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魔王と勇者と暗殺者  作者: 泰然自若
二部 三章
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第三十五話 胎動の刺客

現在から回想で過去になっております。


船に揺られながらも、カインの調子は宜しくは無かった。


左腕の疼きと共に、自身との空気の相性を考慮しなければならない事を理解した。果たしてこの痛みはどういった意味を持つのだろうか。カインは揺れる船の上で気だるそうに世界を覆う雲を眺めていた。


兎に角、西の沿岸都市で長期間の休憩を取る必要がった。そして、ジルが託した人物を探す事も忘れてはならない事であった。


本人曰く、直ぐに会えるはずだと言う言葉を信じるのならば西の沿岸都市を拠点とするのは悪くは無い。


何より、西に降り立つ玄関口である。そこを拠点として活動を開始するのは至極当然である。そこから、徐々に西の社会形態から国家の情報と民の噂話。調べることは多い。


カインは今、西を向いている。船に乗り、波に揺られながら。


カインの胸には一通の書状が託されている。それはジルベルトが魔族に襲撃された後に、カインに向けて託したものであった。


ふと、ジルの事を想う。


勇者であり、隠居をしている男。そのスキルは正しく勇者と呼べる代物であった。まさか、カインもジルベルトの能力を片鱗でも見る事ができるとは予想外であった。いや、あれがスキルなのか魔法なのか判らなかった。だが、事実カインが殺されると思った相手を、ジルベルトは相打ちという形で屠ったのである。あの身体でありながら。


ジルベルトはカインに己が勇者である事を告げてから変化していった。それはカインと出会い、会話を経て、心の中に溜め込んでいたものを必死に吐き出そうとしているように。


その中で、カインに何かを託した。結局、カインはそれを受け取ってしまう。


慈善活動に慣れてしまった事に軽い恐怖を抱きながらも、何処かでまんざらでもないと考えてしまっていた自分に嫌悪した。


兎に角、カインは貰い受けた書状を結局、未だに開封せずに懐に仕舞っている。以前のカインならば問答無用に開封していただろう。今回は何故か釈然としない自分の考えと行動に戸惑いを抱きつつも、ジルの語った話について考える事が先であるという結論を出していた。


守護者。カインは守護者となる存在だと言われた事を鼻で笑っていた。だが、完全に笑い飛ばせもないのを理解してしまっていた。


確実に自分がそういう道を辿りそうな予感をひしひしと感じ取ってしまっているからである。


だからこそ、今は流れに任せて行動している。行き着くところまで行けば、自分も状況も変わるだろうという楽観というよりも諦めに近かった。


だが、導かれる何かを知りたいという好奇心がないわけでもない。確かめたい。見てみたい。幼い頃から失わなかったカインの糧が今、輝きを帯びてカインの見える世界を彩っていくのであった。


何より、魔族の襲撃を受けた事がジルベルトから書状を受け取る大きな要因になっていた。手形を貰い受け、船の出港を待つ日々。その中でジルベルトの家は魔族に襲撃されている。


カインは遠くに見え始めた黒き大地を見据えながらも、あの襲撃を思い出していた。


今まで戦ってきた敵と呼べるべき、己の命を脅かす存在。その中で。紛れも無く一番強く、恐ろしいと心の底から感じ取ってしまった。あの時、生き延びた事は紛れも無く、カインが今まで経験してきた全てが生きさせた。


その時、カインの身体は驚くほど自然かつ滑らかに。だが、意図せず勝手に動いていた。


自分でも驚くほど軽妙な動きで見えざる敵の必殺の初撃を後方に一気に下がる事で回避した。もっとも綺麗に避けたのではなく、尻餅をついてしまったのだが、そんな事を気にせず即座に戦闘態勢に入った。カインの目の前には右手から左手にある窓まで存在していた全ての物に一筋の亀裂が走っていた。


手には大鎌を持ち、暗闇の中でも刃が青白く光っていた。何処からどう見ても御伽噺の英雄譚に出てくるような死神の風体であった。御伽噺にも本物があるんだな。などとカインは本気で関心してしまった。


「あらあら。良い判断ですね。人間の癖に。どうしてどうして。」


カインの目の前には死神が立っていた。黒いローブを身に纏い顔はフードで見えず、だが、口に入りそびれた犬歯と白い陶器のような滑らかさを感じさせる暗闇に浮かぶ肌が印象深い。


