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魔王と勇者と暗殺者  作者: 泰然自若
一部 一章
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第四話 前向きに進むために



11/1 本文を微妙に加筆修正

 情報を集めなければ成らない。そう思うにも、身体が言う事を聞かない。男は気だるさを全身に纏いながら、街を歩いていた。


 自分の家に帰るのも億劫になってしまっているのは、己の身体が常に監視されているからだ。この都市には三つほどの家。というよりも貸家や違法に居住空間として使っていた場所がある。そのどれにも帰る元気は無かった。


 期限は一年。長いとも言えない年数だった。通常、どんな人間を暗殺するにしても下準備は相応に必要であった。


 これが、王族関係者の暗殺等に至ると膨大な時間を費やし実際に下見や懐柔の策を行い、人物の行動も把握せねばならない。そのために、一年以上の情報収集も普通に行われる。


 扇動を行った男は三ヶ月の洗い出しを行ったのにも関わらず、周辺人物にレアスキル持ちが居る事を調べる事すら出来なかった。


 男は最寄に見えた食堂に入る。すでに昼をすぎていたために、閑散としていたが男にとっては好都合であった。飲み物と軽食を注文すると窓際のテーブルに腰を落ち着ける。


 一息つくと漫然と厨房を見つめる。数人の料理人が動いているが、忙しそうには見えなかった。 


 気になる事は一年を過ぎた場合、自分の命はどうなのか。それが問題であるが、果たして探知、感知魔法に殺傷スキルを付与できるかどうかであった。


 感知や探知によって居場所がばれて殺しに来るのならば、対処は出来る。それに、必ずしもそうなるとは限らない。男はむしろそうなる危険性は低いと考えていた。


 逆に言えば、非殺傷魔法を殺傷できるように変質できるか否かが問題になったのだ。可能性は低いと男でも判っている。


 男の知る限り、そんな事をしでかす輩を知らない。情報を知る事も仕事上は大切な事なので、書物は読み漁った節があったためだ。一般常識では魔法やスキルに別属性は追加できても別系統を付け加えることは出来ない。それが勿論当然なのではあるが。


 男は頭を垂れてフードの上から頭を掻く。懸念は勿論、存在していた。


 王室関連は判らない。血による固有魔法。レアスキル。あっても不思議ではない。


 料理が、運ばれてくる。

 

「はいよ」


 愛想がいいわけではないが、運んできた女はそう声をかけていった。


 男は運ばれてきた軽食を口にする。旨くはないが不味くもなかった。男は当たりだろうと勝手な評価をしながら食べていく。


 王室や高階級の貴族には固有に魔法やスキルを持っている場合がある。それは、突然変異であったり、代々受け継がれる先人が開発したものであったりと様々である。元々、そういったところは閉鎖的な農村のように妙な風習に近しいものが存在している。


 知っている人は知っている。知らなくとも問題はなく、むしろ知られて困る。何処かで秘匿したいというものが、酷くそういった閉鎖環境に馴染むのである。


 表に出てくる物も確かにあるが、そういった情報を下へと流すにはそれなりの思惑が存在しているのが常である。得意な魔法や使用するスキルという攻撃手段の手の内がバレているという事は、戦闘において非常に不利になるからだ。わざわざ政財界で敵が多いであろう貴族などがそう簡単に情報を漏らすような事はしないはずである。と、男は考えていた。


 だからこその危険性が含んでくる。加えて、今回は国家間での表向きかどうかはさておき、意思統一も出来ている。可能性として考えておかねばならない大切な問題であった。


 そこまで、考えを巡らせるとそこで一端、思考の方向を変える。


 当分は治癒者を探す事が目標になりそうだ。と新たに考え事を展開しつつも、男は飲み物である果実酒で喉を潤す。


 ただ、治癒者という怪我や病気。はては魔法やスキル除去を行える者らは非常に重宝される存在であると同時に、狙われる危険性が高い人でもあった。


 治癒者が居れば高い金を払わずに治療も出来る上に、優秀な物ならば魔法解除やスキル除去も容易に行える者が居るほどである。


 非常に重要なスキルであるが故に各国家では治癒者を囲い込む事も少なからず行われている。と、同時に国やギルドに申請書を出す必要があり、登録された治癒者は独自の依頼や仕事を請け負う事も出来、また手厚く保護されるのであった。


 その登録されている治癒者や名の知れた者も除外していかなければない。男はそう感じつつ、窓の外を眺める。


 既に男と同じ結論に達し行動している者も居るだろう。それはこれらの厄介を背負わせた連中も把握しているだろうし事前に対策も練っているだろう。だとしたら、埋もれた治癒者を探さなければならない。


 少なくとも、国家に顔と居場所が知られていないような人物。男の組織にも治癒者は居るが、駄目だろう。組織が男を身売りした時点でその選択肢は無い。


 この街で聞いても駄目だろう。王都周辺、大きな街。今回の件にどれほどの国家が関与しているか。それから調べなければならないと思い至る。


 男はお金をテーブルに置いて、食堂を出る。

 

 まずはこの街を離れて、村から村へギルド支部から支部へ。久しぶりに、真っ当な人殺しをしながら、情報収集と路銀稼ぎをすることを計画していく。


 男はそう決めると街を出るために移動を開始した。最低限の武装と衣服であったが、現地調達も悪くは無い。男は最近にしては珍しく苦笑いを浮かべながら、歩を進める。


 前向きに考えないとやっていける自信が男にはなかった。




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