第九話
「小僧、お前には本当の柔の剣を教えてやろう」
そう言ってカカッと笑う漁師の男。
先程の剣は確かに柔の剣だった。
流れるような力の移動に、その果てに集中された一点の力。
「何が違うかわかるか?」
その問いに答えられない。
「とりあえず、分かるまでバタランな」
そう言って消えたかと思うと、一匹のバタランを連れて現れた。
「ちょっとまっ──」
漁師の男を呼び止めようとするも、その隙を突くように殴りかかってくるバタランに意識が裂かれる。
「おわっ!」
バタランの大振りな攻撃を何とか避ける。
避けながら、思案する。
漁師と自分の違いを。
「これで、どうだ!」
地に足の着いた会心の一撃。
力が節々の関節を起点に剣先へ伝う。
「っ!?浅いっ!」
切れたのは、変わらず薄皮一枚。
バタランは相変わらず怒りのままに腕を振り回す。
凶悪な四手から繰り出される攻撃を避けながら思案を重ねる。
あの時、漁師の男は驚く程自然にバタランの首を狩り落とした。
驚く程、自然に……?
「フッ、フッ、フッ」
攻撃を避け、足が接地する度に空気が漏れ出る。
それはまるで押し出されるように肺飛び出し、喉を伝い、口から吹き出される。
それは、力も同じなのかもしれない。
吹き出すように体の中を伝う力。
それの道筋を描くように筋力で方向を固める。
『ヴガッ!?』
それは、バタランの断末魔。胴体を真っ二つに切断された四手のゴリラがその身体を地に沈める。
「はっ、はっ、はっ……」
息が切れる、とてつもない疲労感が身体を襲う。
「んで、どうだった。小僧?」
「掴め、ましたよ……。本当の柔の剣」
カカッと笑う漁師の男。
「正解だ、小僧。関節を起点に筋力で出力先を導く。お前はもっと、強くなれる」
男は満足気に首を縦に振った。それを見たのを最後に、僕の視界は暗転した。
◇
それは、才能と言うには些か異常に見えた。
タルゾフの爺がやたら若い弟子をとった話は聞いていた。
物語は道化師、剣術の才能はそこそこあるらしいと。
「化け物……ってやつか」
目の前でバタランに挑むその小僧。
剣技は並、身体能力は中の下。
だが、あまりにも鋭い動体視力と頭の回転。
魔物には決まった行動パターンがあるとされており、そこをつけばどんな魔物でも攻撃を受けずに倒せるという。
だが、それは机上の空論。
強い魔物ほど行動が複雑になっていき、徐々に読み切れなくなっていく。そしてバタラン程になると、そのパターンは数百通りにも登る。
「全部、避けてやがる」
小僧がバタランと戦い出してわずか二時間ほど。
それ以前にバタランと戦った様子もなかった。
だが、全て読み切って避けている。
そして、その合間に俺が言った柔の剣について思案して試してやがる。
「危なくなったら助けるつもりだったが、必要ねえかもな」
小僧が出した渾身の一撃。
冒険者としては頼りないその体躯から絞り出すように放つ斬撃。
「こいつは、強くなるな」
そっと小僧の後ろに降り立つ。
満身創痍、全てを出し切ったように肩で息をする。
「んで、どうだった。小僧?」
「掴め、ましたよ……。本当の柔の剣」
息も絶え絶えに、それでいてしっかりとこちらを観るその視線に背筋が震える。
「正解だ、小僧。関節を起点に筋力で出力先を導く。お前はもっと、──強くなれる」
ああ、お前は強くなれるよ。
俺なんかを超えるくらいに。
この剣聖を、超えるくらいに。
「って、まだ当分先かもな」
力を出し切って意識を失った小僧を抱える。
「カカッ」
自分でも分からぬ内に、笑いが漏れ出た。
『グラァッ!?』
血の匂いを嗅ぎつけ、無粋な魔物が集まってくる。
バタランが、十二体。
「いい気分なんだ、邪魔すんじゃねぇ」
もう既に細切れになったバタランに不満をぶつけつつも、俺はそのまま帰路についた。
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