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魔王と勇者と暗殺者  作者: 泰然自若
一部 一章
2/55

第二話 派遣という生贄

短いのが特徴。でもダラダラと




11/1 本文を微妙に加筆修正

 数日前に扇動行為を行った男の殺害を終えていた男は、楽な仕事ではなかったと感じていた。


 王国内で、民主導の反乱を企てる輩が居る。


 三ヶ月前に、男が組織から依頼されたものである。この一文に加えて、対象者の名前のみという依頼書であった。それでも、男は三ヶ月を費やし、任務を遂行した。


 現在は組織の本部にある男の仕事部屋にて、帰還報告書の作成を行っていた。任務は無事にとは言えない結果を生み出したが、成功は成功していた。それでも、男は期日が迫っていたために強行したことを悔やんだ。それに対して、少なからず不甲斐ない出来だったと心底落ち込んでもいた。


 最も、そのような感情を表に出すほどではなかったのだが、それでも男は代償として静かに紙に何かを書き止めていた。


 蝋燭の淡い灯が儚く銀色の髪を煌かせている。その男の居る一室の少ない光が照らして見えるものはそう多くなかった。ベッド、イス、テーブル、そしてその部屋で一番大きなものはクローゼット。男の部屋にはそれらが綺麗に並べられていた。


 やがて、男は書き終えると、部屋を後にする。


 今回、遂行した依頼に関する大まかな事情説明を書き記したその書状を丸めて握り締める。多少皺になろうが男は気にしなかった。


 廊下に出ても、うす暗さが変化する事無く、ただ蝋燭の光が道を照らすだけであった。男はその道を迷うことなく歩を進め、扉の前で立ち止まる。


 一瞬の間を持ち、開ける。目の前にはテーブルが置かれ、書物が散乱していたが、椅子に座る三人。中央に対峙するように座るが一人、左右に一人づつ。ともに、室内でありながらもフードで顔を隠しており、特徴は掴めない。


「貴方にしては、しくじったようね」


 唐突に、中央の人間が男に声を掛けていた。抑制の効いた。いや、棒読みとでもいうのだろうか。酷く人間味の無い言葉であった。それでも、筆を執る指先が止まる事は無かった。


「情報に無い者が居た」


 疲れている。そうあからさまにため息をついた後、男は喋る。


「臨機応変に、それが貴方の良い所だったはずだが」


先ほどと変わらない声質。ただ、女であるということは判る。


「死者の眼球から死ぬ直前の姿を見る。いくら臨機応変でも想像できない事態が起こるという事だ」


 三ヶ月。


 それだけの日数を費やして近辺の情報を洗い直し、行動を監視。生活習慣を掴むに至っていた。


 それでも、レアスキル持ちを察知する事ができなかった。そもそも、男はレアスキルの中に、死者の眼球から記憶を抜き取るなんてものを聞いたこともなかった。だからこそのレアスキルと呼ばれるのだが、このような希少な存在を臨機応変の中に組み込む事はなんて、不可能である。


 男は、不服に思いながらも口にも態度にも出すつもりはなかった。完璧主義者というわけではないが、仕事に対してやりがいをもって挑んでいた男はそのような惨めを表に出す事を嫌ったのである。


 それに、ここで喚いたところで、失敗の烙印を押されることは確定している。そういう思いがあったのだ。だが、当時としては最善と尽くしていたつもりでいた。


 その事に対しての不満も自嘲もなかったのは確かであった。


「レアスキル持ちを考慮しろ。まぁ、無理なのは判るわ」


 男は押し黙る。それに伴い、無意識に不機嫌さが上昇していく。いつもと、様子が違っていると感じ取ったのであった。


「けれども、貴方の仕事に支障が出るだけなく、我々にも影響が出る」


 男自身、仕事をしていく中で成功も失敗も経験している。


「罰金?」


 組織への損害や多方面への根回しを含めて金銭問題の発生は日常茶飯事である。


「それもある」


「軟禁?」


 下っ端程度なら殺せばそれで終わりであったが、男は勤続年数も長くこなして来た実績もあるために殺されることは無かった。だが、そういった者らを罰する場合には軟禁や投獄といった処置を取る場合があったために、男はその単語を口にしたのである。


