プロローグ
人を喰らう化け物——魔族。
彼らは三つの目を持ち、魔法を操る力を誇る。
そんな化け物と人間が交わることで生まれる存在——それが魔女である。
人間と変わらぬ容姿をしながら、魔法を操る力を持つ彼らはその多くが人間社会に紛れ、ひそかに暮らしているという。
しかし、魔法は人に仇なす魔族の証とされ、恐怖と嫌悪の対象であった。
ゆえに、教会は魔女に裁きを下すのだった。
◾️
僕が初めて魔女を見たのは、八歳のときだった。
母に連れられ街へ買い物に出かけた日、ちょうど魔女の公開処刑が行われていた。
処刑が行われる広場には大勢の野次馬が群がり、十字架に磔にされた魔女に向かって罵詈雑言を吐いていた。
魔女は手が切り落とされ、顔はひどく腫れ上がり、身体中に生傷とあざがあった。
なんて痛ましい姿だろう。子供心に、そう思わずにはいられなかった。
そして、初めて見る異様な光景を前に、僕は母に尋ねた。
「どうして、あの人はあんなひどい目に遭っているの?」
母はニコリと微笑み、優しい声で答えた。
「それは、あの人が魔女だからよ」
「まじょ?……それってよくお話に出てくる悪者の?」
寝る前によく母が読み聞かせてもらった童話を思い出す。
悪い魔女が魔法を使って村の人々を殺そうとし、最後には教会に見つかって退治されるという勧善懲悪を表現した物語だ。
「そうよ、ノア。魔女は悪そのものなの。だからこうして罰せられるのよ」
母は微笑みながら、そう僕に言い聞かせた。
そんな話をしていると、でっぷりと肥えた、いかにも偉そうな聖職者が前に進み出て、野次馬全体に響き渡る声で魔女の罪状を読み上げ始めた。
「この者は、自らが魔女であると知りながら人間社会に紛れ込み、混乱を起こした。さらに教会へ連行する際には魔法をもって抵抗し、その結果『異端審問官』二名を殺害した。——よって、火刑に処す」
聖職者が罪状を読み終わると同時に、野次馬の間から絶叫にも似た歓声が上がった。火刑に処される魔女は珍しく、よほどの重罪でなければ執行されない。そのため、多くの野次馬が初めて見る火刑に興奮しているのだと後に知った。
歓声が冷めやらぬ中、松明を手にした聖職者二人がゆっくりと魔女へ歩み寄り、十字架の周りに置かれている薪へ炎を移す。
瞬間、炎は一気に魔女を呑み込み、魔女の甲高い叫び声が広場全体に響き渡った。
やがて叫び声は途切れ途切れの呻きへと変わり、炎に呑み込まれたその身体は、次第に人の形を失っていった。
その姿を見て「なんて残酷で、凄惨な最期だろう。可哀想だ」という哀れみの気持ちが一瞬心に浮かび上がったが、それと同時に「悪しき存在なのだから仕方がない。魔女であること自体が罪なのだ」という、社会の秩序に根ざした論理がその同情心を押し潰していった。
母が僕の手を引いた。
「終わったし、お家に帰ろうか、ノア」
母はいつもと変わらぬ笑顔を浮かべ、僕にそう告げた。
僕は母の平然とした態度に驚きながらも、これが普通であるということをこの時学んだ。
「魔女は悪であり、罰せられるのが当然である」と。
だが、それは間違っていたのかもしれない。
僕が十八歳のとき、僕はまた魔女の公開処刑を見ていた。
十字架に磔にされているのは、友人のグリスだった。
彼は僕の村の近くの孤児院で育ち、子供の頃からよく一緒に遊んだ。
僕より二つ年上で、幼馴染というより、兄のような存在だった。
彼はいつも穏やかで、誰に対しても優しかった。そして何より「神の教え」に誰よりも忠実だった。
そんな彼が今、殺されようとしている。彼が魔女であるために。




