第008話 新規能力と靴
早速入り口に飛び込んでいった人がいたりと、盛り上がっている周囲を横目に、俺は頭に入って来た新しい能力の整理をしていく。
・【オプション】〈内部浄化〉
乗り物の内部を常に綺麗な状態に保つ。
汚れが付かずに除去されたり、空気の清浄などを行う。
乗り物の内部浄化であって、乗っている人に直接の影響はない。
・【ポータル】〈トランクルーム〉
新しく行けるようになったのは、名前からして収納関係のようだ。
様々な方面に影響を与えそうな為、これは慎重に確認をする必要がある。
俗にいうアイテムボックスや収納鞄があるのかについても調べないと。
・【メンテナンス】〈研磨洗浄〉
対象に付着した余分なものを削り落としたり、綺麗に磨きあげる。
頑固な汚れから軽い汚れまでを綺麗に洗い流す。
人を対象として使用すれば、垢や余分な脂分を削ぎ落し、洗い流せる。
・【サービス】〈グルーミング〉
馬などの動物だけでなく、人間の身だしなみも整えられる。
利用すると10分間、不可視・不壊の結界に包まれる。
その中では同時に召喚された人型オートマタによるケアが行われる。
・【サポート】〈機密保持サポート〉
密室内の情報を完全に秘匿する、情報漏洩を防ぐ為のサポート。
内外部からの物理・魔法的な干渉を防ぎ、スパイ存在なども暴き出す。
・【マイレージ】
獲得する値が2倍になり、効率が上がったのは嬉しい事だ。
・【フリート】
購入できる乗り物の制限が緩和され、選択肢が広がった。
全て良い能力だが、全体的に衛生面が強化された印象だ。
頭の整理も軽く終わったので、試せるものを試しておこうと思う。
まずは購入できるものの確認から。
ここまで移動してきたが、革のサンダルだと思ったよりも土や砂埃で足が汚れ、キックする際に小石などで足を痛めそうになった。
その為、新しく買えるものの中に、靴代わりになる物があるかを探すことを優先する。
以前探して良さそうだったローラーシューズは子供用しかなかったが、今回は大人用を見つける事ができた。
かかと部分のローラーを外して蓋をすれば、普通のスニーカーとして履く事ができそうだ。
価格は110MP。現在は【マイレージ】の効果もあって俺のMPは152になっている。決して余裕があるわけではないが、今現在では最優先に必要と思っているものなので購入を決意した。
まずは〈診断記録〉で自分の足のサイズを確認する。
ついでに自身の体調に異常が無いことも確認し、足のサイズは以前と変わらないと分かった。
色は遠目から目立ちにくいかもしれない、モノトーンの迷彩柄を選び、購入した。
早速ローラーシューズを召喚すると、取り外し用の工具もついてきた。
ローラー部分を確認すれば、やっぱり土の上を走行するにはこのローラーでは心許ない。
予定通り道具を使ってローラーを外し、蓋を取り付けた。
ローラーだけを送還する事は出来ないようで、鞄の中に仕舞い込んだ。
靴下がない為、普段とは少し違う履き心地だが、サイズ感もクッション性も悪くはない。
足を動かすと、ついていた砂が落ちた感覚があり、その砂が〈内部浄化〉で消えた感じがした。
どうやらローラーを外しても乗り物として扱われるようで、これならば〈固有識別〉の恩恵を常に受けられる。
この結果に満足し、新品の靴に汚れた足を入れた事が気になったので、次は〈研磨洗浄〉を試すことにした。
自分に対して〈研磨洗浄〉を使用する。
その瞬間、実体のない水が自分を洗い流すように流れて行った。
体についていた汗や汚れが落ちたのだろう、とてもさっぱりとした気がする。
これならば街にお風呂が無くても、しばらくは我慢できそうだ。
流れ落ちた汚れもどこかへ消えたようで、最良の結果と言えるだろう。
残りの〈トランクルーム〉は完全に一人の時に検証したい。
密室がない〈機密保持サポート〉は使えないし、どのみち利用する為のMPもない。
あとは〈グルーミング〉だが、残りMP42の俺に、利用料40MPは無理だ。
