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3.懐かしの保育園

 五十嵐コウジと羽佐間キイロは一緒に下校した。

「五十嵐君、今日はごめんね。あたしのせいでびっくりさせちゃったり、先生から怒られちゃったりで……」

「そんなの全然いいですよ。羽佐間先輩も、うちこっちなんですか?」

「うちというか……。弟の保育園がこっちなんだ。3才の弟がいるの」

「へえ、そうなんだ」

「うち、両親共働きで帰り遅いから毎日あたしがお迎えに行ってるの。今日、いつもより早めにお迎えに行ってあげられるから、ダイゴ喜ぶな。あ、ダイゴって、弟の名前ね」

「ダイゴ君ですか。3才だったら可愛いでしょうね」

「うんまあ。生意気なところもあるけどね」

 五十嵐コウジと羽佐間キイロがそんなことを話しながら歩いていると、後ろから声をかけられた。

「コウちゃん」

 女の子の声だ。

 五十嵐コウジのことを「コウちゃん」と呼ぶ女子は1人しかいない。

 コウジの家の隣に住む幼馴染の小学5年生、光明寺ミドリだ。

 ミドリも学校の帰りなのだろう、ランドセルを背負っている。

「あ、ミドリ……」

「コウちゃん、その人、誰?」

「誰って……、いきなり失礼だろ。先輩だよ、先輩。中学の」

「ふーん」

 ミドリは何だか不満そうだ。

「ミドリちゃんっていうの? こんにちは。私は羽佐間キイロっていうの。五十嵐君と同じ図書委員で2年生よ」

「はじめまして、光明寺ミドリです」

 ミドリは型通りの挨拶を返した。

「ミドリ、どうしたんだよ?」

「どうしたもこうしたも、私のうち、こっちだもん。コウちゃんちの隣だもん」

「あ、そうだよな。うん、うん」

 女子2人にはさまれて、五十嵐コウジは微妙な居心地の悪さを感じた。

 3人並んで歩き出した。

「……」

「……」

「……」

 く、空気が重い!

 な、何かしゃべらなければ――五十嵐コウジは脳細胞をフル回転させた。

 しかし、何も思い浮かばなかった。

 これ以上の沈黙は苦痛以外の何物でもないとコウジが思っていたら、

「羽佐間さんも、うち、こっちなんですか?」

 光明寺ミドリが、さきほどコウジがしたのと同じ質問を羽佐間キイロにした。

「うん。実はね、弟の保育園がこっちなの。毎日お迎えに行ってるんだ」

「え、弟さんがいるんですか?」

「うん、3才」

「3才かーー。可愛いでしょうね」

「うん、可愛いよ。ミドリちゃん、兄弟は?」

「うちも羽佐間さんと一緒で弟が1人。この春から小学1年生です」

「へえーー、そうなんだ。お揃いだね」

「そうですね」

「あ、あの、うちもさ、姉さんと俺の2人姉弟だから、姉と弟で、羽佐間さんやミドリと一緒だよ」

「あっそ。知ってるけど」

「なんだよ、人がせっかく話題が盛り上がるように絡んでいるのに」

「それで、羽佐間さん――」

「キイロでいいよ」

「キイロさん、おうちもこっちなんですか?」

「あ、うちの話だったよね……。 うちは銀河丘」

「銀河丘ですか……。じゃ、ちょっと先ですね。私たちは不破雷町です」

「そうなんだ。――あ、着いた」

 3人は、羽佐間キイロの3才の弟ダイゴが通う百丸台保育園の前に着ていた。

「あ、この保育園なんだ……」

 光明寺ミドリがちょっと懐かしそうな目をして言った。

「うん、帰り道だから。ミドリちゃん、ここ知ってるの?」

「知ってるも何も……。私もコウちゃんも、それに私の弟もこの保育園通っていたから」

「あ、そうなんだ。何なら、ちょっと寄ってく?」

「そうしようかな。じゃあ、コウちゃんも行くよ」

 五十嵐コウジの意思確認は一切無く、女子2人で話は決まった。

「こんにちはーー。羽佐間ですけどーー」

 慣れた様子で羽佐間キイロが保育園の玄関で挨拶する。

「あら、こんにちは。キイロちゃん、いつも偉いわねーー」

 上品な感じの初老の女性が出てきた。

 この百丸台保育園の園長先生だ。

「いえ、そんな……」

「あら、そっちの子たちは――」

 園長先生は、五十嵐コウジと光明寺ミドリの顔を見て、言葉を区切ったが――、

「もしかして……、コウジ君とミドリちゃん?」

「あ、そ、そうです。こんにちは」

「覚えていてくれたんですか、うれしいーー」

 卒園以来、五十嵐コウジも光明寺ミドリも、園長先生とは会っていない。

 なのに、顔と名前を覚えてもらっていて、2人は感激した。

「覚えているわよ。2人ともあの頃の面影がちゃんと残っているし。元気そうね。あ、弟さんは元気?」

「はい、小学1年生になって、毎日張り切って通ってます」

「そう、良かった」

 奥の方から、大きな声を出しながら小さな男の子が走ってきた。

「アネキーー」

 男の子は、羽佐間キイロに抱き付いた。

「アネキ、今日は早いね」

「ダイゴったらやあね、『お姉ちゃん』でしょ?」

 羽佐間キイロは、五十嵐コウジと光明寺ミドリの目を気にしながら、弟ダイゴの頭をぐりぐりした。

「『お姉ちゃん』なんて呼んだことないじゃん」

「まあ、この子ったら、何言ってるのかしら、おほほほほ」

 キイロのぐりぐりに力が入る。

「いったいなーー。誰、この人たち?」

 キイロの弟、羽佐間ダイゴは、姉と一緒にやってきた2人、五十嵐コウジと光明寺ミドリを見上げて、たずねた。

「『お姉ちゃん』のお友達」

「お姉ちゃんって誰?」

 ダイゴはマジな顔つきでキョロキョロ探す。

「だから、あたしのことじゃん!」

 キイロの声が大きくなった。

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