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魔王と勇者と暗殺者  作者: 泰然自若
二部 四章
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第四十二話 滲む力

 

 遺跡の眼前は異様な光景が広がっていた。荒涼とした砂漠地帯が遠く彼方まで広がる遺跡周辺に集った者達はおよそ30名。


 その全員が今、目の前にある光景を説明する事が出来なかった。


「な、なんだこれは」


 戦士の一人がそんな言葉を漏らした。


「俺達の着いた時にはこの有様だ」


 砂地には、小さなくぼみが無数に存在していたのである。決して深くはない。躓くかどうかの僅かなくぼみ。


 だが、その存在が既に異常。


 何故、風が吹いて砂を運ばない。その空間に。風が吹けどもそのくぼみに砂が入る事は無かった。


 一人の戦士がそのくぼみを調べるために剣を入れてみるが、異常は見られない。意を決して、足を入れてみても何もない。


 だが、砂はそこに入る事は無かった。


「一体、これは……」


 イーナも初めて見た現象であった。


「罠、はないよね?」


 ハルカは呆気に取られながらも可能性の一つを言葉に出した。


 全隊が集まる前に、事前調査として先遣隊を出して偵察をしていたのだ。その時には、そこら中に化け物が跋扈していた。という報告であった。


 一旦、全隊は集合し今後の話をする事した。と言っても、この状況を説明する事ができる人間が存在しないのだから、当初の予定通りに進めるしかない。


 あくまでこの現状に面を食らってしまった為の行動であった。


 30名集まったのだがその内、周辺の確保を主眼としていた戦士達はする事が無くなったのである。化け物どもが既に何処にも居ない。


 そこで彼らはここら一帯の確保のために奔走する事にした。


 術式を形成して、簡易的な結界を作る事にしたのである。魔術師もそれなりの数が居る上に、術式に必要なアイテムは戦士が集めれば良い。


 加えて野営の準備を始める。最も、砂漠地帯ではなく森の中ではあるが。恐ろしくも不気味ではあったが、困る事に化け物はおろか動物でさえ、確認できない始末であった。


 食材は運んできた糧食のみ。


 持って2日を確保はしてあったが補給線を作ることも進められた。まずは後方部隊を早急に作り上げる事を伝えるために、伝達スキルを持つ者がギルドに連絡を入れた。そこから、早くとも、食糧が尽きるまでに輜重隊編成を行った後方部隊が来るようになった。これは事前に確保後の事を考えて既に編成は整っていたのだが、計画がかなり前倒しになった形になった。地上でこの行動が行われている間にハルカ達は遺跡へと侵入していったのである。


「凄い……」


「あぁ……」


 各々が内部の建築技術の高さに驚愕していたのだが、ハルカとカズヤは別の意味での驚きであった。


 自分達の居た世界の建造物に似ているのである。これほど綺麗に作られた通路をこの世界では見た事が無かったからである。ただの廊下でしかなかった何処か懐かしさを感じさせるものであった。


 暫く突き進む一同であったが、やがて十字路に出る。


「地図通りなら、何処を通っても地下へ行けるけど」


 カズヤは地図を見ながら、皆に返答を求めた。


「二手に分かれて行動した方が効率が良いかな?」


 ハルカはそう言いながら、イーナとマルセンを見つめる。


「確かにそうかもしれないな。護衛も二人ずつだ。元々の面子で進む方がいい」


 大男がそう答えた。


「その意見には同意するよ。ならば、左右の道から順々に施設を破壊していくという形でどうだろうか」


 マルセンが案を出し、皆がそれに同意した。


「良し、なら俺らは右に行くとするか」


「なら、私達は左で」


「地下で会おう」


「はい」


 カズヤとハルカは別々の道を歩む事になった。


 効率重視ではあるうえに、地図には左右の通路には施設となる空間が幾つか存在しているのであった。


 中央は地図によると大きな空洞になっているようであった。この事から左右から降りていく形を取ったのだ。最も、地下への侵入経路には不安もある。ハルカとカズヤは共通のもしかしたら。という考えを持っていたのだが、この世界にあるのかどうかを怪しんでいた。


 それでも、実際に遺跡を観察すればするほど、二人の居た世界にあったような機械があったとしてもおかしくはないのではないか。という認識に動いていた。


 地図からすれば、階段ではなく、密室空間が地下へと降りる道となっているようではあった。


 ハルカは通路を進む上で、蛍光灯がある事に驚いていた。正確に言えば蛍光灯のような物ではあるが。光源があるために、イーナは無駄な魔力を使わずに済む上に、行動する際には非常に助かるものであった。


 と、同時にこの遺跡が確実に稼働している事を示唆している物であった。


 暫く歩くと強烈な異臭が漂ってくる。思わずハルカとイーナは鼻を摘まみ、マルセンは顔を顰めた。その異臭に、三人は敵だという認識の元で行動を始める。


 まず、マルセンが先行する形になりながら右手後方にハルカ。左手後方にイーナという布陣を取る。これは、マルセンが壁役となり、近接攻撃のハルカはマルセンの援護。イーナは追撃を行えるようにするためであった。


