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魔法で英雄になるために。~とある道化師の英雄譚~  作者: コモンピープル
第二章 久遠の剣聖と最弱の剣聖

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第八話

 まさか、冒険者登録をして一ヶ月も経たずに拠点を変えるとは思わなかった。


 僕が現在住んでいるのは、カスベル地方最大の都市。領都カスベル。


 ガラガスとのいざこざが終わった日、実はあの後

 金銭とは他にもう一つだけ要望を聞いてくれるとの事だった。


 そこで願った内容が現状に繋がる。


「よろしくお願いします!」


 辺りは夜明け前。目の前にいるのは一見すればやせ細った老人。

 骨と皮だけで構成されたようなその体躯は、ともすればこの瞬間に倒れてしまうのではないかと思うほどに頼りない。


「構えろ」


 端的に話すと、そのまま上段に構える。

 そして、僕もそれに習って向き合った。


「しぃっ!」


 余分な空気を吐き出すように漏れ出た声。

 そしてそれとともに襲ってくるのは、あまりにも重い斬撃。


「なっとらんの」


 その一挙一動が柔の剣。


「また、受けきれなかった……」


 目の前にいるのは『柔の剣』の剣豪の地位を持つムザーさん。

 現在の僕の師匠だった。


「攻撃となると才は見えるが、防御に回るとてんでダメじゃの」


 師匠の言うように、余りにも防御が弱すぎた。

 柔の剣の防御の理念としては、力の受け流し。


 真正面から受けるのではなく、流れを逸らすことによってそれを防ぐものだ。


「手本を見せてやる。ほれ、打ってきてみぃ」


 そう言って再度の打ち込み、今度は僕から。

 地面を踏みしめる。

 足元から始まる力を鋒まで流す。


「うむ、攻撃の基礎は出来とるのぉ」


 あの時紛れで出した一撃を、意識的に出せるようになった。

 だが、それらも全て師匠に流される。


「まあ、本来一朝一夕で身につくものでは無いからのぉ……」


 呼吸が乱れた僕に、師匠は朝日を仰いでボヤいた。


 ◇


 ギルドに寄ったのは昼過ぎのこと。

 柔の剣の鍛錬の後、そのまま近くの草原で狩りをして街へ戻った。


 手元の袋に入っているのは、牛型の魔物、モーモーバッファローの魔石と肉だ。


 カウンターで換金を済ませると、背後で冒険者達が騒めくのを感じる。


 ふと感じた既視感。


 振り向くと、そこに居たのはいつかの剣聖アリス・シュタインバーグ。


 そしてその背中に張り付くように背負っているのは蛸の様な化け物、その大きさはゆうに五メートルを越えて天井につきそうなほど。

 相変わらず物騒な魔物を背中に担いでいる。


「……ああ、あの時の」


 こちらを見た、目が合った。なんなら喋りかけてきた。

 軽く会釈で返す。


「凄いね、良くなってる。今ならなれるかもね」


 僕を一瞥すると、その言葉を残して換金へと向かう。

 固まる体、動かない指先。


「よく、なってる?」


 ありえないほどの情報量に僕の脳内が回る回る。


 ──そもそも僕のことを覚えていたのか!

 ──良くなった?今なら英雄になれるってことか!?

 ──背中に背負った化け物はなんだ!?



