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7.秘密の指切り

 五十嵐アオイ・コウジ姉弟や、光明寺ミドリ・タダシ姉弟が住む不破雷町の隣の銀河丘。

 銀河丘には、羽佐間キイロ・ダイゴ姉弟が住むマンションがある。

 五十嵐アオイや光明寺ミドリが一緒に入浴している同じ頃、羽佐間キイロも弟ダイゴを風呂に入れていた。

「じゃ、今度は僕がアネキの背中流してあげるね」

 キイロに体を洗ってもらった後、今度はダイゴがスポンジを泡立ててキイロの背中に回った。

「ねえ、アネキ」

「なに?」

「本当はさ、姉弟って結婚できないんでしょ?」

「うん、まあね」

「やっぱりそうなんだ。今日保育園でチャコちゃんから聞いたんだよ」

「そうだったの」

「だから、アネキのことはあきらめるね」

 あんなにあたしのことお嫁さんにするって言ってたくせに、そんなにあっさりあきらめるんかい!――とツッコミたいキイロだったが、実際結婚できないのは事実なので、キイロは黙って聞いていた。

「だから、チャコちゃんと結婚することにするよ」

 乗り換え、はや!

 一瞬にしてフラれて、ちょっとショックなキイロ。

「代わりにアネキにこれあげる」

 何の代わりよと思いながら、ダイゴが差し出した物を見ると――花の形になったスポンジだった。

 先ほどまで、単なる四角いスポンジだったのに――ダイゴは最近、よくこういう不思議なことをする。

 キイロは深く考えていなかったが、これってもしかして大変なこと?

 超能力っていうやつ?

 キイロは考え込んだ。

「アネキ、気に入らなかった? それともお嫁さんにするのやめたから、怒ったの?」

 ダイゴがキイロの前に回りこんで、心配そうに姉の顔を覗き込んだ。

「あ、違う。違うよ。ちょっとぼうーっとしてただけ。スポンジのお花、ありがとね。あと結婚のことだけど、気にしないでいいよ。そのチャコちゃんっていう子と仲良くしてあげて」

「うん、だけど……」

「だけど?」

「僕が結婚してあげなかったら、アネキのこと、およめさんにもらってくれる人いるかな?」

「あのね、こう見えても、引く手あまたなんだから、ダイゴはそんな心配しなくていいの!」

「ひくてあまた?」

「私をおよめさんにしたい人はいっぱい居るってことよ!」

「そっか。良かった。姉弟じゃなかったら、僕がおよめさんにしてたとこだもんね。そうだよね」

 ダイゴはそう言って無邪気に笑った。

 その笑顔を見てキイロは思った。

 良かった、今日無事に帰ってこられて。

 もし、図書室で本棚の下敷きになっていたら、今頃、弟とゆっくり風呂に浸かってこんな話をしているどころではなかっただろう。

 でも、どうしてあの時、自分は本棚の下敷きにならなかったのだろうか?

 本棚ごと床に倒れたのは間違いなかったのに。

 あの時、こんなのは嫌だ、ここから逃れたいと、一瞬、強く、強く、思った。

 その思いが、自分の体を本棚の下敷きになる直前、別の場所に移動させたのだろうか――?

 突然、キイロの頭上からシャワーが降ってきた。

「きゃっ!!」

「もー、アネキ、また、ぼうーっとしているよ」

「やったわねーー、あたしだってたまにはいろいろ考える時があるのよ!」

「いつも考えていないのに?」

「訂正! いつも考えてるの! だから今も考えてたの!」

 キイロは、ダイゴの手からシャワーヘッドを取り上げ、シャワーをかけ返そうとした。

「きゃーこわい! まいった。かんべん!」

 ダイゴが頭をおさえて縮こまる。

 ダイゴはまだ、頭からシャワーをかけられるのがダメなのだ。

 今ここでかけたら大泣きされるだろう。

 キイロは、シャワーヘッドを壁のフックに戻し、ダイゴを抱き上げると一緒にお湯に入った。

「ダイゴも、そろそろ頭からお湯かけて、髪洗えるようにならないとね」

 ダイゴの頭を優しくなでてやりながらキイロが言う。

「やだよ、こわいよ。アネキはいくつから、それできたの?」

「んーと、あれ――? いつからだっけかな……」

 記憶をたどる。

 幼い頃、両親に頭を洗ってもらった記憶がかすかにあった。

 いや……、待て……?

 自分には兄や姉がいて、その兄姉たちからも頭を洗ってもらった覚えがある気がする。

 しかし、キイロはダイゴと2人姉弟。

 そんなはずはない。

 それは、夢か――?

 それとも、以前見たテレビか、昔読んだ本か、何かの内容と記憶がごっちゃになっているのか――?

「ねえ、アネキってば!」

 ダイゴからの呼びかけで、キイロは我に返った。

「やっぱりアネキ、今日、ぼうーっとしてばっかだよ」

「え……、あ、うん、ごめんね。のぼせちゃうといけないから、そろそろ出よっか」

「あ、ちょっと待って」

 ダイゴは、湯船から手を伸ばして石鹸に触れた。

 すると2つあった丸い石鹸が、たちまち、三角形と星形に変形したのであった。

 驚くキイロ。

「ちょ……、ダイゴ、それ今、どうやったの?」

「どうって……、ただ触って、形を思い浮かべれば、簡単にできるよ」

「できるよって……、できないよ、あたしは」

「へえ、そうなの?」

 ダイゴにとって、物の形を変えることは、何でもない当たり前のことのようだ。

 しかし、これは通常の人間のもつ能力ではない。

 キイロは、これは隠さなければならないことだと直感した。

 テレビで超能力者の特集を見たことがあるが、あんなふうに弟が見世物になっては気の毒だ。

「いい? ダイゴ、よく聞いて」

「なあに?」

「この、物の形を変えることなんだけど……、これ、やっちゃダメ!」

「ダメ? どうして?」

「どうしてって……。他の人はできないからよ。あたしもできないもん」

「そうなの?」

「だから……、約束して」

 キイロは小指を立ててダイゴに出した。

「う……、うん」

 ダイゴはあまり納得していなかったが、キイロの勢いに押され、自分も小指を出すと、姉と指切りゲンマンをした。

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