枚の紙でくるんだものだった。

「な、なんだって!?」

 紙を開いた五十嵐コウジは愕然とした。

 1枚の紙には、次のように書かれていたのだ。

「姉は預かった。返してほしくば、この場所へ来い。警察に知らせたら、姉の命は無い」

 もう1枚の紙は、場所を示す地図。

 そして残りの1枚は、コウジの姉、五十嵐アオイを縛り上げた様子を写した写真だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