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魔王と勇者と暗殺者  作者: 泰然自若
二部 三章
33/55

第三十三話 問われる行動

外の気配は完全に息を潜めていた。結界を打ち破るには長い準備と相応の魔力が必要である事から、再三魔術師が集まって術式を作ろうとしていたのだが、カインの殺した魔術師の制御能力が他者よりも随分巧かった。という事実を得る程度しか行動できてはいなかった。


「難儀な……。」


カインはため息を洩らす。


内部では既に、敵を駆除し終えている。カイン達は広場に集まり、女のもたらす情報に耳を傾けていたのであった。


「そうだな。」


女も同意する。彼女の得ていた情報はそれほどのものであったという事だ。各国家がこの村を占領するために動き始めたという事実。


既に、一番近くの王国は軍を編成し進軍中との事。迅速に行動する必要があるが、長老達は村を離れる事を拒む。長老はスキルによって既に未来を見越しているのかもしれない。カインはそう思いつつ、自分だけでも逃げるために行動しようと考えていたのだが、気になる事はあった。


「古代人の遺産を手に入れ、何をする気だ?」


それもこんな性急かつ強引に。カインは疑問を口にする。


「武力の獲得。」


各国家はこの村の存在を半ば黙認し続けてきたという経緯があると同時にギルドはここの存在を容認していたはずだ。


「時期の意味するもの。」


いくら、今回ギルド上層部の粛清が起こったとしてもこれほど性急な動きを見せる事ができるのだろうか。


加えて、カインの疑問も最もである。


「昔の王族からも再三に渡って古代人の情報を教えろと言われてきてのう。その度に、大して得にもならん情報を与えておったのだが。武具を求める事態が発生したのかのう。それも強硬しなければならぬほど。」


「ふむ。だとしたら、西の動きが不穏だというのはその為か。」


「西か。」


「詳しくは判らない。派遣する人材も今は居ないからな。それに、私はこの通り斥候で、先陣だ。」


女の声に怒気が絡みつく。


「あんなクソどもと一緒に行動させておきながら、内部には入った奴らはこちらに仕事をさせて、他は漁り、嬲り。胸糞悪いにも程がある。」


仮にも王国軍であるはずの敵兵が異人というだけで嬲り殺し、陵辱し、何かを探していたという。


「殺しを遊びと勘違いしているクズ以下の奴らだった。」


だからか。カインは心の中で呟いた。


カインが内部に侵入してから明らかなに異様な殺され方をした村人と同じように、敵兵もそこらに転がっていた。カインが数人しか殺していないのだが良い証拠だ。既に、大方駆逐されたのだろう。目の前の女達によって。


「遺産なんぞ調べても、判らぬ物はわからぬ。我々が長年研究した情報が大方の目当て。そして、カインに送ったその腕のような武具を所望か。」


長老はそういいながらも、髭を撫でている。何時もの姿であった。正確に言えばここ数百年ほどから勧告が酷くなってきたという。その前からは王族はこの村の異人を迫害しつつも、ここを攻める事はしてこなかったようだ。


「元々、カインを差し出した案件から、斥候が動いていたのだろう。他者もこの地に来た痕跡はある。」


カインや傭兵、ハンターを集め、監視しつつも魔族討伐を掲げた理由はこの村に眠る古代人の遺産を得るための布石。数百名の荒くれ者を野に放ち、彼らの情報を得ながら、情報を操作し、国家の影を見せずに場所や情報を得るための餌だったという考えをカインは持ち始めていた。


それに遺跡は何もここだけではないだろうという考え方も出来る。つまり、国家が表立って動けない遺跡の発見や情報収集を数カ国が裏から糸を引いて操ろうとしていたという推察。考えようによっては水面下の勢力争いの一端に参加させられていた可能性も出てくるのである。


カイン自身がここに来た事によって、勇者一行を差し向け、様子を見ていた。もしかしたら、勇者一行には監視が、感知や探知のスキルないし魔法が無意識化でかかっていたのかもしれない。今にしてみれば、不審な点は思い当たるがどうにもできない。


「長老。」


「お前は往け。」


カインにとって故郷に近い土地ではあるが、所詮は土地だ。人が居なければこの地に意味はない。他の土地を新たな故郷として作る事も人が居れば可能になる。


だが、長老はここを、遺跡を護るために残るのだろう。


「逃げぬよ。だが、死ぬ事はない。カイン、お主に託したものを護るのだよ。我々は」


「遺産の存在は知られていると考えるのが妥当だろう。あそこへ行ったとしても。」


確かに、侵入経路が限定されているために迎撃も簡単で篭城には持って来いだ。自給自足できる環境が整っている。だが、それでも軍勢相手に戦えるとは思えない。


現に結界という村の絶対防御は数十人の魔術師によって破壊されている。


「あそこは落ちんよ。」


長老の目は光っていた。


「何かあると言う事か。」


「気にするな。お前は、西へ向かうが良い。」


カインはそう言われ、口を噤んだ。長老の意思ははっきりとしている。その意思を変えさせる事はカインに出来るわけがなく、長老の自信を信じる事しかできなかった。


「話は済んだか?私も雇われのみだからな。契約違反で処断される。そうそうに雲隠れしたいものだ。」


「組織はどうするんだ。」


「解体してある。まぁ、直ぐにまた作られるさ。お前は。カインはどうするのだ?」


女はカインを見つめながら言った。


「西へ向かう。」


「ほぅ。」


女は笑みを浮かべていた。何かが嬉しいようだ。


「お前も人の子か。」


「どう思ってもらって構わん。だが、行くべき理由は持っている。」


カインにとって、勇者一行を助けるという考え方はない。


女がどういった情報を得て、あの嬉しそうな顔をしたのかカインには判らなかったが。どうにも、気になるのだ。あの魔王という存在と西の大陸という場所。


長老の言葉にも意味が込められている事を汲み取っているカインは深く追求もせずにその言葉のまま、そして何より、自分の意思を尊重し、行動するために西へと向かう事を決めたのであった。


「せいぜい気張ってくるが良い。」


「俺としては、再雇用先として生き延びて欲しい。」


「あぁ、お前が生きて居たらな。」


その言葉を最後に女とカインは背を向けて別々の方向へ歩を進める。


「やるべき事があるのう。」


「老体にはきついがね。」


いつの間にか、治癒者の老婆が長老の背後に立っていた。そして生き延びた村人達もぞくぞくと集まってくる。皆、何かを背負い、手に持ちながら。


「荷造りは終わったか。さて、皆の衆移動じゃ。」


その言葉を聴くと村人達は山へと向かっていく。そこには、かつての虚ろな瞳はなく、目的を持ち、生きる意味を見出したかのような活気が湧き出ていた。


「廃れた物を呼び起こす。だが、廃れた思想は闇の中。」


長老は呟く。ただただ呟く。


「泣いておるだろうな。古より続く勇者の選定。その真意を知らずに散っていた者達が。」


「今だからこそ。その涙が報われるやもしれないね。」


老婆は寄り添う。


「勇者は既に西へ入り、カインは遺産を継ぎ守護者となって西へ。」


「此度は一人。だが、最も頼りになるさ。」


「あぁ。我らの願いが叶う時が来た。」


「数千年。終わりきらなかった歴史が。今度こそ。」




急展開というよりは強引に突き進んでいきます。

思わせぶりがあっても大して意味もなく…。

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