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魔王と勇者と暗殺者  作者: 泰然自若
一部 二章
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第十九話 道中の思い

行き当たりばったり

西を目指すハルカ達。イーナは伝達屋を介してカインとの情報交換を行っていた。


カインは丁寧に毎度情報があるたびに、ハルカ達の居るであろう地区にいる伝達屋。速く移動している場合も予定通りも視野に入れて伝達を送っていた。イーナとしては、カインが予想以上に出来る人間だという認識を持っている。


イーナからも情報を送ってはいるが、それを考慮にいれながらもカインは迅速に動いていたのだ。これは、イーナにカインから二人の道筋にいる全ての伝達屋の数と所在を教えていた事が非常に大きい。

この事からも、カインは裏の人間で情報収集が得意な分野なのだろうとイーナは感じ取っている。それでも、魔族に関する情報は芳しくないようであった。事実、カインは有力な情報が無い限りは位置情報しか知らせてはくれない。


一度、イーナたちの権限を利用して書物庫を調べたいというものを送ってきたが、カイン自身、半ば冗談で書いたものだろう。カインならば、危険性を考慮していないはずがなかったからである。


そう考えると、思った以上に難しい事になってくる。魔界に関しては、完全に民草へは禁忌情報として漏洩を遮断している事が判ってきた。何故、そうまで頑なに拒み続ける理由をイーナは知らない。


父なら何か知っているのかもしれないが、教えてくれるとは思えない。それに、今は父も私も手が出せない。


そう考えると、イーナは一瞬だけ顔を顰める。


国家の禁忌事になっているであろうものに如何に公爵家だろうと迂闊に触れば何をされるか。ならばカインを利用するなりするしか手段はない。資金がそろえば、ギルドに接触して交渉ごとで何か得られる可能性もあったが、現状で無理なのは変わりない。


ハルカ達は、護衛依頼を受けて移動をしている。何度か襲撃を受けたために迎撃していたのだが、その中でハルカは人を殺していた。


当初、イーナは心配していたのだが、ハルカは思った以上にふさぎ込む事は無かった。護る対象を得る事で殺しを少しでも正当化させて抵抗を持たせようと考えたイーナと騎士の考えは功を奏していた。


懸念は勿論存在しているが、それは魔族関連の事であるので、問題はないだろう。護衛対象が居ても、魔族は護衛よりも私達を狙ってくる。そうなれば今よりずっと戦いやすい。イーナはそう考えていた。


引き続き、このまま西の大陸に行く事が最優先。こちらより西の方が情報は得られやすいだろうと考えているイーナは、カインにその事を告げ、先に渡航してほしいと伝えてある。既にカインもその考えに至り、沿岸都市にハルカ達よりも速く着いて、渡る準備に掛かっている。そんな気がしていた。


カインならば、早急に動いてくれるだろう。護衛に関しては、騎士がとても献身的に動いているのもあるが、何より、ハルカの上達が顕著なのがとても良い収穫だと感じている。


カインも強いがハルカとは別の強さである事は判っているイーナは一先ず、カインの先行によって情報を得られる事を期待していた。そこにカインを悪といい嫌悪しながらも、カインと言う男に対する信頼や安心といった感情があることにイーナは未だ気付いていない。


「嬢ちゃん達、助かったよ。いやぁ、悪かったな。」


「大丈夫ですよ。相手に強く見られないのは強みにもなりますし」


「ん。おぅ、確かにそうだな!ハハッ!」


強くなった。お二人は本当にこの短い期間で。


騎士はそんな事をしみじみと思っていた。

護衛依頼をこなしながら沿岸都市を目指す勇者一行。正確には面子をそろえての護衛をこなしているのであった。ハルカ達3人に加えて、同じく西へ行く者達を募った結果、ハルカ達の他に5人の戦士が護衛依頼を受けていた。


少なからず、ギルドに登録している傭兵、ハンター、ギルド間で共同依頼を受ける事は珍しくはない。規定人数の決まっていない依頼も多いが、その逆もある。規定を満たすためや、依頼主からの声によって依頼参加者は変化していくものである。


ハルカはその面子と共に盗賊とはいえ、人間を殺した。しかし、その事に毅然と対応し人間を殺したのは紛れもないハルカ自身の成長を見る事ができていた。騎士には今でもハルカが嫌悪しているのは明らかに判る。殺した時の表情は硬かった。しかし、騎士はそれでも構わないと思っている。


その覚悟が後々活きて来るのは明白。今は、護衛対象が居るために、殺しに対する動機付けは至極簡単である。いずれ嫌でも、今よりもっと正当性のないような殺しを目の当たりにするだろう。そして、もちろん、手を下す事もあるだろう。そのために心身の力を持つ事が非常に大事だったからである。


