第三十八話 歴史と魔王
どんよりと垂れさがる空の下。険しい山に囲まれた盆地がそこにはあった。山々を白く染め上げる雪の冷たさがあるにも関わらず、その盆地には草原の緑が広がっていた。
その色彩濃い空間には、大きな建造物が静かに、佇んでいた。高い城壁に囲い込まれたそこは盆地の中の、さらに小さな区切られた空間として存在している。
蠢く者達は多くは無い。だが、乱雑に敷かれている通路は一つの終着へと導く。
一際は大きい建造物へと辿りつくように。そしてその建造物はまるで何かを堰き止めるように、ただただ広がる草原の先に向けて巨大な壁を聳え立たせていた。
その先には、建造物と同程度でありながら、不完全なゆらめきを見せる門が一つ。
*
あの大規模な戦闘から二週間が過ぎ去った。カズヤは3日目に眼を覚ます事になったのだが、目覚めると開口一番で皆への謝罪が聞かれていた。
「ごめん!でも、俺の中でケジメっぽいのは一応、ついたかも?」
曖昧でカズヤ自身も判っていないようなこの言葉に全員がおどけて見せた。
「ハルちゃん……ありがと。なんかさ。酷い所見せたかも。」
カズヤはそう照れながらハルカに感謝の言葉を言っていた。
それから、カズヤはあの時のように殺す事への嫌悪を隠す事はしない。それは、カズヤの良い所でもあるのかもしれないと周囲の人間は感じている。
彼は彼なりにこの流れに身を委ねてみようと必死になっているのだ。外から色々と言う必要は無い。そう判断された。
一方でカズヤが目を覚ますまでにハルカは色々と動きまわった。カズヤが寝ているからこそ、皆で情報を集めようと持ちかけ、ハルカはその先頭に立って情報を集めようとしていたのである。
ところが、事態は簡単に動きだす。これまでまったく情報が出てこなかったのだが、ギルドから勇者への依頼が舞い込んだのだ。
古代人の遺跡の探索。そして周辺魔族の掃討。
ハルカはこれを話し合った結果受ける。これは、大規模反攻作戦だと言われた事が大きな要因となっていた。
何より、古代人という単語が聞きなれないものであった。いや、イーナには心当たりがある。だが、ハルカにはそれを言う事は無かった。
ここには本当の遺跡がある。その事実を聞かされたイーナにとっては知的好奇心を擽られるには十分であった。最も、浮かれるような人間ではない。好奇心はあっても、この依頼の重要性と何故、自分達に声が掛かったのか。それらを考えていかなければならない。
「今回、貴殿らに頼みたい事は少数精鋭による殲滅と古代人の遺跡奪還である。」
集められたのはオーク討伐で活躍した者から、ギルドが指定したギルド関係者を招集しての任務となっていた。
ハルカ達はこれに招集された。という形が適当であった。それなりに戦果を挙げているのだから、当然といえば当然かもしれない。
「古代人の遺跡が随分昔から魔族に占領されてしまっている。今回はその奪還が主務だ。奪われて、何度か軍を派遣したがその前に動きを読まれてしまっている。」
行動を読まれた軍は出立してから王都や各都市が襲撃に合うという事態にまで発展してしまった。そのため、国家は大規模な攻勢を打てずにいる。さらに、東の国家間との亀裂から、古代人の遺跡を目的とした外交問題が表面化しつつもあった。
イーナを除く人間が古代人の存在を今知った。そして遺跡の存在も。
そして、カズヤが目覚めてからハルカ達は内陸へと移動していた。それは、ギルドから作戦の詳細を聞くために沿岸都市ではなく、内陸の都市へ来てほしいという話からであった。
勿論、遺跡は内陸部に存在している。その関係上向かう必要があった。
ギルドの使う馬車に乗り、護送されるような形でその街に到着したハルカ達を待っていたのは、西ギルド協会の長。全てのギルドを統括するマスターの役職を持つ老人であった。
「何より、ここで勇者を選抜するには訳がある。君達には辛い事かもしれないが―――」
今回、任務を依頼するギルドマスターが直々に説明を行った。
