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魔王と勇者と暗殺者  作者: 泰然自若
二部 四章
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第五十三話 守護者

 カズヤと別れてから、自室と割り振られた部屋に入ると一人の魔族が備え付けられたテーブルに腕を置き、椅子に腰を降ろしていた。もはや、カインは驚く事もしない。ここにいる魔族の大半が、化け物と呼べるにふさわしいほどの力量を持っているということを認識していたからである。


「貴方が守護者だとは判らなかった」


 問いかけられた言葉に返答もせずに、カインは対面の椅子へと腰掛ける。ため息を漏らしながら、目の前にいる沿岸都市の飯屋を営んでいた主人を見つめた。面通りの時に、説明があったことを思い出し、彼女がメルカ族と呼ばれる魔族だということを思い出していた。


「本題は?」


 意味もなく来られては、逆に困ったのはカインであっただろうが、そんな状況を端から選択肢の一つにすら入れてはいなかった。


 何処と無く猫のような瞳が印象的であった。獣人と人間から呼ばれることに今一度、カインは妙な納得をしてしまった。ともかく、表情やこれまでの行動から意図を把握できないカインには素早く、話を終わらせたいという思いがあった。先ほどあった、カズヤとの慣れない会話に気が滅入っていたのである。


「魔王は隠している事がある」


 その一言で顔をしかめる。今はフードで顔を隠す事を行っていないので相手には嫌というほど見える。そもそも、カズヤと護衛の二人にはフードを被っている状態を記憶されているので、顔を隠す事も出来ないで居た。


 何の意図を、何の根拠でもってそのような言葉をわざわざ伝えに来たのかカインには理解できなかった。相変わらず、相手からは表情の変化を見つけることは出来ない。ただ、鼻と耳の僅かな機敏から、相当な警戒を周囲に対して行っているという事だけは確かであるとカインは察していた。


「……魔王が隠している事をお前が知っているか。説明できるのか」


 一先ずは話を聞くことにした。有益であるという判断をしたとも思えるが、今のカインには追い返すという元気よりも説明を子守唄代わりにしたいという願いもあったのかもしれない。


 カインの顔を明らかに疲れていた。いや、カインは理解している。この魔界の空気が合わないのであるという事を。だからこそ、余計な行動を起こさず安静にしていたかったのである。


 護衛の二人と同じようにカインも一般人ではあるが、大きな違いが左腕であり、このところの暴走はなんとかしなければならないと考えていた。もっとも、そのような事を簡単にできるはずもなかったので、放置に近い扱いをせざるを得なかった。


「メルカ族は魔王を作り出した血を受け継ぐ」


「古代人だとでも?」


 放たれた言葉に、即座な反応を示す。だが、決して大きく促すことはしない。


「真意はわからない。だが、代々そう伝えられてきた。そして我々は体内ではなく、試験管から生まれていく存在」


「試験管?」


「培養炉と同義だと思えば良い」


 その言葉に、カインは納得したように小さく言葉を漏らしていた。


「作られた存在」


「そうだ。我々は魔王と同じく、作られた存在。だが、魔王とは違い、種を残す方法を与えられたという事。これは、我々が語り継ぎ、意志を継げという意味であると先人たちは考えていた」


 カインは椅子に背中を預けるようにして、天井を斜めの視線で捉えるように見始める。虚空ともいえない閉鎖的な空間の中で、特に目を引くものは何も無い。


「それで?」


「私には、勇者の力を纏め、他へ送り込む事が出来る能力」


「だから、お前は封印に必要だった。面通りで聞いていることだな」


「何故、守護者が必要だと考えたことはあるか」


「名前からの簡単な推察くらいはな。最も必要であると思ったことは無い」


「そうだ。本来ならば守護者などという者は存在しないし名称すらない。これは魔王が勝手に作ったものにすぎない」


 カインが両肘をテーブルにおいて両手指を額の前で絡ませる。それが、本当ならばますます自分自身の境遇な理不尽だと思えてきていた。ここにきて、この話にのめりこみ始める。


「……意図して作り上げたのか」


 カインにとってそれは不愉快な話であった。表情に出さないが怒気は確実に生まれていた。だが、余計に意味が判らない。何故、そのようなことを作り上げる必要があったのか。


「本来、貴方の左腕は、古代人と呼ばれる戦士達が使っていた物。それは間違いない。それでも、人間がむやみやたらと使う事など出来はしない」


「つまり、俺には古代人の血が流れていると?」


「あなたは我らと同じメルカの血が流れている可能性がある」


 ――魔族のお仲間というわけか


 驚きの声を挙げる事もせず、態度も硬化させずにカインは心の中でそう呟いた。


 カインの内面は非常に穏やかであった。それほど、自身の出生や血筋に興味が無かったのである。何にせよ、自分は自分でしかない。たとえ名前などなくとも、自分という個。それを形成する肉体があるのならば、それは自分である。カインの中では既に自身の問題は解決していたのであった。


