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魔王と勇者と暗殺者  作者: 泰然自若
二部 四章
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第四十話 遺跡


「遺跡の外はあたしが担当する。内部は干渉できない。魔王のところはアイツ自身がどうやっているかは知らないけど許可しているから多少の干渉はできるけど、遺跡は完全に管轄外。」


そういいながら、封術士は遺跡近くまでカインをスキルで送っていた。


何でもありなスキルだな。とカインは呟いて見せたが実際に、彼女の使う能力はスキルというよりは魔法であったようだ。詳しくは言う事を拒んだが血統遺伝による継承が行われる。スキルも物によってはそうであるが、根を辿っていくとそれはスキルではないという。


その話に興味はあったが、カインにはするべきことが出来てしまったために今は目先に集中する事にした。


古代人の遺跡が魔族に解析され始めている。その事が事態を動かしていた。


魔王自ら現地に行く事はできないと聞かされたカインはまた、これも初めから行く事になっていたのだろう。という諦めのため息を吐き出しつつも今回の依頼の内容を確認している。


遺産の奪還か破壊。破壊で構わないと魔王は言っていた。が、封術士は遺産がほしいらしい。出来れば奪還だと念を押されていた。


一体、どういった物なのか。


「転送門と呼ばれる代物は最優先で破壊だ。これさえ破壊すれば問題は無い。後は、培養炉とよばれる代物も破壊か機能停止だな。」


「培養炉?」


「化け物を作り出す物だ。召喚術式だとでも思ってもらえればいい。奴ら自体は次元門を封印しているために戻る事もできない。仲間を増やすにはそういった物を使用するか。術式を完成させて、本来この世界に居る魔族を使役するか、調教するか。それらを行い戦力にしている。化け物自体の個体数は少なかったが、培養炉が解析されてからは増加の一途だ。嘆かわしい。お前に用意する遺跡の他にも培養炉はあるが、化け物を生みだす物は幾つあるか……。」


カインの左腕も培養炉と呼ばれる物で作られ、保管されていたものだという。村の守護していた遺跡は古代人の武具が現存しているだけで大変貴重な遺跡のようだ。


魔王であったとしても、全ての遺跡を管理しているわけではない。むしろ、魔王は次元門と呼ばれる門を管理するためだけに存在している。


もしかしたら、過去に遺跡を守護する魔王のような存在も居たかもしれない。


その事を魔王に伝えたカインであったが、魔王も同族のような存在を知らないという。


「余はな。何故古代人が消え去ったのかすら知らんのだ。余と同じ境遇の存在など知るわけが無かろう。」


「ちょっと、あたしはそれがほしいんだけど。」


「カインには無理だな。運ぶにはオークを10体ほど集めて一個持てるかどうかだろう。」


「ぐぬぬぬ。」


ともあれ、今回は金銭が発生するわけではない。


明確な報酬は皆無。だが、受けねばならない完全なる慈善活動であった。


もう、この時になればカインも慣れた物である。今さら、金がどうこうなどと騒ぐ事もしない。当初こそ、強制的に依頼された仕事の報酬額に愕然としていたが。


「大きいな。」


「山だからねぇ。」


聳え立つ一つの山。その姿は、まさに自然界の中で異質な物であった。


「古くから、ここは遺跡として人間が守護してきたんだけどね。守護者の裏切り者によって、化け物に制圧されたのさ。」


カインの背後には緑が生い茂る森が広がっている。だが、今カインが立っている場は砂地である。視線を前に向ければ遺跡は砂漠の中に鎮座しているかのように堂々たる姿をしている。


魔族がここ一帯を制圧しているという話ではあったが、封術士に言わせれば無意味な事だと言う。


「最も、あたし以外には無理な芸当だけど。まぁ、行っといで。」


何をしたのか。若干の好奇心と恐怖心を隠しつつ、封術士への言葉のやり取りも交わさずに、カインは正面から入り口へと入って行く。


侵入経路は膨大だと魔王は言ってた。故に迷路のような通路から通気口が張り巡らされていると。


加えるならば、それらには本来の防衛任務を果たす物が未だ動いている可能性があるという。ならばとカインは考えた。


正面から正規の通路で言った方が安全かつ迷う可能性も低く、一番確実だと。


入り口は山に空いた洞窟だという印象を持った。あの村にあった泉が湧く洞窟と変わりは無い。だからこそだ。カインは違和感を持ち、ここが紛れも無く遺物な存在である事を確信した。


暫く歩くと気配が蠢いているのが良く判った。原因は左腕の疼きが活発になることだ。


「良い忘れていたが、お前の左腕は生きているぞ?」


などと魔王は言い放ったのが発端だ。


それ以来、左腕が気になってしょうがないカインであった。


確かに、化け物との対峙などには左腕が反応することがあったのは事実であったが、まさか生きているとは。


生きているといってもナマモノではないようだが。その事だけがカインには幸いだった。餌付けが必要だとか、育成が必要だと言われたらカインは左腕を切り落としていただろう。


詳しい事は何も教えてはくれなかったが、ある程度の形状に変化する事が出来ると言う。現に、カインが戦闘形態と懐けた鉤爪に変化する場合と通常の手と変わりない姿がある。


他にもナイフのような形状にもなれたりするのだろうとは思いながら


―――鍵穴に合うように変化できたら仕事が楽になるな。


などと本気で考えているカインであった。


兎に角、そんな左腕は反応している。それは遺跡の内部だからなのか。化け物が近くにいるからなのかは判らない。だが、ここで戦闘をする余裕は無い事をカインは察知している。