*
「会いたかったぞ。カイン」
カインの目の前には見知らぬ男が居た。背丈は大きく2mはあろうかという身長であった。
ここは何処か。そのような事を考えたかったが結局諦める。封術士と言う存在をカインが肯定してしまったからにはここは封術士の言葉通り、魔王の住まう城内。もしくはそれに近い場所だということが想像できたからだ。
代わりにカインは、素直な感想を漏らしていた。
「もっと強面の奴を想像していたが。」
その言葉に男は笑みを浮かべた。色白。というわけではない。むしろ青白いという表現が似合う肌。
瞳に黒は無く、代わりに白が瞳を覆い隠すように広がっている。視線は確かに感じられる事から決して、目が見えないわけでない。
そんな予測をカインは立てていた。そして
―――殺せるわけがないな。
小さな自嘲を生んでいた。
「やはり、お前に出会えて余は嬉しいぞ。」
その言葉の後、高笑いをしながら両手を広げ、マントを靡かせた。
「余が魔王である!」
カインは久しぶりに頭痛を覚えて頭を抱えてしまう。
「中々、様になっているじゃない。」
カインはその声に横を向く。いつの間にか、封術士がそこには存在していた。
「ふっ。練習を怠った事は無い。」
「案外と楽しんでるのね。」
「娯楽が少なくてな。」
「まぁ、いいさ。この守護者に説明してやってね。」
「余がか。ふっ。良いだろう。暇つぶしには持ってこいではないか。」
カインの姿を改めて見やる魔王は先ほどよりも人懐っこい笑みを浮かべた。その光景をカインは愕然と眺める事しかできなかった。今まで思い描いていた来た事が音を立てて崩れていく。暫く、放心してしまったカインではあったが。
何より、確実に自分が進行中である物事に置いていかれている事に愕然とした。巻き込まれた人間としては非常に拙いと言えるところだ。
「まぁ、そう驚いた空気を出すな。お前には知ってもらう。私の存在も含めてな。」
そう言葉を発すると、空間が歪み始める。カインは既に動揺する事を放棄していた。なるようにしかならない。魔王という男も敵意や攻撃意識を感じなかった。
嫌なほどに平静。その事が本来ならばカインに動揺や嫌悪を抱かせてもいいようなものであるが、カインには優先すべき事もある上に、何より慣れてしまっていた。
やがて、人数分の椅子とテーブルが地面より形成されていく。
「ここは、余が管理する場所だ。いうなれば魔王城とでも呼べば良いか。」
「えらく、他人事にように言うな。」
「明確にこの建造物に名前を付けようなどとした事は無かったからな。」
「まぁ、補足をしてあげるのなら、ここは魔王が古代人によって任され、統括、維持する事が定められている場所。ここでは魔王が支配者となり、私の完全なる管轄外となる。」
封術士がそう言いながら、椅子に腰を降ろした。
「そしてここは防衛線にして防衛点。」
線にして点。
「単に言おう。余は古代人と呼ばれるこの土地に住まっていた、最も繁栄した種族によって作られた存在だ。正確に言えばメルカディアと呼ばれる人型の生命体であったのだ。余の創造主はな。」
魔王の語りは始まり。
*
ギルドマスターの語りが添える。
「古より、古代人が住まうこの西の大地では魔と人は混じりあい。生活していた。そこには種族の垣根なく、同じ生きる者同士である事を互いに理解して、日々を謳歌していた。」
勇者たちは静かに聞き入る。自分たちの知らない。イーナやマルセンですら知りえなかったこの世界の真の歴史。
信じるべきか信じぬべきか。そのような事は後で良い。ただ今は、ハルカの10倍は生きているというギルドマスターの言葉に耳を傾ける。
「だが、古代人は突如、何処かへ姿を消してしまったと言う。理由は未だに解明されては居らず、古代人の遺跡が存在する事も公にはなっていない。加えて、人間自体は消えてしまったわけではない。という事が古文書からは判っていた。」
もしかしたら、ここの世界の人にその古代人の血が受け継がれているのかもしれない。
