クジラ
私は半生を思い返す。
私は待つことが嫌いだ。それはどれもとっても例外はない。
ラーメン店の行列も嫌い。テーマパークのアトラクションも嫌い。そしてなにより、人を待つことが一番嫌いだった。
私が学生の頃はこの性格のため、様々な人に迷惑をかけていただろう。はじめて付き合った一年間私が片思いをしていた彼女は初デートの際、彼女が寝坊して10分遅刻したためすぐに別れを告げた。百年の恋も冷める思いであった。
そんな私も社会人になった。大人の社会は待ち時間が多い。上司のために待ち、同僚のために待ち、部下のために待った。そんな生活が続き、私は壊れていった。
「何にストレスを感じますか?」そういう医者に「私はあなたの診察待ちで感じました」と言い残し帰ったこともあった。
そんな生活の中にも心の安らぎがあった。
それは飼っている金魚であった。名はクジラという。
彼は普段から何もしていない。することとは私のあげる朝と夜のエサを待ち続けていること。そう、彼は待ち続けているのである。
私が目の前にくると口をパクパクとさせて、可愛いものである。
私はこうして自分の待ちに対する気持ちを金魚に押し付けている。
私は最悪な人間だ。最悪の人間だ。
だから私は不幸を背負ったのだ。
バイク事故。身体が動かなくなった私はいま、こうして今までのことを思い出すことしかできない。
半身不随で臓器もボロボロ。いつ死ぬかも分からないぐらいらしい。
待たされる人間がこうして死を待っているのだ。皮肉な話である。
そして今日の夜、私の命をかけた手術がおこなわれる。私は嫌いな待ちを望んだ。死と生のギャンブルから逃げたかったからだ。
私の手術は成功したのだろうか。分からない。頭がフワフワする。
そういえば、忘れていたことがある。クジラにエサをやっていないや。
やっぱり待つことは嫌いだ。




