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魔王と勇者と暗殺者  作者: 泰然自若
二部 四章
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第五十一話 使い道

 始まりはいつからか。魔王はそんな事を思った。この考えこそ、いつから始めたのか思い出せない。だが、不思議と不毛なことだとは微塵も思っていなかった。


「余が魔王だ!」


 勢い良く勇者らに振り返り、マントを靡かせて、腕を一杯に広げた。


 その言葉に、カインは特に反応しなかった。


 元々、この魔王という存在が強者でありながらも馬鹿であることを前もって体験していたからである。ハルカは至って平然としている。それもそうだ。魔王はハルカに対して殺意を向けては居ない。これが殺意に満ち溢れていたのならば、この部屋に入室した瞬間に剣戟が舞っていただろう。


 魔王もその二人には何ら期待をしていなかった。期待していたのはカズヤらであったが、これも予想を裏切った。


 唖然としている。三人とも声を出す事も忘れているといった方がいいだろう。今まで磨き上げてきた魔王像がある。美化といっても差し支えないだろう。絶対なる強者。支配者たる風貌に空気を纏っているに違いない。そう思っていたのだろう。心への攻撃は想像以上に強い。だが、魔王もある種の衝撃を受けていた。度肝を抜いて驚いて欲しかったと思っていたに違いない。


 見るからに悲しそうな顔をしていた。唇を尖らせている顔が恐ろしいほど似合っていない。だが、逆に言えば封術士はその光景に爆笑を噛み殺しているし、カズヤたちもいきなり戦うという空気にはならなかった。


 良い意味で興が殺がれたのであった。


 これが、勇者と魔王の初対面であった。到底、歴史的な一場面ではないが、重要な対面に変わりは無かった。


「お前達を連れて来させたのには、理由が存在している。だが、それも大筋で知っているだろう。余の言葉よりも現物を見るが良い。その窓から一望できるぞ」


 その言葉に、一同は窓から見える光景を眺め見る事になった。


「遺跡にあった門と同じだけど、大きさは比べようもないな」


 カズヤの呟きに、護衛の二人は同意するだけで、平野に点在している魔族らを注視していた。ハルカは興味がなさそうであった。


「さて」


 魔王の言葉に、全員が向き直った。すると、何時の間にか長いテーブルが置かれ、椅子が並べられている。その光景にカズヤら三人は驚いたが、残りは何食わぬ顔で適当な席へと着席した。


「まず、勇者とは何かを言っておこう。本来、お前達のような存在が召喚されることは過去から見ても例が少ない」


 魔王は語り始める。それはもう、気を取り直して。先ほどの登場を無かった事にしたいようにも思えた。とはいえ、話はそう軽いものになるはずもない。


「それは――」


「そうだ。世界という枠を飛び越えるという現象は予想以上に力を使うのだ。この世界が滅ぶ力が干渉して起こり得るようなほどだと言って良い」


 過去において、勇者が異世界から召喚されたという記述は少ない。数千年という時は人間にすれば膨大すぎる。その流れの中で、両手で数えられる程度なのだ。


「だが、それは理由があったわけでもない……いや、力への適性があったのかもしれないが、それは些細な事だったな。お前達がこの世界に召喚され、力を得た。これだけで良い」


「ふざけるな! 俺は、好きでこっちの世界に来たわけじゃない!」


「お前がどう思うと関係はない」


「なんだと!」


「ならば、どうする? お前はこれ以上戦わない。力を使わないというのか? この世界が滅ぶ運命だとしても」


「何を……」


「考えればわかることだ。お前も理解しているだろう。ならば一時の激情に流されるのは感心できんな」


「あの門を封印せねば、お前達が戦ってきた化け物がそれこそ無尽蔵にあふれ出てくるのだぞ。お前達はそれを黙ってみているというのか。理由無き召喚で機嫌を損ねただけで。他者が死に、世界が滅ぶのをただ見ているというのか。まぁ、それも良いのかもしれないな。選ばれた者が世界の平穏を望まぬのならば、人同士の争いで緩やかな滅びを迎えるか。門によって災厄の中、滅んでいくか。それだけの差か」


 その言葉に、カズヤは押し黙る。それしか出来ない。理不尽であることは百も承知である。だが、だからどうなのだという事も今の時点では頭の中にあったのは確かであった。もう、戻れない所まできてしまっている。感じざるを得なかった。


「話だけでも聞くと良い」


 カインの言葉が流れては何処かへ漂い消えた。それでも、場を落ち着けることには成功した。


 カズヤの精神状態が未だ不安定であることを知っていた護衛の二人はとやかく口を挟む事をしなかった。


「まず、お前達の力はあの門を強制的に開閉する力になる。まぁ、お前達人間の力でしかそれが出来ないのだ」


 魔族には心の起伏。つまり喜怒哀楽が乏しいものが殆どであった。精神状態がそのまま生存本能などに依存している種が大多数。力があったとしてもそれを適度な量に調整し行使するなどという芸当は出来なかったのである。


 勇者はそういった力を持つ適性があると判断されて始めて選出されるのである。そして、選出から魔王の元へ訪れるまでに力を使いこなし、自らの物として所有する必要があった。


 その為の、襲撃や理不尽であり、魔王という存在もあったのだ。今ではその意味も大部分が風化してしまい、本当に魔王や魔族を倒すためだけに勇者が存在しているようなものとなってしまっている。


 各国家もそれで良いと思い、己の利益に繋がる遺跡の研究や支配に本腰を入れているというのが現状であった。


「つまり、俺達は力を解放してあの門を閉め直すってことなのか?」


「その解釈で問題ない。不自然な閉まり方を直すには一度開く必要があるからな」


「どうして、不自然に?」


「時の流れと外部からの圧力だと思えば良い」


「化け物どもが……」


「門を開ける以上。戦闘は必至。加えて、お前達の力は制御と供給に特化してもらうために、各魔族に参戦を要請しているのだよ」


「どうやって、門を開閉するんだ?」


 カインが口を開いた。人間の力が必要とは聞いていたが具体的な方法は知らされていなかったからである。


「願う」


 誰が予想しただろうか。あまりに唐突なその言葉に、沈黙が舞い降りた。


 だが、魔王の一言に――


「はぁ?」


 カインは初めて、真剣な怒気を含んだ相槌を打ったのであった。


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