「それで?」


 その言葉に、メルカ族は少々の間を置いて話を続けた。


「……魔王はきっと、貴方を古代人の戦士にしたいと考えている。そして、貴方にはその適性があった」


 そこには、カインに対する戸惑いが見え隠れしていた。これほど、落ち着いて話を聞く姿勢を取れるとは予想外だったのだろう。カイン自身もそこは自覚していたのだが、元々どうでもいいという考えがあったのだ。今更、熱を持つ必要性を感じなかったのだろう。


「何の為に。そもそも、魔王の思惑は実害があるのか」


 それ以上に、不思議で仕方なかったのである。魔王が何故、そうしなければならなかったのか。意味が判らなかった。何のために。そう本当にその言葉が正しかったのである。


「違う」


 しっかりとした否定を呟いて見せた。


「何が」


 カインは絡ませた指を解くこともせずに親指を額に押し付けてそう言い放つ。視線はテーブルを見つめていた。


「魔王の目的は、貴方」


「理由を言ってくれ」


「魔王自身の呪縛を解き放つことができるかもしれない。魔王はその可能性を貴方に見出した」


 何を言っているのか。あまり理解したくはないというのがカインの素直な気持ちだった。


「つまり、俺が古代人の戦士になれば、魔王を門番という役割から外す事も出来る力を得ると? 解せないな。古代人はかなりの文明を持っていた事は理解できるが――」


 カインの疑問に対してメルカ族は言葉を続けた。


「滅んではいない。彼らは飽きた。この世界に、だからここを捨てた」


 ――ぶっ飛んだ話になってきたな


 カインの口からは自然とため息が漏れていた。


「そう、本来ならば、魔王はこの世界を滅ぼす役割を担っていた。だけど、今は門という存在を管理する役割に上書きされている」


 カインはメルカ族を真正面から見つめるに至る。


「誰かが、そうした。そしてその誰かはお前達の祖先となる存在。置き去りにされたか自ら望んで残ったか判らぬ者」


 メルカ族は小さく頷いた。


「この世界を残そうとした。目的は判らない。だが、事実」


「魔王は世界を滅ぼしたいが出来ない。その理由が門という存在か」


 魔王という存在はこの世界を滅ぼすために残されることになった。何らかの理由でこの地に留まったメルカの祖先は門という存在を残したのかもしれない。魔王を縛り付けるために。


「門とはなんだ?」


 カインは率直な疑問をぶつけた。


「門は門でしかない。世界と世界を繋ぐもの。あの門の向こうがどういった世界なのかは判らない。だが、化け物はこちら側に来たがっている」


 考えては浮かんでくることが多すぎる。カインはそう思っていた。どれが正しい情報なのかを取捨選択できずに居たのだ。それほどに曖昧でいて突拍子もないものばかり。


「遺跡にも門はあった。あれは、なんだ」


「あれは、この世界での空間を繋ぐもの」


「……あくまでこの世界内部での移動手段の一つだということか」


「そうだ」


「俺に何をさせようとしている」


「貴方に賭けるのは我らも同じ」


「やめてくれ。これ以上厄介ごとを抱え込むのは御免被りたい」


「貴方は逃げられない。もう止まらない。だけど、安心してほしい。貴方は反逆できる」


「反逆……ね」


「保証する。貴方は魔王に操られる人間ではない」


「説明してほしいところだ。重要すぎる」


「可能性という言葉。貴方の力はきっと魔王の望んだものにはならない。だが、我らもその力を言い当てる事は出来ない。だからこそ、賭ける」


 一体、何を言っているのだろうか。という感想しか出てこなかった。


「魔王は我らの動きを知っている。だが、放置している。貴方が自分の者になると思っているから。操作できるという自信があるから。けれども、それは叶わない」


「俺に、足掻く力があると」


「その言葉を頭に入れておいて貰えるだけで良い。今は、門の封印が最優先」


「……想定外だということか」


「そうだ。これは贖罪でもある。我らがこの世界を存続させたいがために他の世界に要らぬ希望を植えつけてしまったのかもしれない」


 その言葉に、カインは反応する。


「それは、憶測か?」


「ああ、可能性の話だ。尤も、這い出てくる化け物から察するに世界を食いつぶし行き場所を探しているだけのように思えてくる」


「世界を食いつぶす。そんな、存在か」


「可能性はそれこそ無尽蔵だ。だが、全ては想像でしかない。それに――」


「なすべき事に変わりはない」


「そういうことだ」


その言葉を最後に、メルカ族は静かに席を立った。


「我らは我らの成すべき事を行う。貴方は貴方の成すべき事を」


扉に手を掛けながらそう呟き、メルカ族は退室していった。カインは椅子に座ったままの状態で背もたれに全体重を預ける。椅子の前方を浮かしながらも、天井をただ漫然と眺めていた。


「難儀なものだな」


小さく、呟かれた言葉には様々な思いが込められていたのかもしれない。そう思うほどに、カインの顔は苦しそうであった。




広げるだけ広げてたたまないのは私生活のクセです。


修正予定有。

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