カインの全身が総毛立ち、気持ち悪くなるほどの悪寒が襲ってきていた。カインはこれまで何度も、殺し屋と戦ってきた。


それは暗殺対象が同業者を雇う場合もある上に、そういった護衛専門の同業者も少なくは無い。そして、そういった人種にはこぞって共通な臭いや気配。それらが存在しているはずであった。いや、人間であるのならば。相手を傷つける時に必ず何かしらの感情の起伏から生じる空気の変化が起こるはずであった。


カインは元々、その空気を感じ取る事が敏感である。殺し合いの中でこそ発揮されるその直感に近い何かによってカインは何度か命を拾ってきている。


その経験の全てをぶち壊した存在が目の前にいるのである。何も感じなかった。何も、ドアを叩く音。声。十分気をつけていた。来客には遅い時間。内から声をかけた。家主は既に就寝している。そして、ドアを挟み言ったのだ。


―――夜分遅くに申し訳ない。


回避は出来た。咄嗟に。だが、カインは違和感を拭い去れなかった。だが、現状はカインに考える時間を与えるほど穏やかではない。


真っ直ぐに振り下ろされる刃をカインは回避するよりも受け止める事を判断する。回避するにしてもどちらも壁で逃げ場を失う。死神は出入り口に立っており、逃げ道はカインの後ろに続く廊下のみ。だがその先々には二人が眠っている。いや、既に起きているだろう。


気配を感じ取る。それでもこちらの部屋にこないのはまだ夢心地か。なんとかこの場から離れなければならない。そう判断した結果。安易な回避よりも受け止める事を決断。行動に移す。


「ほっ!」


死神は妙な声を挙げて喜んだ。逆にカインは死が迫っているように思えてならなかった。それは決して敵の風体だけの問題ではない。カインは今まで戦ってきた者の中で、一番殺す事を楽しんでいる。それが恐ろしいと思えるほどに。


カインの心中はその恐ろしさともう一つ。大きな戸惑いを持っていた。


――気配はある。そこにいるという判断も付く。だが、なんだ。この違和感は。


敵を感知できている。今でも一撃を耐え切った。耳で敵の声を聞いた。身体で敵の一撃を感じ取った。目で敵を認識している。


それでも。


敵に殺気はなく、何処か霧散してしまうほどの儚さを感じてしまっていた。戦った事のない相手。十中八九魔族。


この敵に、カインは後手に回る。ただでさえ狭い室内。後方には民間人。いくら元勇者といっても今は戦える状態ではない。


「良い。良い。お前を優先してやる。」


逡巡する。その言葉に偽りが隠れているか否か。敵の言葉。しかし、未知の敵という認識。僅かな隙を見せる。死神は笑うだけで攻撃はしてこなかった。


だが、次の瞬間死神は消える。闇に溶けたかのような錯覚。全神経を総動員して探りに入ったカインはいつでも迎撃できるように左腕の緊張を極限まで高めていた。敵が攻撃してくるのは、急所か、否か。


だが、そんな緊張が背後から迫る何かを感じ取った。カインの横を光が通り過ぎていく。


「邪魔は。良くないな。ジルベルト。」


ジルベルトがカインの後ろに立っていた。気付けなかった己に嫌気がさしつつ、察知されずに後ろに立てる技量を持つジルベルトには感服せざるをえなかった。


あの身体でやってのける。カインにはその異常性とともにまぎれもなくジルベルトが勇者であった事を改めて認識していた。


「これは、失敬。」


見えなくなったが、死神の声は響いてくる。その言葉には何処か喜という感情が含まれているようにも思えた。


「戦えるようになったのかい?」


「そこの人のお陰さ。」


「そうだと思った。だが、まだまだだね。」


「あぁ、君を道ずれにするくらいしかできない。」


「怖い。怖い。」


その声と共に、ジルの後ろに死神が居た。だが、ジルは構わずに言葉を続ける。


「迂闊だな。」


振り下ろされる鎌の刃。頭から真っ二つにされるジルであったが。


発光。ジルの身体が光り輝き、周囲から闇を黒を消し去った。


カインは視界を手で覆うもそれでも強烈な光を抑える事ができない。果たして、この光は現実に起こっているものなのだろうか。


そんな疑問が沸いてきた後。


「ここは……」


カインは真っ白い空間に立っていた。

夏風邪でしょうか。胃をやられてしまいまして。嘔吐がとても辛かったです。


今後、ここは書き直しがあるかもしれません。悪しからずご了承ください。

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