 マルセンは左手に扉を確認すると足を止める。それと同じように後の二人も止まる。と同時に、三人は左手にある扉に注目し、そこに敵がいる事を察知する。


 ここで、ハルカ達は悩む。地図によればこの扉は遺跡の一部ではあるが、破壊対象になりそうな物はない事になっている。恐らくは魔族の巣になっている可能性があった。


 それでも確認する必要もある。三人は目配せをし、最終判断をハルカに委ねた。


「開けましょう」


 その言葉によってマルセンは扉をゆっくりと開け放とうと近寄ると、扉が勝手に開かれる。思わず、身構える三人ではあったが敵が扉を開けたわけではなかった。


 妙に明るい室内は予想以上に広かった。地図で見たものとは別物の空間。ハルカは眉を潜めた。逆にイーナとマルセンは魔族が勝手に遺跡を改築したのではないか。という考えを持っていた。


 中に踏み込むと全員が立ち尽くす。敵がいるかもしれない状況。いや十中八九、敵は居るだろう。その空間で足を止め一点を見据えてしまった。


 それは不可抗力。贖う事ができないもの。


「なんだ……。これは」


 マルセンが呟く。イーナは現実を把握した瞬間に目を背け、口元を押さえる。


「人……」


 ハルカは逸らす事が出来なかった。


 それは、大きな一本の木だった。そう木であるが故に異常な光景。


 数多の人の顔が幹より覗かせている。数多の人であろう手足が幹より伸びている。数多の人の子供であろう存在が枝から実っている。


 異常。異様。


 その光景を目の当たりにした三人ではあったがいち早く行動したのはマルセンだった。


「ぐっ…!」


 左手より急激な殺気の気配を感じ取り、咄嗟の判断で左腕に持つ盾に身体を預ける形で腰を落とし踏ん張った。


 その瞬間に衝撃が全身を駆け巡ったのだ。だが、マルセンは受けるだけで終わらせず衝撃が伝わった瞬間に身体を使って突き飛ばす。


 一連の動作を見てようやく二人が警戒すると三方に8体の敵。牛の頭を持ちながらも二足歩行する爬虫類のような鱗に身を包み尻尾を垂らす化け物。リザードマンと呼ばれる魔族に似ていると一同は思いつつ、まったくの新種である事は明白であった。


 リザードマンは体長が160cm前後と小柄でトカゲが二本脚でそのまま立ったような滑稽さを持つ魔族である。知能はそれなりに有しており、20-50体程度での集団で行動するためにギルドでは中々の危険度認定を受けている。巣では100単位で生息するためでもある。


 そのリザードマンのようで牛の頭。何より2m前後という体躯。手に握るのは大ぶりの戦斧だろう得物。前かがみの状態でありながら2m前後はかなりの威圧感を持っていた。


 だが、この中で唯一。マルセンは敵に違和感を感じていた。


 自分を攻撃したのはコイツらではない。そう悟っていた。あれだけの体躯の突撃があの程度ではないと感じているのである。


 だとするならば伏兵がいるはず。マルセンは気を配るも巧みに隠れているようで見つけられない。


「イーナ様は中心へ! 足止めをお願いします!」


 マルセンはそう叫び、イーナは頷くとマルセンとハルカの間に入る。ハルカは剣を抜き、綺麗な正眼の構えを見せた。その姿にイーナはハルカの異様なまでの集中力に驚いていた。あれだけの異形を見ながらもこの状況を打開するべく行動しようとしている姿は紛れもない成長の証でもあった。


 だが、当のハルカ自身は戸惑っていた。


 ―――身体が勝手に動く。


 そんな違和感を全身に感じていた。そして、何かが疼く。自分の中で、自分の中で見た力が疼く。使いたい。誰かが喋るかのように。そんな声が聞こえた気がしたのであった。


 冷静なまでに目の泳ぐ事のない視線。決して一点を見つめる事はせず、視野全てで起こる事象を把握するべく全体を見つめる。


 襲いかかってきた敵を捉えた。視野には3体の敵が近寄ってくる。動きは機敏ではない事から得物と体重を乗せた重量で相手を叩き潰すのだろう。


 そう、酷く客観的な感覚で物事をとらえていたハルカであった。


 いつの間にか正眼は崩れる。右手に握り直した剣を下げ、空いた左手に意識を集中させる。

 その瞬間。


 その場にいた全ての生きる者は動きを止めた。目に見えるのだ。本来見えてはならない物が。それは禍々しい魔力の塊。マルセンは思わず背後を振り返った。一体何が起こったのかを確認しなければならなかったからだ。


 イーナは一部始終を最初から見ていた。


 ハルカの左手には白い剣が握られている。魔力で出来た剣を握るハルカは眼を閉じていた。瞼の裏の暗闇には無数の斑点が虹色に輝き、やがてそれは映像へと変わって行った。


 その映像には敵を貫く頭の刃が見えていた。8体の敵と、未知なる敵をも補足する。いや、映像として創造したのだろうか。曖昧な9体目の風体が浮かび上がる。それは、気配を確実に察知しているから出来る芸当だろう。


 ハルカは眼を覚ます。剣は水平に、胸の位置で止まり―――


 霧散した。


 魔力の風が場を撫でる。その瞬間、魔力は形となり、数多の剣となって敵を突き刺した。崩れゆく化け物達の中で小柄な人型が見受けられた。


 マルセンを強襲した魔族であろうか。猿のように顔周辺は赤茶の体毛に覆われており、手先が長く、口が出っ張っているようが特徴的であった。


 息をゆっくりと吐き出すハルカに唖然とする二人。


「出来た」


 その呟きと共に、何処か哀しげな笑みを浮かべたのはハルカであった。



この遺跡で勇者両名が持つ力をある程度制御できるようにしておきたいかも。


誤字修正云々予定有



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