ハルカはそんな事を漠然と考えていた。少なくとも、人間と同じような姿を成していたという事は推察できるものであった。
ギルドマスターの顔は神妙でいて
*
魔王は語る。悠々と。
「何故、余がこのように魔王などと自称するようになったかと言うとな。実のところ、人間が魔王と呼ぶ事を面白がっていたら、そのまま定着してしまったのだ。元々の名前は無い。」
魔王を餌に面白がる人間はある意味凄い事ではないかとカインは考えてしまった。
「事実としてはこの建造物から周辺土地諸々の維持、管理、制御を行う知性体。5000年前、メルカディアによって異次元からの侵略者が空けた次元門を封印する役目を与えれている。最も、出来た当初は門などと言うものではなく、穴だったがな。それを管理、制御しやすいように門に構築したのは余である。」
耳が痛い話だった。カインは思わず頭―――おでこに手を添えてしまう。
突拍子もない話であった。加えて魔王という不詳すぎる存在の言葉。だが、封術士は至って真面目である。
「話は最後まで聞きな。信じるか信じないかはその後でいいよ。兎に角話だけは聞いてくれ。」
封術士は真剣な眼差しをカインに見せた。その瞳に、カインは普段の平静を取り戻していた。馬鹿みたいな。御伽噺みたいな。そんな事が本当に現実としてカインの目の前に現れている。
その事を何処か他人事のように思えたら良いな。と半ば逃避するような思いを一瞬でもカインは考えていた。
話は続けられる。
「次元門に強力な開放力がぶつかる時。西の大陸に住まう魔の住人と共に、その力を打ち消し、または這い出てくる者達を駆逐するため指揮を執っていた。その力は強大ではあったが、人々と魔は互いの生活圏を取り決め、静かに暮らしていた。」
「何故だ?」
カインは口を開いた。
「何故……か。余も長い間考えた。考え抜いた結論を言おう―――考えるのを辞めた。ただそれだけだ。」
その言葉にカインは押し黙った。数千年という時を持ってしても門の存在意義と這い出て来る化け物の理由が判らなかったと言われたものだ。
嘘であろうと真実であろうと口を閉じさせるには十分すぎた。
カインは押し黙り静かに聞き入る。
「余が門を封印するには人間の制御の力が必要不可欠であった。その事を知っている人間達は力を持つものを選定する儀式を行い、余と共に、封印に力を貸していた。そうしなければ、魔以外のもっと恐ろしい存在が侵略に来る事を知っていたからだ。
魔よりも恐ろしい存在。
「選定は呼び寄せる術式。あれもメルカディアの技術だ。余でも仕組みは判らぬ。魔力に依存する物であるという事は判っておるがな。適当に使わせたらたまたま成功しただけだ。」
流れるように吐きだされていく歴史にカインは次第に惹き込まれていく。
*
その言葉は抑制のある落ち着いた言葉だった。
「月日は流れ、約3000年ほど前になると東の大陸から人間がこの地に移住してくる人々が現れる。原因は判っていないが、当時、東では天候不良などから不作が続き飢饉などが横行、まだ見ぬ西の大地に臨みを持って移住してきた者達ではないか。と言われている。」
これに関しては調べる資料が圧倒的に少ない。ギルドマスターはそう付け加えた。
「彼らを受け入れてる西の大地には魔と対等に生活する基盤形態が存在していたが、次第に魔の者を魔族と呼び忌み嫌い始めた。それは、東からの移住に加えて、西の人間も魔との生活圏を明確に決めすぎたために、魔の交わりが薄れた事が原因であるとされた。」
勇者たちには良く判る問題であった。東では西のようにオークが跋扈するのならば即座に殺すのが日常。まして人目につく場に出てはこない。
「そんな亀裂を入れ続ける中でも急激な人間増加が発生した。これも、亀裂を助長させる要因だ。生活圏の拡大によって魔との関わりを否応にも持つ事になった。そのような事が慢性的に発生していた西の大陸から、東へ戻ろうとする人間が現れ始める。最も、何世代も後の人間達だ。東が本来の故郷と知って向かった人間が居るかは今では判らない。」
