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魔王と勇者と暗殺者  作者: 泰然自若
二部 四章
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第三十九話 上辺の戦争

その日、勇者たちは歴史を知った。


言葉も出ない。いや、大まかな説明であったために知りたい事は多かったのは確かにある。だが、それ以上に情報量が多すぎたのであった。理解し、汲み取るには時間を要する。


「本来ならば、これほど性急な情報の開放は行って来なかった。ここ数百年は。」


マスターの言葉は重く、また矢継ぎ早であった。ハルカ達は小休止を入れてもらい各個での理解を求められていた。


結果から言えば、ハルカ達は信じた。それは、カズヤやハルカがこの世界の人間ではないという土壌を全員で共有していたからかもしれない。


古い貴族体制が敷かれている環境で育ったイーナも理解を示したのが良い証拠である。それほど、ハルカを信頼し、マスターの話に信ぴょう性があったという事だろう。


だが、マスターが言ったように、ここまで性急に説明する必要がなかったのだ。


今はそれほど情勢が動いてきているということであり、その事を全員が察していた。


だからこそ依頼を受ける。今、ハルカ達にはようやくと言っていい。本来するべき事が明確に示された。


ある種、カズヤとハルカには良い方向へと向かう情報でもあった。


「今は時間が惜しいのだ。」


「遺跡を奪還する必要性があると言う事ですね。それだけ急いで。」


ハルカの言う通りだとギルドマスターは深く頷いた。


「遺跡が研究されていることが問題なのだ。そして、実際に使用されてしまっている。東の大陸では遺跡の力を用いて勇者や国家に対する妨害行為から駆除行為が起こってしまっている。」


「……他国の勇者が襲われている。ということでしょうか。」


「そうだ。恐らく、君たちの道中でもあった事だろう。」


心当たりは全員にあった。


「この妨害行為が東の国家を刺激してしまったのだ。君たちは知らないだろうが、東の国家は西に宣戦を布告した。」


その言葉に一同は驚愕に顔を染め上げる。


「な、何故……!!そんな!!」


イーナは声を張り上げる。彼女は貴族である。国家の有事には領地を守護し、あるいは従軍する。そういった立場だからこそ、今回の動きには驚くしかなかった。


しかし、それに反してギルドマスターは落ち着いた表情のままで言葉を続けた。


「私の友人である異人の男は東のある遺跡の番人であった。」


「……?」


イーナは一瞬何のことなのか判らなかったが、ハルカは聞いた瞬間には、あの時の光景が流れては消えていった。


そして、イーナも暫くの間をおいて気付く。


「遺跡の存在は気付かれていたが、長老の見せた遺跡は本当の遺跡。とても遺産が残っている状態ではなかった。だが、隠していた遺産の存在に気付かれた。何故かは判らぬ。だが、その結果、村は壊滅。生き残った者は遺跡の内部へ避難。そして守護の任に付いた。」


「それも、東の国が。」


ハルカは、静かに言う。


「予想される事はある。こうまで急激に強硬派が権力を握るとは考えにくい。長い年月をかけて、我々は異人にも人権を認める活動を行ってきた。そういった地道な活動から昨今では東の大陸で根付いてきた迫害も表沙汰には出しにくい環境を作り、人権を認める国家の存在まで漕ぎ付けていた。」


何処かで、声が挙がる。


「……いや、待ってくれ。そんな……」


カズヤの護衛である大男がありえないと声を出す。


「可能性はある。」


だが、マルセンは既に神妙な面持ちでそう言葉にしていた。可能性は否定できない。国家に属するからこそ、マルセンは最悪の事を考慮した。その考慮からの発言。


「イーナ―――」


ハルカは、イーナを見据える。


「覚悟は、できています。」


イーナの表情は硬かった。


「王権の交代劇。未曾有の王制内部での反逆。それも、一国ではない。」


望んでは居た。イーナもマルセンも。死んでいったアレンもまた。国を思い、それを考えていた。民衆主導での交代劇。各地での不平不満の爆発により、王都での大規模な暴動。それを背景に国家内部での反乱。


これを、5年前から実行に移すべく、イーナの父を始めとする一派は行動していた。


だが、どうだろう。民衆を扇動するイーナの父の息のかかった優秀な魔術師は誰かに殺されてしまい、実行が先延ばしになっていた。


一旦はとん挫した計画を誰かが引き継いだのだろうか。だが、イーナはその考えを否定した。民衆主導はイーナの父らが掲げた理想であったからだ。


このような性急な改革は望んでいなかった。


さらに言えば


「東の大部分でそんな事が起こってるのか……。」


カズヤの呟きに、そうだ。という肯定で返したのはギルドマスターである。


その事を踏まえるならば、どうしてこの時期でそこまで一斉に時間合わせをしたかのように、反乱が起きたのだろうか。


そも、それは本当に反乱なのだろうか。


カズヤは頭の中で考える。遺跡の力を使って、魔族が王都や帝都を急襲したのではないか。情報の規制によって外部には反乱という形になっているのではないだろうか。


「首謀者は……誰なのですか。」


魔族の仕業が高い事は明白ではある。だが、表向きは首謀者。反乱を起こした者は民衆にも噂として流されているはずである。


イーナはそう考えていた。


王都以外では情報の流れは悪い。いくら情報屋。伝達スキルがあったとしても、情報を得る手段。つまり、反乱現場を知っている者が居なければ、またその人物がそういったスキルを持っていなければ情報は漏れていかない。


ならば、噂や商人などの口頭で伝わって行く。今までもそうであったように。情報屋という金銭が発生する情報よりもこういった噂の方が、確実に民衆の耳へと入って行くわけである。


さらに今回は反乱である。噂が出ないはずが無かった。


「詳しい情報は入ってきていない。だが、王族は皆殺し。貴族も多くが殺害されたと聞く。だが王座は未だ空に浮いている。」


頭を思わず抱えてしまうイーナであった。


「判ります……。恐らくは私達貴族の中の者。そして背中を押した者が……」


もしかしたら、父かもしれない。父はもう父ではないかもしれない。死んでいるかもしれない。様々な思いがイーナの頭を駆け廻って行く。


「遺跡の力のためなのか。遺産の誘惑に取りつかれた人間のためなのか。判らない。だが、根には魔族が遺跡を研究し、その成果によって起こされたという事だ。」


今回の依頼について、ハルカ達には断る理由は最初から存在していなかった。


だが、この話を聞いて尚の事だ。


「地図を用意した。大まかなものである上に、古い。今は内部が変わっているかもしれぬ。加えるならば、罠の存在もあるだろう。非常に難しい仕事になる。十二分にこちらも情報提供しよう。君達以外にも、ギルドが推薦する腕の立つ者達を向かわせている。」


既に、事は動いている。


「彼らは外部の制圧と主要な通路の確保。君達は、内部にある遺産の破壊をお願いしたい。」


「良いんですか。」


カズヤが暗い声を挙げる。顔色が悪い。


「早急な処置のため。致し方ない。では、内部の説明を行おう。」


話は進んでいく。





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