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魔王と勇者と暗殺者  作者: 泰然自若
二部 四章
50/55

第五十話 体裁

魔王側

「勇者の人格は書き換えられたようだね」


 封術士は魔王と長方形のテーブルを会して向かい合って椅子に座っていた。


 遺跡の破壊が完了してから二日。霞みに揺らめく太陽の日が魔界と区別されている空間を照らしていた。門は静寂を保ちながらも、どこか不確かでそこに門があるのかと疑うほど、存在感を消していたのであった。


「問題はないだろう。制御は出来ている上にある程度の記憶を引き継いでいれば良い。そうでなくとも、支障はない」


 魔王は、目を瞑りながら、右腕を右の肘掛に乗せて頭を右手で支える格好をしてながらも言葉を発していた。


 室内は壁やテーブルの上に蝋燭が何本も立ち並び、炎という熱を帯びた光を作りなしている。いつものように、室内に備え付けられているのかもわからないような光源を使っている様子は無い。


 テーブルの上、封術士の前には食事を乗せた食器類が並べられていた。それをゆっくりと食しているのは封術士であった。


「殺意にはかなり敏感になっているようで、心が壊れるほうが速いかもね」


 魔王を見る事もせず、封術士の食は進んでいく。


「そうなったのならば、カインがやればいい。男の勇者は開門時に覚醒でもしてもらえれば戦力にはなるだろう」


 魔王は、特に何をするわけでもなく、未だに目を瞑っているままであった。魔王の中では、この程度で壊れるような存在ではないと思っている節があった。


 過去の勇者においては、少なからずそういった者は居た事だろう。魔王からすれば、その事を知っているからこそ、ハルカの状態はむしろ良好であるという思いがあった。


「で、困ることは逃がした化け物かい?」


「排除は任せる」


 その言葉を聞いて、封術士は魔王をこのとき、初めて見やった。そして、笑みを浮かべて見せた。


「アンタでもそんな顔をするんだね」


 封術士の言葉に、魔王は目を開けて、彼女を見つめる。


「どんな顔をしていた?」


「がっかりしている顔をしていたよ。普通にね」


「そうか」


 そのやり取りを終えると魔王は左手に見える窓から空を見つめた。やがて、魔王は席を立って、窓へと歩み寄る。


「問題は山積みということね」


「お前にはまだ生きてもらわねばならないな」


「まぁ、いつでも死ねるのは便利だと思うけどね」


 窓の外には青々とした平野が広がっていた。その先には門が佇んでいる。窓の直ぐ前には高き城壁が並んでいた。その内と外には多くのテントが備え付けられている。焚き火の煙が数多く上がっているのも良く見えた。蠢くのは無数の生物にて魔族と呼ばれる者らであった。


「戦ってくれると思うかい?」


 封術士がそう呟いた。


「戦うさ。それしか道が無い」


「これで、終わればいいんだけどね」


「失敗するのならば、それでも良い。また勇者と守護者を見つければ良いのだ」


「それでも、今回ほどの逸材は何百年後になるかね。わたしはそこまで生きられないよ」


「封印だけならば、できるだろうが。やはり、そうなるか」


「完全なる破壊は不可能でも、今回は永遠なる封印は可能かもしれないのだからね。もう少し、気張った方がいいんじゃないかい?」


「やる事は変わらん。問題なのは勇者らの制御力がどの程度かということだ」


「確かにね。戦闘力はある程度という言葉だけど」


 一端、言葉を切ると封術士は魔王の背中を見つめる。彼女にはどうにも、今の背中が小さく見えてしまっていた。それが、どういったことなのかを知る由もないが、一通り眺めた後に、言葉を続ける。


「力そのものを操れるかと言われれば、未知数ということでしかない」


 魔王は静かに頷いた。ほんの少し、頭を動かしただけではあった。それでも、封術士は相槌であると受け取る。


「それに、カイン」


「適性はある。だが、まだ時ではない」


「時……ねぇ。現物は見たこと無いから、文句は言わないよ。それでも、注意はした方がいいと思うけどね」


 その言葉に暫くの間、魔王は返す事をしなかった。


「ともかく、勇者と守護者は揃ったことに変わりは無い。計画通りに進ませるだけだ」


「そうだろうね。説明はどうするんだい?」


「戦う事になる必要など何処にも無い。お前に託したいところだ」


「そういうと思ったよ。まぁ、ここまで来たのだから、やるけどね。今すぐかい?」


「うむ、速いほうがよかろう」


「はいよ。事前説明して、連れて来るよ」


 封術士はそういい残し、光の中に消えていった。


「まだ、速いのかもしれんな」


 小さな、呟きは誰に言った訳でもなく流れていった。


 異世界から召喚された勇者。少ないが、居なかったわけではなかった。故に、魔王は良く記憶している。それは異世界人だからというわけではなかった。


 魔王の視線はずっと門をみつめていた。表情は消えている。そこにはどんな感情も介在の余地が無かった。


 魔族は蠢く。決戦の時をひたすら待ちながら。妨害行為を行ってくる化け物の対処を講じながらも、死に行くためにここへと集まった。


「メルカ族は無事に見つかりました」


 何処からとも無く、魔王以外の声が響いてきた。


「形だけは、揃ったか」


 その言葉には、多少なりの安堵が含まれていた。








二部がもう少し長くなるかもしれません。


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