「マルセン」


「はっ。」


「そう、畏まる必要はありません。肩肘ばかり張っていてはその内に疲労で倒れてしまいますよ。」


「そうですよ。マルセンさん。」


「……ありがとうございます。」


「もうすぐ村に着くようなので、その時は貴方もしっかり休んでくださいね。」


「はい。判りました。」


自分の事を心配してくれる事に感謝すると共に、自分の管理は自分でしっかりしようと改めて思いなおす。ハルカもイーナも護衛してくれる騎士でなく、仲間として。マルセンという人間として接してくるのが、騎士にとって狼狽してしまう要因であった。自分の考え方が間違っているとも自覚しており、二人に合わせようと頑張っているのだが、中々、騎士として護る側だという立場で接してしまう事に苦労している。ハルカ達は出来るだけ目立たないように行動しようとしているので、騎士は改善に努力する必要があると決意する。


それは、ハルカが勇者である事を少なからず寄ってこない他者への漏えいを防ぎたい事と、ハルカ自身が担がれる事を拒むのが理由であった。それは、イーナも経験している王国内での媚を売ってくる貴族などの存在を見て、体験したことが強く影響していた。


現在、ハルカとイーナは商人の馬車に同乗している。当初は馬に乗っていたのだが、ハルカの乗馬技術が無いため、逆に予定日程がずれたり、行動遅延の可能性が否定できず、騎士の警戒などによって精神を使ってしまうという事から商人の馬車に揺られている。商人もそれを了承していた。


商人からすれば、予定が遅れる事の方が困る事なのでまったく問題はなかった。それに、ハルカの戦いを商人は見ている。今まで何度と雇ってきた戦士などとは全く外見が違い、か弱い印象が強いが、どっこい印象の相違に度肝を抜かれてしまったのであった。


結果、商人はハルカの事をえらく気にいってしまったのだった。可憐でか弱い女の子が剣を振り回し、男達を打ち倒していくのだから、強烈な光景だろう。


ハルカ本人は最初、辛いながらも馬車への搭乗を拒みたがっていたのだが、戦闘において、逆に万全の状態で臨んでほしいという騎士と商人からの要請にハルカが折れる形になっていた。その一件でも、ハルカは己の弱さを痛烈に実感し、乗れるようになろうと決意するのであった。最も、今は仕事中なのでこれが終わってからとも考えていた。


そんな、血生臭い道中でありながらも和気藹々とした空気を作ってくれるハルカに救われながらも、それと同時に、騎士はハルカが召喚されてきた日を思い出していた。


彼女は怯えてはいたが、好奇心を持つ瞳でその場の全てを把握しようと必死になっていた。その後、城での生活を通して、事象を知っていったのだ。


貴族間の醜い権力争いの渦中に巻き込まれそうになり、その中でイーナと出会った。騎士は馬車にゆられる二人を視線の隅で捕らえてからまた前を向く。二人の仲が良くなる事はなんとなくだが、判っていた。


何故かは判らないが、きっとイーナはハルカの無邪気さに。ハルカはイーナのお人よしに惹かれたのかも。そんな事を考えてしまった。


僅かに笑みで顔を変えていたが、騎士は馬に揺られながらも、死んだアレンの事を考え始めた。アレンが護った者達を見るが故に。その者を想わずには居られなかったのである。


アレンはとても強い男だったと。騎士といっても戦う者で殺す者。その者としてアレンという弓兵を尊敬している騎士であった。だからこそ、アレンが死んだと聞いたときの悲しみは今も忘れられていないのだ。そして、騎士は自ら勇者の護衛をしたいと立候補し、王宮見回り付きという遊撃隊の位を捨ててこの旅に同行する事にしたのだった。その事に騎士は後悔など微塵もない。


騎士はこの旅で勇者の行く末を見る事が人生を賭けて行うべき己の使命だと感じていた。何故、そういった心情に移り変わっていたのか良くは判らない。だが、アレンという男が死んだ時。今まで溜め込んでいた何かが弾けとんだのは確かだった。


ハルカがこの世界に呼ばれてから今まで護るために見守ってきた。アレンもまた同じだ。アレンは元々、イーナ付きの護衛だった。親近感でも感じていたのではないだろうか。


騎士はそんな事を思いつつも多少の嘲笑を浮かべていた。らしくない事を考えて耽ってしまったと。


「おい!」


先頭を行く戦士の大声が響いた。


騎士は何事かと前へ移動し、先に見える光景を見据えて、戦士が声を荒げた理由を理解した。




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