特別利用権を与える条件は既に満たしているので【サービス】の付与も試してもらうか。
必要とされなかったらMPが貯まってから自分で試そう。
確認が終わり、周囲に意識を戻すと、いつの間にかトイレから戻っていたリィンさんとセナさん、カイルさんの3人が俺の事を見ていた。
「えっと、どうかしましたか?」
「突然何かが流れるのが見えてびっくりしていたのですよ」
セナさんにそう言われ、あの水が流れる様子は、他の人にも見えるのだと知った。
「ああ、あれは体を綺麗にするスキルですよ、試してみますか?」
俺の問いかけに、女性陣は何度も強く頷き、その様子を見たカイルさんは苦笑いだ。
「それじゃあ、いきますよ」
順番に〈研磨洗浄〉を使用する。
その度に歓声が上がり、自分や相手の体を確認しているようだ。
着ている服や装備にも研磨無しの洗浄をした為、長旅の簡単な汚れが落ち、かなり綺麗になった。
種族的にリィンさんは綺麗好きらしく、セナさんも女性なだけあって、今までも綺麗にはしていた。
カイルさんもセナさんの影響か綺麗にしていたが、それでも限界はあったのだろうと感じる程には見違えた。
綺麗になって喜び合っている所にマルクさん達もトイレから戻って来た。
喜んでいる3人を見て不思議そうにしていたので、俺は〈研磨洗浄〉を説明し、実際にかける事になった。
「これは確かにいいですね」
「そうにゃ!一家に一台ヒュウガにゃ!」
「本当にうらやましいスキルです」
物扱いされそうになってきた俺は、話を変えようと〈グルーミング〉について相談する事にした。
その結果、異常な程の食いつきを見せて来たのはセナさんだった。
リィンさんは綺麗でいられれば良く、身だしなみよりは甘い物のようだ。
セナさんの協力を得る事が出来たので、俺は〈グルーミング〉の特別利用権をセナさんに付与した。
それを確認したセナさんは迷うことなく直ぐに利用したようだ。
セナさんが結界に包まれ、内部の様子が確認出来なくなった。
知識通りの状態が確認出来たので、俺は断りを入れてこの間にトイレに行く。
用を足し、お茶を買って戻って来たら丁度良かったのか、数秒もしたら結界が解除された。
そこから出て来たセナさんは美しさがさらに数段上がっていた。
ボサボサ気味だった髪は艶やかにまとまり、肌や爪も瑞々しく輝いている、着ている服の皺もなく完璧に整えられている。
「……セナ、すごく綺麗だ」
カイルさんは顔を赤くしながらべた褒めし、その言葉にセナさんは嬉しそうに微笑み、二人の世界に入っている。
マルクさんもセナさんの姿には驚愕し、結局全員に〈グルーミング〉の特別利用権を最大の2回分付与する事になった。
ログさんはそれ程必要としないようだったが、馬や自分以外でも対象にできると知ると受け入れていた。
これで全ての検証が終了したので出発までゆっくりしようと思ったらマルクさんに声をかけられた。
「ヒュウガさん、その靴はさっきまで履いてなかったですよね?また知らない素材のようですが、それも購入できるのですか?」
商人として少しの変化も見逃さないようだ。
俺は苦笑いをしながらローラーシューズの説明をする。
説明を受けて、マルクさんはレオくんの分も一緒に購入するようだ。
俺は二人の足のサイズを調べ、マルクさんにブラウン、レオくんにブラックのローラーシューズを渡した。
もちろん今回も〈固有識別〉は外したが〈内部洗浄〉は付けたままにしておいた。
ちなみに冒険者である4人は、頑丈なブーツを履いている為、今回は購入は見送ることになった。
冒険者の激しい動きでは靴底もすぐにすり減りそうだ。
この靴を履いてるだけでも特別利用権を使えると言っておいたので、いつか購入してくれるかもしれない。
シューズの試し履きも終わった頃、休憩時間も終了となった。
全員の準備が終わり、ログさんによる車輪の確認も終わった。
「よし、問題なさそうじゃ、出発していいぞ」
ログさんの掛け声と共に、馬車がゆっくりと動き出す。
履き替えた事でより快適にキックボードに乗り、辺境伯領都へ向かって街道を滑り出した。