数百年単位の問題である。修繕は難しく、人間の世代交代は速いために思想的転換や風化も速い。
「兎に角、東の大陸へ流れる人間が増大すると共に、魔と交流していた人間と東に行きたがる人間。そして魔を排除しようとする人間の間で大規模な戦争が起こる。原因は未だ判っていないが、小さな諍いからの発展ではないか。と言われている。その際には、穏健派には魔が加わり、強硬派は敗北、敗走する中、西の大陸を捨て、本格的に東の大陸へ渡り、国家を作った。」
―――これが、東の大陸に存在する国家の原型となる。
イーナは神妙な面持ちで聞き入っていた。それもそのはず。彼女はいずれ国家に深くかかわっていくだろう公爵家の人間。
思案する中には父が少なくとも、国家が形成されていく歴史を知っていたからこそ、自分を勇者と引き合わせて旅に出させたのかもしれない。そんな憶測をも描いていた。
「やがて、一つの出来事が起こる。」
話は続けられた。
「古代人と呼ばれる遺跡が東でも発見された。元々、西では古くから遺跡が見つかっていたが、東では本格的な捜索も行われて居なかった時代だ。人々は歓喜する。西の遺跡では多くの技術を研究し、人間の生活の糧になってきたのだから。こぞって国家は発見された遺跡に調査団を派遣し始めた。だが、その遺跡群には西を捨てた人間達が忌み嫌う、後に異人として差別化され迫害を受けた者達が住まっていた。」
たとえ、ハルカ達が驚愕に顔を染め上げようと。止まる事は無かった。
*
カインは感じている。いつまにか自分に付いて回る古代人―――メルカディアと呼ばれる存在の影。
「西の大陸では遺跡は数多く見つかっている。だが、東でも少なからず発掘はされていた。どれも余の知り得る技術力ですら再現できない物ばかりだ。それが東では異人と呼ばれ、忌み嫌われた者達が住まい、遺跡を守護してきた。」
その言葉にカインは反応してしまう。未だに忘れられる事ではないからであり、自分の第二の故郷とも呼べるべき土地であったからだ。
「東の人間は元々魔を嫌う者達が主流であったために。排斥が起こったのだ。その結果いつくかの異人は滅び、遺跡は国家が独占し研究した。」
カインの知る村もそうであったのだろう。今まで、重要な情報を国家に流さなかっただけで、内実は研究に加担せざるを得なかったという事である。
だが、ここにきてあの村は襲撃された。
既に、カインの頭の中にはこれから自分が関わるものが何なのか。知りたくも無かった事が勝手に組み上がっていく。
逃げようにもどうする事もできない事態に、初めてカインは信じてもいない神に祈りを捧げて助けてほしいと懇願したいという衝動に駆られていた。
「その結果は、東の大陸では内戦という形になった。とてつもない強度を誇る未知の素材。高性能な武具。勝手に灯明り出すアイテム。様々なものを奪うため、独占するために。やがて、東の人々はその不毛な内戦を辞めようと考え始めた。それは内戦を初めて10年もの歳月が経ってからだ。」
魔王はゆっくりと肘をテーブルに置き、まるで祈るように眉間に両手を置いた。
*
初めて表情が変わる。それも当然だろう。
「向けられた矛先は、西だった。」
欲望にとり憑かれた亡者のような連中に西は蹂躙される事になったのだから。
「西にこそもっと強大な遺跡があると信じ、そして東の人間を納得させるには外敵の設定を最優先した。外に敵がいるとなれば国内は一気に団結力を持った。そして東の人間は、西の大陸へ遺跡の確保と新たな領土の為に侵攻。西の国家との長きに渡る戦争を経験する。」
イーナはその事で歯がゆさを感じていた。当時の文献には西との戦争を良しとしない勢力が居た事が記されている。だが、それは王室禁書として厳重に管理保存されていた。
見せてくれた父親に感謝しなければならなかった。
