第十話
目を覚ますと、揺れていた。
「え、なんで?」
「おう!目覚めたか小僧」
僕を肩に担いで歩くのは漁師の男。
最後の記憶はバタランを倒した所で、その先の記憶がない。
「暫くは身体がまともに動かねぇだろ。ゆっくりしとけ」
男の言葉通り、体の節々が痛んで動かない。
かなり酷い筋肉痛と言ったところだろうか。
「いや、恥ずかしいんで降ろして欲しいんですが」
男はギルドに向かっているのだろう、街中で担ぐもんだから道行く人の視線が僕に集まる。
「カカッ、男ならどんと構えてろ」
そういう問題じゃないのだが、身体が動かないからどうしようもない。
担がれたままにギルドへと入った。
「ふはっ、何やってるんだい君たち」
「え、マチルダさん?」
ギルドの中にいたのは見覚えのあるエルフの女性、友人にして恩人であるマチルダさんだった。
暫くは会うことがないと思っていたし、そのつもりで街を出る時に挨拶をしてきたのだが。
「思ったより早い再開になったね。それにしても──」
そう言って漁師の男に視線を向ける。
「漁師だ」
「そうかい。まさか君らが知り合いだとはね……」
とりあえず、とマチルダさんが懐から出したのは一本のポーション。
「その芋虫みたいな動きやめな」
有難くそれを頂き、飲み干す。
「あ、動く」
「ちっ、面白くねぇな」
つまらなそうに呟いて僕を降ろした漁師の男。
「にしても、どうしてここに?」
面白がっていた男に不満を覚えつつも、マチルダさんに問う。
「いや、とある依頼を出すためにね。そうだ、君も受けていきなよ」
そう言ってヒラヒラと揺らす一枚の用紙。
「剣……じゃなかった。そこの漁師さんも頼むよ」
受け取った紙の内容を見て息を飲む。
「マチルダさん。これって……」
「ああ、そうだよライトくん。その依頼は領主様発行の依頼でね。竜殺しの依頼、だよ」
そう言ってニヤリと笑うマチルダさんに対し、僕は息を飲む。
「まあ、安心しなよライトくん。メインのドラゴンはアリス・シュタインバーグが受け持つ。君らにはその他の魔物退治を頼みたいのさ」
快活に言い放つが、その内容は僕に衝撃を与えるのに充分だった。
憧れの剣聖との合同依頼、迷うことなく僕は頷いた。
◇
時は流れ二週間後。
「なんで、貴方と……」
そう言って僕が不満を漏らしたのは遠征の道中、狭苦しいテントの中。
「カカッ、全く知らねぇヤツと一緒に寝るよか良いじゃねぇかよ」
そう言って笑うのはむさ苦しい漁師の男。
遠征のメンバーの人数は十二人。
アリス・シュタインバーグを中心に集められた精鋭たち。と、僕。
「そもそも僕、場違いすぎませんかね」
辺りを見回すと、そこにいるのは名だたる猛者ばかり。
槍使いのヤシューマ。
鎖鎌のジェニー。
豪腕のガラド。
等々、かの剣聖には及ばないものの一線級の猛者だらけだ。
依頼を受けた時は何も考えずに頷いたが、今になってこれで良かったのかと頭を抱える。
「なに言ってんだ、受けたもんは引っ込めるなよ」
それはそうだが、と僕は黙りこくった。
僕の役割としてはドラゴンの討伐ではなく、その周囲に蔓延る魔物の討伐。
アリスさんがドラゴンだけに集中できるように、他のモンスターを処理する。
「……言っておくが、バタランを一人で討伐出来るやつはそうそういねぇぞ」
「えっ?」
悩む僕に見かねたように声をかける漁師の男。
正直僕は魔物の強さについてよく分かっていない。
人伝に知識を得たり、実際に戦うしか情報を得る手段がないからだ。
「男ならウジウジ悩むんじゃねぇよ、めんどくせぇ」
本当に面倒くさそうに、彼はそっぽを向いて横になった。