 時に、失敗者の烙印を身体に刻み込む事も行われる。


「それは、ない」


 ここにきて、初めて女の声に感情が乗ってきた。その事と共に、男は訝しがる。


 ――何かあるな。


 男の頭の中で一気に膨れ上がっていく不信感。長い間世話にはなっているが、ここは非合法ギルド、諜報、工作、殺人、盗みと法外専門業者である。組織の人間に対しても、平気な顔で理不尽を押し付けてくるのを男は知っている。


「無い?」


 だからこそ、ここにきて、露骨な嫌悪感を露わにした。威圧をかける言葉とともに、気を張り詰める。だが、対面の女の変化といえば、書き終えた書類をテーブルから右手を使って床に落としただけである。


「別件」


「ちょっと待って――」


 変化のない声に男はため息を吐き出し言葉を出そうとしたが、途中で女が邪魔をした。


「拒否は不可」


 強制力を感じる一言に、男はおとなしく黙った。女とは長い付き合いである。思うところがあるのだろう。


「内容は、これ読んで」


 女は男の胸元に向けて丸められた書類を投げる。男はその書類を広げてみると依頼書であった。嫌な予感しかしないが、読むとそれは当たってるが立証されただけであった。顔の表情が強張っていく。


「――本気か?」


 声に出てしまう。


「えぇ」


「偽物の類」


 食い下がる男は言葉を吐き出し続ける。


「ないわ」


 女は多少、うんざりした声を挙げた。


「何故」


「見た事ない?」


 知っている。だからこそ、男は偽物だと信じたかったのだ。


「書状の用紙に、サイン、押印。全て本物」


「難儀な……」


 突きつけられた現実に男は肩を落とす。


「えぇ。貴方のお陰」


「選択肢は一つか」


「えぇ。判り切っている事をいうものじゃない」


 頭を動かす。考えろと内面で自身に訴え続ける。強制依頼はこれまで何度かある上に、その危険性は高い。過去、何度か死ぬ思いをしている。


 だが、今回は真剣に逃げ出す事も自然と頭の中に浮かび上がり、何食わぬ顔で選べも出来ないのに選択肢という名前の一つに収まっていた。


「臆病風?」


「あぁ。危険が高い。生存率の低い仕事はなるべく受けたくはないのが本音だ」


女の問いかけに素直に答えた。


「貴方、良くそれで仕事できるわね」


「それなりに楽しいからな」


 殺すという事よりも、殺すまでの過程にやりがいを見つけていた男であった。


「職人の鑑だな。でも、言ったはずよ」


「判っている……」


 逃げ出すと追われる。下手すれば懸賞首でギルドでの健全な仕事すら請けられない事になりそうであったのである。飲まざるを得ない。


「ほら、行った。そして死んできなさい」


 男はその言葉を聞いた後、その空間から脱出した。


 すぐに自分の部屋に戻るとクローゼットを開け、そのクローゼットの中から、複数個の箱を取り出し、中身を取り出す。


 布に包まれた品々は皆、刃物を持つ凶器であった。男は腕に、腰に、太ももに、ふくらはぎに、踵に、胸に。装備していく。全身に装備される凶器の数々は音も立てずに身体に張り付いているかのように静かであった。


 やがて、男は服装を変える。基調をこげ茶のフード付きのものを着込む。次に、男は顔に手を伸ばし、髭を剃り始める。もっとも、顎髭に少しばかり生えていたものであるが。男は一通りの身支度を整えると部屋を出た。


 向かう先を考えてため息が思わず漏れてしまう。予想外の事には慣れていると思っていた。それが甘かったと。



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