その事を考えるに、イーナの居た国家は強硬派だったのだろう。その思いが国家に対する忠義の大きさと比例しイーナに重く圧し掛かってきていた。
マルセンも同じくそうである。いや、マルセンの方が衝撃は大きかった。一般的に伝わっている戦争記録は西からの侵攻が戦火の口火を切った事になっている。加えて西は魔族を使い侵攻してきたと公式な記録として記載されていたのである。
マルセンは騎士である前に軍人である。今まで身体の芯まで鍛え抜いてもらった教官が言っていた事。友と語り合った忠義について。国家に尽くすと。かつての侵略戦争を戦い抜いたこの国家の為に働こうと。
そう語り合ったものは一体なんだったのか。崩れ落ちそうになったマルセンが踏みとどまれたのは、マルセンの前で聞き入る少年少女の姿を見たからかもしれない。
今までの旅が少なからず影響していたのかもしれない。
静かに、だがはっきりと続く語り。
「30年ほどの大戦争を経て、互いに国力を低下させるだけに終わり、やがて現在の国家が形成される。」
―――それが800年前。そして、西との不可侵条約を取り付け、交易を開始する。
*
「元々制御する力に必要だった選ばれた人間。昔も今も勇者と呼ばれている。その勇者だが、700年前には完全に魔王を倒すためという表の顔と、遺跡の調査という裏の顔を持たされるようになった。魔王の居城には古代人の秘密が眠っている。この噂話が今では人間達の伝説になってしまっているな。」
聞いた事が無い。そんな事を考えていたカインではあったが、代わりに封術士が言葉を添える。
「言っておくけど、一般には降りてないと思うよ。これは貴族か王族あたりの一部が根強く信じている事。」
そのような事を信じている者達によってカインの人生は狂わされたのであった。元々、人殺しをしている点から言えば狂った所で問題があったかどうか疑問ではあるが。
「お陰で西の大陸では、魔族が勇者と名乗る者に殺される事が頻発するようになったな。面倒な事だったが、時を経て、徐々に風化し、現在では勇者は悪い奴という認識が高まっていった。だが、西には御伽噺として魔王と勇者が協力して強大な力を封印する事実は残っている。という訳だ。ふむ。大まかにはこんなところであろうか。」
信じろと―――?この話を。
カインは一先ずため息を吐きだした。とてつもなく長い時間、話を聞いてたような錯覚に陥るほどの内容であった。
「補足をしておくと、これは真実ではあるけど、確定した真実ではない。」
封術士がそう言う。
「どういう事だ。」
「これもまた用意された台本のようなもの。正確な資料は全て廃棄されている。」
「廃棄しているのは余だ。これも余に加えられている命令の一つでな。」
何故、そんな事を命令としたのか。疑問は尽きなかった。
「少々、張り切り過ぎてしまったな。」
その言葉と共に、魔王は指を鳴らした。次の瞬間にはカインの背後に気配が二つ。咄嗟に回避しようと動く―――動けなかった。
「落ち着きな。まぁ今まで敵だと言われ続けてきた奴の本拠地だから気持ちは判るけどね。だから、優しくしてあげた。感謝しなさい。」
その言葉通り、カインは動く事は出来ずとも、痛みを感じる事は無かった。そしてテーブルに置かれるのは食事であった。
「生憎と余は生物が嫌いでね。たとえ人間だろうときちんと血抜きをして料理せねば喰わんのだ。最も、これは人肉ではないから安心しろ。」
毒の存在を警戒はしたが、この目の前にいる魔王という存在を知って。素直に口に食事を運んだ。
「補足や解釈がほしいのならば聞いてくれたまえ。応えてやろう。」
笑みを浮かべつつも料理に舌鼓を打つ魔王。
その姿を漫然と視界に入れつつも、カインは戦った場合どうなるかを一瞬だけ考えてみた。
恐らく、カインはこの魔王に近づく事も出来ずに殺されるだろう。
漠然としながらも確信してそう言える何かを、この目の前で口にソースを付けて胸元を汚す魔王から感じ取っていた。
私はあまり深く考えていません。
加筆修正の可能性有り