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魔王と勇者と暗殺者  作者: 泰然自若
二部 四章
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第四十九話 滞留

 二人は静かに対峙している。妙に張り詰めた緊張感も、初対面による気まずさもなかった。ただ、あるのは気だるい空気を隠そうともせずに、少女をみつめる男――カインの嫌そうに口をへの字に曲げているかのように軽く唇を突き出していた。眉間には皺が寄っている。


 対峙する少女、ハルカは無表情というよりも顔の筋肉が口を閉じさせる行為と瞼を開けている動作だけに集中しているかのように、変化がなかった。使い方が判らないようにも思えるほどであったが、そこには戸惑いというものは微塵も感じられなかった。


「ハルカ」


 カインは言葉を出した。少女の名であった。


「私はハルカであるけれど、昔のハルカではない」


 返って来た言葉に、カインは間を置いた。


 遺跡の破壊が終わり、勇者らは地上へと戻ってきた。ハルカはハルカで無くなるということが起こってしまった。


 カインは一先ず、このハルカに対して説明する事をから始める。戦う事を避けるためにも、この説明は大切であった。


「どの程度、記憶を残している」


 カインからすれば、予想はついている。それでも、形式上は聞いておきたかったのであった。


「私として存在した時から」


 案の定の回答に、さして驚く事もしなかったが、頭が痛むのか多少顔を顰めてしまっていた。


「……そうか。説明しておく。俺の名前はカインだ。一応、お前を護る役割を担う」


「護られるほど弱くは無い」


 その通りではある。今のハルカは魔力の鎧を纏い、物理攻撃も魔力攻撃も弾き返すことが可能だろうと言える。それほどの力を持つようになっていた。


「判っている。ただ、俺は護るという役割を演じるだけで、お前はそれを容認しているだけでいい」


「何故?」


 カインは、面倒くさそうに頭を掻いた。出来る事なら、今すぐにでも魔王のところへ持っていき、代わりに説明してもらいたいとで思っているようであった。


「頼まれたからだ。説明していく」


 カインは、疲労感が漂う身体に鞭打って、説明を始めていくカイン。その光景を、遠目で眺めているのはカズヤ一行であった。


「なぁ、あれは――」


 カズヤの表情は暗かった。


「……勇者の力を使いすぎて記憶喪失になったのかもしれないってさ」


 ケルマンがカズヤにそう告げた。


「過去の文献にも、勇者が覚醒し魔族を倒したという記述が残っていた。その反動かもしれない。ということか」


「でもよ。詳しい事は、何もわからんのでしょ?」


 その言葉に、ヴィルフはまぁな。という言葉を吐き出すだけであった。


 彼らには、歴史的な文献からの真実しか知らない。既に、その文献が世界の真実であるかを知る術もなく、嘘が真実になっているという事実を知ってしまっているヴィルフには、絶対の信頼を寄せる知識ではなくなっていた。それでも、何かを喋ったほうがカズヤの気を落ち着かせる事ができるという思いがあった。


「カインさんの説明で大体は把握してくれる事を願うけど」


 明らかに元気のないカズヤに、二人は言葉を掛ける。


「ま、そう落ち込むなよ。死んだわけじゃないしな。すぐに治るって」


「そうだな。それにカズが落ち込む必要は無いと思うが」


「ばっか。ヴィルフ、察してやれよ」


「お前が余計な事を考えているだけだ」


 おどけてみせるやり取りに、多少の笑みを浮かべて見せるカズヤであった。カインとハルカが座る即席の椅子として使われていた切り株から、カズヤは視線を外す。


 眺めた先は空であった。青々とした空に雲が多くあったがそれでも晴れているという言葉が似合っていた。


「確かに、俺が落ち込んでいても、ハルちゃんが良くなるわけないからな」


「で、これからどうすんの?」


 ケルマンはカズヤの様子が改善されたと見ると話題を振る。


「外に居た連中が、もう完了報告をしたそうだ。暫くはここを拠点に内陸へいけるかどうかだろうけど、ギルド側がまた依頼を残しているかもしれないな」


 その言葉に、ヴィルフも便乗して乗ってくる。


「あの爺は今回の件で味を占めて、今度はこっちを。とか言いそうだな」


「そうなったらなったで俺達はなるべくその通りに動くべきではあると思うがな」


護衛の二人は爺と呼ばれたギルドマスターを思い浮かべていた。


「使いっ走りは母国だけで十分だ」


露骨に嫌な顔を見せるケルマンであるが、そのことについて、ヴィルフは否定も諌めることも言わなかった。


「まったくだ。そこだけは同意できるが、状況がそれを許さん」


冷静に周りを見渡せば、情報を持っているのは西ギルド協会であり、勇者達はその情報がとても貴重で有益な事を知っている。だからこその発言であった。


「堅いんだよ。お前は」


「硬派で売っているからな」


「おっ。言うねぇ」


 現在、遺跡周辺でキャンプをしている部隊は結界を作り、現場確保を行っていた。彼らはすでに撤収の準備を始めている。任務は現場確保という契約であったからだ。当初よりも簡単に事が運んで、さらに懐も暖かくなるのだから、陽気であった。


「まぁ、暫くはここのキャンプで暫く静養だな」


「そっか。じゃ、しっかり休んじゃうか」


 その光景を横目にしながらもカズヤは出来ることはないと思い、そう告げた。


「することないしな」


 休むことが大切だという事が判る。これだけでも、カズヤは勇者としての成長したと二人は思った。カズヤが思っている以上に、身体への負担が重い。ヴィルフとケルマンはそう考えた。ただでさえ、魔力とは身体との適性や相性もある。西の空気が、東の人間と相性が悪い。害悪になる力が魔力であった。その魔力を、突然与えられた勇者。


 今回は特に精神的な消費も相まって、もしかしたら、カズヤもハルカのようになってしまうのではないか。という危機感すら護衛の二人の胸の内にあったほどである。そのため、カズヤには否応にも、数日は休んで欲しいという願いを持っていた。


「それにしても、かなり頑張った結界作った」


「これ、そんなに凄いの?」


「そんじょそこらの化け物じゃ、触れた瞬間に蒸発するだろうよ」


「うへ。強烈」


 そんな、会話をしながらも、3人は与えられたキャンプに入り、ゆっくりと静養することにしたのであった。



カズヤは結局、力の運用になれた程度に留まりました。

ハルカは暫く、機械的なキャラのままで行きます。

ある意味、女版カインの誕生。


そろそろ魔王の元へ

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