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魔王と勇者と暗殺者  作者: 泰然自若
一部 二章
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第二十四話 向上と妥協

私は変わった?


私は変わった。


ハルカはマルセン達が動く様を眺めながらそう自問自答していた。働きすぎだとマルセンに言われて、現在は休憩している。イーナと護衛の戦士達は現在、ハルカの殺したゴリアテの解体作業に出向いていた。


残ったハルカとマルセン。そして生存者で動ける者は、燃えている家の周りを崩したり、遺体や他の生存者の捜索を行っている。


既に大まかな捜索は終わっていたのだが、一人の子供が祭り用の大鍋の中で眠っているのをハルカが発見したのである。そこから、そういったような子供が入れそうな所。隠れられそうな所を探すようになっていた。案の定、子供が数名発見されている。恐らくは両親が隠したのだろう。


子供達は今も眠っている。泣き疲れた子供が大半だった。家と家族を失ったのだから当然の権利だとハルカは思っていた。


ハルカは眼を閉じる。今でも、ゴリアテを殺した時の風景が蘇る。何故だろうと疑問に思って行った。


エーファの事はもう正確かどうかも判断できない。ただ、強烈なまでに記憶に刷り込まれているのは、ハルカ自身が死を感じ取った場面のみであった。


いや、それだけでも十分なのかもしれない。ハルカにはあの事があったからこその自分が居ると真剣に思えていた節があったのである。


エーファの時のようにハルカは塞ぎ込み、己を痛めつけて居てもおかしくはなかった。だが、状況がそれを許しはしなかった。ハルカはゆっくりと思考という迷宮へ足を踏み入れていく。


あの時、私は私で無かった。


ハルカは静かに立てかけてある剣を見つめた。


あの時、白い霧が出来る時、剣は消えていた。そして、意識が遠のき、ハルカはまるでテレビを見ているかのような錯覚に陥ったのである。自分の眼から物事を見ているのに。


それが酷く違和感だらけだった。だから、テレビ中継を見ていると言われた方が納得できてしまうようだと感じていたのであった。


そして、紡がれていく言葉。自分の口から自分の意志とは違うものが紡がれ、目の前の敵を突き刺したのである。


無限に生まれ落ちていくかのように空間を着飾ったのは白月の如く輝きを見せる剣。その剣達は数多に伸びゆく白線となって生き物を肉の塊に変えた。


白んでいく意識の中で、ハルカは叫んでいた記憶がうっすらと残っていた。目覚めた時、イーナもマルセンも安堵の表情を浮かべていたが、何より、ハルカ自身がとても清々しい気分で覚醒していた。


ハルカは起きて彼女達を見た時に疑問を感じとった。


何かとても大事な事をしていた気がするのに思い出せないハルカは、少し考える素振りを見せたが、イーナに大丈夫だと告げた。


まずは心配してくれた二人に健康で問題のない事を知らせたかったのであった。それでも、イーナは何か思い詰めた顔をしていたので、ハルカは口を開く。


その言葉はとても自然に、何処からか流れ出て来るかのように流暢だった。


そして、ハルカは気付く。


自分に何が起こったのか何も分からない。だが、それでも今までとの身体と心の変化を感じ取ったのである。だからこそ、半ば無意識であのような言葉が紡がれた。


その覚醒からハルカは変わった。寝ている間に何があったのか。それは今。判らない。だが、追々判って来る気がする。


そんな漠然としながらも何処か確信めいた自信をハルカは持っていたのである。


それに付随しているかのようにある考えが巡り固まり、決心に変わっていた。


きっと自分が寝ている間の出来事に関係している心情の変化なのだろう。漠然としながらもそう結論づけたハルカの顔は明るい。


何故、唐突にそう思ったのだろうか。自分の胸に当ててみても、それこそ検討もつかないでいた。それでも、ハルカは既に決心している事があったのだ。


ハルカは立ち上がる。今は、自分のやるべき事をやろう。


目的は西へ渡る事ではあるが、今はこの村の検分報告と復興の譲渡を行う事を最優先に行動するつもりでいた。放って置く事など到底できる事ではなかった。


今までのハルカならば、立て続けに起こった今回の出来事に混乱し、ここまで真っすぐに動くことなどできなかっただろう。疑問に思うよりもハルカは嬉しかった。


そこまで前向きに考えるようになれるほどの変化を見せながらも、当人は本当にその変化を心底、楽しんでいた。


まるで、その事を望んでいるかのように。


ハルカは思う。現状は自分が悩んでいて良い状況ではない。自分だけが辛いわけでもない。むしろ、自分なんてどうでもいい事だとも思えた。それこそ道理であるという考えすら持ち得ている。


ハルカは後ろに佇む小屋の窓を見つめた。幼い子供たちが眠っている。そばには生き延びた女性が付き添う形で同じく眼を瞑っている。


現在、応援を待つ傍ら、盗賊団の一味であった死体の装飾品などから伝達屋を介してギルドに照会を依頼している。名のある盗賊団である可能性を考慮してだった。


懸賞金がかけられているのならば、襲った連中を割り出すのは容易であったが、恐らくは無駄足になるだろうと全員が踏んでいた。それでも、行動したのは一部の望みを持ってのことである。


行動しなければ、得られるものは無い。


盗賊団は村を襲い、人を攫う行為によって懸賞金が団に付く事を嫌った。そして個人にも賞金が付く事も嫌った。故に、ゴリアテという野生動物を使ったのだろう。


村の誰かがゴリアテの子供を攫って売りさばこうとした。そして怒り狂った親に村は壊滅させられた。そんな筋書きだったのではないか。


当初、全員が感じた事であったが、一同は眉を顰める。


不審な点が多すぎたのである。当然、ハルカもその事に気づいていた。


これは、盗賊団以外が仕向けた事なのかもしれない。ハルカ達はその事で話し合い、危機感を募らせた。


否定できない可能性の存在。


その可能性の存在だけが、今のハルカに暗い影を落としていた。


「カインはもう西へ渡ったのかな―――。」


既に日が天高く飛翔し、青々とした天空には白雲が紛れている。頭上は何時も多様な顔を作りなし、風に流れ、変化していく。


ハルカは今、西を向いていた。



むむむっ!

これだけはハルカ視点で書いても良かった気が。

まぁ、外伝的な話なので。



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