うす暗い通路。石造りであるが何処か小奇麗な印象を持たせるには十分であった。妙に滑らかな壁に地面が見え隠れている。一般の人間でも注意して見る機会があるのならば、容易に気付く。一体どうやって掘って行ったのか想像もつかないところである。


それらを隠すため。というわけでもないが、洞窟のような作りを成しているのは確かであった。


広さは十二分。大人が4人ほど横一列で歩けるほどの広さ。生憎と隠れる所は無い。予想はしていたために問題は無かった。


正面から化け物と戦って勝てるかどうかと言われれば負ける事は無い。というのがカイン自身、実力を考慮しての回答である。


逃げることや防御することは攻めるよりも得意だと思っている節がある。


気配がカインでも判るほどになってきた。本来の五感で感知できるほどに近いという事である。


まずは臭覚は獣とはまた違う異臭を嗅ぎ取り、聴覚は会話を。何語かもわからない言葉のようだった。


鳴き声では決してない。カインは悟る。相槌のような感覚。話声、喋り声。それは何処か人間に近いものである。


十字路であった。松明が揺れているのが確認できる。相手は未だこちらを視認していない。姿は二足歩行だと言う事は判った。おぼろげながら、背中から何本か突起物が伸びている。


詳細な風体はこの距離と暗さでは確認できなかった。


どちらにせよ、隠れる場所はない。化け物が気付かない可能性もあったが、そのような希望的観測よりも先手を取る事の方が殺せる確率は高いと判断すると即座に行動を起こす。


身を屈め、一気に間合いを縮めようとした―――


その瞬間。


「―――っ!!」


左腕が動く。今まで勝手に動くは少なからずあったが、今回は度合いが違う。


左腕は勝手に地面と水平に保たれる。カインはなんとか制御を取り戻そうとしたが、巧く行かない。それと同時にカインの頭の中に情報が流れ込んでくる。


―――撃てと。言うのか……。こんな代物で?


黒と赤混ざり合った筋が入った左腕は手首が隆起し、隆起した部分と手首の境目に、まるで目でも生まれたかのように黒と赤が溜まり、細長い丸を形成していく。


左肘のあたりには二本の突起物が後に伸びていく。


―――重い。


カインは咄嗟に左肘あたりを右手で支える。腰を落とし、足を開く。


非常に自然な身体の動きであった。流れて来る情報のままにカインは動く。不思議と不快感はない。それどころからこれから起こる現象への興味が湧きおこる。


―――何を見せてくれるんだ。お前は。


そんな事を考えながら笑みを浮かべる。


やがて左腕は変化を終わらせた。


禍々しい湾曲した外殻を纏うボウガンの本体部分を連想させた。だが、赤黒く光る瞳のような部分とその上の隆起部分からは甲虫のようだという印象をカインに持たせた。


左腕が熱しられていく。


「……くっ。」


味わったことのない流動的な熱に痛みよりも驚きの声を洩らすカイン。


化け物に狙いをつける。隆起部分には赤黒い十字が作られた穴が見える。と同時に、赤黒い線が流体のように化け物二頭の頭部を照らした。


次の瞬間には池に石を放り投げたような、重くもくぐもった音と共に。


赤黒い線が二つ駆け抜ける。衝撃が左腕から全身に伝うも姿勢を崩すに至る事はなく、カインは走る線を視界の中で捉えていた。


速い。そんな考えを持った時には既に化け物に到達し、化け物の頭部二つを消し去っていた。


断末魔も無く、撃ち抜いた訳でもなく、消し去った。


崩れ落ちる化け物は動く事もしない。カインは倒した事を確認すると同時に左腕を眺める。未だ、その形状は変わらぬままであった。


カインは化け物の死体に近寄る。毛深い体毛に覆われた身体をしつつも右手の甲からは鉤爪が伸びていた。


頭部は跡形もない。この事から威力の高さを思い知る。どう見ても、細い線であったにも関わらず、頭部が消えている。


何かの魔法か、スキルか。


そんな事を思案しつつも、カインは化け物の特徴に気付いた。


目を見張る、足の筋肉の発達具合。


カインはここで、何故左腕が疼きだしたのか。漠然ではあるが、悟る事になる。


この狭い室内で縦横無尽に動き回れるだけの運動能力を有する化け物だった。恐らく、二頭相手は苦戦必至。カインはそう結論づけた。


と、同時に。


「お前は、俺を助けてくれたのか?」


左腕に問いかけてみると、静かに左腕は形状を元の腕に戻した。


―――ありがとう。


一応は感謝の言葉を胸でこぼしつつも、カインは十字に立ち、何処へ向かうかを考えた。

地図は既に頭の中に入っている。問題は優先順位である。


どの道を辿っても最終的には地下の遺産へと辿りつける。化け物がどう配置されているのかを考慮するのならば、なるべく少ない道を選ぶ必要があったからだ。


だが、左腕が今回だけは何故かやる気がある。という思い込みかもしれない事をカインは考えつつも、頼もしい相棒に心強さを持っていた。


逡巡の後、カインは右手に向かい、走り出した。


足音を殺すように気を付けながらも、化け物が予想以上に強い事を考えて、早々にここから逃げ出したいという思いを抱きつつ。


カインは走った。地下を目指して。



今のところ、最大威力。

ただ、現在のカインでは制止状態で無いと撃つ事ができません。



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