 振り返って話しかけようとすると、既にそこに彼女はいなかった。


「はぁ、何やってんだか……」


 情けなさすぎる自分に肩を落とした。


「はっ、あの剣聖様に褒められるたぁやるじゃねぇか」


 そう言って話しかけてきたのは知らないおじさん。


「ありがとうございます。あはは……」


 何とかやり過ごそうと背を向ける。


「まあ、まて小僧」


 悪意は無いが、めんどくさいタイプのおじさんだろう。

 無視を決め込んでギルドから出ようとするが。


「柔の剣……まだ覚えたてってところか」


 その言葉に足が止まる。


「足裏が地面に吸い付いているな、才はあるようだ。だが、やや重心が前のめり、そして芯が硬いな。ふむ、攻撃面は得意だが受け流しが苦手と言ったところか」


 次々と口走るその内容に絞り出した言葉。


「何者、ですか」

「俺がが何者かって?なに、ただの──しがない漁師さ」


 そんなことより、と話を続ける。


「小僧、狩りに行くぞ。剣術というものを教えてやろう」

「分かり、ました」


 未だ詳細を名乗らぬ漁師の男。

 怪しく思いながらも、好奇心に負け頷いた。


 ◇


「して、小僧。なぜ柔の剣を選んだ?」


 それは平原をぬけた森の中。

 以前ガラガスと戦った場所よりももっと深いところ。


「弱者でも、強くなれるからです」

「ははっ、確かにそうだ。だが、魔物に対して有効な剣術でもないだろう」

「そうなんですか?」


 単純に知らなかった為、疑問で返す。

 冒険者たちの、作法もなく無造作で荒々しい剣を見ていた人間としては、洗練された柔の剣は何とでも戦えるように見える。


「あ?お前そんなことも知らねぇのか」


 そう言って笑い出す漁師の男。


「ははっ、こんな誰も好まない剣術をなんでやってるかと思えば、ただのバカかよ」


 不躾な言いようにムッとするが、返す言葉もない。


「小僧、その様子じゃ五大剣術も知らねぇようだな」


 初めて聞くその言葉に頷いて返す。


「まあ、剣術家の中で勝手に言ってるんだから無理もねぇわな。とりあえず剣術の中で有名所が五つあんだよ、先ずは『天剣』かの久遠の剣聖アリス・シュタインバーグの使ってるやつな」


 何度か邂逅した竜殺しの英雄。だが、彼女について何も知らなかったことを認識させられる。


「そんで、もう二つ目が『正剣』騎士たちが使ってるやつだな。剣聖は確かいまのこの国の騎士団だったかな」


 騎士団ガルマ・フォン・マルクス。

 彼もまた英雄の中の一人。話によると何万人もの魔族をたった一人で全滅させたとか。


「そして、三つめが『覇王剣術』理論も技術も何もねぇ、力で全てをねじ伏せる汚ねぇ剣術だ。剣聖は山賊王のやつだ」


 何か覇剣の使い手と因縁があるのか、その言葉の端々にトゲを感じる。


「んで、四つめが『魔導剣』魔法と剣術を絡めたやつで、剣聖は隣国の王だな」


 これは物語の才能があるやつ向けだな、俺らには関係ねぇ。と話を流す。


「そんで、最後が『柔の剣』五大剣術において最弱の剣術。使い手は減るばかりってな」


 そう言って少し悲しげに笑う。


「柔の剣が魔物に対して有効じゃない理由。それは威力不足だ」


 漁師の男が話を終えるや否や、現れる一匹の魔物。

 有り余る筋肉に身を包んだ四手のゴリラで、名を『バタラン』と言う。


「ほれ、やってみろ」


 そう言って、僕に促すが出来るはずもない。

 バレッドボアやゴブリンとは訳が違う。


 バタランの何度も振るわれる拳を何とか避ける。


「避けてばっかりじゃ倒せねぇぞ」


「っ!?分かってますよっ!」


 いつの間にか距離を取って遠くから野次を飛ばす漁師の男に怒りを覚えながらも、死に物狂いで攻撃を捌く。


 その動きをよく見ると四つ腕を交互に使って攻撃をしてくるが、足元はガラ空きだった。


「ここだっ!」


 大振りなその攻撃の間を掻い潜り何とかその足に剣を打ち込む。

 柔の剣の乗った会心の一撃。


「浅いっ!?」


 それは、余りにも無情な結果だった。

 大木をも切り倒すその一撃は魔物には一切効いていない。

 浅く、皮膚を切り裂くのみ。


「そうだよ。浅いんだ」


 それが聞こえたのはすぐ真横。


「分かっただろ?威力が足りねぇ」


 漁師の男は、流れるようにバタランの首を狩り落とした。


「だか、それを踏まえてだ小僧。俺に習え、本当の柔の剣を教えてやる」


 漁師の男は不敵に笑った。








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